落城と黒い矢
最近地学ネタが入ってないのでどこに入れるか思案中。
オロビア市が陥落してから市内はゾーマ国の兵士が溢れ、要求をきかない市民に対して容赦なく乱暴を働いたり略奪を働いたりしている。何かの事情があって避難できなかった市民たちはひっそりと自宅に閉じこもり、鍵をかけて怯えるしかなかった。
生き残っていたパルネス国の兵士たちは全員カリアスが導き、リタイの下に送られている。兵士たちもあの遠距離攻撃になすすべもなく、市が陥落してゾーマ国軍が入ってくることに経験したことがない恐怖を覚えていた。城の家臣から国王は何か大きな力の兵器によって城へ入ってくるゾーマ国軍と戦う覚悟であり、巻き添えをくわせないために家臣と使用人を逃がしたことを聞き、もはや城を守るよりは自分の命を守る方が先だと自覚した。カリアスはそんな兵士たちに新たな役目を与えるべく、まとめ上げ、軍を立て直すためにリタイの下に導いたのだ。
「ミワさん、いつか俺には呪縛があるっていってたよな。それっていったい何の呪縛なんだ?解かないといけない呪縛か?」
先日農家からもらった野菜と干し肉を使ってスープを作っている大地はふとミワに尋ねた。
〈 呪縛は心を縛っているものといっていいのかもしれん。何が呪縛かはお前自身でないとわからない。前にも言ったように呪縛は大地にあってクリティアスにはない、お前がいた世界で作り出した呪縛だ 〉
「ますますわからん……そもそも俺にある力が何なのかもよくわからないけど……まあいいや。ミワさんに聞いた俺がバカだった」
〈 ぬうっ!何をぬかすか。私はこう見えても…… 〉
「だからミワさんでしょ、白蛇の」
そう言って大地は苦笑する。
「その……ふと思ったんだけど、あのとき……フィールドワークに出ていたときにミワさんは土砂に体が埋もれて死にかけていたんだよね。俺が助けななきゃ死んでた。じゃあ聞くが、なんでミワさんは土砂の下に埋もれていたんだ?俺が生まれたときから確かずっと守っていたはずじゃなかったのか」
〈 うぐぐっ!そう来たか 〉
「まあ、どうせ何か他の自分の事情を優先したんだろう。あの現場は自然豊かだったからなあ……遊びたくなるよなあ……そのとき俺はヘルメット被っていたし」
大地がスープを器に取り分けると頭に潜んでいるミワがゾゾっと動くのがわかった。
「心配するな、リタイには黙っといてやるよ。でも、3人を助けにいくときは目いっぱい働いてくれよな」
〈 かたじけない…… 〉
ミワの声に安心するとトレーに人数分のスープをのせ、外にでた。外では組織の仲間や司書のお姉さんもいる。パン屋もなくなり、醗酵しないパンもどきを作って朝食とした。飲み物は相変わらずハーブティーだ。そこだけ見るとまるで戦争とは無縁な光景だが、食材の入手が難しくなり、特に肉が入らないのは痛かった。
「大地、朝食作りお疲れ様。皆さんありがたくいただきましょう」
リタイの声掛けで、組織の仲間が次々と食べだす。大地が住んでいた家は古いが部屋数だけは有り、売れなかったのを市長の計らいで借り受けたものだ。3人がいない今、市内から避難した仲間が間借りしている状態である。リタイが結界を張らなければこの家も狙い撃ちされただろうが、ミワの失策から始まった一件で唯一の安全地帯となっていた。
朝食が済むと全員が掃除や片づけをする。ここだけ見れば戦争状態にあり、しかも都市は陥落しているというのがウソのように思えた。
「近いうちにゾーマ国軍は城に攻め入るでしょう。ゾーマ国軍の兵器政策や首都陥落もアーテの思惑通りに進んでいる。アーテは奥の手を使ってこの国とゾーマ国を滅ぼそうとしている。我々は何としてもそれをくい止めたい」
リタイの言葉はいつになく力強く聞こえる。
「奥の手って、国王が言っていたオレイカルコスのことか。まだ見つかってないんじゃないのか」
いまだにオレイカルコスがよくわからないでいる大地。本当につかみどころがない。
「見つかってないけど……もう気づいているわよ。アーテの手中にないだけ。ただ、今の状態では恐らくアーテも正しく使えないでしょう。オレイカルコスはあまりにも強大な力ゆえに使い方次第ですべてが滅びかねない」
大地はそれを聞いて海底での過去の事実を思い出した。
(そのオレイカルコスの力にクリティアスとアウラが深くかかわっていた。俺と和音も無意識にオレイカルコスにふれているんじゃ……。それならあの火砕流と砲弾の雨を消し去ったあの『イグザファニシ』と叫んで具現したあの力は何なんだ?)
答えに近づくようでいつも堂々巡りだ。
「大地、単独行動はやめてね。ミワちゃんも頼んだわよ」
一瞬ドキッとする。大地の行動を読まれている気がした。
パルネス城。家臣たちが城外に逃げたため、今いるのは王妃アーテだけだ。カメルス国王は家臣が逃げた後、アーテによって殺されていた。家臣を逃がしたのはゾーマ国軍が攻め入ったときに巻き添えをくわせることなく強大な力によって反撃をするため、とまことしやかに言い、領主の恩情をうえつける目的もあった。アーテは人の心を操り、自らの手を汚すことなく国を亡ぼすことをこれまでにも繰り返していた。天界から追放されたのはそれが理由だった。
「さて、この世界でご活躍いただいた聖職者様に一撃を食らわせてやりましょうか」
アーテによって手の中に闇ができ大きくなっていき、大きな黒い矢の形となる。それは物理的な矢ではなく魔の力を使った矢であり、アーテの得意とするものだった。そしてその矢を持つとゾーマ国めがけて投げつけた。
「死ね!」
黒い矢は誰の目に留まることなく一瞬でゾーマ国にいる和音の胸に刺さる。
「うぐっ……」
話ができるくらい回復していた和音は目を見開き、倒れるとそのまま動かなくなる。
その場にいる多くの医療班の目の前で刺さった黒い矢が体に入り込んでいき、魔の力の矢は抜けることなく、入り込むと視界から消えた。
「和音!和音!」
医師と看護師たちも慌てて起こそうとするが、和音は無反応だった。
矢を投げ終えたアーテの耳にゾーマ軍が城に攻め入ってくる音が聞こえる。すべての家臣が城外に逃げた今、ゾーマ軍は邪魔されることなく城内になだれ込む。
「残されているのは国王と王妃だけだ!探して首をとってこい」
大隊長の声にうねるように兵士の流れができる。どの回廊にも、どの部屋にも。アーテはその声を大広間で聞いていた。そしてフッと笑うと容姿を変える。
「王妃が大広間にいるぞー!」
誰かがその後ろ姿を見て叫ぶ。威厳のある立ち姿に剣をとる兵士たち。アーテの命もこれまでと思われた。しかし兵士は振り返ったアーテの姿に唖然とし、やがてひざまずいた。
「あなたは女神アテ……」
次々とひざまずき、中にはひれ伏するものもいる。
「いかにも私はゾーマ国を守護する女神、アテ。神と国の威信をかけて皆さんがここまで戦ってくれましたことに感謝します。皆さんの信仰心は神にとって力となります。カメルス国王は進軍してくるあなたたちを虐殺すべく図り事をしていたため、私はこの国に降り立ち命をとりました。全てはあなたたちを守るためです」
王妃アーテとゾーマ国の守護神は同じだったのだ。パルネス国は軍部が政権を掌握し、前国王を子孫にわたるまで根絶やしにしていた。カメルス国王となってからはまだ歴史が浅かったため王妃についての情報がゾーマ国に入っていなかった。そしてパルネス国は無宗教・無神論の国だったため、アーテが女神アテであることは全く気がつかないでいた。
アーテの背後にカメルス国王の遺体が横たわっている。
「私たちを守るために……女神様、ありがとうございます」
兵士たちは女神に守られているという安心感からか笑顔になっていく。それを見て冷たい笑みを浮かべると手を差し伸べて言い放った。
「それではパルネス城落城へコマをすすめましょう。さあ、皆さん闘うのです。この城を落とすために!」
アーテは城内のゾーマ国の兵士たちの心に向かって敵意を植え付けた。それは目に見えている者すべてが敵であるという誤情報だ。たちまち兵士たちの目が虚ろになり、目に見える味方相手へ向けて剣を向けていく。完全にアーテに心を操られていた。戦線よりもはるかに地獄だった。それを見て薄ら笑いをするアーテ。
「そうよ、ここはゾーマ国の兵士がパルネス国の兵士と闘って果てた聖地となるのよ……フフフ……さて、それでは仕上げといきましょうか」
アーテは相手が敵だと思い込んで殺しあっている兵士たちを一瞥すると手を掲げて呪を唱えた。天界を追われたアーテはすでに魔に落ちている。アーテの周りに黒い闇が渦巻き、それは大きな『爆弾』へと具象化した。
「滅びろ!」
たちまち『爆弾』は爆音とともに炎と化し、城は兵士もろとも灰燼と化していく。強大な『爆弾』の力はパルネス城を痕跡が残らなくなるくらい瓦礫の山としていった。
城の大爆発と炎上は市内のいたるところからも見えた。大爆発とともに地響きがし、地震と間違えるほどだった。逃げていた城の家臣や使用人たちはそれを国王が言っていたオレイカルコスの力だと理解し、国王と王妃に涙していた。城に入らなかったゾーマ国の他の兵士は城に攻め入った兵士が全滅したことを悟り、国王へ伝令を走らせた。結界内の組織の人々も大爆発と城の炎上が見え、大騒ぎになった。これはアーテの手によるものだとリタイは皆に知らせる。アーテがいよいよ前面に出てくるだろう。表向きのアーテ王妃は城の炎上とともに亡くなり、天界を追われ、魔に落ちた女神としてリタイの前に現れる。いよいよ対決の時がきたのだ、リタイは覚悟を決めた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
文章の感覚が古いのでパッとしないかと思います。
今後もよろしくお願いします。




