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紅のオレイカルコス  作者: 海崎じゅごん
12/38

テッタリア戦線②

転生して異世界召喚というのもなかなか面倒な設定だけど、キャラ設定でどうしてもかかわるのでそんな設定にしています。最近は地学路線から離れてますが、またかかわってきます。私は高校に地学の専門の教師がいなかったので、地学Ⅰしか履修できませんでした。今でも残念でなりません。

 テッタリア戦線パルネス国側陣営。一度戦線を前進し、ゾーマ国側を大きく後退させてからパルネス国に有利に動くかと思われたが、ゾーマ国側は兵を増やし、前線は拮抗している。戦争状態になってからというもの、お互いに兵力の被害は増え、兵士の入れ替わりが日常だった。渚と剣斗もいまだに戦争状態にあることや自分自身との戦いがあるのだが、二人とも小隊長という立場であり、教練場で鍛え上げた新兵達を意地でも守りたい気持ちがあった。そのため、渚と剣斗の小隊だけはだれも死傷していなかった。戦争では三叉槍もクトニオスの魔剣もその力を発揮しない。それでも二人は『守りたい』その想いで戦っていた。二人がこの世界に召喚されてから自然に備わっていた戦力は前世から引き継いだものだったが、それに気づいていない。気が付いていたとしても今生きているこの世界が全てだ。そして生き残ることが最優先なのだ。


 同じく後方部隊、医療班。重症者の回復のために招集された和音は日々テントの中で重症者の回復を図っている。とはいえ、十分な栄養や睡眠がとれないなかで特に精神力を使う和音は心身ともに疲弊していた。食事をとることさえままならないこともよくあるが、それは戦線にいる他の人たちも同じだ。和音は文句ひとつ言うことなく、言われたことをこなしていた。そんな和音には気がかりなことがあった。


(大地くん、総譜のなぞなぞに気づいていないのですか。私がこうして全力を出せるということはまだ気づいていないということですね……)


 別れ際、大地にだした総譜の宿題。和音はそこにある仕掛けをしていた。


それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを承知の上で。


 前線に来てからかれこれ3か月が過ぎていた。和音がウトウトしながら遅い夕食をとっているとテントに客人がやってきた。

「生きてる?顔を見に来たわよ」

 そういって入ってきたのは渚と剣斗だった。

「渚さん、剣斗さん!」

 眠気も吹っ飛んで二人の下へ駆け寄る。戦線へ来てからというもの毎日孤独で緊張の連続だった和音は二人の顔を見て思わず泣いてしまう。

 渚も和音を抱きしめるとそれまで自分の思いが溢れて涙が溢れた。

「ごめんね……まきこんじゃったね。こんなに痩せちゃって……無理しているんでしょう」

「大丈夫……私は大丈夫です。後方部隊ですからね。それよりも渚さんと剣斗さんが前線で戦っていらっしゃると聞いたのでとても心配でした。毎日お二人が運ばれて来やしないかと心配で」

「僕たちのことは心配しなくていい。鍛えているからね。それにしても君のような子供を戦場に送る軍もどうかしている。大きな声では言えないが」

 剣斗が小声で本音を言う。

「いいんです、剣斗さん。私は重症者の回復のために呼ばれたのだから国の役に立っています。それに私がカリアス大隊長さんに呼ばれたとき大地くんは反対してくれて大隊長さんに向かっていったんですよ。その気持ちが嬉しくてなんとか頑張っています」

「大地が?そんな行動をとるなんて……カリアス大隊長に向かっていくなんて恐れを知らぬとはこのことだな」

 剣斗が苦笑していると渚は涙を拭きつつ大地のことを思う。

「大地は後先考えないで行動することがあるでしょう?もし大地が戦線に来ていたら真っ先に敵地へ突っ込んで和音の下に来ることとなっていたわよ。大地が戦線にいなくて正解だわ」

 そう和音の心配を払うかのように話した。

「そうですね。確かに大地くんはそんなところがありますね。でもそこが大地くんのいいところですね、きっと」

 和音が笑顔を見せる。戦線に来て以来、笑う余裕もなかったが、緊張が解けた今久しぶりに笑顔が出た。渚はそれを見ると安心したかのように再び和音を抱きしめた。

「絶対に生き残ろうね。何があっても生き残ろう。そして4人みんなで元の世界に帰ろうね。私たちも頑張るよ。だから和音も頑張ろう。でも無理しちゃだめよ」

「はい、渚さんたちもお元気で。絶対にここへ運ばれてこないでくださいね」

「わかった。僕たちはここには来ないようにする。君ががっかりした顔をみたくないからね。じゃ、おやすみ」

 剣斗の言葉に笑いながら頷く和音。

 和音は二人を見送ると途中だった粗末な夕食をとった。生きていさえいれば何とかなる。離れていても思いは1つ、そう信じているだけで明日も頑張れそうな気がした。



 パルネス国軍は接近戦が得意な軍として名をはせている。伝統的に剣術がさかんで、子供のころから習い事として定着しているほどだ。白百合学園の生徒も例外ではなく、武道の時間ではそれぞれの流派で学んだ生徒たちが競っていた。元の世界にいたとき、体育で剣道を少しかじった程度の大地は全くの論外だった。剣斗にいくらか指導をしたもらったとはいえ他の生徒には太刀打ちできないほどだったが、そんなことは全く気にしない大地は『人には得手不得手がある』と言い聞かせて熱心に練習するわけではなかった。

 今日もカリアス大隊長の下、戦略会議でゾーマ国の動きを見ながら隊の配置が組まれている。兵士たちの士気を高め、恐れずに進軍できるようモチベーションを上げるのも仕事の1つだ。会議を終えたカリアスは小隊にもどろうとする渚と剣斗に声をかける。

「今日も君たちの働きを期待している。武器が普通の武器であろうと君たちの腕は確かだ。うまい酒が国から届いたからまた飲もうではないか」

「大隊長のご期待に添えますように全力で戦ってまいります」

 そう言って一礼をして二人は後にした。カリアスはもっと二人と話をしてみたかったが、いまだにそれは叶わない。渚や剣斗も自分が知らない何かを秘めているのが感じられ、それが何か知りたかった。和音をこの戦線に送り込む話を国王から聞いたとき非常に憤りを感じたが、反対することは許されず、ここへ連れてくることになった。何よりも自分に歯向かってきたあの少年、大地がある意味うらやましいと思った。


(大地とかいったな……あの少年にもう一度会ってみたいものだ。剣術こそ全くできないようだったが、あの少年の強さは剣術とは違うものだろう)



 カリアスがテントから出て部隊の視察へ行こうとしたその時だった。突然金切り音が聞こえたかと思うとそばのテントが地響きとともに砕け、火の手が上がった。

 驚きのあまり声もでず周りを見渡すが、敵兵は前線よりはるか後方にいる。いや、そこから大きな音とともに何かが飛んできているのだ。それはパルネス国軍のテントや隊列を組んで前進しようとしていた部隊に着弾し激しく破壊していく。振動や爆風で兵士が体ごと吹き飛ばされていき、体の一部がもげて即死した者や体がボロボロになって息も絶え絶えの者など一瞬で隊列が崩れていった。

「これは大砲だ、ゾーマ国に大砲があるなんて聞いてないぞ」

 剣斗は渚に声をかける。

「小隊を撤退させないと被害が多くでるわ」

 渚は中隊長に大砲のことを話したが、今までそんな兵器を見たことがない中隊長は撤退について反対をする。隊の乱れはあちこちで見られた。誰もが初めて遭遇するゾーマ国軍の新兵器になすすべもなく逃げ惑うばかりだ。

 その修羅場を目の当たりにしたカリアスは大声で撤退を命じる。テッタリア戦線パルネス国陣営はいたるところに砲弾が落ち、地面に穴が開きがれきの山と化した。


(いったい何なのだ……。敵は離れたところから攻撃をしているのか。我々にはない兵力なのか)


 カリアスの命令で撤退を余儀なくされるパルネス国軍。気が付けば先ほどまでしっかりと隊列が組まれていた兵士たちは命令系統が崩れ、ばらばらになっている。このような事態は軍の経験が長いカリアスにも初めてのことだ。カリアスは急いで伝令に命じる。

「ゾーマ国の新型兵器によってわが軍は戦力が著しく低下。至急に応援部隊と兵士を回してもらいたい。確実に伝えよ。空飛ぶ兵器により離れたところから襲撃される。接近戦では太刀打ちできない」

 昨日まで戦況はこちらに有利とばかりに飾り立てて伝令に報告を命じたのだが、今日はそんなことも言っている状況ではない。伝令もただならぬことを察し、慌てた様子で早馬を駆けさせた。


 大砲による襲撃はいったんやんだが安心はできなかった。敵は恐らく高台からこちらの動向を見ているのだろう。指揮系統が崩れ、体制のままならない今が敵国の進軍の好機だ。カリアスは重症者を後方部隊に任せると、自ら残った兵士たちの指揮を執り前線を守らせた。渚たちもゾーマ国側をみている。相手が直接見えないのも恐怖でしかない。こんなとき青龍やフレイを呼ぶことができたら空中戦で戦えるだろう。しかし青龍とフレイはそもそも神の眷属だ。戦争に加担することはありえない。三叉槍もクトニオスの魔剣も使えない状況で頼りになるのはまさに自分たちが前世からひきつぎ、この世界で磨き上げた技しかない。もっともふたりとも前世から引き継いだことを全く自覚はないが、それぞれ青龍とフレイに出会ったことで少しずつ記憶が蘇りつつあった。そしてそれは自然とお互いの絆を結び付けていた。



 後方部隊・医療班。

 朝食を短時間で食べ終えたばかりの医療班。パイエオン医師、パナケイアをはじめとする看護師、そして回復魔法で重症者の回復を早めるためにいる和音。戦場での日常がまた始まるかと思われた瞬間、大きな破壊音が聞こえ、振動が伝わった。それも1回や2回ではなかった。

「なんだ、なにが起きた!」

 パイエオン医師は慌てて建物の外へ出て様子を見る。兵士たちのテントがある辺りはテントの陰すらなく、パルネス国軍側の戦線のいたるところで煙が上がっている。遠くからではあるが兵士たちが逃げまわっている状況がみえた。

「なんなんだ……これは」

 今ひとつ状況がよく飲み込めてはいなかったが、自分たちがすぐに動かなければならない状況だと知った。


(重傷者がたくさんくるぞ)


 パイエオン医師は急いで中にいる看護師たち準備をさせ、和音にもこう話す。

「よくわからないが新型の兵器にやられている。重傷者がたくさん運ばれるだろう。近いうちに『戦場』と化するのは間違いない。覚悟してくれ」

 そういって看護師たちの下へ走っていった。医師の言葉にただならぬものを察した和音は気持ちを落ち着かせ、最大限に行き渡るように静かに回復魔法の詠唱を始める。

 やがてそれは医師の予想通りとなり、まず和音のところに酷い重傷者が次々と運ばれてきた。血みどろになりうめき声をあげているのはまだ意識があるということだ。和音は祈りを込めながら魔法をかけていく。しかし重傷者の中には体の四肢がちぎれたように損傷している者も多数いた。回復魔法は何もないところから回復させるのは時間と和音の精神力を要するものだ。骨片と肉芽があればそれを再生することはできる。しかし損傷の度合いによっては和音でさえ難しいこともある。まして死者を蘇らせることはできない。残念ながら和音の回復魔法を待つ間に何人もの兵士が亡くなっていった。そのことに無力さを感じたが、そう悩んではいられないほど次から次へと重傷者の数が増えていった。

 

 パルネス国軍は長い拮抗状態にあって戦力に余裕がなくなっている。新たに兵士を徴兵した場合でも迎えを出すことはできず、最寄りの村まで来てもらうしかなかった。当然、怪我をして回復中の兵士もそれぞれの町へ帰ることは許されず、少しでも回復すればすぐに戦場へ戻された。

 軍の食料などの物資も滞りがちだ。たまに良い酒が入ることは有ってもみんなには行き渡らない。パンなどは国境付近の村から運んでいるが、その他の食料が乏しくなりつつある。


(ゾーマ国の新型の武器に対抗できるものはない。伝令がありのままを伝え、国王は手をうってくれるだろうか)


 カリアスは戦況の悪化にどうしたものか思いあぐねていた。



 ゾーマ国陣営。

 ゾーマ国は秘密裏に兵器を運搬していた。物資を運ぶと見せかけて大砲を何台も高台に備え付けた。大砲という兵器はどのようなものか知る人は開発に携わった人間だけだ。兵士たちはこんなもので遠くの陣地を襲撃できるのか半信半疑だった。厚みがかなりある金属の砲筒に砲弾を込め、砲手が撃ち放つ。砲身が衝撃とともに砲弾を飛ばし、反動で大きく後ろへ砲台がさがる。爆炎とあたりの空気に雷のような音を共鳴させ、砲弾は目的のパルネス国陣営に落ち、パルネス国軍が煙の中に消えるのが見えた。

 高台から見ていた兵士たちは先ほどまで見えていたパルネス陣営のテントや兵士の隊列が消えていることを目にすると、騒然としたがやがて歓喜の声に変わった。

 新兵器の成果をどうしても自分の目で確かめたいと思って、国王ゴルギアスも従者を連れてきている。そこには他にも新兵器の神託を受けたネストル司祭や摂政、大臣たちもいた。その場にいた者は皆初めて見る兵器の威力に圧倒されていた。


(なんてことだ……この破壊力、殺傷力。いくら神託が下りたといってもこの状況は女神の望むところなのか)


 ゴルギアスに迷いが生じた。しかしこの兵器さえあれば戦争は早期に終わらせられる。

「素晴らしい。なんて素晴らしいことでしょう。女神は私たちに最大の加護を与えてくださったのです。この成果をさっそく国民に周知しましょう。大いに喜び、陛下への信頼も増すはずです」

 ネストル司祭の言葉に大臣たちも満足している。

「よかろう。広く国民にこの成果を知らしめよ。この国は女神に守られし国。パルネス国からの戦線布告がいかに理不尽であるのかこれでわかるだろう」

 迷いはあるものの、戦争を早期に終結させることが国民の望むところだ。ゴルギアスは大臣たちに命じると兵士をねぎらい、酒をふるまった。

 若くして即位をしたがために国民の信頼を得るには時間がかかる。ましてまだ国政は摂政と大臣たちが主に行っている状態だ。自分としてもどうにかして国王らしくありたかった。この新兵器がそれを叶えるのなら迷いがあってもそれは自分の弱さだと言い聞かせるしかなかった。

お読みいただきありがとうございました。

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