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紅のオレイカルコス  作者: 海崎じゅごん
10/38

テッタリア戦線①

戦争を知らない現代の人間が異世界で直接相手とやりあう戦争に巻き込まれたら……


 カメルス国王がゾーマ国に宣戦布告をし、パルネス国と国境付近にある無法地帯テッタリアは真っ先に戦場と化していた。長い国境争いのためその地域ははっきりとした国境が設定されておらず、互いの兵士が常駐し相手国を監視し続けていた。火山のふもとののどかな田園風景と比べ、ここテッタリア戦線は長きにわたり小競り合いが続き、荒涼とした土地が広がっているだけである。土地もやせ衰え、乾燥や未処理の火山灰などにより草木も芽吹くことはまれだ。そして火山から強い山風が吹きおろし、それが余計に殺伐とした景色を醸し出していた。


 渚と剣斗はそれぞれ二人を迎えに来たカリアス大隊長の下、それぞれ小隊長として小隊を率いていた。自分たちが教練場で鍛えていた新人の兵士をまとめていくのだ。それでなくても一般人として平和な社会で生きていた渚と剣斗は、その責務の重さで押しつぶされそうになり、まず剣斗からあの『チャラ男カラー』が消え、渚は芯が折れそうになりながらも耐えていた。

 これからどう戦うか、同じ立場の人間として渚と剣斗は話し合う。

「同じ殺すのであれば一切の苦しみを与えることなく、ひとおもいに一太刀で殺していきましょう。でもできるだけ命を奪うことなく捕虜としたほうが殺さずに済む」

 渚の提案に剣斗も同意する。

「痛みと死にゆく恐怖に怯えさせるよりはその方がいいだろう。捕虜の扱いをどうするか気になる」

 二人が話しているとカリアスがやってきた。その姿を見て立ち上がり礼をする二人。

「相変わらず仲がいいことだな、小隊長たち。君たちには教練場で鍛えていた教え子たちを部下につけている。どうかね、処遇に不満があれば言いたまえ」

 カリアスは腕が立つ上に特別な武器を持っている渚と剣斗を部下にしたことで気分を良くしていた。これならゾーマ国に痛手を与えるだろうと確信していた。そしてもう1つ奥の手があるのだ。

「実はな、テッタリアに来たのは君たちだけではない。君たちがよく知っている人もこの戦線の後方部隊にいる」

 カリアスの言葉に互いに顔を見合わせる二人。

「大地が、大地がきているのでしょうか」

 渚が心配そうに尋ねる。

「いや、残念ながらあの少年ではない。そもそも軍に入れるようなレベルではないからな。後方部隊にいるのは和音だ」

「和音が?まだ14歳ですよ、なにかの間違いでは……」

 渚の声がうわずる。剣斗も言葉が出ない。

「国王は和音の回復魔法とやらに興味を持っておられる。戦線で怪我をした兵士たちをすぐに回復すれば戦力は増大する。わが軍は有用であれば男女関係なく徴兵しておる。和音は少々若いものの必要とされる力であり国王も期待してのことだ。君たちが異論を唱える理由はないと思うが」

 カリアスは前もって二人にくぎを刺す。これは上官命令であるということだ。

「承知しました。で、和音は後方部隊なんですね。安全な……」

「心配には及ばぬ、渚よ。後方部隊には守りの部隊がいる。敵に襲われることはない」

 カリアスに言われたものの、渚と剣斗も安心したわけではない。ここは戦場であり、絶対に安全ということはないからだ。それでもカリアスの顔色を見てそれ以上は何も言わなかった。カリアスも二人が納得したと思った。

「国境付近の守りについていた小隊は我々が到着する前に襲撃を受けた。ゾーマ国の連中に『お返し』をしなければならん。明日は早い、それぞれの小隊を率いて前進する。準備は怠らぬように」

 二人に言いつける。

「承知しました」

 二人は返事をするとカリアスを見送った。その心は不安だらけだった。

 とうとう、戦争に加わるのだ。

「いよいよね」

「僕たちがなぜこの世界に来たのかはわからないが、僕自身は戦争をするために来たのではないと信じている。火山から救出したフレイはともかく君の青龍は神の眷属だ。どちらも戦争に加担するため僕たちの前に現れたわけではない。この世界に来た目的を果たすためにも生き残ることが第一だ。フレイと青龍もそれを望んでいるだろう」

 剣斗の言葉に静かに頷く。


 

 夜が明けるとゾーマ国の兵士たちに動きがあったようでカリアス大隊長の声がテントに響き渡った。

「おはよう諸君!よく眠れたかね。喜びたまえ、ゾーマ国は我々のために兵士を増やして前線まで来ておるぞ。さあ教練で鍛えた体と技を試してみようじゃないか!」

 意気揚々として起き、慌てて準備をする新兵達。カリアスにはその下にいくつかの中隊があり、小隊もそれぞれに5小隊は組まれている。それぞれの小隊もそうだが、渚と剣斗それぞれの小隊も気が重い二人をさておいて勝ち戦とばかりに騒ぎたてる。冷静さを保ちながら渚と剣斗は小隊を率いてカリアスの下へ進むと声をそろえて叫んだ。

「カメルス国王に栄光あれ!わが領土、わが国民を守り抜き、平和をもたらさんことを!」

 そう言うと兵士たちが口々に言いだす。

「国王万歳、パルネス国万歳!」

 声は渦のように戦地に響き渡る。そしてそれが前進のきっかけとなった。

 声を上げてむかうとゾーマ国も同様に攻め入ってきた。剣や槍など接近戦でしかないこの世界の戦争は常に相手の顔が見えており、兜をかぶっていても表情がよくわかる。弓での攻撃部隊も離れたところにいるが、パルネス国軍についてはほぼ接近戦を得意とする軍だった。

 渚のように槍の部隊は騎兵として馬に乗り敵地へ攻め入る。兵士の数はどちらも互角といったところか。


「我々は敵の前衛を破る。怯むな!進めぇ!」

 中隊長が叫ぶと兵士たちの声がうねりを上げた。騎兵たちは前線を駆け抜けて敵の前衛に切り込んだ。守りの固い前衛は剣や盾で反撃をしてくる。渚にとっても初めての実践だ。予想がつかない相手兵士の動きに気を取られ、一瞬だが隙を見せた。

 敵兵の一人が騎乗の渚に向かって剣を突き立てる。とっさにかわすと渚は三叉槍を振りかざしその場にいた兵士3人をまとめて突き、はらった。ポセイドンの三叉槍は絶対に急所を外さないと言われている。だが、なぜか3人の急所は外れた。三叉槍に刺さったまま血がほとばしり、返り血が渚の体にかかる。恐怖のあまり、声をうわずらせながら三叉槍を抜くと再び勢いをつけて3人の体を貫いた。

「うぐぐっ…」

 兵士たちは目を大きく見開いて息絶える。それを見てからの渚は何を考える余裕もなく、次々と前衛の兵士たちを殺していった。


 騎兵隊の前進により歩兵部隊も駆け抜ける。先頭に中隊長、そのあとに剣斗ほかの小隊長率いる歩兵たち。中隊長が先頭に立ち敵兵を切り放っていく。それに続き剣斗が騎乗からクトニオスの魔剣で切り込んだ。ズシリと重みのある妖艶なクトニオスの魔剣が敵兵を薙ぎ払う。合成獣なら一撃で仕留めた魔剣だ、まして人間なら……そう思われた魔剣だが手ごたえが違っていた。一撃で人を仕留められない。その違いに気づくと剣術を用いて相手を確実に殺していった。周りには同じように切り付けられた兵士たちの血の海だ。剣斗にとっても恐怖でしかなかった。

「進めー、進めー」

 中隊長が声を上げて戦意を高揚させる。攻め入るパルネス軍。ゾーマ国軍は退却を余儀なくされ、前線から一時退却をしだした。それをみたパルネス軍は勝ったとばかりに喜び、歓声を上げた。

「ゾーマ国軍は思ったより弱いな。長い間国境を巡っていがみ合っていたのにこの程度のものだったか」

 新兵の一人が笑って言う。笑えるゆとりがあるぐらいあっさりした一日目だった。



 夜、テントで簡単な夕食をとる渚。しかし昼間のことが気になって口に食べ物が入らない。そこへ剣斗もやってくる。

「大丈夫か……」

 剣斗がみた渚の表情はまるで死人のようだった。肌から赤みが抜け、生気がない。

「……人を……人を殺してしまったわ……3人を殺したまでは覚えている……あとはもう何人殺したかわからないくらい……」

 渚は泣きたい気持ちでいっぱいだったが涙さえでない。それは剣斗も同じだった。しかし渚の前で自分もそうだと言っても傷を舐めあうだけだ。剣斗は静かに寄り添う。

「これが戦争だ。僕たちの知っている銃や爆弾を使う戦争と違って相手が目の前にいる戦争だ。自分の手で目の前の敵を殺さなければ自分が殺される。呪うのはゾーマ国ではなく、この運命だ。僕はそう思っている」

 剣斗にもたれかかり、しばらく宙を見つめる渚。


「なぜこんなことになったの。私たちは戦争をするためにここへ来たというの……」

 震える声で呟く。剣斗は渚の肩をたたくと剣をかざして見せた。

「僕は他の目的があってこの世界に来たと信じたい。なぜなら魔剣と言われるこの剣はその力を発揮しないからだ」

 剣斗の言葉にハッとする渚。

「……そういえば……絶対に急所を外さないといわれる三叉槍も急所を外してばかりだった。あなたもだったの?」

「そうだ、一太刀で相手を切り払うこの魔剣が木刀のように全く切れなかった。仕方なく剣技を重ねて切ったが、その分相手は苦しんでいった。あの表情が脳裏に焼き付いている……」

「きっと三叉槍もあなたの魔剣も戦争をしたくないのよ……」

 深くうなだれる二人。テントの外は賑やかだ。ゾーマ国側が早々に後退をしてしまったので渚や剣斗の部下たちも気分よく美酒に酔っている。


「それにしてもおかしいと思わないか?こんなにあっさりとゾーマ国軍が前線から撤退するなんて何かあるんじゃないか。ゾーマ国軍も前線にいる以上経験を積んだ兵士たちだろう。それがいくら鍛えたとはいえ、実戦経験の少ない部隊が多い我々に負けるとは思えない」

 剣斗は今回の戦いが腑に落ちなかった。自分たちの武器の威力が半減していることもそうだが、相手が弱すぎたことも気になっている。

「大隊長に話してみるか」

 剣斗の言葉に頷く渚。



 カリアス大隊長のいる幹部テントも同様に賑やかだ。国王に吉報を届けられるのが皆嬉しいのだろう。テントの中には空いた酒樽が転がっている。剣斗は大隊長に話をさせていただきたい、とカリアス付きの兵士に言う。すると待つより先にカリアスの方から声をかけてきた。カリアスは二人をテントに招き入れると座るように促す。

 自分たちがいるテントとは違い、カリアスのテントには座り心地の良い椅子があり、一度座ると立ち上がるのが嫌なくらい体を包み込こむ。

「すまない、真っ先に君たちをよぶべきだったが酒の誘いを断れなかった」

 そう言って笑いながら2つのゴブレットに酒を注ぎ入れ、渚と剣斗に差し出した。

「恐れ入ります」

 それぞれ酒を受け取った二人は一息に飲み干す。戦地で飲む酒が美味しいのかどうかはわからない。こんなもんだろう、要は心の安定剤みたいなものだ。

「おお、なかなかいい飲みっぷりじゃないか。今日の戦果は君たちあってのことだ。明日も期待しておるぞ」

 酔いが回っているのか機嫌がとても良いカリアス。渚は空になっているカリアスのゴブレットに酒を注いだ。

「酒のことは私にはわかりませんが、お役に立てたのなら恐縮です」

 カリアスも戦場とはいえ美人の渚に酒を注いでもらったわけだから機嫌は最高に良いようだった。

「ここに来たのは他でもありません。話を聞いていただきたいからです」

 同じく酒をカリアスのゴブレットに注いだ剣斗が話しかける。

「ほう、なんだ、言いたまえ」

「本日の戦果についてですが……初めての実戦でこのようなことを申し上げるのは……」

「なにか不都合があるとでも?」

 カリアスの表情が一瞬変わる。

「いえ、あまりにもあっさりとゾーマ国の前衛を打ち破ることができたものですから、驚いたまでです」

 剣斗の言葉を聞いてカリアスが大声で笑う。

「フハハハハ……心配には及ばぬ。わがパルネス軍は接近戦を得意とする部隊だ。なに、相手がわが軍の力を見くびっておったのだ。気にすることはない。それよりも君たちの戦いで気になることを聞いたのだが」

 カリアスはゴブレットを置くとそれまでの酔いが醒めたかのように二人を見つめる。

「これは中隊長から聞いたのだが、君たちの武器は期待するほど威力がなかったというのは本当なのか」

「大隊長、それは事実です。僕の魔剣は一太刀で相手を切り払うことができると言われ、合成獣討伐のときもその威力を発揮してくれました。渚の三叉槍も絶対に急所を外さないといわれるものです。それが今回全く威力を発揮できず、僕たちはその分を技術で補い、軍として任務を遂行しました。原因はわかりません」

 剣斗からそれを聞くとカリアスは小さなため息をつく。

「まあ、所詮君たちの武器は計り知れない何かがあると思って居る。武器が普通の武器になろうとそれは問わない。君たちには教練で身に着けた技術がある。明日以降も新兵に負けないように戦果をあげてくれたまえ」

「承知しました。」

 剣斗と渚はそう言って礼をすると立ち上がった。もっと酒を飲まないかとも勧められたが酒に弱いからと言ってその場を後にした。



 すっきりしないまま自分たちのテントへ向かう二人。

「明日も……血を見ることになるのね」

「あまり考えないことだ。できるだけお互い生き残ることを考えよう。大丈夫、最後の最後まで僕は君と共にいる」

 剣斗は渚の肩に手を回す。もたれかかる渚。

「不思議ね……どこかで同じ言葉を聞いた気がするわ。ずっと昔、私が私でなかった頃かな」

「うん、僕もそれを思っていた。あの時も僕たちは何かの為に戦っていた。何だろう、最近よく夢に見る」

「あら、あなたも?私もそうよ。よくわからないけど何かを守っていた気がする」

「だから今回も『最後の最後まで僕は君と共にいる』」

 剣斗の言葉に渚は思わず涙をこぼす。

「ありがとうね、ふっきれた。大地や和音にまた会えるように生き残らなきゃね」

 渚はそう言って空を見上げると剣斗もそれに続いた。夜空は満天の星。元の世界では建物の照明や街灯などではっきりと見えなかった天の川が大きく横たわっている。テッタリア戦線ではその日パルネス軍によって前線が突破され、ゾーマ国軍は撤退を余儀なくされた。

 戦争は始まったばかりである。

 

 同じくテッタリア戦線、パルネス国軍後方部隊。救護班として建てられた大きめの簡易な建物には、その日ゾーマ国軍の襲撃により戦争で傷ついた兵士たちが運ばれている。そこには医師のパイエオンとパナケイアをはじめとする看護師達がいてケガの手当てをしていた。そして重傷者回復のために和音がいる。国王が和音の回復魔法に興味を示し、重傷者は和音に任せて回復を早め、戦力として早期復帰をさせることを目指させていた。

 このテッタリアに連れてこられてからというものの、和音は緊張の連続だった。人が人を傷つける戦争は最も嫌いだったのに、今自分がおかれている立場は職種の違いこそあれ、戦争の加担である。ましてや着任前にゾーマ国軍の襲撃を受けたとかで、救護テントに着くなり何人もの酷いけがをした血まみれの兵士が運ばれ、その小さな体で必死に回復魔法をかけていったのだ。和音が知っている『ケガ』の程度と全く違い、病院の手術室で対応するような本当にひどいケガの兵士が次々と運ばれていた。


(大丈夫、大丈夫、私はこのためにきたのだから)


 泣きそうになりながらも大地の姿を思い浮かべ、努めて冷静になろうとしていた。あのとき、自分を戦争に行かせまいとしてカリアスに向かっていった大地の気持ちが温かく嬉しい。だからどんなに辛くても頑張ることができる気がした。


(大地くん、楽譜の宿題必ず解いてくださいね……私の気持ちを分かってくれますよね……)


 そう思いつつ全力で回復魔法を使っていく。ひどいケガの場合いくら回復魔法を使ってもすぐ完全な回復とはならない。パナケイアをはじめとする看護師が面倒をみていく。また一人、重傷者が運ばれてきた。刀で腹部を切られ相当出血があったようで呼吸が止まっているように見えた。思わず卒倒しそうになりながらも精神を集中し小さく詠唱を始める。そして手をかざすと兵士の傷口は見る間に閉じていった。隣で見ていたパイエオン医師はその業に非常に驚き、言葉を失う。

「これが魔法なのか、なんという業だ……」

 魔法という認識がないこの世界では和音のやったことも何かの技術でしか見られないのも当然だ。兵士はやがて呼吸を再開する。パナケイアが他の看護師に命じて兵士を部屋へ運ばせる。この日だけでこんなやり取りを何回しただろう。すべての重傷者を回復させたときには夕刻になっていた。見ためではわからないが魔法は精神力のみならず体力も奪う。和音はへとへとになって床に座りこみ、壁にもたれると目を閉じた。


(大地くん、私がんばったよ……泣かなかったよ……だから心配しないでね……)


 そして深い睡魔に襲われ、そのまま一日何も口にすることなく寝入ってしまった。



 和音はそのまま死んだように眠り続け、目が覚めたのは次の日の朝だった。いつの間にか簡易ベッドに寝かされており、慌ててとびおきる。

「おはよう、昨日はずいぶんと無理させてしまったわね。何も食べてなかったでしょう?」

 そう言ってパナケイアがスープと全粒粉のパンを差し出した。

「おはようございます。あの……ベッドに運んでくださってありがとうございます。疲れてしまっていつの間にか寝てしまいました。申し訳ありません」

 和音が謝罪するとパナケイアはとんでもないといった顔で笑顔を見せる。

「私たちこそ、あなたを休ませることもできず申し訳なかったわ。それはお互い様という事でまずは食べなさい。ここは戦場だから毎日3回食べられるとは限らない。食べられるときにちゃんと食べないとだめよ」

 無理やりにでもということか、和音にパンを持たせる。すっかりお腹がすいていた和音はありがたく全粒粉のパンとスープをいただいた。具がほとんど入っていないのは食材が間に合っていないからか。

「戦争は始まったばかりだから無理をするなと言いたいけど多分無理する羽目になるわ。後方部隊とは名ばかり、ここも一つの戦場だから心しておきなさい」

「はい、わかりました。ここへ来た理由を考えてちゃんと言われた仕事をこなします」

「じゃ、お互いによろしく」

 茶髪の長い髪をまとめ上げたパナケイアはなんとなくサバサバしている。渚とはまた違ったタイプだ。和音は度重なるいじめにより人に対して最大限に観察する癖がついている。大地のそばでは自分を何とか表現できるようになったが、ここは過去の自分を知らない人ばかりだ、自分をカバーしてくれる人はいない。でも和音は信じている。


(生きてさえいれば必ずまた会える。離れていても繋がっているよね。だって……)


そう思って胸に手をやる。確かにこの世界で和音の鼓動が響いていたのだから。


読みいただきありがとうございました。

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