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第二十一部 二章 千麟家のプレゼント事情

同日


View 美奈


(どうしよう…まさか、まさかこんなことって……噓だと思いたいけどこれがこんなにも苦しい選択なんて知らなかったっ…!)


 今日は8月6日そして明後日8月8日はおじいちゃんの誕生日、そのことに気づいたのがよりにもよって今日…!記憶喪失で誤魔化していたとはいえお世話になっている以上、何かプレゼントしたい…だけど、お年寄りにプレゼントって何を送ればいいのかが分からない。


 一番メジャーなのがお菓子やご飯を作るのがいいけれどせっかくだから形に残るのが個人的にいいと思う。だとしたら時計とか…でも、おじいちゃん既に時計持ってるしアンティーク物のウン百万もする高級品だったから、既に持っているもの+足元にも及ばない品=喜ばれない。の構図が出来上がっている。


 「という事なんだけど、どうすればいいと思う?サリアちゃん」


 「そこで私に話を振るんですか?」


 「だって…もう何も思い浮かばないんだよぉ…メイド長に聞こうともしたんだけどやっぱりこういうのって気持ちが大切でしょう?よく知っている人は完全な正解に辿り着いたちゃうから、自力で正解してこそ気持ちが伝わりやすいと思って…」


 「それでお嬢様より大旦那様に詳しくない私に話を振るんですか…ほかの人選…あっ…」


 そこで、察したような顔をして言葉を無くす。ようやく最近国内の混乱が収まってきたとは言えその爪痕がまだ残っている。そこまで大規模という対処ではないが海賊の騒ぎに乗じて強盗や密輸などの防犯の為、街の警備が厳重になり、観光客はおろか生まれ育ちの住民であれ立ち入り禁止区域が制定されている。現段階では港以外の海に面した区画や貧民区、裏通りなどといった普通に生きていてもあまり通らない場所ではあるが、この国では常に目を光らせている人々が多くいる。


 それが大なり小なり違法を繰り返す人達が毎日のように出てくるからそこを隔離して爪痕が路端の小石のように思えるまで時間がたつのを待つしかない。


 今の俺の行動はその爪痕を弄り回して帰って深くしてしまう可能性が少なからずある、そもそも護衛も少し減ったとはいえ大人数のメイドが町中を歩いていると何か大事が起きるんじゃないかと誤解されてしまう。いわゆるバタフライエフェクトだ。その中心が今の俺だ。他の人に聞くのはリスクがある。


 電話という手もあるがあのテストからスマホが未だに返してもらってない。完全に忘れられているのかはたまた別の理由があるのか…今無性にテレビゲームか携帯ゲーム機が欲しい。だけど、今大切なのは俺のプレゼントではなくおじいちゃんのプレゼントだ。


 「そうですねぇ…私は実家に帰る時に何かお土産を買ったりするんですが、あまり馴染み無い物を送ったりしましたよ」


 「馴染み無い物…?サリアちゃんの実家って一般家庭じゃなかったっけ?」


 「母が元メイドで父が大商人何です、姉と共にメイドとして働くと決めた時に父が兄様を商人として後継する事になっています。生まれつき私は計算とかの商売的な才能はないので…今の状況は一番満足です……っと、いけないいけない。それで商人だからって作物や小道具、日用品は見慣れているので敢えて逆にそれに見慣れないものをプレゼントすれば印象に残るのではないですか?因みに私は交尾済みのカブト虫夫婦を3セットあげました」


 (小学生だったら泣いて喜びそうだけど、それをプレゼントするのって女の子は結構勇気が必要だと思うんだが…それにしても、馴染みのないものか…)


 馴染み無い物という案でいくつかは思い浮かぶがその中から選ぶとしても逆に多くて悩んでしまう、食べ物を工夫して思い出として残すのもありだけど祖父が食べそうなもの=流動食というイメージが強いから一旦食べ物は除外するというかまだ46歳…今年で47歳だけど、それで流動食なんてプレゼントすれば苦笑いするしかないと思う。てか自分がそういうのプレゼントされれば100%そういう顔をする。


 そもそも社会人として一番プレゼントされてうれしいものってなんだろう?バイトしてた頃は普通に休みが嬉しかったけどそれは支給されているようなものでそもそもプレゼントではない。キチンと贈り物として喜ばれるものじゃないと受け取って貰えない。


 「こういう時って自分が得意なものを使ってそれで作ったものとかのほうがいいと思いますよ、お嬢様って天才肌なんで色々出来るんじゃないんですか?」


 「簡単に言うけれど、今までやってきたのってほとんど形に残らないモノなんだよ…本当にどうしよう」


 「それでも少しは形に残るものもある以上、その中から選ぶとして選択肢は随分と絞られるし新しいインスパイアというかカルチャーというかそういう発想が出てくるんじゃないですか?」


 得意なこと、美奈が得意なことは戦闘で言えば魔法、趣味的なことで言えばピアノ好奇心が旺盛なわけでもないからもし何かにハマったらそこから抜け出すのには時間がかかるだろう。


 魔法で出来るものと言ったら犬や猫の動物を作れるけれど、射程外に出て内蔵魔力が切れたらすぐに崩壊する、それに土や水を多く含んで動かしているから崩壊と同時に床が泥で汚れる。


 ピアノは前世で小学生の時に昼休み中暇つぶしに弾いていた程度だし、そこまで複雑な演奏は出来ない。それだけじゃなくて指が細く短いから鍵盤の上で思うように指が動かなくて押したい所に届かなくて片方の手で押すとそこからのリカバリーが遅れて一瞬とはいえ空白の一拍が生まれてしまう。


 ああでもない、こうでもない、そうでもないと悩ませていると腰回りからビリッという音が聞こえて振り返ると同時に更にビリビリと布が破ける音がした。悩んで部屋の中をウロウロしている間にベッドの足と敷物の間に服が挟まったようでそのまま引っ張ったり身をよじった事で限界がきて破けたらしい。しかし、それだけが破けた理由ではなく…


 「あっ…」


 破けた服の端を掴んでいるカレンたちが悪戯がバレた子供のように汗を一滴垂らしながら引きつった笑顔を浮かべている。


 本来なら怒るところなんだが、おじいちゃんの誕生日プレゼントの悩みが怒りを上回っていたのもあり、少し呆れたような反応しかできなかった。


 「これは…ずいぶんと派手にやったねぇ…」


 「うぅ…ごめんなさい」


 「サリアちゃん、これ戻らないの?」


 「ちょっと見せてくださいね……うーん、ミシンで編まれているものだと難しくて時間も掛かりますがこれは手編みの部分が破れているので千切れたとしても編み直したらまた使えますよ、もし良かったら私が直しましょうか?特殊なパターンで編んでもっと丈夫な物に出来ますよ」


 「サリアちゃんって編み物出来るの?」


 「お姉さんと子供の頃からお人形遊びをいっぱいしてて自分でお人形の服を作ったりもしてたので、自身ありますよ」


 「お人形…」


 その時、さっきまで悩んでいた物がなくなったような気がしてサリアちゃんの肩を掴んだ。いきなりの事で少し面食らったような顔をしたサリアちゃんの顔を覗き込むように見上げる。


 「編み物って…編みぐるみも出来るよね」


 「……お嬢様、もしかして」


 8月8日


 そして誕生日当日、夕食時間にその時は訪れた。一族の食卓の上に置かれた大きな誕生日ケーキ、その上には47の数字ロウソクが乗っかってその一段下、丁度おじいちゃんの目の前に来るようにチョコプレートが乗っかって「いつもお疲れ様、誕生日おめでとう」と書かれている。


 食事もいつもより豪華で部屋の中もお祝い仕様に仕上がっている。一応サプライズのつもりでいるけれど毎年一家の誰かが誕生日の時にはその人を食卓に呼ぶのを少し遅らせて盛大に祝うのが恒例行事みたいになっているため、当日自分の誕生日だと忘れていなければサプライズにならない。


 それでも自分のために祝ってくれる人達がいるのは嬉しいようでおじいちゃんが来た時にお祝いの言葉を一家と使用人全員でお祝いの言葉を言った時のおじいちゃんの笑顔はやっぱりと察していたけれど、それでも嬉しいようでいつもの乾杯のグラスの音も高く感じる、それも割れたり欠けたような音ではなくベルを鳴らした時のような響く音。


 まだまだ残暑が厳しい夏の時期ではあるものの石焼ハンバーグステーキやドリア、お寿司、海鮮丼など様々な国の料理、和食洋食中華とよりどりみどりの料理が次々と運ばれてくる。それでもみんな真ん中のケーキをチラチラと見てセーブしているように見える。


 (まぁ、後でメイドたちも食べるし今日はメイドたちを労うという意味も含めてビュッフェ形式みたいに盛り付けたほうがいいのかな)


 そう思ってお父様にそれぞれミニサイズで皿の上に乗せて貰った。どうやら他の人たちも同じ事をしようとしてたようで食後のデザートの為にちまちまとミニサイズのビュッフェを楽しんで目くばせをしながら頃合いを見て電気を消す。


 そしてろうそくに火をつける役目は俺だ。と言ってもカレンが火の羽根で飛び回ってHappybirthdayと空中に火で文字を書いてその火からぽつぽつと2滴の雫が落ちたと思うとそれがろうそくを灯した。程なくして火文字は消えておじいちゃんが照れくさそうにろうそくを吹き消すとクラッカーの音がパンパンとなる。


 みんなが懐や袖に隠していたクラッカーを取り出して鳴らした。もちろん料理やケーキに紙紐などがかからないように方向には気を付けたがそれでも少し料理にはついてしまうが、大方食べ終えたし、メイドたちにはそれをのけてあまりを食べてもらうとして本日のメインといえる誕生日ケーキお父様が、それぞれ全員に行きわたるようにケーキを切って全員に配る、ちなみに主役のおじいちゃんのケーキはやや大きめで吹き消したろうそくとチョコプレートが乗っかっている。


 料理もそうだったがケーキもすごく美味しい、お祝いの席ではその場の雰囲気というのもあるけれどこういう時の料理は一段と美味しく感じる。


 そして程なくしてケーキを間食したら本日2回目のメインである。プレゼントの時間が来た。


 (正直、これが一番気になっているところがある。もしかしたら自分と同じものをプレゼントをして気まずい雰囲気になってしまう事を考えて悩んでいたのもあるし、家族みんなからの贈り物はほかに用意してあるから個人としてのプレゼントは相談一切なしの一発勝負みたいなそういう感じがある)


 それぞれプレゼント箱をおじいちゃんの前に置いて開封をしたらそれぞれの説明をする。お父様は本に挟む栞、きれいな押し花が施されてお香に漬けておいたのか微かに花の甘い香りがする。お母様からのプレゼントは服だ。いつも仕事用の制服ではなく社交界に来ていくような蝶ネクタイがついているやつでバリッとしているタイプにやや緩めな雰囲気が追加されたものだった。


 ほかに人からのプレゼントもガラス細工の置物や高級品そうなワインとグラス、水彩画の掛け軸などがプレゼントとして説明される中大所帯なのにここまで被りがないことに驚きながら、自分の番になった。


 「私からのプレゼントは手作りの編みぐるみ、おじいちゃんをいつも見守っていることを願って一生懸命編んだんだサリアちゃんに編み方を教えてもらってね、これを私と思ってつけてくれたらなって…あっ頭のてっぺんにフックにつける輪っかがあるからそれに通して持ち歩けるよ」


 みんなから思い思いの品物を持って涙目を見せるがみんなの表情を見て目元を隠しながら顔をそらすが嬉しい気持ちが隠しきれてない。


 しばらくおじいちゃんの気持ちが収まるまで一家全員誰一人先に部屋に戻る事なく見守っていた。気がつけばもう時計の針は10時半を過ぎようとした時、メイド長を読んだおじいちゃんが席を立って肩を貸せてもらいながら食堂を出る。地面には水滴がぽつぽつと残っていた。


 それを見てもしばらく誰も席を立たずに座っていて一言も発さなかったがこの空気に耐えられなくなったのか1人が立ち上がるとそれに便乗するように1人また1人と立ち上がり夜の屋敷の廊下へと歩いて行く。


 そしてメイドたちが残りの食事の引き継ぎをし始める頃には俺は日課の課題としてランニングマシンを使ったウォーキングをしていた。


 アイシャから貰ったランニングマシン、最初は名前の通り走り込みの速さで使っていたがそれをやると10分で力を使い果たすので歩行速度まで速度を落として使っている。


 つい最近思い出したのだが、美奈の戦闘モーションは足元に水を這わせていた、今思えば美奈は戦闘中水魔法で遊泳状態を保ちつつ風魔法でジェットスキーのように移動していたのではないかと思う。だから、移動しつつ足元にトラップを設置しつつ相手の攻撃に合わせて妨害が上手く発動できたのではないかと思う。この戦法はRTA(リアルタイムアタック)によく使われるもので雑魚敵とエンカウントするとトラッパーに挑発状態を付与してトラッパーはひたすら自分の周りにトラップを張り続けるのがセオリーだ。というのも実はストアドシリーズの戦闘離脱率は割と失敗しやすい。最初は必ず逃走できるが逃走すればするほど後の逃走率が下がっていき、ボス戦以外の雑魚戦で魔力や体力を無駄に消費してしまう。この逃走率はゲーム内時刻ではなく現実世界の時間で1月1日にならないとリセットされない。とは言え当初はゲーム内の時間を弄って常に逃げ続けることが出来るが、RTAではトラップの攻撃力を高めてさえいればノーダメージ+時短になるのでよく使われていた。攻撃魔法よりかはトラップ設置が魔力の消費が少ない。


 (俺はレベルをとにかく上げたい一心で全体攻撃ポンポン使って回復ポイント使っては倒し使っては倒しの繰り返しでプレイ時間なんか考えず自分の中でパーティーのみんなが新しい魔法かスキルをもう一つ覚えるまでレベル上げるぞーっと思って結局後のボス戦が物足りなくなる+パーティー非参加の仲間とのレベル差がありすぎてストーリー終盤で推しキャラを使いたいのに推奨レベルに到達していない為に泣く泣く当初メンバーで最後まで使い続けることになったのが悲しくなったっけ…)


 それからは最初からレベリングするのは予め○○レベルまでと決めて新しい仲間が出来たらパーティーを主人公+新メンバーの二人にして効率良くレベリングするようになった。因みに主人公を使うのはかっこかわいいから、それ以外に理由はない。というのも主人公は他のキャラよりレベルアップの必要経験値が少ないから、他のキャラと同じくらい必要経験値を高めて置かないと主人公一人旅で虚しさが押し寄せてくる。


 と、話がかなりそれたが、外に出れない以上身体を動かせるのはランニングマシンで疲れるまでのウォーキング、それをすることでお風呂からの睡眠で熟睡出来る。


 (今日見る夢は何かなー)

次回3月末予定

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