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外伝 肆章 コンコンと

 「ふぅ…」


 青年は靴も用意してくれたようでそれも履くがどれも新品みたいで服は衣擦れの音がして靴も新品みたいな硬さがある。そもそも彼がこんなものを持っているのがおかしい。親子ならこういうのを持っているのは不自然ではないが彼は一人の旅人、こんな女児服を持っているのは不自然だ。


 それだけではないが彼の能力を見た時、身体だけじゃなくて服も一緒に変わっていた、いくつかの推測で体を変えるとき不自然が無いように服も変わるようになっている能力なのか、服は対象外なので服事態にも能力を同時に発動しているのか、はたまたイリュージョンみたいに早着替えしているのか、考えたらキリがないがどうしても気になる。


 着替えを終えて外に出ると井戸の近くがぼんやりと明るい、光にたかる虫のようにそっちへ向かうとランタンが白熱電球のようにぶら下がっている。地面には竹が刺さっていて枝を紐で結んで先端にランタンをぶら下げている簡易的なものだった。


 そこで青年がお風呂に入る前に言っていたことを思い出す。「お風呂が終わったら炊き出しをしたところに来てくださいね」確かにそう言っていた。お風呂上りは水分補給をしないとのどが渇いて仕方ない。井戸水の冷えた水でのどを潤してから炊き出しをしたところへ向かう。


 そこにはあまり人が集まっていなく丁度片付けをしようとしているところだった。鍋を片付けしようとしている村人が気付くとすぐに声を上げる。


 「稲荷様が来たぞー!」


 それを聞くとほかの村人がぞろぞろと集まって手を引かれる、すぐにテーブルのところへ連れていかれて、目の前に多くの料理が運ばれて次々と料理の説明をされた。


 「これはウチで取れた人参を使ったスープです。今までやせ細った枯れ木みたいな大きさだったんですが稲荷様のお力でこんなに大きくなって…どうぞ遠慮せずにいっぱい食べてください!」


 「稲荷様!おれっちの果物のジュースはどうですかい?みずみずしくて甘いんですよ!搾りたてなので新鮮なうちにどうぞ!」


 「いなりしゃま ぼくたちいなりしゃまのために はなかんむりつくったの ふい!どーぞ」


 村人達がそう言って言い寄られていると老婆が奥から声を上げる。


 「これ!お前たちやめんか、お稲荷様が困っているだろうが!恩義があるのはワシもおなじじゃがもう少し相手の気持ちを考えんか!」


 そう言われると少しだけ村人たちがわきによけて子供達の親が子供達を抱きかかえて撫でながら家に帰っていく。


 まだ周りにいる人たちは少しだけ迷ったようだが私と老婆を何度か交互に見ると少しだけ離れる。


 「すみませんね。みんな今までの生活に苦しんでいたので感謝の気持ちを受け取ってほしいのですよ。ただでさえ限界集落だったここでの生活を捨てて別の村に移った人達も多いからこれほどの事をしてくれたお稲荷様に恩返ししたい気持ちなんですよ。どうかお気持ちだけでも受け取ってくだされ」


 老婆はそう言って頭を下げると杖をトントンと地面を叩くと村人達に片付けの続きをしなさいと言って井戸のほうへ向かう。


 (おばあさんは杖を使わなくても生活できるようにしたんだけど、使うことに慣れちゃったのかな?)


 目の前の料理の数々を見てどれもが大盛りだった事で食べきれるか困ったがどうしようと考えてある事を思いついた、とにかく食べられる分だけ食べて青年を呼ぼうとしたが名前を聞いていなかった事を思い出す。


 (そう言えば私まだ老婆の名前も知らないわ、記憶を辿っても祠に向かって自己紹介をされなかったのだから、まぁ祠に向かって自己紹介などするはずないからその必要性を感じないのは分からなくもない)


 それでも「おーい」と青年を呼ぶと真っ先に来てくれた、もしほかの村人が来たらその人に青年を来させようとしたが意外だった。


 「どうしたんですかお稲荷さん、何かご用命でも?」


 「これらのりょうりを わらわのところへ はこんでくれ あのこやで しずかにたべたいのでな」


 「分かりました…ふむ、お盆が必要だな。先に向こうで待っててくださいしばらくしたら持っていくので」


 そう言って青年は料理を机の端に置くと鍋の近くへ向かう、青年の言う通り先に小屋へ向かう。依り代を布団を丸める時の棒替わりにして隠して料理が運ばれるのを待つ、それから程なくして青年がお盆に盛られた料理を持ってくる。どうやらお皿事態変えたようで大きなお皿に残したご飯を綺麗に盛り付け直されている。それを見て少しだけ食欲を刺激されるがあいにくすでに満腹なのでそれに手を伸ばすことは出来ない。


 だが、これを持ってこさせたのは自分が食べるためでもないし明日の朝食とするためでもない。


 依り代を布団の中から引っ張り出して自分の前に立たせる。服についた土をパッパッと払い、胸の部分に手を当てる。そして集中をする。依り代を動かすには少しだけコツがいる。キチンと人間と同じように五体がキチンと役割をこなすようにする。


 普通に動かそうとすると手に頭の精神が行ったり、手足が逆になって常時逆立ち状態になったりする。精神に形はないが形に押し込めた結果、絵面的に面白くなったり何とも言えない不快感になるため、ある程度精密な力加減をする必要がある。


 とは言え記憶を読んでいるから感覚的には二回目,すごく久しぶりな感じがするから少し緊張する。


(落ち着いてやれば大丈夫、すでに本体は心臓部分に入れてあるから、血液を全身に回すようにして人体生成を基礎知識に従って行えば…)


 神通力を練り依り代に籠める、神通力は肉眼では見えないため他人には確認できない。術者は自身の力を使っているので消費している感覚から自覚は出来るが逆に、力を持つ持たないに限らず見えないのだ。


 力を込めてから一時間、周りの音は虫が鳴らす音のみ、それは集中力を乱すどころか逆に高める。記憶によればそろそろ完了する頃だが、素材に赤土を使ったせいだろうか、どこかせき止められているような感じで手足の先や細胞の何百個まで力が届かない。


 せき止められているとはいえいつかは決壊する、少し神通力の出力を上げて決壊する速度を速める。後は神通力が切れるのが先か決壊するのが先か、常時神通力が回復しているとはいえその速度は遅い、ポイントで例えるなら30秒で1ポイント回復という明らかに燃費が悪いと言わざるを得ない。


 「はぁ…はぁ…」


 額から汗が流れて自身の呼吸の音も心臓の鼓動も聞こえる。獣人の身体でもこれほど鮮明に聞こえてなかったのに今ではハッキリと聞こえる。


 そして力を込めてから10秒ほど経つと何かが弾ける音と共に依り代全体に力が行きわたった、すぐに今まで込めていた力を抑えて依り代から力が漏れないように全身を膜を作り覆う、その後身体から漏れ出た力ごと外側に押し込める。


 程なくして、依り代の指先がピクリと動くゆっくりと瞬きを繰り返してパチリと目を開くと口をもごもごと動かして疲れている私を見つめて口角を上げる。


 「く、ククク…はーっはっはっは!ちゅいにうごくこちょができちゃぞ!おりょかよのう?わりゃわのよりしろをつくるにゃどじちゅにこっけいなもにょであった。しゃてと、てはじめにいままでにょしかえしを…」


 「コマンド わたしにきがいをくわえることはできない コマンド わたしのことはおねえさまかねえさまとよぶ コマンド むらびとのまえではじぶんのことはわたしのはんしんということ コマンド じぶんのしょうたいをいわないこと コマンド わたしのいうこととむらびとのおねがいはよろこんでしたがうこと」


 飛びかかろうとする依り代の否、元お稲荷様の身体がピタリと止まる。


 「にゅっ…か、かりゃだがうごかにゅ…それにことびゃが…」


 「めいれい えがおでかわいくおねだりして」


 「おねえちゃま わらわ うまくからだをうごかしたいな♪あとねあとね おはなしもうまくなりたいのがわらわのゆめなんだ♪」


「うん、ちゃんとうごくね、でもまだうごかしたばかりだからことばはりゅうちょうじゃないと…ならことばをはなせるように…めいれい そこにあるりょうりをしょくれぽしながら食べなさい」


 「じゅーすだ!あまくてしゃわやかでおいしー。おさかなしゃんだ。あぶらあげがよかった」


 (うーん、この一人称はいただけないな、わたしじゃ被るし子供っぽく名前を一人称としよっと…ところで今までお稲荷様って呼ばれたから名前とか付けてもらえなかったんだ…そうだな…おいなりだから逆から読んでリナって付けよっと…問題は私か…愛菜のままじゃ少し不自然だからこっちは一文字目と三文字めを取って逆さまでリオって名乗ろうリオデジャネイロ好きだし……でもお稲荷様って日本の神格だから漢字にしたほうがいいのかな?でも漢字難しいから後ででいいや、それに疲れたしそれじゃあ寝る前に…)


 「めいれい たべおわったらわたしのおふとんでねること、わたしよりさきにおきないこと」


 「…はぁい、おほねとれたー!」


 食レポというかどちらかというと感想を述べているリナを横目に布団を被る。


 (しっかし、我ながら面白いこと考えるなー)


 依り代に憑依させたお稲荷様にはいくつかの設定を組み込んだ。スマホで言う音声認識機能と同じでいう事を何でも聞くようにした。後は最初「コマンド」といった後に依り代の身体に設定を加えるプログラミングをする。そして「命令」と言って、これはそのままの意味で身体の行動をそのまま操る。唯一の欠点と言えば言葉の意味が理解できなければそれを実行する事が出来ないという点だけ、例えば「回文素数に興味を持て」と命令しても回文素数の意味が分からなければ動けない。とはいえそれを説明すればいいのだけど、私は説明するのが下手だしそこはこれから勉強していかないとね…


 「あふ……」


 「んにゅ……」


 食事が終わったのか同じ布団に飛び込んでくる、少し間を置いたとはいえ食事した後でお互いのお腹が圧迫されて吐きそうになる。


 「め、めいれ…ごほっ!めいれい わたしのうえにのるなっ!よこでねろ!あっヤバッ…これちょっと無理……!」


 胃の中で激しく逆流するものを出すために飛び出すように家を出てお手洗いを探すが見つからず、見つからないように森の中で吐き出した。幸い森の澄んだ空気と健康的障害ではないから吐き気はすぐに収まったし全部吐いたわけじゃない。胃の中の酸っぱさが吐き気を催す前に風上を通って家の中に戻る。


 すでにリネは寝ておりスヤスヤとのんきな顔で寝ている。


 (人(?)の睡眠を邪魔しよってからこいつめ…!)


 ぽかりと頭にげんこつをかまして乱暴にバサッと布団を被る。心身ともに朝からすり減らしていた気力と緊張の糸が切れたように眠気がすぐにきて泥のように眠ってしまう。その様子を見て青年…ケルビムは軽く笑いながら今もなお起きて神社を作り続ける作業場へと戻っていく。



 ~現代~



 「って言うのがあったわけだ」


 「えっ、今ので終わり?まだまだいう事あるんじゃないの!?同じ転生者って知ってたわけだしさ!」


 「それは噓ついていたのは丸わかりだったし、知ってることを知らない所に知らないことを知ってたり転生者だと分かる点はいくつもあったが…まぁ、ノリノリで神様やってたから言うべきでもないかなーって」


 「でもでも、他にも何かあったわけじゃないの?」


 「ほかの日は御神体を石を削って作ったり、御神木に縄を縛ったり神社を作る日々だった。そんな大それたことをした訳じゃないし、一度夜盗が子供達を攫おうを画策してたからちょちょいとシバいて魂引っこ抜いて依り代のスペアにして余った魂を冥界送りにしただけで…つまらないだろ?」


 「前半はともかく後半めちゃくちゃやってるじゃん!」


 「だって、お前そういうの期待したわけじゃないんだろ?もしかして俺がその女に可愛さとか愛情とか欲情したとかいうと思ったのか?安心しろこの体になってから七つの大罪の心がなくなってな色欲を抱くどころか無性である以上なにに色欲や強欲、嫉妬など抱けというのか分からなくてその気持ちが家出してから未だに帰ってこないんだからな」


 「…すぐそうやって後ろ向きになる言葉、自分からズバズバ切り込んでくるのやめてくれない?」


 「じゃあ、自分のご自慢の胸でも揉んで産声でも上げておけ、守りがいがあると思ってたから今、始めて僕としての旅パなんだからさ」


 「旅パならその…お、○○○○の話をしないと思うんだけど…」


 「…お前そういうところは初心なのかよ。それにしても懐かしいな、あの頃はまだまだ未熟だった」


 「そうなのか?俺はエルフの隠里で暮らしてたから外の情報が入ってこなくて…」


 「だろうな、不老不死のお前にとっては精霊と契約して遊んでいるイメージしかないからな」


 「ん?いくつか誤解してないか?不老はあってるけど不死じゃないぞ?というか不老で表しているのは成長によってピークの状態で不老になるからエルフは人間と違い男性なら筋骨隆々でたくましく、女なら誰もが目を引くような可憐で美しい姿になる。それに精霊と契約するのはエルフにとってはご法度なんだ、精霊との関係はあくまで親友としての関係で精霊を使役というより精霊にお願いをして草や土を操っているんだ、植物ちゃんは会話できても自分で動くことは出来ないからな」


 「だから、イメージと言っただろう?その情報はすでに頭の中に入っている」


 「はぁ…それにしてもこの世界で随分と長い時間を過ごしたな。100年もだったから彼女ももう死んでるだろうし」


 「それならまだ分からないぞ」


 「いやいや、流石に120歳以上まで生きているわけないでしょう」


 「そうじゃなくて、時間事故つまりタイムトラブルが起きている可能性がある、これもお前に逢う前なんだが少し前魔界に何年か滞在していたことがあってな、魔人を串刺しにしたり磔にしたりして元の世界のゲートを探していたんだが三年間さまよってようやく戻れたら何と元の世界では三日しか経ってなかったんだ、驚いた反面どこか安心した。もし逆なら浦島太郎の玉手箱無しバージョンになっていたからな」


 「それはそれでヘビーだけど…でもそれって逆の場合があるってことは…」


 「そればっかりは僕も知らないな、魔界と繋がるゲートというのがあるってこの世界に人々は認識していてからこそそれが他のパラレルワールドと行き来可能と示唆されている訳でもないし、元の世界に戻れたとしてもこの世界で生きてきた時間が長くて元の世界で普通の生活を送れるわけでもないしな」


 「アハハ!この世界はいいよねぇ、定年退職制度ないし、まだまだ身体が元気なら自衛隊だろうと何だろうと続けられるんだから」


 「その中に老害やイヤミったらしい上司がいない事を除けばな」


 「こ、怖いこと言わないでよ…。さっきの話に戻るけどその狐娘、今頃何してるのかな?」


 「何をしてるんだろうね、まぁ、時間を考えるにあっちは昼間だと思うから、縁側でお昼寝でもしてるんじゃないの?」


 ~一方その頃~


 View リオ


 「はい、これで大丈夫ですよ」


 「おおっ肩こりも腰痛も無くなりました。ありがとうございます、お稲荷様」


 「お大事にー、毎日油揚げありがとね」


 神社ができた村はあの後、大きな発展を遂げた、大きな家や宿泊施設どころか、何処からか情報を聞きつけ移住者も大勢の人が村人となり、中でも神様である2人で1柱の双子の神様が人気の理由の一番だろう。


 「リネーそっちはまだー?」


 「んんっ、むむむ~…えいっ!」


 「ふうっ!疲れが取れましたよ。これで午後も農作業が出来ます!」


 「お、お大事に~」


 成長してからは毎日毎日神社に来ては老人の肩凝りや長寿のおまじないに若者の疲労回復を神通力で直す、クリニックに行けと言いたくなるが油揚げに釣られて渋々やる毎日、美味しいしやりがいあるからいいんだけどさ、夜までぶっ通しなのは少し勘弁願いたいな。


 (あ~、縁側でお昼寝した~い)

次回2月末予定

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