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外伝 壱章 稲荷となった

7月29日


View ケルビム


 「人型以外の転生者?」


大浴場から部屋に戻って着替えている途中にナイアスから転生者の話題から言葉が出た。


 「今まで聞いてきた話だと全員が人の形してたんでしょ?だったら転生者の共通点は人型以外にはないんじゃないかなって思ってね、それ以外の元人間の転生者とか見たことないの?」


 その質問に答えるのには少しの間と適切な言葉をすぐにメモリの中から出すが、それを言葉にするには更に数秒の間が必要だった。


 「……いる。正確にはいたと言うべきだろうな」


 「その人も亡くなったの?」


 「いいや、ピンピンしているんじゃないか?ただ動物から瞬く間に成長して今でも多くの崇拝者に囲まれて生活していると思う。当時の俺はただ前のように旅をして町や集落に宿屋があったら数日滞在してからまた次へと向かうの繰り返しをしていた時だった。思えばその時も今かもう少し後の…残暑が厳しい夏の終わりくらいの時だったな48年前の事だ」


 そう言って語るのは某事件ファイル番組の再現VTR並みの仮説だ。


~48年前~


 人通りがない獣道の草むらがガサガサと揺れてその中から衰弱をしてガリガリに瘦せた狐がよたよたとおぼつかない足取りでその姿はいつ死んでもおかしくない状態だった。鳴き声も出せずに舌からは一滴も唾液を出せずこのままでは飢えて死ぬのを待つだけだった。


 (お腹…空いた。お水欲しいよ…はぅぅ…どうしてわたしがこんな姿に…)


 数日前いつものようにOLの受付として働いていた時に天気予報が外れて帰宅するときには全身ずぶ濡れになるほどの豪雨になっていた。その時は家に帰って犬のマロンのごはんをあげなくちゃいけないと思ってカバンを頭に乗せて急いで帰ろうとした時に、空から切り裂くような光が音とともに自分の頭上から降りかかった。何が起きたかも理解する時間もなく一瞬にしてわたしは意識を失った。


 目を開けると固い地面の感触と痺れる感覚にクラクラしながら周りを見ようとすると身体の感覚がおかしいことに気が付く。今自分は四つん這いになっているはずだ。それなのに膝が地面についているのではなく足が地面についている。周りに誰もいないけれど四つん這いでしかも大股になる姿勢なことに羞恥心ですぐに立ち上がろうとしたが、力が入らずに受け身を取れずに倒れてしまう。


 「キュアンッ」

 (痛っ)


 ぬかるみに倒れたが反射的につい「痛っ」と言ってしまった。そう言ったつもりだった。今までも反射的につい大げさな言葉を使うことはあったがそれに対応した言葉が自分の口から出ることはなかった。


 「クゥ?」

 「え?」


 そこからは何が何だか分からずに頭が真っ白になって走り回った。四足でまるで狂ったように大きな草をかき分けてただただ走った。自分の事も考えずに発狂して現実から逃げるようにその場から走り去った。


 次に我に返った時には既に何も喋れずにふらふらで死ぬのを待つばかりかと思った。その時にガサリと大きな音がした。恐怖に打ち震えながらもその音が生き物ならばその後をついていけば水や食料がある場所にたどり着けるかも知れないと思ってその音がする方向に行こうとしたときに大きな道に出た。


舗装されたのはずいぶん前のようで古いひび割れの石畳がボツボツとあるだけで今この道を使う人はいないんだろうということが分かったしかしそんなことを考えている暇はなくさっきの音はどこから聞こえたものなのか耳を澄ませるとさっきの音が聞こえる、しかもそれは遠ざかっていくものではなく逆に近づいているもの、それもとても大きいものだった。


 怯えながらさっきの茂みに飛び込むように隠れてやり過ごそうと思っていると、その音の主が横切った。それを見た私は見間違いかと思った。


 それは自分が小さくなったのかと思うほどの巨大な足が目の前にぬっと現れた。顔を上げるとそこには巨人が立っていた。確かわたしの身長は154㎝…だとすると70mはある…嘘、噓よ!こんな事あるはずない!


 その巨人は気づくことなく去っていく、もし気づかれたら殺されるかもしれない。だがこのままではどっちみち餓死してしまう。それならば少しでも生きる可能性にかけるしかないと己を奮い立たせて巨人の後を追う。


 地面は雨の影響でぬかるんでいるのか靴の足跡がくっきりと残っていてその後を必死で後を追う。


 まるで10㎏の重りをつけられていると思うような足を手で引きずるようになった時、さっき聞いた重々しい足音が再び近づいてくる。その足音はさっき聞いたよりも大きく今度こそ気づかれるのではないかと茂みに隠れる時間はなくせめて視界の端にまるで道端に落ちている石ころのように思われてほしいと身体を丸めてやり過ごそうとする。


 丸めた身体から見た光景はその足音は2人分でゆっくりと通り過ぎていく。その時間は10秒も経ってはいないのだろうけど衰弱と緊張のせいで何時間も引き伸ばしされている感覚だった。


 あぁ、もう死ぬんだな。そう思った時に目の前に祠のようなものが見えた。そこには何か茶色のふわふわしたものが置かれている。


 (せめて…せめて、あれに包まれて心地よく眠りたい)


 声も枯れて、今の自分に残っているのは皮と骨と肉と血と心。どれもか細く今にも消えそうなものばかり、人生の最後ほんの少しだけの小さな欲望を叶えたい、ただそれだけの一心で目の前に来た。その時


 「はぐっ」


 (…え?)


 自分の行動がその時分からなかった。永眠の場所としてたどり着いた「そこ」にかぶりついたのだ。しかし、それ以上にあることで頭がいっぱいになった。


 (美味…しい…)


 掠れいく命がみるみるうちに満たされるように欲を頬張るように更にそれにかぶりつく。


 (美味しい…美味しい!おいひぃよぉぉぉぉ…!!)


 ガツガツとはしたない犬食いで目の前の食べ物に食らいつく。噛めば中からじゅわっと肉汁のようなものが溢れ出してそれで喉を潤して食欲は更に増大する。


 しかし、限りあるものには終わりがあるものだ。自分の半分以下の大きさのそれはすぐに無くなり。今まで動いていた口がピタリと止まる。


 汚れた口を手で拭おうとするが、未だに手は動かしにくい。だけども目はどうだろう。気が付いた時のように目ははっくりと見えるようになっていた。


 目の前には先程まで自分がかぶりついていた物はどうやらお皿の上に乗っていたようでお皿の近くには水の入ったコップが一杯それを視界に収めて顔の血が引いていくのを感じた。


 (あ…あれぇ?もしかしてだけどわたし、お供え物を食べちゃった…の?)


 まだ少し空腹だけど生き返ったような感覚で冷静になって考えるとえらい罰当たりなことをしてしまったのではないかと顔をあちこちに動かして何かを考えようとするが何も思い浮かばない。


 (だ、大丈夫だよね…罰が当たったり、しないよね…?神様だって目の前の命が消え行くのをお供え物で助けられたのなら本望だよね…?)


 自分に言い聞かせて、きっと大丈夫と自己暗示をして心を落ち着かせていると頭の中で声がする。


 【いいわけがあるかぁっ!!】


 怒気を含んだ声で吠えるような声が頭の中でぐわわんと響いて鼓膜が割れそうになる。


 「キャイィィン!!」

 (ひぃぃぃぃぃぃ!!)


 【例え同族の(わらべ)であったとしてもわらわの好物である油揚げを平らげてしまった挙句、助けられたのが本望じゃと…?自身の事しか分からぬ|童が自分の都合だけでほざくでないわ!!やはり童には躾が必要なようじゃな……その身に罰を与えようぞ!!】


 祠の中にある石のようなものがぼぅっと煙のようなものを上げる。その石は何かを模した石像であるようだがその姿は木枠で囲われているためその姿はよく見えない。そして煙が祠の中に充満した後、風船が割れたように中の煙が吹き出して自分を含めて辺りを包み込む。


 「ひゃぁぁぁぁ!!」


 それからいつほどたったのだろうか、また気を失っていたのか再び目を開けるとあの祠の前に伏していた低い唸り声と共に頭の中でまだ耳鳴りが残っている感じがして頭を抱える。その時初めて手が自分の思い通りに動いた事に気づいたと同時に聴覚と触覚に違いがある事にも気づいた。


 普段聞こえないような風の音が聞こえる。遠くの音が耳を通しているのにそれが聞こえてくるのが耳のある所ではなく頭の中に直接入るように聞こえる。頭を抱えた時に髪の毛を一つまみ一斉にやや強めに引っ張られたような刺激を感じた。


 【くくくっどうじゃ人間の幼体に変えたぞ?供え物を全て食べられたせいで完全には変えることは出来なかったが、今までの体とは勝手が違く屈辱じゃろう?その姿で醜く四つ足で過ごすがいいわ】


 頭の中に響く声に耳を傾けながらすくっと立ち上がる。


 【あれっ!?】


 両手で力を込めて祠の木枠を思い切り引っ張る。


 【ちょっと!?何で二本足で動けるようになって…お、おい何をするのじゃ!やめよ、わらわの祠じゃぞ、これ以上何かやるとあれじゃぞ!?何かすごい天罰的なあれを落とすぞ!よいのか!?やるぞ?やっちゃうぞ??】


 「さっきのてんばつでじんつうりきのちからをぜんぶつかっちゃって てんばつをつかうちからものこってないんじゃない?」


 【は?なぜ流暢な言葉を使えるのじゃ?それに神通力の事も話しておらんのに…あれぇ?さっきまで使った力がわらわから童に吸い取られているぞ?あれあれぇ?】


 「へぇ、さっきまでわたしってこぎつねのすがただったんだ。どおりでうまくからだがうごかないわけだ、ということはいままでみてきたものは つうじょうさいずのおおきさだったんだね」


 【きっ貴様、何の話をしておるのだっ!貴様がわらわの力を吸い取っておるのは知っているのだぞ!今すぐやめよ!今ならまだ許そうではないか】


 「あなたってたぶんいままでろくにちからをつかったことってなかったでしょ」


 【ギクッ!】


 「さっきおそなえものをぜんぶたべられたせいで かんぜんにすがたをかえられなかったとかいってたけどちからをつかってなかったからてきとうにつかったけっか こんなかたちになっただけでしょう?」


 【ギクギクッ!!】


 「ためたちからもろくにつかってないからつかいかたも うろおぼえでほんらいならかみなりやごううをふらせるのにそれすらもわすれてゆいいつおぼえているのが たいがいにほうしゅつするだけでそのとめかたもわすれたから そのためているじんつうりきのちからがわたしにながれていることも…」


 【やめよ!それ以上わらわの恥を語るのはやめよ!】


 「ごめんなさいね。ちからとともにあなたのかこや いろんなことが見えちゃってそして…よっ」


 バキバキと雑草が千切れる音とともに古びた木枠が壊れた。


 【わ、わらわの祠がぁ…】


 「これがほんたいね」


 祠の中にある狐の石像を持ち上げる、所々が苔が生えて尻尾や耳の部分が欠けて狐の面影が残っているのはほぼ奇跡と言ってもいいくらいだった。


 【おいっ!わらわの本体を持ち出して一体どうするつもりなのだ!今すぐやめよ!】


 「ちからがつかえないのならつかえるようにわたしがおしえなおしてあげる。そのためにはまずははらごしらえをしないとね。そのためには」


 ペタペタと足を泥だらけにしながらあの二人を探す。幸いまだ遠くには行ってなかったようですぐに後ろ姿を捉えた。追いつこうとするが、それ程距離が離れているわけでもないのに声が届く距離までわりと時間がかかった。少し呼吸を整えて話し掛ける。


 「まちたまえ、おぬしらよ」


 【き、貴様それは…!】


 振り返った二人の顔をそこで初めて認識した。1人は中性的な姿をしている青年だった。歳は若干18歳ギリギリ高校生といえるだろう。もう1人は老婆両手で杖を持ってゆっくり振り返った。


 一つ咳払いをして話し続ける。


 「わらわたちはあのほこらにまつられしもの おぬしらでいうところのかみさまといわれるものじゃ」


 (こんな感じでいいんだっけ?コミュ障の神様が偉そうにいう喋り方ってラノベや同人誌でしか見たことないから本当にこんな喋り方なのかは知らないけど、もしかしてあからさますぎて疑われちゃったか?)


 少しチラッと薄目を開けて2人を見つめるが、青年のほうはともかく老婆のほうは杖を置いて頭を下げる。


 「おぉ…おぉ…お稲荷様……まさか、あなた様のお姿をようやくお目にかかれる日が来ようとは…ワシは……ワシは夢を見ているのでしょうか………」


 老婆は頭を下げたまま、目の端からつつーっと涙を流しながら、しわの肌を伝う涙を青年がハンカチで拭う。


 (ふむ…この老婆は昔から毎日のようにお供え物を届けてくれたのか…記憶が読めるのも神通力の力を持った影響かな…?ともかくダメな神様に代わって感謝の気持ちを伝えなきゃね。命の恩人なのは変わりないし)


 「かおをあげよ、ひとのこよ。おぬしのことはまだわらべのころからみてきたのじゃ、まいにちわらわのこうぶつをささげるしんこうしん まことにたいぎであった」


 「しかし、ワシは…ワシはもう寿命には逆らえず、今もこうしてここに来られるのは今日が最後かもしれない。それでもワシは一度たりともお稲荷様への祈りを欠かしたことはございませぬ」


 「うむ、しっているともそのいのりはわらわのもとにとどいておったぞ。いま、ひびわらわしんぞくにみつげものをささげるものはおらぬ、ただのばけぎつねであったわらわをおぬしはいつもまっすぐなひとみでみてきたのをわらわは しっておるぞ」


 「もうワシの瞳は淀みこうしてお稲荷様の姿をハッキリとお見えになられているのは、お稲荷様のお力なのでしょうか?お稲荷様はそのような神々しくも愛らしいお姿で…」


 「うむ、そのこともはなそう。わらわのこのすがたはなけなしのちからをつかったかつてのよりしろをつかったのだ。もうすでにぼろぼろであったゆえつかえそうなところのみをつかったけっか このようなすがたに…ほんたいもこのようにぼろぼろであるためあたらしくつくることもままならなかった」


 【貴様!わらわを貶しているのか!これでもわらわはかつてこの地に豊穣をもたらして何千人もの信者を従えておったのだぞ!それを馬鹿にして…や、やめよ!お手玉のように空に投げるでない!わらわは玩具ではないのだぞ!】


 「話に割って入って済まない。お稲荷様…でよかったのか?あんたは何故僕らの前に姿を現した?今まででも話す機会はあったはずだ。それを今となって依り代を使い姿を現したのはそれなりの理由があるとお見受けするが」


 今まで話をただ聞いていた青年が入ってきた。うるさいダメ神の話ももう飽きてきたので本題に入ろうとしよう。


 「そうじゃのう、いまのわらわははんしんといったところでの、ほんたいがこのありさまではこのままくちてしまう、しかしながらさきほどいったとおりみつげものをささげるものなどおらず、あのほこらをたてなおしたとしてもささげるものなどをしないものがいるじゃろう。そこでじゃ、わらわののこってちからをふんだんにつかってやる。そのかわりわらわをあがめるじんじゃをつくってほしいのじゃ」


 

次回1月中旬予定

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