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第二十部 四章 仮面令嬢への訪問

~同日 鬼灯家~


 「どうしたんですか?あなたから電話なんて驚きましたよ。アイシャさん」


 View アイシャ


 「ゴメンゴメン、手持ち無沙汰でさ何か暇つぶしをやるにも考えれば考える程に暇つぶしゲシュタルト崩壊しそうだったから適当に電話帳漁って掛けたわけ」


 「げしゅ…タルト?お菓子が崩壊したのですか?」


 「いや、ゲシュタルト崩壊はそういうのじゃなくて…例えば同じ単語を続けて言っているうちにその単語自体に疑問が浮かんできてその状態がゲシュタルト崩壊という事なんだよ」


 「???」


 「ごめん、分かりにくかったみたいだね。実際に見てもらった方が一番説明しやすいから…よし今からそっち行くわ」


 「えっ?今から!?」


 「だってほとんど外にも行けなかったし、外行く時期なんて個人的に夏が一番好きなんだもん、出来ればアイスキャンデーを用意しててほしいなぁ、なんちゃってー」


 「あっ、こっちはまだ来ていいなんて…あれ、アイシャさん?アイシャさーん!?」


 通話口から小さく響いている声をシャットアウトするように切って夏用の薄手に着替えると肩と頭に乗ってるエルとエリィを撫でて、パパとママに外出許可を貰ってランクと一緒に鬼灯家に向かう。


 「お嬢、鬼灯家のお嬢にわざわざ会いに行くなんてあまりにも急すぎません?相手の了承も聞かなかったんでしょう」


 「確かに強引かと思ったけど、僕の本心は別にあるんだよ。恋する乙女の気持ちは理解しないと成長しないからね人生として…」


 「…楽しそうですね。羨ましい程に」


 「男に憧れても嬉しくないよ」


 「左様ですか、残念です」


 (まぁ、その恋が道無い道でも俺的には好物だからね…でも、空回りの可能性も捨てきれないから確認でもあるんだけど)


 女児の気持ちは難しい、着飾って可愛く見られたい子もいればお姫様系の美人系に憧れたりもする。逆にそういう風に見られたくない理由を細かいところだろうと歪んだ解釈をして寝ぐせを治したり、服を変えたり仕草を変えたりとか100面相といえる心に首を傾げる事がしょっちゅうある。


 でも、あの時の顔はどうも…前世と違いビジュアル画風だと心境が分かりやすいのが助かるな。それでも、確証は直接聞いてみないと知らないが。


 余談だが攻略対象4人の中で一番鬼灯家に近いのがアイシャ家だ。と言っても直線距離としては千麟家と200m程しか違わないのだが、この身体だと徒歩で信号待ち除いて10~20分程度で到着できる。


 「おや、あちらに見えるのは…」


 ランクが何かに気付く、つられてそちらに目を向けると見覚えのある特徴的な金色と根元の白い髪色が見えた。しかしそれは一瞬ですぐに人混みの中に消えて見えなくなる。


 「ランク、今のって…」


 「ええ、レイラさんでしょうね。人見知りと聞いてましたが隣の人は一体誰なんでしょうか?」


 「隣に誰かいたの?」


 通りには曲がり角からいろんな人が交差してその中から誰か1人を見つけてもすぐに見失ってしまいそうで、実際に今レイラの姿を見たと言っても後ろ姿の髪の毛それも視界の端に見えただけでその姿はもう見つけることが出来ない。


 「黒を基調とした色白の女性のスカートにしがみつくように歩いていたので、でも…どうも両親の面影も少ないような…?」

 

 「そんなところまで見てたの~やらし~」


 「勘弁してください、職業病です。執事を束ねる者として観察するのが癖なんです」


 (それだったら全国の半分以上が現在進行形で同じ癖になると常に思うのは俺だけだろうか)


 まぁ、わざわざ追いかける様な事でもないし、一緒にいた人が何者か知ったから何かをするわけでもないから、ここはスルー案件かな。海賊みたいに寝ている時に誘拐されていたようなら話は別だけど。


 寄り道で、コンビニで保冷剤とアイスキャンディーを買ってアイスが溶ける前に食べながら鬼灯家に向かう。


 「やっぱりアイスキャンディーはブドウ味に限るな」


 「恐れながらお嬢、私はオレンジが好みです」


 「うーん、柑橘系は舌が痺れる感じがして味覚が麻痺しちゃうからあまり好きじゃないかな。嫌いというわけではないけど、味を楽しむなら柑橘系はNGかな」


 「大人になったらなれるかもしれないですよ。お嬢はまだ子供なんですからピリピリ感が残りやすいのかもしれません」


 「そういうものかな?」


 「断言は出来かねますが、個人差含めなれる場合が多いかと」


 前世で慣れなかったからそう思ってつい口が滑ったけど、そう言えば果物をあまり食べてなかったような気がする。柑橘系か…帰ったらみかんでも1つ食べてみるか。


 ~鬼灯家 優菜の自室~


 「突然の訪問に丁寧なおもてなし、誠にありがとう」


 「いきなりの事でお茶請けも大した物を用意する事もできなくて申し訳ない…と言いたいところですが、事前に言ってくれればもう少し上等な物を用意出来たので次からは思い付きで行動するのは控えるのをオススメしますよ」


 そういいながら冷たい紅茶にクッキーを頬張りながら口では答えずにコクコクと頷いて口内のクッキーを紅茶で流し込む。


 「んくっんくっ…ぷはっ、本当はこっちからなんか粗品でも用意して来るのが筋何だろうけど優菜の事何も知らないからさ、それで嬉しくも何にもない物を上げるのもどうかと思って行くと言ったからには待たせると粗品を天秤にかけて粗品の方が天高くに飛んで行っちゃったからつい…ね」


 もっと言うと家には俺とママ以外に女性がいないから女物が全体の1%にも満たない程にしかないから持って行かなかったんじゃなく持っていけないのが正しい。


 男環境で育てられる女ってこんな感じなのかな…二次元テンプレ男勝り女の子も大変だなこりゃ…


 「それで、何だっけな…そうそう、ゲシュタルト崩壊の話しをしたんだったね」


 後ろに待機しているランクに何か書くものをのジェスチャーをするとランクは胸ポケットに挟んであるシャーペンと内ポケットからメモ帳を取り出してそのうちの一枚をブチリとちぎって渡してくる。


 それにサラサラと同じ文字を書いていき、それをテーブルにおいて優菜に見せる。


 「えっと…紅茶紅茶紅茶紅茶紅茶紅茶紅茶紅茶紅茶こうちゃこうちゃこうちゃこうちゃこうちゃこうちゃ……???」


 「紅茶ってすごいよね。鮮やかだしミルクを入れるとマイルドな味になるし、紅茶って色もいっぱいあるし紅茶って名前もすごくない?紅茶って」


 未だ紅茶の文字と睨めっこしている優菜の耳に紅茶という単語を繰り返す。そして、一言置いた後…


 「ねえ、今一回でも紅茶って何だっけ。って思わなかった?それがゲシュタルト崩壊ってやつだよ、もし分からなかったらスマホでも使って調べてみたら?専門過ぎて逆に分からなくなることもよくあるけれど」


 「…もしかして体験済みなんですか?」


 「知的探求心に抗えなかった代償は大きかったよ」


 もちろん、前世の話だ。自分でいう事じゃないと思うのだが、好奇心旺盛だったから知りたいことがあったら身近にあるものを使って調べたものだ。家にあるのはほとんどが医学書だったからその他となるとパソコンしかなった。


 ちなみにその時はスマホがまだ普及どころか開発前だったからガラケーのネットが使いずらい時代の為ガラケーはあくまで通信手段のみの使い方しかされてなかった時の話し。


 「まぁ、この話はここら辺で済まそう。一々同じ話題を深堀するのも、したとして分からない事に根拠ない仮説を立てても実際に直接な関係を持って調べないと分からない事に時間を費やす…いや、時間を無駄にするなんて嫌だもの」


 「…美奈と同じことを言うんですね」


 ぼそりと独り言を呟いた優菜を俺は見逃さなかった。


 「なんで美奈の話しになるんだ?」


 そう指摘された優菜は小さく「あっ!しまっ」と「た」を言う前に口元を反射的に抑えて何か言おうとしているのか、口を開こうとするが言葉が出て来ないのか隠そうとしておろおろとした様子で部屋のあちこちに目を泳がせて顔を赤らめて冷や汗が額から滲ませて涙目になる。


 (少し揺すろうと思ったらその隙もなく相手からボロボロと挙動不審が見て取れる。これはあの時の反応は間違いなく吊り橋効果や一時の迷いでも小学校低学年の心理でもなく…)


 「実はこの前、美奈とよく似た人と優菜さんが仲良くカフェでティーブレイクかましている所を見てね」


 「…あの、言葉遣いがおかしくありませんこと?「かましてる」なんて貴族としてのプライドはないのですか?」


 「誰にだってプライドはある。でもそれが高すぎるとマイナスな結果にしかならないから、そこらへんのプライドは捨てると決めているんだ。一人称とか身体的なコンプレックスとかね」


 プライドの話しで相手から動揺を誘うはずが思わず自分の世界による価値観をベラベラと話してしまう。


 「本当はあの時したくても出来なかった事がたっくさんあったんじゃないのか」


 あえて疑問文で言いながらも諭すように言う。


 「それは美奈に言って叶えてもらうものだった。それが出来なかったのはその時の優菜にはプライドの塊が胸につっかえてたからじゃないのか?俺はこういう事については年長者だから、教えてあげるけれどプライドのせいで得る物よりも失う物が遥かに多いんだよ。得たものの少なさと失うものの多さ、それを天秤にかけてプライドの価値観を自分自身で決めるのは人生で必ず必要な分岐、それを既に乗り越えたから今の俺である」


 「……」


 「無駄に語っちゃったか、スイッチ入ると自分でも抑制出来なくてね」


 「いえ、深く感銘を受けまして…アイシャさんの人脈が大きい理由に辻褄が合いました」


 「そ、そうか?今まで褒められることはあっても直接言われることは無かったから少し照れちゃうな…えへへ」


 「…美奈さんの話をしたという事はアイシャさんも私が抱いている美奈さんへの思いを存じているのですか?」


 「まぁ、多少はね。ところでどうしてアイシャさん「も」なんだ?他の人も何か知っているのか?」


 「結構前の話しなんですが実は王城に伺いました時にリラ姫に聞いたのですが…」


 優菜はリラとあって話した内容と出来事を事細かに話した。それについてリラの事を少し理解している事からリラが多少の噓をついて内なる心を暴こうとしている事を察した。


 (まさか同じ事を考えているとはね、俺の場合はただ自爆したから揺さぶる必要なんて一切必要なかったけど)


 「それは、リラなりの気遣いなんじゃないかな「お似合い」という言葉を使ったのは泣き止ませるための慰め。「好き」という言葉はブラフだと思うぞ。もし好きならそっちから行くのではなくこっちから行くべきだろう?相手から来るのを待つなんて逃げているだけだもの、接点なんてあまりないのにこの国の人口の中、1人を来るのを待つなんて現実的じゃない。その後の反応で冗談なんて言えなかったんじゃない?意外とそういうところ不器用なんだよな。リラは…あっ、この話はどうかここだけの話ってことで口外はしないように」


 「も、もちろん!でもまだ分からないのがバトルアリーナの件はどういうことなのでしょう…?」


 「接点を作ろうとしたんでしょう。時期を考えるに予選の予約も取れないし、ならばせめて応援や偶然を装って少しでも親しみを持たせようとしたんじゃない?結果的に俺たちとあって今日その事で解明したんだし」


 「…私、美奈さんの事をどう思ってるのかしらこの好きの気持ちは恋心なのか友達としての好きなのか」


 「それは僕でも分からない。でも一つだけ言えるとしたらLOVEとLIKEの違いなんて自分では分からないものだよ。それに気づきたいなら周りの評価を聞いたり呼び方を変えたりして自分を振り返るのもいいかもね。ちゃん付けや僕みたいにため口…貴族の話し方での二人称である「様」からさん付けにしただけでもかなりの進歩だと思うよ」


 「そうですか…分かりました。ありがとうございますおかげで気持ちの整理がつきました」


 「アハハ!それお邪魔したこっちのセリフだよ」


 「ウフフ!ですね。おっかしー」


 二人で笑っているとコンコンとノックの音が聞こえる。優菜が返事をするとランクが入ってきた。


 「失礼します。お嬢、外の様子に気がつきましたか?」


 それに合図するかのように外を見てみるとついさっきまで青空が広がっていたのにどんよりとした雲が太陽を隠して遠くから黒い雲がグングンと波のように近づいてくる。


 「予報では夕方から夜にかけて雨が降るとの予定でしたが、もう降り始めてもおかしくありません。今のうちに帰宅した方が…」


 言い終わる前に窓に水滴が幾つか落ちるとあっという間に大きな音を立てて雨が降り始める。風も強く吹いて今のまま帰ったら家に着く頃には濡れ鼠になっているだろう。


 「困ったな、うちには車もないしあったとしても地下高速のサービスエリアから家まで徒歩でも結構かかるぞ」


 流石に無理して帰って風邪になっても嫌だし…そう言えば気孔術って風邪に有効なのかな?この世界来てから病気になった事ってなかったような…いや、もし風邪にならなくても服がびしょ濡れのままだと気持ち悪いし、仕方ない。


 「わりぃ、優菜、雨が止むか雨が弱まるまでここで休ませてもらっていいか?」


 「構いませんよ。いい話をして貰ったのでそのお返しという事で、これで貸し借り無しとしましょう」


 「よし、それで行こう」


 (まぁ、リラの話しは仮説なんだが後でメッセで問い詰めるとして今は雨が止むまで机の上にあるお茶菓子を食べて世間話に花を咲かせるか)


 しばらく話していると雨は弱まるどころか窓を叩くような音と風の音が響いて更に遠くで雷が落ちた音が聞こえ始める。


 「うわぁ…これはさっきの時に話したほうがよかったかもしれないな…どう思う?ゆう…な?」


 振り返ると優菜は両耳を塞いで目をギュッと瞑っていた。瞑った目からは涙が見えている。


 (あっ、これもしかして…)


 「ゆ、優菜って雷が…」


 言葉を続けようとすると再び空から響く音に反応するように優菜が飛び込んできた。とっさの事で反応できずそのまま床に押し倒される形になる。


 それでもお構いなしというようにホールドされるが、その驚きより胸の傷に追い打ちをかけるような痛みに顔が苦悶の表情を浮かべてしまう。


 「あっ…がっ…ぐぎぃ…痛つ…や、め…おぉぉ……」


 圧迫されて胸も腹も床とのサンドイッチみたいになってさっきまで食べてた茶菓子をリバースしそうになるのを抑えながら少し無理矢理にでも上半身を起こして優しく背中を擦る。


 「無理しないでいいんだよ。怖いものなんて誰にでもあるんだからね、僕は優菜のことをあまり知らないけれど自分を抑え込んで無理している事は分かるんだ。仮にも将来幾つもの会社を持つ貴族が雷が怖いなんて思われたら軽蔑されるんじゃないかって思うと怖いんだろ?自分でそれを認めたくないからこうやって仮面をいくつも重ねていつ壊れてもいいように更に重ねる。その情緒不安定な言葉遣いはそれが原因なんだろ?」


 正直、今俺が一番怖いのは胸の痛みがこれ以上酷くなって腫れあがるんじゃないかって思うくらい痛くなるのが怖いんだけど…あっちはメンタルこっちはフィジカルでボロボロになっているのがボロボロという面でシンパシーを感じる。


 その後、ほんの少し日差しが出た時間で急いで帰宅してさらしをいつもよりもきつく巻いてその日は髪の毛以外の身体はウエットタオルで拭くだけにして寝たが見事にエリィとエルの牙がさらしをすり抜け今日もピンポイントで嚙みつかれて寝不足が悪化した。

次回12月中旬予定

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