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第二部 四章 リラの癒し

 「~♪」


 城内の一室から鼻歌が聞こえてくる。楽しげに高い声が小さく響く。


 「はぁ~、可愛いねぇ、リエラは、良い子だし、寝る時にお手てを合わせないとうるんだ目で見つめてくる顔もいじらしいけど、結局根負けしちゃうんだよね~」


 フェンリルのリエラを責任を持って監視という形で飼うことになった数日、少しではあるがフェンリルの事について少しは分かった。


 「姫様、失礼します。この前にご提案されたティーパーティーのご参加のまとめが出来たのでお持ちしました」


 扉のノックの後に聞こえたのはエリックの声だった。


 「え、えぇ、入ってくださ…いいわよ」


 この前に見たエリックのステータス的に少しでも機嫌を損ねたら瞬殺されるのではないか、という恐怖から抜け出せずついつい敬語で返答してしまいそうになる。


 カチャリとノブを捻る音が聞こえエリックが入ってくると視線をこっちの方に向けるがそのすぐ後に俺の、正確には俺が撫でている生物に視線を向ける。


 視線の先には今の自分よりも小さい赤子が足にしがみついて何とか立っている。


 エリックは心底驚いた顔をしたが、ハッと何かに気付いた顔をして訪ねてくる。


 「姫様、その赤子はもしや、リエラ様では?」


 「うん、そうだよ」


 そう、足にしがみついている赤子はリエラ、フェンリルの能力の一つ、人化。その名の通り姿形はもちろん、特徴の耳や、匂いも無くすことが出来る術だ。


 「でも、よくわかったね。私でも現実を受け入れるのに割と時間が掛かったっていうのに」


 目を覚まして、顔を洗おうとしたら、服の裾を掴んでいる赤ちゃんがいたなんて誰でも驚くだろう、それに見覚えがなければ尚更だ。

 

 「ええ、姫様に懐いていて、その眼の色、髪の質が元の姿の面影があるので」


 言われて、よく観察してみると、確かに目の色や髪の毛の感触が一緒だ、しかし、その顔はどことなく自分に似ていると感じる。


 「確かに、でも、顔は私と似ているかもね 私に妹がいたらこんな感じなのかな」


 そう思うと、さらに愛おしさが体の底から溢れて来て撫でながら、身だしなみをチェックした後、リエラのお世話をする。


 「リエラ、あーってお口を大きく開けて、歯磨きするよー」


 「あー」


 今まで、一緒に生活して言語を覚えたのか、驚異の学習能力と言うべきの行動をとる。


 互いの身だしなみを整えてエリックに振り返る。


 「えっと、確かお茶会の参加表を持ってきたんだっけ、悪いんだけど、絵本を読み聞かせみたいに隣で読んでもらえる?リエラ服は掴んだままでいいから、しーっだよ」


 「あ、あい!」


 高い承諾の声の後にギュッと服を掴まれながら参加表に目を通す。


 「参加人数はほぼ全員です。不参加の理由は宮廷の呼び出しや、業務などの権力者によくある手間ですね。よくあることです」


 参加名簿には見知った名前もいくつか書かれている。


 千麟美奈、アイシャ・ハーン、レイラ・オーガスタ・キャロル、ちゃんと自分以外の攻略対象も参加者の名簿に載っている。


 「ん」

 

 そこで、一つのことに気付いた。レイラの名前の横、他の参加者にもあるのだが、レイラの枠だけ薄いマーカー、多分、蛍光塗料の類だろう。それで書かれたなにかのマークが書いてあった。


 「エリック、このマークは何?」


 「あぁ、このマークはプログラムに関係するものですね。マークの真ん中に数字が書かれているでしょう。少し後でまた説明します」


 マークは独特なデザインで少々奇抜、というよりも、番号が少々読みずらい線と重なり合っているのもあるが、模様が、重なり合っているのが主な理由だろう。


資料をめくると枠線の中にお茶会の合間に学会の説明などが行われるプログラムが書かれている。それぞれ代表者の名前などが記載されているが、大体の時間がお茶会でメインになるようなものではなく注目するものも少ないだろう。


 そして、その代表者にエイラの名が書かれていた。


 「代表者がパーティーの参加者なのね。珍しいけど、大人の声よりも高く自分と同じ齢の話しが聞いてもらえる魂胆かしら」


 「プログラムは少しの合間です。姫様が発案したように、目的はあくまで友好関係や孤立防止のためなのですから」


 ただ、新しい学校とかで緊張しすぎて慣れたころにはグループが完成していて結果ぼっちになってしまった教室の端にいるモブ的存在を見てきたっていう理由なんだけどなぁ


 「でも、私はプログラムの内容も計画していなかったわ、これはお父様が?」


 「はい、陛下が少し手を加えたようで、何やら恩返しをしたいとか言っておりました」


 あぁ、こういうのは未プレイ部分だ。そういうのを分かっていれば問い詰めたり、悩みを聞いてクエストを受けるパターンなのだが、そういうのが出来る立場でも年齢でもない。


 「話は変わりますが、姫様、お体の容体はどうでしょうか。陛下は姫様の安否をとても気になっていらっしゃいました。王妃陛下も同様にお体の健康に異常があってはと心配なされています」


 この国の国王リヒトつまり、リラの父親は王ではあるが、執務が多いというわけではない。何やら画期的なシステムによって国全体の急激な発展をもたらし、上流階級の貴族でも頭が上がらないほどの影響力をゆうしているらしい。


 「今まで私しか来られないのも、この機に攫われたり、暗殺などを企てたりする賊を近寄らせないためと言えるでしょう。ですが、お元気な姫様をみたら、お二人も安心して、触れ合える機会が出来ると言うものです」


 子を思う親、というのは言葉にするといい意味に聞こえるが、親の心子知らずともいう、しかし、特に王様に会いたいというわけではない。だが、血肉を受け継いだだけで父親面されると、何とも言えない、複雑な気持ちになってしまう。


 実際、親の心子知らずという言葉は逆も然り、そもそも誰も人の心を理解できるはずもないのだ。意見を交わしても利が一致してなければすぐに崩れる。


 そんな今の状況でどんな顔して会えばいいのか分からない。


 (とはいえ、会わないわけにはいかないんだよなぁ…姫として、娘として身体も特に問題ないみたいだし、リエラの事も少し気にしているみたいだし、現状報告ってことであってみようかな)


 「分かったわ、お父様にもお母様にもいつまでも心配かけさせるわけにはいかない、それに、リエラの事も知らせなきゃね」


 リエラの人化の姿は赤子の姿とはいえ、五歳の身体では抱き上げるよりはおぶった方が負担が少ないので、おんぶしてあげることにした。


 「あっうおーふぁう!」


 まだ、人の身体が定着していないのか、未発達な声をあげながら背中に乗っかる。


 「エリック、扉を開けて、これじゃあ、手は使えないから」


 エリックを先頭にして、王の居る部屋の前に来た。コンコンッとノックの後に扉が開く。


 「おおっ!リラ!リラじゃないかっ!!大丈夫かい?もう体の具合は良くなったのかい?いやぁ、めでたいねぇ、今日は復帰祝いにパーティーを開こうじゃないか!!」


 扉を開いて物理的に飛び込んできたのはリヒト王タックルのフォームで飛び込んできたのでびっくりしたが、寸前でエリックが止めたが先に延ばされた腕はガッシリと体(リエラ含めて)を抱きしめている。


 「まぁまぁ、あなた、リラちゃんはまだ病み上がりなのよ。愛でたい気持ちは分かるけど、今は抑えて、それに、今日はあの子が帰ってくるんでしょう」


 王妃陛下が言った「あの子」という単語を聞いた後、ピクリと眉をひそめて、クルリと陛下は王妃陛下に向き直る。


 「あいつは実の息子ではない、確かに、第一王子の称号を持っているが、それは…」


 「リラがいる時に話すような事でもないでしょう」


 王妃陛下はチラリと懐中時計に目を落とし、スッと立ち上がるとジェスチャーでエリックに下がるように指示をした後、手を差し伸べる。


 「リラ、とりあえずは一緒に謁見の間に行きましょう。あなたもそろそろ時間よ」


 「ま、待って、リエラ、歩け…」


 手を取ってしまうと、リエラが転んでしまいそうなので、歩くように促そうとしたら、リエラはすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。


 「あらあら、こうしてみるとお友達というより、姉妹みたいね」


 「お、お母様っ」


 「ウフフッ本当よ、座る時に起こすか抱っこに替えるといいわ、行きましょう」


 謁見の間に着くと既に城の使用人と兵士が全員整列していた。


 正面の扉から見て陛下が左側、王妃陛下が右側に座っている、自分は王妃陛下の斜め右側に座る。


 そして、正面の扉が開き二人の兵士が軽くお辞儀をするとその奥にいる人物を通すように脇に避けその人物はゆったりとした足取りで一歩一歩丁寧に、歩み段の前で片膝を着く。


 「第一王子 ザルド・ルシャトリエ・シャリア参上致しました。」


 ザルドと名乗った男は外見から察するに16~18歳くらいだろうか、重そうな鎧が少し動くたびにガシャリ、ガシャリと音を鳴らす。


 「面を上げよ」


 陛下の声に反応し、顔を上げ、一瞬こちらの方も見て驚いた顔をしたが、それはわざとらしいとも思えた。


 「長きにわたる遠征、成果は聞いている、大儀であった」


 「恐悦至極」


 陛下の言葉に第一王子は一言で返す、その問答がしばらく続き、王妃陛下が口を開く。


 「此度の働き、実に素晴らしい成果と言われます。その実績を称し何か褒美を与えようとするのですが、何か希望はありますか?用意できるものなら、それ相応の品物をご用意しましょう」


 「ありがたき幸せです。しかし、今私が欲するものはございません、お気持ちは嬉しく思いますが、保留にしていただきたい」


 なるほど、「遠慮する」ではなく「保留する」と来たか、恐らく欲するものがない、というのは嘘だ。成果がどのようなものか分からないが、保留にすることで実績を積み上げて、限界が近くなると欲を一気に出す。


 シリーズモノでよく出ていたな、ああいう言葉で巧みにだますキャラは途中で共闘したりしたけれど、最後に中ボスとして戦う事になったけど。


 「そうですか、何かあったら何時でも受け付けます」


 「それでは、これにて終了する。遠征部隊は次の任務に対応できるようにしっかりと英気を養うことだ以上、解散っ!!」


 陛下の一言でその場にいた人たちが一人一人と部屋を後にする。残ったのは陛下、王妃陛下、自分とリエラの4人。


 「お父様、今のお方は…」


 陛下は苦虫を嚙み潰したような顔をして、言葉を選んで言おうとしているが上手く表現できる言葉が見つからないのか言葉が紡がれることはなかった。


 「あれはこの国の第一王子にしてリラちゃんの遠い親戚に当たる人物、私の家系で叔父の兄弟の末の息子、ややこしいけど、まあ、義兄とでも思えばいいわ」


 「……あのような人、あまり得意ではありません、何か隠しているようなコソコソ生きているような人」


 「ウフフッ!言いますね、確かに合っていますけど、でも国の中ではファンクラブも出来ているらしいですよ。他にも陛下の家系にも第二王子、第三王子がいますが、あの子と同じく騎士団長として各地に行っているらしいのですが」


 「もういいだろう!!」


 王妃陛下の言葉を遮るように陛下が振り絞るような声をあげた。


 「リラ、頼むからあいつの真似だけはしないように…な?ろくな大人にならない。極力、いや、積極的に避けるようにしてくれ。さ、お部屋に戻りなさい。エリィ!リラを部屋に連れて行きなさい」


 パンパンと手を鳴らすとエリックが目の前に瞬時に現れて、扉の外へ誘導する。


 「んにゃ…あう~?」


 「あっ、リエラ起きた?お話し終わったよ。立てる?」


 「う~、おねーちゃ…ん?」


 「えっ」


 「おねーちゃん、おねーちゃん、おてて、ちゅないでー」


 フェンリルの言語理解能力は睡眠時も続いていたらしく、眠っている間も、学習していたらしい。


 部屋に戻った後、どれくらいの言語を理解しているのか、試したら、文字は読めないが、言葉に関しては、ほぼ理解しているらしい。


 「すごい!頭いいねリエラ!」


 「おねーちゃん、のおかげ…ですわ」


 うーん、所々語尾がなまっているのはどこで覚えたんだろう。これは一刻も早く忘れさせた方がいいんだろうな。


 「えーっとご褒美はビーフジャーキーでいい?」


 「わーい!リエラ、それだーいすき!」


 元の姿だと飲み込むように食べてしまうのだが、人間の姿では歯自体がまだ未発達なのだろう。ストローを吸うようにしゃぶっている。


 「かっかわ、かわ、激かわ」


 何というかついつい甘やかしたくなる、大人しい犬とか触り心地とか思わず頬ずりしたくなっちゃうな。


 「っと、そうだ、お茶会、あのプログラムってお父様が組んだって言っていたけれど具体的な時間割はどうなんだろう」


 時間は午前十時に学校行事の説明や、区域内の規則の説明などが設定されていた。


 ヴェルスター学園は、生徒全員が強制的に所属学部、学科がある。先端教育区域の詳しい説明などもプログラムに含まれているが、特に時間を取るような物ではない。


 (レイラの所は冒険者ギルドの仕組み?確かにレイラの実家はギルドマスターと新人教育の元最上位冒険者、だけど、こういうのは他に適任はいなかったのかな?それに、あの家庭、無自覚なんだけど、上流貴族なのよね…元冒険者っていうのもあるんだけど、唯一こちらでお召し物を受け取らなかったらしいし、その時「平民が貴族の方々にお手を煩わせるようなことは」とか言っていたとか)


 そもそもヴェルスター学園は能力的にトップクラスの人間しか入れない。貴族の階級などはお金持ちではなく、魔力の高さや、武力、つまり上流階級の貴族はそれ相応の力や、武力があるということ、ヴェルスター学園の特待生は学科が総合になり特待生のみのクラスに区分けされる。


 もし、特待生と認定されたらその時点でその学生は将来が絶対的な有力者になれるといっていいだろう。


 「確か、レイラの両親ってこの国出身じゃないんだっけ、だから自分たちの事を平民だと思っているし、無自覚にお金とか持て余しているんだよね。流石にお父様並みの財は無くても、馬鹿に出来ない額だろうし、その時点で自覚してくれればなぁ」


 とにかく、お茶会のプログラムは常に大人は別室待機という形になるらしい、別室の場所はそんなに離れてなく近くに医務室もある為、体調不良者が出てもすぐに対処できるように出来ている。


 この手際の良さ、国王陛下としての立場は伊達じゃないって事か。


 そういえば、エリックが恩返し、とか言っていたけど、その話聞いてなかったな。冒険者の話の時に出てきたから、その絡みの話だろうけれど、なんか地雷臭いんだよなぁ。


 無理に聞いても遠回しに聞いても、多分答えてもらえないよね。冒険者の仕事に魔獣退治に、ドラゴンや災害級のモンスターの討伐とか、そういうので、トラウマの記憶とかある人なんてこの世界では多いし、それは、どのシリーズでも同じだったからね。


 ゲームだからって理由で放置していたけれど、現実的に考えるとモンスターってミステリアスな出来事だな。

 

 考えても仕方ないし、お茶会までに生活リズムを整えよう。その為、これ以上脳を回転させて眠らないためにも、リエラ、その髪の毛でモフらせろ。

次回7月中旬予定

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