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第二十部 一章 令嬢達の勉強風景

 7月20日


 View 美奈


 朝、いつものようにサリアちゃんに起こされた時に1つのダンボールが机の下にポンと置かれた。


 「これ、受取人がお嬢様になっていたので不思議に思いましたが特に危険なものではなさそうなので持って来たんですが、何か通販で注文しましたか?」


 寝ぼけまなこで、伝票を見たが確かに自分が受取人として書かれていた。差出人が匿名なのは気になったがまだ頭がシャキッとしておらず、何も考えずにダンボールを開けると、そこにはいくつかの本が置かれている。


 それは本ではない事は書かれている文字を見てすぐに分かった。書かれていた文字は計算ドリルや漢字ドリル、夏休みの宿題的な問題集ばかりだった。もちろんまだ身体的には習ったことのないものだが、俺にしてはバカにされているとしか思えない超簡単なものばかり、だけど、その反面、暇つぶしになってどこか丁度いいと安心している自分もいた。


 その中でも唯一違うところと言えば魔法学やスキルや魔物学の問題もある事、算数の問題文にも魔物を例えているのがちらほら見えた。


 たかしくんは、りんごを5つもって こうえんで、ともだちに3つ、ぺっとのまものに1つあげました。たかしくんのてには、りんごはいくつのこっているでしょう?

 

 流石に全部ひらがなは読みにくいがそういうのは上にルビを振っていればいいだけの話、そもそも、子供の視力は大人よりいいからほんの数㎜どころか0.1㎜の粒も視認出来る、ルビが小さくても読めるだろう。


 (あれ?小学一年生って最初の授業から漢字習うんだっけ、最初はひらがな習っていたような…よくよく考えたら初めて読んだ漫画の文字を理解できたのって幼稚園児の頃だったような…あっでも読みは出来ても書くことが出来なかったんだっけ、うーわっ懐かしい)


 一つ一つ取り出していって机の奥のスペースに次々と立てかけていく。残り1つを机に開いた状態で置くとお腹が空いているサインの音が鳴ってる事に気がついた。


 その事に気づいて少し、恥ずかしくなってサリアちゃんの方に振り返ると笑顔のまま扉を開けて手で廊下の方へと無言で誘導していた。それにさらに恥ずかしくなって自分の顔が赤くなっていることに自覚をして手で顔を隠しながら食堂へ行くことになった。


 朝食の時にお父様とお母様にそのことを聞いてみたら、確認をしたがそろそろ学園に通う頃だし丁度いいだろうと言っていたが、明らかに棒読みだ。でも、2人が用意したならわざわざダンボールに入れる何ておかしい。伝票だって本物だった。


 それなら誰が送ってきたんだという話になる。あの3人は違うと思う。そもそもこういうのを送る意味が分からないし、万が一送る意味があったとしても連絡の1つや2つは送ってくるだろう。


 後、心当たりのある人は誰だ?優菜…は無い、あんなプライド高い系が子供とはいえこんな小さい嫌がらせをするなんて、考えずらい。彼女の性格上、直接的な嫌がらせより間接的な方法を取るだろう。


 他には、それぞれの保護者に親の伝手だろうか?でもわざわざ送る事にどんな意味がある?折角もらったのだから使わないなんてもったいない的なことを言って勉強を強要するとか?いやいや、5歳にそれはやり過ぎだ。


 そもそも、何でそういうマイナス方面で考えてしまうんだ。だけど考えてみたらプラス方面で特定できる人物が誰一人としていない。美奈としての知り合いが意外だとゲームの主要人物しかいない。赤の他人がこれを送って何か得をするのか?


 「考えても分からない事に時間の無駄にする事もないか…はむっ、もぐもぐ…んむぐっ!?」


 独り言を呟いて、ドレッシングがかかったサラダを口に入れて、混ざっていた緑黄色野菜の味に口を押さえて大急ぎで水を一気飲みして流し込む。


 不味さに思考を持っていかれて、さっき何を考えていたのかすら思考放棄して、朝食を食べながら「料理人が違うだけで何でここまでの差が生まれるの?」とレイラの料理と比べる。


 (どうしてレイラが作るサラダはあんなに美味しいんだろう。シャキシャキなレタスに甘い人参、ドレッシングの爽やかな酸味…レイラって将来は料理人とかなるのかな)


 食べられる野菜を出来るだけ食べて、焼き魚と味噌汁を綺麗に食べ終えたら、サリアちゃんに食器の片付けをお願いして自室へ戻る。


 机に置かれた本を見てさっきまで疑問を持っていたことを思い出す。


 (うわっ…うわぁー懐かしい。ポップな文字でズラリと問題が乗っている。まぁ、簡単だけど)


 「あれ?なぁなぁライズ、これって何て読むの?」


 「えっ?これ読めないの?知識不足なんじゃないの?」


 「似ている文字は知っているけどこんなのは見たことないんだよ」


 「こレ文字じゃなクて記号というものでスわ。ワルという記号です」


 「でも、他の記号は結構口で表せるよね十字、棒、バツ…÷だけなんだこれって感じ」


 「そもそも、私たちって勉強してなかったから、あまり見る機会ってないの、愛読する本も問題集もないの?」


 「まるでオバケみたいね」


 「ぴえっ!?オバケ!?ゆゆゆ、幽霊!?どこっ!?どこっ!?」


 「みたいって言ってるだけだからいないよ。落ち着いて落ち着いて」


 精霊たちのいつも通りの喧騒をスルーして鉛筆を手に取って問題の横に走らせる。小学1年生の問題にしては2年で習う掛け算や割り算もあって進めるごとに3年生の問題4年生の問題と進めれば進める程難しくなるが、自分にとっては難しいというよりも懐かしいと思う。


 (あっ、この問題よく引っかかって間違えてたな、要点押さえれば簡単になったけど最初から要点を知ってたら引っかかることもなかったのに)


 しかし、この問題集少し、おかしい、ページ数に小学生1~6年生が習う全問乗っているんじゃないか?送られてきたのは全部問題集。教科書の類は一切なかった。延々と問題が綴られているだけで、こう言う問題の解き方は~なんてヒントは無し5歳にそれは無理難題としか考えられない。


 (あー、Excelが欲しい。今度パソコンを買ってもらえないかお願いしてみようかな)


 ひと段落したところで腕を伸ばして、再び問題に向き直る。一冊の問題集を全て終わらせる頃にはもう昼食の時間になっていた。


 つまらない問題に懐かしさも薄れて行って終わっても他の問題集があることに溜息とあくびが出てしまう。


 眠気に抗うように立ち上がり、軽く運動をする。もちろん5分以上ストレッチをするだけでダウンして目が回るから身体を捻ったり足を広げたり体の柔らかさを知るような体制をするだけ。


 「昼食のデザートは甘酸っぱいのがいいなー」


 愚痴をこぼすように扉越しにいるサリアちゃんに聞こえるようにわざと言う。するとパタパタと部屋から離れる音が聞こえて、しばらくすると今度は近づく音とノックで昼食の時間を知らせてくれる。


 今日のデザートはレモンゼリーだった。


 View Change アイシャ


 「ふむ…これはまた妙なものだね」


 「まぁ、来年はお嬢も学び舎に通うのですから、その練習としてやるのはいかがでしょう」


 「それよりも先に絆創膏持ってきてくれる?何回も何回も寝ている時に胸を嚙まれてもう胸の谷間除いて全部が噛み痕フェスティバルになっちゃったから」


 「幻獣でも生き物を飼うにはそれ相応の代償が必要なんですね」


 「服すり抜けて防御力無視の噛みつきが?冗談じゃないよ。おかげで今までうつ伏せで寝ていたのに出来なくなったわ!」


 「お嬢ってその胸でうつ伏せになって苦しくないんですか?男の私ではどうも理解できなくて」


 「そんなことより早く絆創膏持って来て」


 「はい、一応消毒液も持ってきます」


 ランクが去ったのを見て涙目になる。


 「はぁ…痛い…」


 毎日エルとエリィに睡眠時寝ぼけた二匹のガチ噛みに起こされて治療しての繰り返し、気孔で回復速度を上げているけれど、それが等々追いつかなくなって、痛々しい傷跡が残っている状態が続く。


 離れて寝ることも考えたが、そうしたら捨てられた子犬のような目で見るため自身の安全と良心の呵責を天秤にかけた所仕方なく一緒に寝る事になった。


 「言葉は理解できてるの?嚙まれたら痛いんだよ?寝ぼけていても出来れば甘嚙みなら許せるけど流石にこれはやり過ぎなの、分かる…?幻獣って特定の言語あるのかな?にゃおーんにゃんにゃん」


 猫の鳴き声を真似してみたが二匹は意味が分からなそうに首を傾げる。


 「あー、もう可愛いなもう」


 出来るだけ胸に接近させないように二匹を肩と頭に乗せてバランスを取りながら届けられた荷物を見る。


 「はぁ…面倒くさいなぁ、ただでさえ暑い時期に指を動かして頭を動かして知恵熱に真夏の熱波を浴びせるなんてひどいと思わない?それに僕は今怪我人だよ?それにこんな泣きっ面に蜂だよ!」


 独り言のように二匹に語るように愚痴を聞いてもらう。それに応えてくれる事は無いがそれでいい。一人で愚痴を言うよりもそれを聞いてくれるのがいるのといないのでは全く別だ。


 一人だと何も返してくれない事に孤独を感じて何だか悲しくなってしまう、ストレス発散の代償に孤独感の重さがのしかかって個人的にはデメリットが大きい。対して誰かがいるのはその人に迷惑がかかってしまう、ストレスの発散の代償に聞いている人との関係に亀裂が入る可能性があるということだ。


 その二つとは別に言語の理解に乏しいペットに聞いてもらうのはとても良いと思う。相手がいるという孤独感を感じず、言語を理解する能力が未発達である以上、嫌な気分にさせにくいのがとてもいい。表情をほとんど変えずにつぶらな瞳で見つめながら話を聞いてくれるのは本当に嬉しい。


 「何か美味しいエサをあげたいけど必要ないんだよねー、お胸はダメだよーこれ以上嚙まれたら抉れちゃうからねー、しぼむならまだしも抉れるのは痛すぎるからダメ」


 未だにヒリヒリする胸の痛みに苦笑いしながら、机の上に問題集の1つを取り出してペラペラと軽くめくる。見た感じ基本的な問題ばかりで応用問題があまりなかった、敢えて応用問題を挙げるとしたら文章問題だろう。


 (これは国語か…そうそう、こんな問題あったなぁ、特定の単語かキーワードを使って文章を作るやつ、苦手なんだよなぁ、これ…新庄が重要な点を教えてくれたっけ)


 思い返してみれば一人で勉強し始めるのは小学生の中学年、つまり3~4年生時代からだったと思う。それまでは新庄だけでなく他の友達を誘って近所の児童館で教科書とドリル持って机の端に炭酸飲料のペットボトルを置いて楽しくしゃべりながら鉛筆を握っていたな。


 途中で新庄は鉛筆持ったまま机に突っ伏してふて寝していたけど…


 昔の記憶に想いを馳せながら、問題集をめくる。その中に文章問題が明らかに「ほ〇るのひかり」の歌詞があったが何故国語の問題に音楽が…?いい物語が見つからなかったのか、それとも知っていて丁度いい問題になると思っているのか分からないがついつい懐かしくなって口ずさむ。


 「ほーたるのひかーりの…♪」


 (……この後忘れた。いや忘れ過ぎだな俺、小5~6の時以来とは言え8文字しか覚えてないのはど忘れじゃ片付けられないだろ、情けねぇ)


 国語の問題集の最後のページを捲り終えると、パタンと閉じて机の引き出しを開ける。一段目を開いてすぐ閉じて二段目の引き出しを開けてその中にあった鉛筆を取る。まだ未使用の削られていない六角形の断面の鉛筆を机の端に置かれている電動の鉛筆削りに差し込む。


 ガガガガガガガガガという激しい音とブルブルと差し込んだ鉛筆越しに伝わる振動が指に伝わる。それは10秒程度で収まり鉛筆は先が尖っていた。


 「朝ご飯はまだだけど時間が許す限りはやってみるか、はぁ~今日も暑いなぁ。掛け布団の枚数も少なくしようかな。でもある程度の重さじゃないと眠りが浅くなるんだよな」


 暑さに耐えながら、汗で多少問題文をにじませながら、カリカリと音を立てて猫背になって机と睨めっこする。


 View Change レイラ


 「えっとね、ここは…」


 「ピキーン 理解可能」


 「…お姉ちゃん何やってるの?」


 アイシャと並んでリビングのテーブルで算数の問題集に顔を寄せて解説していると普段と少し、遅い時間にエイラが降りてきた。


 「おはようエイラ、お姉ちゃん当てに荷物があったの学校の問題集…かな、せっかくだからアイシャに教えながら書いてるんだ。エイラもやる?」


 「レイラの解説、丁寧、最適な理解 可能、じーん」


 最近は表情が作れないアイシャは擬音を言葉で直接発音して感情を表している。


 嫌だは「ぶんぶん」感動は「じーん」閃きは「ピキーン」怒りは「ピキッ」ブチギレは「ブチンッ」困惑は「ぽかーん」嬉しいは「ポカポカ」悲しい時は「しゅん…」喜怒哀楽を顔に出せないのを気にしたのか自分でこういう風に言葉で表す事にしたらしい。


 今言った例以外にもその時の感情を擬音にしたらというのを自分で考えて言葉にする為、嬉しい時も違う擬音で表す事もある。だから、それらを理解するには時間はかかるが感情を出すというのはキョンシーにしては珍しい事なのだろう。


 まだまだ言葉遣いはあるし接続語は使い慣れていないが、初めての「馬鹿に付ける薬はねえ」に比べたら大きな進歩だと言える。


 「お姉ちゃんに送られた物なのにアイシャが使っているの?」


 「いいや?書いているのはあくまで私、アイシャはただ分からない問題を見てその時に解説しながら解いてるだけ」


 「ピキーン 教えてくれたから他の問題、分かる ほわわん」


 「ほわわん?…喜怒哀楽で言えば楽のやつかな?」


 「ぴんぽーん 正解 パチパチパチ」


 手で拍手するだけでいいのに口でもパチパチ言いながら拍手する。


 「ええと他に教えられるやつは…」


 「お姉ちゃん、朝ご飯はー?」


 「台所にそぼろ丼あるでしょう?ラップごとレンジでチンして食べてー」


 「…はーい、お姉ちゃんは?」


 「もう食べたよ。あっ、ご飯はちょっと私たちとは離れてね」


 「……うん、分かった」


 「ぽかーん、困惑」


 「ん?どうしたの?何が分からない」


 「…ピキーン」


 「?」


 (それにしてもアイシャは生前、地頭が以外とよかったのか?教えたことは大抵すぐに覚えたし、今まで教えた中で聞き返したり忘れたなんて言ったことは一度もない。死後の事なんてましてやアンデッドになった時の出来事なんて分からないし分かりたくもない)


 ページを捲って掛け算や割り算、筆算の仕方が出たらアイシャが質問してそれらの解説をする。じれったいとは思うが教えることにやりがいを感じていたから特に飽きるなんてことはなかった。


 途中からエイラも入って、アイシャよりも多く質問していたが細かすぎて回答に困った。その質問に「証明して」と言われたが例を挙げるのが難しい。


 心の中でため息をついた後に頭を回して何とかいい例題を出して納得させようとする。いつの間にかお昼ご飯を抜かしている事も空腹だという事も忘れて三人で問題集を囲んでいた。


 View Change リラ


 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ


 部屋の中にはひたすら文字を書く音が続く時折パキッメリッと木材がひしゃげたり折れたような音が聞こえるとカラカラと音が鳴ってまたカリカリ


 「あっ」


 そんな中、音の中に声が物音の中断を誘う、しかし、それは中断であって終わりではない。ガガガガガガと鉛筆を削り、それが終えるとまたあの音を部屋の中に響かせ続ける。


 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ


 (問題解くの楽しい)

次回10月末予定

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