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第十九部 壱章 放浪の転生者


 View ???


 私がこの世界で初めて見た光景は、既に終わっていた。


 目の前には多くの血を流して倒れている人影、それが人間というものではない事にさほど時間はかからなかった。


 私はこの世界で「人間」として生きることを許されなかった。いや、人間として生きることを希望されて、いたにも関わらずそれを果たすことが出来なかったというのが正しいか。


 その時の私は色々な感情が心の中で渦巻いて、何が何だか分からなかった。表には出せなかった気持ちが胸の中でズキズキと暴れまわり心臓に重りでもつけられているのかと思う程に痛みを感じた。


 どうやら、その場には私と倒れた人の形をした何か以外に数人がいたらしい。詳しくは覚えていないが5人以下だったというだけは覚えている。


 みんなが口々に私の知らない私の名前を読んで褒めている。かけられた言葉もそれに返答した自分の言葉の意味も、その時の自分には理解できなかった。


 みんなの後をついていくように踏み込んだ大地は私…いや、僕のこれからの生き方を探す為の第一歩となった。


 歩いていると自分の頭が破裂するほどの痛みが走り、苦痛の声を上げるよりも先にその場で崩れ落ちる。振り返った人の声すら頭の痛みを強くするばかり、「やめてくれ」「声を上げないでくれ」「痛い苦しい」言いたいことは多くあったが、その意識はプツリと途切れる。


 目を開けることは出来ずに頭の痛みだけが残り、今自分がどうなっているのかも触感のみが把握する…はずだった。


 目を開けていないのに、耳鳴りが頭を駆け巡っているのに、僕の五感は正常に機能していないというのに自分の状況が理解しているのだ。一瞬走馬灯かと思ったがそうでない。僕の頭の中に膨大な量の情報が入ってきた。


 前世の記憶を塗りつぶせるほど大量な情報はこの世界の半分以上のあらゆる文字や分野の群れが頭の中に流れ込んできた。それを脳が常識を超えた速度で処理をし始め、五感が正常でなくとも今の自分の現状を理解しているのかという推測も流れ込んだ情報が否定してその答えをはじき出す。その時、理解した。


 僕は人間ではない。


 僕は「人間よりも人間らしい人生を送れる事を望まれた兵器」だ。人間という生物に感銘を受けた神々が減った人間を悲しみ、それにより心の中に空いた穴を埋めるために人間らしさを追求する為に敢えて人間の中に放って人間らしさを身につけてくれることを望み神々に愛された人形、それが今の僕、その名は ケルビム 智天使を意味する。


 どうやら僕を造り地上に放った神々の主導者が常に僕を愛しているよ。という意味で天使の中でも上位の智天使の名を地上に放つ時に僕の服にに名札のような物を胸に付けたらしい。


 そして、僕はそこに偶然通りがかった人に拾われて、名札を手掛かりに親を探したが見つかるはずもなく、孤児院で育てられることになった。


 そこは建てられたばかりの新築、僕を含んだ子供たち全員は家族のようなものだった。そんなある日、僕は他の子達と一際大きな才を見出され特待生として、学生寮で暮らす事を許可されて学校へ通う事となった。


 そこで、まるで思い通りというかのようにそこで人間らしさを学んだ。優しさ、楽しさ、明るさ、悲しさ、虚しさ、儚さ、まるで色とりどりの感情がケルビムである僕を創り出して人間として生きることの目的を貫き続けた。


 しかし、その生活はいつまでも続く筈がなかった。魔王の襲来、魔物の進撃、街は飲み込まれ、人はおもちゃのようにされて、使えないと判断したらすぐに殺される。そんな話が平穏な生活を一気に吞み込み、絶望という人間らしさを一瞬で無へと帰す出来事にそれを無くすために僕は戦う決意をしてそれを果たした。


 兵器としては戦うための道具として正しい事をしたのだろう。しかし、目的のためとはいえ、それをするのは例え兵器とはいえ許される事ではない。神々が造った兵器が魔王に勝つのは当たり前だ。


 神々は魔王の襲来は予想外ではあったが、それを人間が立ち向かい、力を合わせて乗り越えて大きな悪を倒すのを見ることで、僕は人間らしさの究極の境地へ至れるのに、それを逃すどころか、地上に放った人形がエラーを起こして機会を逃してしまった。


 神が干渉するのは例え大多数が同意したとしても、許されないのは絶対の規則、これは無視できない案件、自分達が蒔いた種がまさか予想外の育ち方をしたが、主導者はもしかしたら、これが人間らしさの完成を意味したのではないかと考えて、愛しながらこれからの行く末を導くことを手放した。


 それらのありもしない記憶を見て徐々ではあったが今の状況を理解しつつあった。それに世界の知識とでも言うべきか、その世界が前世で見た「ストロベリー・ラブ&ゴッド・アドベンチャー」の世界そのものであると分かったのはそれからしばらくたった後だった。


 前世の僕は会社員、土日祝の休みにひたすらゲームに没頭している独身男性だ。親の実家が引き取り手がおらず、丁度出社するのに都合がよいと親族に少々無理を言って引き取った。

 休日のゲームの中にはストアドシリーズも混ざっていたが、長編なので後回しにしていた。


 それで、前世の最後の記憶を辿ってみると、雨の日、国道の駐車場に向かう途中に車がスリップを起こして多くの車を巻き込みそのまま歩道に乗り込んで、その光景を見てフリーズした僕にスリップを起こした車がスピンしながら跳ね飛ばす。


 鈍い音とともに意識が暗転、そして、気がついたら、あのようなことになっていた。それと、後から分かった事に驚いた。そもそもゲームの世界に転生したこと自体に驚くべきなのだろうが、僕の意識がこの兵器に入った時には既にラスボスを倒した直後だったという。


 死線を潜り抜けることも仲間と杯を交わす事も記憶としてはあってもそれは僕としてではなくケルビムとしての経験、そんな感動の長編がラスボスを倒した直後のいわゆる中古品に残っていた消されずに中途半端に残ったデータをプレイしたことになってしまった。


 あれから何年、何十年も生き続けてきた。人間らしさの一つでもあった「成長」もこの身体の機能ではあったが、それは俺がこの身体に入った時には既に失っていて、肉体年齢が19歳前後の姿で固定されている。


 老いることも死ぬことも出来ないというのは自分が実際にその存在になって初めてその本当の恐ろしさを知る事となる。


 そして、この身体のせいでとても悲しい事が起きたのは、ある一人の青年に出会った時。


 その青年は呪いにかかっており、出会った時には既によぼよぼで目もほとんど見えない老人の姿をしていた。しかし、話し方は荒々しく、喧嘩っ早い不良のようだった。


 そいつは僕と同じ前世で起きた事故で気がついたら元の自分とは全く別人になっていた事が分かった。自分と同じ境遇の人に出会えた事に驚いたと同時に嬉しかった。


 青年は一日が俺の身体の一年分の成長になる事を明かしてそれが呪いによるものだと言った。この呪いをかけた呪術師を殺したが呪術師は最後の最後で自身の命と引き換えに呪いの持続を維持する何とも迷惑な事をして逝った。


 既に呪いにかかっておよそ二ヶ月、解呪しようとしたが、呪いの強さについては呪術師の方が格上だったようで、この身体の僕なら解呪できることは知識で分かっていたが、既に進行した身体の老いによる身体能力の退化は戻すことは出来ない。


 それを言うと分かっていたと呟いて、椅子に腰かけて解呪はしなくていいと言って、言葉を発するのも今日で最後だと言って、同じ世界の奴に出会えただけで満足だと言って、手で追い払うようにジェスチャーをしてそれ以降話しをする事は出来なかった。


 俺は、後日談を見届けることしか出来ない主人公、転生者を見つけて可能な限り手助けをする事を決めた。偽善者ともいえるだろうが、後日談のないストーリーに魅力なんて感じないし、後日談のストーリーがいかに本編よりも薄い内容だったとしても、この世界で生きることしか出来なくなった今、たった一人で生き続けるしかない…そう思った。


 思った………はずだった。


 「ねーえ、お腹空いたー、ご飯作ってぇーっちゃんと食べられるやつーお肉はダメだからねー魚と野菜とかのカルパッチョとかにしてー、あっ、もうそれでいいやカルパッチョ作ってカ・ル・パ・ッ・チ・ョー」


 こいつのせいでシリアスな冒険は一瞬でなくなった。こいつはエルフ姫のナイアス、元は俺と同じ転生者で元男、旅をしている時に燃え盛る森の中から酷いやけどをしている姿を見つけて、救助した。


 正直なところ、俺はエルフが好きだ。男ならこう言う守りたくなる存在がいると何かと心踊って守りたいと思ったりする、フィクションな存在とフィクションにしかいなさそうな自分にだけ一途な女性が俺の心に刺さった。


 最初は親切心から助けたが、最初は警戒心MAXで敵意むき出しだった。話していると段々と警戒心緩めてその時にポロッと「この世界で」とか「前世でも」とか小声で言ったがそれを聞き取れる身体は聞き逃さなかった。


 そこで、お互いが転生者だという事が分かったが、何のつもりか、旅の同行を申し出た。最初は住まいを無くして行く当てがないと思っていたが、特に何の目的もないのかそもそも何も考えていないのか、だらけた生活をしている。


 本当なら自分一人で転生者を見つけながら旅をする気ではあったがこいつを連れていく理由はいくつかある。


 「悪いが、お前の感知能力を買って転生者を探しているんだ。労力を見せて発言してくれ。僕は何の労働もしてないやつにタダ飯を食わせる気は無いぞ」


 こいつは自分以外の転生者の気配を探知できる、どちらかと言うと違和感の察知とでも言うべきか、転生者の共通点をエルフが持つ、俺の感覚器官の長所と短所を混ぜ合わせたスキルだ。

 それにエルフは闇オークションなどで奴隷として取引される為、狙われやすいのだが、こいつは自分の姿を消すことが出来る。幽体と言うべきだろうか例え捕まっても幽体になって、牢屋だろうが何だろうがすり抜けることが出来る。まぁ、幽体だから塩や除霊には滅法弱くなるが…


 「でもさーお腹がすくと何のやる気も起きないんだよー、女の子はカロリーがないと動けないんだよー?美味しいもの食べてー思い切り遊んで―カロリー消費しないと働けないの……あっしまっ…!」


 自分でカロリーを無駄に消費している事に気が付き、慌てて口を押えるが心の本音をドバドバ流してくれると無駄な会話をしなくて済む。


 「都合のいいところだけ、女の顔をするな、自信の都合で男扱いと女扱い使い分けて、それがいつも続くと思うなよ。メシは作ってやるからその間にしっかりと俺の役に立て」


 「ちぇー、分かりました、分かりましたよ。もー」


 ナイアスはすぅ…と目を閉じて、こくりこくりとまるで寝ているように頭を揺らしている。


 (黙っていれば、美人でいい女だと思うんだけどな)


 長命の中でも最も秀でた寿命を持つエルフ、それは希少種であるが故に明確な数値を明かされていない。ナイアスが言うにはエルフの文化には記録を残すという行動自体が異常であり、驚異的な記憶力を持つからその知識は未知数だと言われている。


 そして、エルフの寿命は半永久と言っていた。肉体を持っているが、その寿命は自然の恵みがあるところならば飲まず食わずでも生きていられる。逆に自然の恵みが全くないところなら衰弱死するのには10分もかからないらしい。


 まぁ、そのような事が起こらないように、エルフの服自体に自然の恩恵が多く含まれているらしい。


 「ほら、出来たぞ。素材については一応こだわったつもりだ」


 「おー、うっまそーぅ!いっただっきまーす」


 「それで、目星は付いたか?」


 「もぐもぐ…うん、それなんだけど…ゴクリ、この国にいるってことはもう知ってるんだよね」


 シャリア王国、そこに俺たちの探す転生者がいる。ただ、俺が知るのは居るという事だけ、個人の特定はできない。だから範囲が狭い代わりに特定可能のナイアスが必要というわけだ。


 「なんだかね、おかしいんだよ。ノイズって言うべきかな、例えばソナーの探知が同じ周波のソナーにかき消されている感じ、それも一つじゃなくて複数、多分少なくても5つ以上かな、強い力である程度の目星は分かるけど、5000×複数の中から探すのは骨が折れる」


 確かにその中から転生者たった1人を探すなんて、とてもではないが難しいだろう。虱潰しに探していたら余りにも時間がかかりすぎる。それとは別の疑問を抱えていた。


 「その強い力っていうのは具体的な事は分かるか?生体から発せられているのか、魔力なのか、はたまた機械のような人造物なのか。それをある程度制御できれば特定にもグッと絞られるはずだろう」


 「そうなんだけどー、やー、まー、うーん…ほんっとーに大まかな事しか分からん、だからこれからいう事は仮説で内容もフワッフワなものばかりだよ。まずは機械なら持ち運びが出来る大きさ、旅行用のキャリーバッグぐらいかな?それこそ、それに入れれば怪しまれない程の物だろうね。つまり、どこかの研究所や施設に固定されていないってこと、でも余り動きが激しいものはないねー、生体ならインドア派なのかな?接触は難しいと思うなー元インドアの意見としては出たくない理由っていうのは外が怖いんじゃなくて、やる事を探したり、人との関わりを持ったりするのが苦手、あっ、専業主婦も結構家にこもりがちだよね!偏見だけど、そんな感じがする」


 ペラペラと仮説を話すが予め言ったようにノイズの原因に直結する推理とは言えず、ただ内容を掘り下げないように深入りしていないようだ。


 「でもさー、学校に行けば何かわかるんじゃね?わざわざ勇者サマをスカウトする理事長なら何か知ってると思うよー、逆の立場だったら相当、自分の利を多く得たりしたいから御指名するだろうしー、もしかしたら理事長が転生者だったり?いやーモブキャラに転生した奴も何度か見たけれど高権力者同士の転生者っていうのか、面白い展開じゃないか」


 「結論を求めすぎるのは良くない癖だな、そもそも、指名されたのは俺だけだ。お前を学園に連れて行くわけには行かない。例え、幽体になってもだ。ヴェルスター学園は有名校、うっかり入った部屋がエクソシストがたむろしていたら一瞬で蒸発するだろう。お前が取る行動はいくつかある。冒険者としてギルドに身を置くか、ここでノイズが切れるのを待って捜索を続けるか、幽体、又は実体でノイズの根源の無効化、それが無理なら破壊する事だ」


 「……なぁ、少し思うんだけどよ。お前って手助けするーとか言ってるけど、それに何の意味がある?動機を聞いてもイマイチ理解できねーんだよ。中途半端の同情で可能な限りの手助けぇ?わっかんねーなぁ、多分お前の目的は自分でも理解できていないんじゃねぇの?何かとはき違えていると思うんだよ」


 「…何が言いたい」


 「飯食い終わったら、もう少し詳しく話そうぜ?」

次回8月末予定

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