第十八部 四章 無双組手
View アイシャ
「シッ!」
拳を突き出して、後ろにバックしながらもう片方の手を砂浜に着いて身体を支えながら、回し蹴りを繰り出す。これで三体が巻き込み倒れる。
倒れた三体はそのまま、タバコの煙のように透明な風に溶けて行くように消える。その間にも他の幻影が生み出されて襲いかかってくる。
一体一体の攻撃なら大したことないがそれでも最低限の連携を取っている。それを捌くには逆手にとって連携の繋ぎ目を崩す。
問題はそれを操作しているのが、あの美奈だという事、美奈は魔力量が大きいだけでなく今まで苦手だとしてた魔力操作も以前とは比べ物にならない程、精密なものになっている。
それに俺たちの偽物というにはやたら再現度が高い。流石に俺の気孔やレイラの究極奥義・リラの亜種魔法は使えないようだが、美奈の幻影はほぼオリジナルと言っても過言ではない程、魔法をバンバン撃ってくる。
ここで考えることがこの幻影がどの様なものなのかを2通り予測する。
1つ目はこれらが顕現している間常に魔力を消費するタイプというものか、2つ目はこれらは一体ずつすべてに魔力を内包して操作しているのかのどちらかということだ。
魔法を使えない俺にはそれを判断することが出来ないが、どちらにも利点と欠点が存在する。
もし、前者なら本体の魔力消費が半端ないということが1つの欠点どれだけ大きい魔力を持っていたとしても、長くて30分複雑な動きまでしようとすると10分くらいで魔力がなくなる。利点はその操作性能の高さ、2つ目のパターンの時に違いが分かるが、少なくともその場合よりも高性能なものだと思っていい。
そして、後者の方が術者が自身の魔力を幻影それぞれに分け与えている。これは自立型と言っていいだろう。だが、自立しているからこその欠点が存在する。それは術者の操作を100%聞くことが出来ないというとこだ。例えば「攻撃しろ」という指示には従うが「○○を重点的に狙え」という複雑な指示には従えず独自の理解を示してその通りに行動する。いわゆるAI行動のみ行うと言っていいだろう。
前者ならただ耐えるのみ、後者ならただただ暴虐の限りを尽くすのみ、だが、この魔法は今の状況では圧倒的に向こう側が有利だ。今も10人以上倒したが、倒されたらその際追加されるのではなく、次から次へとネズミ算式に増えている。
そして、この閉鎖的状況で標的は俺一人、軍隊蟻が地面を埋め尽くしながら獲物を狩ると同じように集団リンチをする。しかも当たり前のように連携しながら、跳躍を誘ってそれを狙って魔法を撃つ、着地したらその瞬間を狙って叩く。
こんなの、考える暇があったら生成される間に暇が出来る程、速く、強く、確実に倒して倒して倒し続けるしかないじゃないか。
View Change レイラ
少し目を離した隙にとんでもなくかっこかわいい場面になっているじゃないか。
絶え間なく襲い掛かる俺と美奈、リラ、アイシャの幻影をたった一人で相手にしながら、戦場を駆け巡るように走って一切手を緩めずに攻撃をやめないアイシャ、これは途轍もなく…
「尊くて色っぽいったら…!」
頬を緩めてつい口から零れてしまう。海風に髪をなびかせられながら、砂浜に身体を沈めて、叩きつけてながらもその表情には凛々しさが感じる。
戦う女性というだけでも前世では定番だったけれど、それがいい。凛々しさとカッコよさはたまらない。
けれど、美奈もいいと思う。アイシャとは違うけれど何というか守ってやりたいと思うような愛しさがあって、前世の時にはこんなに攻略対象にかっこかわいさを見いだせなかった事が悔しいっ!
その時、手首をガシッと両方掴まれる感触に振り返るとアシュリーとリラが「手を出すな」という目で手を握っていた、そこでハッと気が付く。いつの間にか普段着の時に帯刀の位置に手を添えていたらしい。もちろん、そこに刀は無いが、このまま熱が入っていると無意識に手助けすることになっていただろう。
リラは氷水を差し出しながら、ドライアイスの日傘で日光を遮断している。キンキンに冷えた水を一口飲んでシャキッとしたら、ギャラリーに戻って試合を観戦し直す。
View Change 美奈
流石に強い。トークンの耐久力はそれほど高くはないとは言え、マンネリ感を出さないために10体に1体は魔法障壁を張っているのに同じペースで倒される。
殲滅されたら即追加で凌いでいるけれど、これで舐められたら理解しようとした自分を裏切ってしまうってね!
ステップアップ、スピードとパワーを上げて攻撃手段に連撃を加える。魔力の消費なんてもう、気にしていられない。すっからかんになるまで魔力使い果たす。
「はっ!?」
一瞬魔力の出力上昇にあっけに取られた視界が閉じる。乱闘で砂埃が目に入って魔力が乱れて、再び目を開けると上昇した魔力が乱れて霧散していた。
(しまった!急いで追加しないと途切れてしまう!)
手が回らない。最初の予想では一体ずつ相手をして慣れてきたら、段々と連携を図るように指示をしてもし、楽勝そうなら第一段階第二段階とステップアップしていく予定だったが、予想を大きく上回る実力を持っていた。
(仕方ない。本気を出す気はなかったんだけど…少し、これらの相手をしてよね。本来なら囮に使う魔法じゃないんだけど…!)
View Change アイシャ
(追加が止まった…限界?)
美奈の方を振り返ると目を閉じてブツブツと何かを唱えている。嫌な予感はしながらも戦いで荒れた呼吸を整えながらどのタイミングでも対応できるように警戒しながら、氷柱に背をついて少しでも冷静になろうとする。
少し間をおいて地面の4箇所に魔法陣のようなものが浮かび上がって、そこから何かが召喚された。その何かは人型を保ってはいるが、さっきまでの幻影とは違い。魔法の名前通り、幻、この場合は蜃気楼とでもいうのだろうか、影の形をしている。
それに、その色は4属性の魔法の象徴、火=赤、青=水、緑=風、黄=土の計4体。
「ッフフフ、さっきのやつより、こっちの方が魔法っぽくていいと思うよ。好きだな、僕はこういうのっ!」
手始めに火属性の幻影に近付くが、近付く前に熱気が襲って反射的に後ろに下がってしまう。
(これは、美奈の得意な魔法の凝縮か…!それで腕を遠距離から振っても熱気でダメージを与えられるなんて…本当に同い年とは思えないし、俺と似ている思考だ。だからこそ、次の一手を予想できる)
浮遊気孔で飛び上がり、攻撃の隙を伺う。幻影達は撃ち落とそうと、魔法を放ってくるが、対応する属性掌破で打ち消す。
(本来なら同じ様な敵の攻撃を反射してもう片方に当てたり、同士討ちを誘うのがセオリーだけど、水着でそんなテクニックを出来るわけない、これ以上敵が増える事は無いみたいだけどこれで終わりな訳ないよね)
気孔術でどの技が決定打になるか考える。属性掌破では倒せるが、接近するまでに遠距離攻撃を捌ききれるか、もし、出来ても先程の消耗戦で体力をいくらか減らしたため上手くいっても2体が限界、回復してもその暇を与えてはくれないだろう。
メガトンパンチやギガトンパンチなら多少の巻き込みも狙えるが、この小さいステージじゃギャラリーどころか俺も吹き飛んでリングアウトしちまう。
(仕方ない、まだ試してもいないしぶっつけ本番だが、やってみるか)
両手を合わせて息を思いっ切り吐く、気孔を集中させて身体に纏うイメージを描く。
「気孔膜、展開!」
魔法反射のバリア、今までこれを使わなかったのは単純、使う相手がいなかった。バトルアリーナでは美奈との対戦では攻撃という戦法ではなく迎撃の行動を取っていた為、反射が意味を失っていたからだ。
しかし、今は敵は美奈ではなく魔法を撃つ機械と化している為、魔法反射としては本領発揮出来る。ぶっつけ本番の技だがどれくらいの精度で出来ているのか。
浮遊の効果が出ている間に幻影の1人に狙いをつけて真上から落下する。狙いをつけたのは水の幻影。
「コォォォォォッ………「水破」!!「暗撃」!!」
直上からの殴撃で砂が巻き起こり、水の幻影は水弾を放って来たが反射が機能して落下の勢いをほぼ落とさずに一撃を放ち、即座に二撃目を当てると幻影はただの水となって砂浜に滲んでいく。
「後三体」
幻影が一体倒されたなのか、三体の幻影は一斉に魔法を撃つがそれも反射されて、自身にダメージが行く。
「君、他の子と比べて身体が固体に近いでしょ?」
一瞬で距離を詰めて次の狙いに定めた幻影は土の幻影、身をかがめて拳を振り上げる。一瞬宙を回った幻影の落下に合わせて足(だと思われる)を掴み、何度も砂浜に叩きつけながら他の幻影からの攻撃を代わりに受けさせる。
「後二体」
ボロボロなった幻影を火の幻影に投げつけて、完全に崩れる前に火の幻影を巻き込んで、掌破で幻影の中央に穴をあけると二体の幻影は消えた。
「さて…後一体」
残りは風の幻影のみ、ウインドで風を巻き起こしながら、接近を防ごうとしている。竜巻の一つに足を取られた時にガラスが割れたような音が聞こえる。
「っ!膜が破壊された!」
初めて扱うには練度が足りなかったのか、気孔膜は破壊されてた。まだ風の幻影は風を巻き起こして竜巻は更にその大きさを増している。
「ぐっ…くぅぅ!!」
目を開けられない程に、風は勢いを上げてウインドカッターを放って来た。それが目の前に来た。その時…
ガンッと硬い壁にウインドカッターは弾かれる。観客が驚きながらも、アイシャの前にあるものを見て驚愕する。
アイシャの目の前にあるのは土の壁、もちろん、最初からその場には無かったもの、誰もが直感的に分かる。それは…
「ま…ほう…?」
魔法だ。しかも初級ではなく中級の防御技「アースウォール」
「っ…ははっ、ご都合主義が過ぎるんじゃないかな……こんな時に発現するなんて全く、誰に似たんだか……でも、ありがたく使わせてもらおうかなっ!!」
風の幻影を中心にアースウォールが、丁度風よけになるように配置して展開する。たった今魔法を発現したとは思えない程の精密さにギャラリーが手に汗握る。
このまま、アースウォールからアースウォールへと飛び移ってもいいが、それだけじゃ少しつまらない。やはり、ここはアイシャだからこそ出来る力技を合わせた方が俺に一番合った戦術だ。
足に力を込めて、アースウォールの下部分を壊して指先を突き刺して、まるでボウリングの玉のように持ち上げてそのまま幻影に向かって突撃する。
次の風よけに展開したアースウォールが見えたら、即座に盾に使ったアースウォールを幻影に投げつけて、風よけに身を隠すを繰り返す。
投げたアースウォールは風に勢いを殺されながらも、多少のダメージにはなったようで、幻影との距離が目と鼻の先まで来た時には既にそよ風程度になっていた。
「メガトンパンチ」
砂浜が波打つと同時に風の幻影は文字通り風になって消えていく。ザァァと海が風に吹かれて波を作る。
終わった。誰もがそう思った瞬間、フィールドの中央に再び、自分達の幻影が現れた。
「お待たせしました、本日のデザートになります。なんてね♪」
美奈が、そう言った途端に攻撃が始まる。今までの幻影とは全く違う動き、アースウォールを咄嗟に展開するが、3秒と持たずに自身の幻影が破壊する。
(噓だろ!?しかもこいつら武装してあるなんて…こちとら武器どころか丸腰にほぼ真っ裸なんだがっ!?)
相手の動きはバトルアリーナでの団体戦の武器を使った戦法と同じ、俺が相手との距離を詰めて気を逸らして、リラが戦輪で飛び道具で援護、美奈が魔法で誘導して、レイラが剣術で止めを差す。
「あぁ、本当に…デザートだな。食後のデザートは直ぐに食べなきゃ、暖かくなっちゃうと美味しくもないからなぁっ!!」
フィールドの中央に陣取り、ほんの数秒でも時間稼ぎのアースウォール自身を中心に4枚展開する、その3秒の時間稼ぎが「この気孔術」を使うのに重要な時間だ。
壊された時には俺の両手が淡い光を纏っている。大きく手を開いて、輪を作るように描いたらそこからレーザーのような、ものが照射されて、幻影は一瞬当たるだけで、そこに何もなかったかのように消滅する。
「気孔砲…こんなに疲れるなんて…ね」
ふらふらと立ち上がろうとするが、どうしても力が入らず、膝をつく。もし、次の幻影が出てきたら何もできずにやられるだろう。
「…降参、もうファイアを使う程しか残ってないし、それで勝っても嬉しくないわ」
美奈がそう言うとリラがパチリと指を鳴らすと氷柱が砕けた。ギャラリーがなだれ込んで力なく倒れそうな俺を抱きかかえて胴上げをする。それにされた後、疲れを癒す為に飲み物をがぶ飲みして、ゆったりと海水浴を楽しむ。
俺が組み手をしている間リラとレイラは暇じゃないのかと思って聞いてみたが…
「そんなことないよー、魔法が使えるようになった時、レイラは自分の事のように嬉しかったんだから」
「私も十分に楽しませていただきました。余興…は少し言い方が悪いですね…あの試合はとても楽しめました、満足です」
と、暖かい言葉を貰った。
View Change 美奈
まさか、あの状態で魔法が開花するとはね…
(前々から聞いていたけど、火事場の状況に対応しようとした結果…なのかな)
~4月21日 アイシャ宅に泊まらせてくれた時~
「魔法の適正?それってアイシャは魔法を使えるってこと?」
「適正というか、直感……魔法の事だったら知識だけじゃなくって、マスターと契約を交わした私たちはそういうのを感知できるんです」
「肌で肉で骨で、言葉で表現するのは難しいの、ただそういうのに気付く身体、有り体に言えば感覚機器を持っているって言っていいの」
「それで、どうもあの子に不安定っていうのかな、ダムの水が何かにせき止められているのを感じたんだ。俺とカレンはそれだけ気づいたんだけど、ライズとマーラはそれ以上に気になる点があったらしくて」
「先天的か後天的かハ直接的な問題ではナいのですわ。ただワたくし達は同じ魔法を使えル人と魔力の共鳴周波を感じテ、アイシャさんニそれを感じたトいうだけですわ」
精霊たちのいう事に部分的に理解出来ない所は多々あるが、端的に言うとアイシャは魔法を使えるが、何かしらの問題があって、現状それが不可能な状態であるという事。
(だけど、体験版では普通に魔法を使えたはず、むしろ魔法と体術組み合わせて貫通ダメージをバンバン叩き出すスタイルだった)
今までストアドシリーズの主人公が主に印象を残すようにしていたが、流石に一人旅だと即死まっしぐらの難易度ステージもあるため、攻略対象の1人は必ずパーティーに入れていた。その為、体験版でも攻略対象の攻撃方法はもちろん、待機モーションやレベルアップ時のボイスも丸暗記していた。
高校時代には既に魔法を使えていたという事はそれ以前に何か魔法を使えないようにせき止めているやつが取り除かれたと言う事、観察したいというわけでもないが、友達として少し気になる。
~現在~
この状況は仕組まれていた?俺はいつの間にか敷かれているレールに従って、進んでいたのか?いや、今使っていたのは土魔法だけ、ライズが感じた水魔法を使っていないのを考えると…後でアイシャにはこの事を言っておこう。
次回8月中旬予定




