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第十八部 第一章 Swumsuit

 7月13日


 View 美奈


 海水浴の日程が決まった、全員の参加も決まった、遊び道具も準備した。


 水着を持っていなかった…………


 「あぁ~、知らなかったぁ……」


 普通に準備したら水着がない事に気づいて聞いたらそういうのが一着もないと言われたとき顔が青ざめるのが自分でも分かった。


 リラに言えば貸してくれるだろうけれど、水着って自分で選びたいからなぁ、特にこの身体はオシャレに気を使うタイプなのか、服を着た後に姿見でそれが気に入らないと抵抗というか着替えたいと思ってしまう。


 普段はそういうのが無いが、その抵抗感というのが外出する予定があったり、もっと言えば身内以外の他人に見られる場合に感じるものだった。


 同じ使用人規模のアイシャに王族のリラは連れてくる使用人も多いだろうし、それを聞くと何かいい感じの服を着たいという気持ちが沸き上がってきて、その結果大勢の使用人と家族で水瀬モールで買う事にした。


 当たり前だが大勢の人が注目する。中には典型的な2度見をする人が多い。ちらりと真顔で視線を元に戻そうとした時に眼を見開いて再びこっちに目を向ける。実際に自分がそれをされる側と思うとその反応が少し面白いと思ってしまう。


 あっちの立場だと驚くというより不安と言うか勘違いや誤解をされてしまうんじゃないのかと思う。


 メイド好きな人からすれば大勢のメイドを見ることで眼福だろうが、多すぎると逆に何かすごい事が起きるんじゃないかって思われるのではないかと思う。


 実際、一番圧力を感じているのが護衛されている自分自身だったりする。買い物をしようとして商品を手に取ってお会計の為にレジの方へ向かうために振り返ったら大勢のメイドが同じポーズで待機しているなんて驚きより恐怖が遥かに上回る。


 責めてメイド服ではなく私服で一般人と混ざるようにしてくれた方がいいんだろうが、子の厳戒態勢も海賊の仕業だと思うとまた怒りが沸々と湧いてくる。


 サリアちゃんは常に隣で一緒にいてくれるから友達感覚でいられるけれど、他のメイド達は最初に圧をかけちゃったから、怯えている。その理由は父方の出自というのは最近知った。


 サリアちゃん以外で俺を怖がっていない事は出自をまだ聞かされていない新米メイド達だろう。


 千麟家の使用人は全員メイド、つまり男性がいないのである。逆にアイシャの所はメイドがいない、そういうところは逆だからか転生して身内の男性以外の男とどう接すればいいのか分からなくなって来た。


 それでも俺が俺と認識している。千燐美奈ではなくて五十嵐響也としての経験を思い出して今まで処世術をイメトレしているとキチンと対応できているのではないかと自画自賛する。


 エスカレーターで前に来た時の服屋に行こうとしたらふわりと甘い匂いがする辺りを見渡すと一階のフードコートに多くの人が片手にアイスクリームやケーキを持っている。


 時計は10時半人によっては小腹がすく時間帯だ。中でも家族やカップルが多い感じがする。中でも多いのが透明なガラスのカップに入っている青色の飲み物、近くに同じ物が写っている壁掛け板にはマリンドリンクと書かれている。


 (そういえば、今日はいつもより暑く感じる。キツいというわけではないが、額にはじんわりと汗が滲んでいる、無意識に薄着で来ていたがそれでもすぐに身体中の水分が熱気に奪われていく)


 視覚と同時に水分を補給できるどことなく南国を思わせる飲み物に視線を向けるが、水なら自身でも出せる。わざわざ飲み物の為に魔力を使うのはどうかと思うけれど、余っている以上使わないとと思って指先に水を集めてすいあげるように水を飲むが、それは水というよりぬるま湯だった。


 水と言えど温度が自由に変えられるわけではない。猛暑である今日は尚の事、吞んだ直後に汗ばんで服に汗が滲んで肌に生地がへばりつく。それはメイド達も同じようで乱雑に袖で額を拭ったり、何か涼める場所がないかとキョロキョロと見渡しエアコンを凝視している。


 水瀬モールの中は冷房が効いていないわけではないがその大きさ故に全体まで冷房が行き届いていないのだろう。ほとんどの店舗が扉を閉めて冷房が外へ出てしまわないようにしてある。


 天井のガラス張りから日光がギラギラと照らして汗がその光を反射して体感温度が上がってまた汗が噴き出す。


 結果的に全員、往復してキンキンに冷えた飲み物で休憩することになったのだった。


 (こういう時、リラの魔法は便利なんだけどな、そう言えば、そんな話を軽くしたっけ、バトルアリーナの演習した時、夏は~冬は~とか言ってお互いないものねだりだねって笑いあった)


 だけど、それでも使い方による。こんな日にエアコンをつけたまま寝て夏風邪引くなんてよくある話しだし、たった1℃変わるだけで寒い暑いと言って常にエアコンを持った生活をしていたからこんな日は「いい塩梅」を求めて口癖のようについ口から出てしまう。


 確かに俺の火系の魔法は冬だととても重宝するだろう。家に暖炉は無いが、中庭が大きく安全に焚火をすることが出来るから、ゆったりと身体を温めながらアフタヌーンティーでも楽しむことができる。メイドの中では焼き芋が好きな子が多いのでそれをしてもいいと思う。


 (個人的に焼き芋は、石焼が一番美味しいと思うけれど)


 ストローでマリンドリンクの氷をカラカラと鳴らしながら服屋に向かう。マリンドリンクは下に濃い青で染まっていたが混ぜるとそれが全体に行き渡り、涼しさを感じる水色に透き通った。


 飲むとサイダーのような炭酸のシュワシュワ感に柑橘系以外の果物だろうか?特有と言える甘さが疲れを癒す。氷のキンとした冷たさが歪んだ視界を正しくする。


 服屋に着く頃には大体みんながマリンドリンクを飲み干した頃だった。服屋はシーズンと言わんばかりに店頭に水着のセール商品やマネキンに麦わら帽子やクールビズを着せている。


 子供用の水着を探すとそれは以外とすぐに見つかった。学校指定のスクール水着なども取り揃えているようで、他の客も子供連れが多い。因みにメイドの壁ですぐに見えなくなった。


 水着を選んでいるとあの三人はどんな水着を着るのか気になった。当日に分かる事だが、個性の塊と言える人たちだから、気にならないと言えば噓になる。


 アイシャは特注のオーダーメイドっぽい軽装だと思う、人の目を気にするかどうかは分からないけれど、なんとなく目立つのに慣れていないと個人的に思う。あの胸のせいで不快な視線を向けられる事も想像に難くない…けれど、今回はプライベートビーチの貸切だから、その心配は少ないと思う。


 次はレイラ、正直一番心配してしまう。家のメイドのほとんどは3人と面識がない。極度の人見知りであるレイラがそんな所にいるとなるとその場で泣き出してただでさえしょっぱい海が更にしょっぱくなってしまう。人目を避けるためには恥じすら捨てるタイプだから、バスタオルを自身にグルグル巻きにするかもしれない。

 

 まぁ、それは言いくるめたらいい…そうだな「泳いでいる時は身体なんて目立たない目立たない、砂浜にいる時は上に何か羽織っておけば?」なんてどうだろう?割とちょろいから、そう説得すれば納得してくれると思う。


 でも、余りレイラって水着を着ているイメージが湧かない。体験版でも人見知りの要素があって顔以外は肌を見せないで手袋もしていたから予想がつかない。率直な意見を取り入れてストレートにスク水とかあり得そう。


 水着で一番イメージがつかないのはリラだ。姫様が水遊びをするっていうのは余り想像出来ない、どちらかと言うとワンピース着て振り返った時に一瞬だけ映る笑顔と海風になびく髪に日に照らされる麦わら帽子の方がよく似合う。


 リラは3人の中でも友達の感覚というより少し一歩引いている感じがするから友人というよりは知り合い以上友人未満というわかるような分からないようなポジにいる。人との関わりに一貫性としての敬語だという事は理解しているけれど、逆にいえば自身の存在を必要最低限のアピールしかしないと言える。だから、水着を着るイメージがないのだけど。


 以外とビキニみたいなものかもしれない。でも素材がいいから何を着ても似合う。前のショッピングでもリラは何を着ても似合ってた。和服美人でもあると思う。


 (って、考え事はこれくらいにしておこう自分の物を選ばないと…)


 そう意気込んだはいいものの目の前にあるのはジュニア用とはいえ女物の水着、自分でも女性用の服には慣れたと思っていたが、それとこれとでは別だと気づく。


 ランジェリーの時もそうだったが、布一枚でいろんな人に見られるのが女になって人一倍羞恥心が大きくなった。


 男の頃は特に気にならなかったし、中学生の時から水着は指定されなかったから水陸両用のぴっちり系トレーニングウェアを着ても先生に注意されなかったから何でもいいやの精神だった。


 女の人はよく平気でいられるなと改めて女性の強さを再認識した。正確に言えば色々と違うと思う女性もいるけれど、その違いを理解出来たら男としての自分が崩れそうで本能が違いを見つけるのを拒んでいる。


 色々と手に取ってみるが、精神体的に第三者から 見ると異常者としか見られないようで何も言われないのが逆にへこむ。


 女の子として生きてきた数か月間としては可愛い物を選んだ方がいいと思うけれど、それはそれで疎外感と言うか1人だけ浮いていることにならないかって自問自答の繰り返しになる。


 「ねぇねぇ!どうこの水着!私に似合うと思わない?」


 「ん、いーんじゃね?どーでも」


 「白…んー、やっぱ水色…?敢えてメロンカラーも選択肢に入れとくのー」


 「ワたくし達用の小サな水着がなイ以上選んデも意味ないんじゃありまセンこと?」


 精霊たちは精霊たちで自分の水着を選んでいるし、まぁ、他の人には見れないようにしているからいいとして、そもそもマーラが言ったようにサイズが無いだろ。


 いくつか手に取って試着をして選んだのは、黄色のフリルつきの少し背伸びした感じの上下別々の水着、へそが見える感じが少し違和感があるけれどちゃんと布地は多めだしフリルで更に隠れる所も少なくないからこれでよしとする。


 会計をすますと5人のグループのメイドが輪番制で自分の水着を選び始める。なんとなくだけどウキウキして、一番楽しみにしているのが分かる。


 (それはそうか、海なんてプライベートでもそうそう行ける所じゃないし、この国だと砂浜なんて結構限られているから季節も相まってテンション上がる気持ちはわかる)


 「あっ」


 何かに気づいたようにサリアちゃんが指をさしている。一瞬自分を指されたかと思ったけれど少しだけずれている。その方向に目を向けるとそこにあったのは…


 「…浮き輪?」


 そうだ、失念していた。この身体じゃ浅瀬にしか行けない。そもそも身体能力が低いから、泳げないかもしれない。


 結局その後、浮き輪とイルカボートを買った。この日は買い物をしただけなのにすごく疲れた。この前は休憩をはさんだが学校見学もする体力もペットショップでふれあいする体力もあった。


 ~同日 夜 千麟家バルコニー~


 夕飯が終わった後、メイド長に呼ばれてきたのだが、そこにはフィギュアそれもどこかで見たような姿が4体部屋の戸棚にズラリと並んでいる。


 一瞬あっけに取られる俺とは違いふわりと精霊たちが嬉しそうに部屋を飛び回る。


 「かっわいい~、これ私?そっくりだ!マスター見てみてどっちが私でしょーか!?」


 「こっち」


 「正解っ!流石マスター!」


 そもそも喋らなくて動かなければ間違えたりしないはずなんだけど、並べられたフィギュアは全部俺の精霊たち、それに1体それぞれいろんな服を着ている。


 所々に眼帯をしている海賊コスやアイドルコスがあるが…まぁ、自分が着るわけでもない。それらが着ている服はきちんとした布地で作られている、それに着脱式それが意味するのはもちろん。


 「私たちが楽しむのに精霊さんたちが楽しめなかったら可哀想でしょう?奥様が夜な夜な作ってましたよ。寝る時間も削ってチクチクチクチクチクチクチクチク流石に止めようとしたのですが、満面の笑みでやっているのを見てそういう気持ちは逆に失礼と思ってやめたのですが」


 そう呟くメイド長をよそに精霊たちは男子小学生のテンションさながら、服をとっかえひっかえして姿見を見て4人ファッションショーをしている。


 中にはもちろん、水着もあるし、装飾品なのだろうかミニチュアのキーボードやバンドが使うようなギター、ベース、ドラムなど海水浴関係無い物も多くあった。


 「…お母様って昔ハムスターとか飼っていたのかな…」


 「はい確か、小さな生き物全般が好きで超小型犬以下の動物を見つけては着せ替え人形のようにしてたらしいですよ。手芸教室にも通ってそれを…」


 そういえば、最近ふらっと精霊たちがどこかに行っている時があったけどそれって多分、お母様のところに行ってたんだ…いや、これは正直自分自身に呆れちゃうな。家族だけじゃなく契約を交わした子達の行動を把握しないなんて…でも何でお母様は私に一言かけてくれないんだろう。


 そう思っている間にもみんなは手にいろんな服をとってはカーテンの裏で着替えての繰り返し、それをしばらくは困った顔で見ていたが、しばらくしてその嬉しそうな顔に「しょうがないなぁ」という気持ちになって眠気が来るまで眺めていることになった。

次回6月末予定

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