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第十八部 外伝章 冒険者ギルド総会議

7月10日


 ~冒険者ギルド総本部~


 冒険者ギルドの総本部は地上ではなく地下にある。これは外部からの強襲や空襲などによって破壊されないようにした結果、特定の場所のみでしか行き来できず、常に変わるパスワードを記入しなければ入ることが出来ない厳重な設備が施されている。


 本部の中の一室、そこはギルドマスターとその取締役以外は一切立ち入りが許可されない。そこが使われる事態が起こるのは冒険者ギルド内での大事の対処や対策及び予防を提案その可決か否かを決める。ただ、その為だけの一部屋だ。


 今、その中では世界各地のギルドマスターが招集されている。王国はもちろん、帝都から小国まで冒険者ギルドが正式に認定されて設立されている国ならその本部のギルドマスターが代表としてここに集うのだ。


 その中にはアリアがいる。他のギルドマスターも次々とその部屋に入って来る。総本部が設立されてから常にギルドマスターの地位に就いている人も言えば今年初めてギルドマスターに就任された人もいる。


 その部屋は近代化が進んでおり、アナログ的なものはギルドマスターが所持して来た物のみ、それ以外は近未来的なものばかりと言ってもいいだろう、壁から扉を開いてから正面にある超巨大モニター、机から椅子、天井からのライトに壁には青白い電力が流れながらも涼しさが感じる。


 新任のギルドマスターは驚き、周りをキョロキョロ見渡しながら自身の所属国と地域、名前が表示されている席に着く。全員がギルドマスターという身分を持っていてそれに責任を感じているのだろうか、緊張感が感じられていたのもほんの数分、席についてしばらくするとスマホを操作したり、ノートパソコンを開いてカタカタと何かの作業をする人もいる。


 全員がその作業がひと段落するごとに時間を確認して予定時刻30分前には捜査していたデバイスなどを片付けていた。


 その30分前の時刻に時計の針が指すと映画館で上映前に聞こえるようなブーッという音が鳴り先程まで黒で埋め尽くされたモニターにある人物が映し出される。


 彼の中はクロード・レグス冒険者ギルド総本部長兼責任者、この様な全ギルドマスターが集まるような議論会では彼が取締役として出席する。


 彼の表情は冷たく真顔で精巧な人形かと思うほど動かない。既に席は埋まっており、ギルドマスターが全員そろっている事を理解すると同時にレグス本部長はゆっくりと口を開く。


 『全員、揃ったようだな。それではこれから全ギルドマスターからの機密議論を始める』


 声色を一つ変えずロボットのようにつらつらと話す彼に誰も怪訝な顔を見せずにただ話を聞いている。


 『その前に今回の議題の再確認と始めてこの会議に参加する者に対していくつかの注意点を述べよう。既に知っている者もこの注意点は必ず守ってほしい。忘れていたでは済まされないのでな』


 彼はそう言って注意点を1つ1つ丁寧に説明する。それをメモする人もいれば電子機器を使ってメモや録音する人もいる。


 録音する人はそれを外に持ち込まないように議論が終わった後しばらく残りメモに間違いがないようにする。確認及び記録係として重宝する。今回もメモをし損ねたり、発言が聞き取りにくかったりした人の為に録音をしている。


 一通り注意点と議題のテーマを確認し終えると、そのテーマよる関連報告の提出が行われるこの提出は物ではなくギルドマスター自身の口頭で語られる。それを記憶して記録を取り、それに対する疑問や意見、最適解を弾き出して当てはめる。その繰り返しがこの議論では毎回のように行われる。


 誰もがそれを顔に出さずに淡々と自身のやり方で記録を残している。


 『それでは次の発言者はいるか』


 本部長の言葉で次の発言者というものに挙手するものの中にアリアがいる。本部長はアリアを指名する。巨大モニターにアリアが映し出される。


 『今回、私が所属する国で確認された理性と自我を持った魔物は2体、内一体はアンデッドの僵尸(キョンシー)そして、もう一体は新種の魔物であることが確認されました』


 アリアはその詳細を手元にある紙を一回だけ見るとそれに自分の意見を交えて発現する。


 『まず、新種の詳細から話させていただきます。生体については水棲であり、発見場所は海と繋がった洞窟の地底湖です。体全体が透明で小枝や石などを摂取するとそれを消化するまで摂取物は目視可能です。今回発見した個体を「アルファ」と仮名して説明を続けさせていただきます』


 アルファを発見したのはギルドマスターであるアリア自身だ。その場にはゲンブもいたが、水に飛び込み間近で見たのはアリア、つまりあの時の事を事細かに説明することが出来る。

 

 『残念ながら、今回も繫殖の事については解明することが出来ませんでしたが、生体に関しては多くの収穫があったと言えます。始めは知性らしい知性があったとは言えない状況でした、ただ水面から出ようとせずこちらを見つめるだけ、これだけでは知性がある魔物と代わりは無いでしょう。しかし、アルファの体内にはゴミなどの不純物が大量に含まれていて、理性が失われていました』


 当時の事を思い出しながらアリアは話すが、この理論は求めている物ではないのを理解している。理解していながらアリアはあえて言っている。


 『これは、アルファの種族は不純物さえなければ知性と理性を兼ね備えた魔物と言えますが、今回見つかったのは一体のみ、同種族が少なくともアルファ含めて10体いれば、もう少し詳しい結果が出せたのでしょうが…それは叶いませんでした』


 そう、アルファは新種の魔物、群れを作っていればアルファを筆頭に詳しい生態データを取れると思ったが、一体のみだと確定するのは無理だ。


 『僵尸の話に移りましょう。この僵尸は名付けられた名前はアシュリーと言われたのでそれを使いましょう。僵尸はご存知の方も多いでしょうが僵尸を生み出したのは邪仙又は仙人と言われる者たちです。不死の研究で失敗作として廃棄された結果魔物として人々を襲うようになったという記録があります』


 アシュリーは廃棄されたにも関わらず、人を襲う事もせずレイラに拾われるまで一切人間を襲わなかった。そうする機会はいくらでもあったのにそれをしなかった。


 『これらは今回の議題の一番の議題である人型の「無害」「知識」「有能」の三本柱が揃っています。アシュリーの経過観察の一部を抜粋したのでその中でも重要な所を読み上げます』


 アリアはアシュリーの経過観察結果を事細かに話した。もちろん、日常会話も話すがそれ相応の知識を有していると説明するにはそれも必要事項だ。


 『と、私からは以上です。何かご不明な点があるのならどうぞ挙手を』


 アリアがそう言うと何人かの手が上がった。その中には同じ質問をしようとしている人もあるのだろう。


 『その新種の魔物の正式名称は決まっているのでしょうか』


 『いいえ、これも理由はありますが一番の理由がもし、この魔物が立った一体のみの場合、デマが流れる可能性があります』


 魔物を研究する学者は学術を求めるあまり新種発見を謳い、角が生えた蜘蛛の魔物や人間の足が生えたナメクジなど不確定要素という魔物の特性を突き虚言で歴史に名を残そうとする学者も少なくない。


 『この魔物の情報を提供したことで他の地域の方もその様な魔物を探すのに協力していただきたいというのもありますが、根も葉もないデマに振り回されるよりかは良いかと』


 再び、質問をする人もアルファの事が気になるのであろう。それを質問する。


 『アルファは現在どのような収容をしているのでしょうか?やはり特別な水槽に入れているのでしょうか』


 『アルファは海の水を清潔に保つ為に発見された場所から動きません。よって現在も同じ場所に居ります。意思疎通も可能なので見張りはつけておりますが、この一ヶ月は発見当時のような凶暴さは確認されておりません』


 発見された場所も場所なので余り人はたちいれないのだが、小型の船なら最大10人ほどは見張りを配置できる。


 『ほかに質問は…なさそうですね。ではシャリア王国では以上です。モニターをそちらにお返しします』


 巨大モニターが切り替わり本部長の顔が再び映る。そして、次の報告者を指名して情報を共有する。


 『予め言っておきますが、落ち着いて聞いていただきたい。私の国では人型の魔物を冒険者として扱っております。その種族は…キマイラ』


 今までシン…と静まっていた部屋が所々に戸惑いの声が上がるがすぐにそれは収まる。


 『まずはなぜ、キマイラか分かった所から話しましょう。その個体はそうですね。シャリア王国と同じだと紛らわしいので「ベータ」と言いましょう。ベータは人間の体ではありますが、討伐スタイルが自身の肉体、それも口内からの魔法三重展開を観測出来ました』


 魔物が魔法を使うのは危険度や脅威度を持っている。その中でもキマイラは三つの頭それぞれから魔法を放つことが出来る。だが、稀に二つの頭がぐったりと落としていると残っている一つの頭が口を開けて口内に3つの魔法陣を展開させるというのもある。


 魔物が魔法を使うには魔法陣が必要だ。人間なら詠唱の他に魔法名を言ったりイメージを強く思い描いたりする事で魔法を使えるが魔物はそのようなものに乏しいので知力を駆使して魔法陣を使うことで魔法を放つことが出来る。


 『それだけなら、まだしもキマイラの他の魔物にはない特徴を彼女…ベータは有していました』


 キマイラは脅威度という物を持っているだけでも強い特徴と言えるが、3つの頭を持っているのはヒュドラがいる。と言ってもヒュドラは同じ蛇の頭だが。


 『彼女は捕食した魔物の力を身に付けたり、捕食した対象の固有魔法を我がものと出来るのを見てそれがキマイラ以外に有り得ないと判断して健康診断と偽り、細胞を解析するとキマイラと一致しました』


 それを聞いて興味を持ってくれた人が多かったのが嬉しいのか、少し笑みを浮かべながら話を続ける。


 『これを見るにベータがキマイラであることが判明したのですが、先程の僵尸同様、人間に危害を加えないというのが確認されている以上、それもギルドの保護対象として申請したいと意見します』


 議題の本当の目的、それは今回で発見された又は観測された魔物の扱いというのがある。


 魔物は一般人からすれば生活を乱す害獣というのもあれば、刺激を与えなければ問題ない野生動物の二通りがある。だが、魔物に多く関わる事のある冒険者からすれば、魔物に持つ印象は多岐にわたる。


 冒険者になってギルドで働く思想を持つ人の中には魔物に家族や友人が襲われたり、故郷がなくなったりして、自分と同じ境遇の人を救いたいとか、どうにもならないと知りつつも当てがない復讐の為に冒険者になる人も珍しくない。


 魔物を根絶させないというギルドの考えに異を唱える人もいる。それは大体魔物によって乱された境遇の人たちだ。もちろん、今回の議題参加をしている人たちも前述した思想の持ち主が少なからずいるだろう。


 共存、決別、傍観、今出ているのはこれくらいだ。アリアの見識としては共存4割傍観3割決別3割、今回の議題で見識が変わるかと期待していたが、やや傍観が増えつつある一方決別の必要性を考慮して共存と決別のどちらを切り捨てるかを考えている。


 それは自身の故郷にも魔物が害を与えんとしたことがあるからだろう。実質的な被害が最小限であったものの幼少期の出来事というのがアリアの脳裏には深く刻み込まれていた。


 冒険者になったきっかけとしては、ほんの些細な出来事であったのだろうが、長く冒険者をやっていくとそれについて深く考え込んでしまう。それがよりによって、重大な議論で出てしまうとは思ってもみなかった。


 魔物の対応には他のギルドマスター達にとってはきっぱりと決めているようではあったが、それはキチンと考慮した結果だろう。


 最初は共存に反対気味に不機嫌な顔をしていた人も真顔になり、感情を出さずに共存に賛成したり、逆に同じ話を聞いたのに共存の賛成から反対になったりする人もいる。


 しかし、最終的には全体の大衆心理とも言うべきか、押し負けてまるで最初から全員が意見を曲げずに決まった結果になってしまう。


 そして、今回の議題で決まった魔物との関係性は「傍観」に決まった。これに決まった理由は単純で「発見数が少ないから」だった。


 議題に参加したギルドマスターの中には今回の議題で出てきたような新種の人の形をした魔物を見たことがない者が多く、意見を述べたからと言ってそれが正しいのかという証拠がないからだ。


 当たり前なのだが、異常を感じたら迅速にそれを対応する必要はあるが、急ぎ過ぎて取り返しのつかない事になったら目も当てられない。


 新種の対処はマニュアル対応などが通用しないことが多く、その場のアドリブ対応が主、しかし、そういうのが苦手な人はパニックになって自身で考える事を放棄して他力本願になる。


 今回の議題だって、発起人はそれを見て精神が大分参ってたらしく、冷静を装っていたが、内心心臓が鳴りっぱなしだった。


 偶然か必然か同じような魔物を発見したと報告があり好機と思ったのか、議論を提案して急いだらしく安全を確立した方法をとったことが無い状態で始めてしまった為、この様な結果になってしまった。


 前にこのようなことが全くなかったというわけではないのだが、結果が確実ではなく曖昧さを残したというのは冒険者ギルド全体にとって面目が立たない。その責任は発起人だけでなくギルドマスター全員、今回の参加者の連帯責任という形になってしまう。


 原因の人物がハッキリとしていてもそれを意識してかどうかはさておき、わざわざ遠方まで来たのにロクな結果が出ないとなると発起人は信用を大きく失う事となるだろう。


 しかし、少しの収穫はあったと言えるだろう。今後に同じ発見があった場合、今回の議題で出なかった対処、対応についての判断材料として役に立つ。


 これからしばらくギルド間でのリモート会議が多くなるだろう。本当に重大な議題はこの様な大規模会議が開かれるが、結果がこれでは今回の議題についての必要性はそれ程高くはなかったという認識になるためリモートケース行きになるだろう。


 

次回6月中旬予定

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