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第十八部 四章 梅雨明けで…

7月1日


 View 美奈


 「お、おお…おひゃようごじゃいます…」


 まるで朝一で大音量のヘビメタを聞かされた直後のような寝ぼけと頭痛のダブルパンチをくらったような挨拶をする。


 昨日の夜、おじいちゃんが俯きながら顔を一度もあげずに何度かため息をついてぼそぼそと独り言を呟くと


 「明日、とんでもない奴が朝食に参加する。ほんの一寸も心を許したりせずにましてや警戒を緩める事などするんじゃないぞ。その小さく綺麗な首を血で汚したくないだろう」


 どこかのヤクザ映画よりたちが悪い言葉をドスが効いた声でその時の緊張感で逆によく眠れたが、起きてからもその緊張感は続いててベッドから降りても震えが止まらなかった。


 それに食堂に着くまでに3回お手洗いに行った。まるで苦手科目テスト直前の心境みたいに。


 そして、驚いたのがその人物が公園であった優しそうな雰囲気のおじいさんだった。


 (この人が私のひいおじいちゃん…!まさかあの時のひとだったなんて…ど、どうしよう。バレてないよね顔は多少の面影はあるけれど髪も身長も違うから指摘されても強めに否定すれば多分…)


 そう考えながらぎゅっとスカートを掴んで震えを隠すようにして席に着いた。朝だというのに全員が顔を強張らせている、全員がいつも通りに食事を始めるが俺を含めて目線はひいおじいちゃんを見てほんのひと時も目を離さない。


 そのおかげで熱々の鮭の焼き身を顎や頬に当てて涙目になりながら、食事をする事になってしまった。


 その食事の間特に龍次郎おじいちゃんは行動を起こすでもなく始めて会った時と同じような小さな微笑みを浮かべながら緑茶を常に手にしながら食事に手を付けていた。


 「ほっほ、中々美味じゃな、妻の手料理を思い出す」


 そういうことを言っていたが、ともかく無事に朝食を終えることが出来た。それが終わっても今日一日は気を引き締めようと思って本日四回目のお手洗いに行く。


 今日一日は恐らく一番時間がたつのが長く感じる一日なんだろう。出来るだけ目立つ行動を控えて日課の時間をずらして、出くわすこともなく一日を終えようとした。


 しかし、それが破滅の時を迎えるまで…いや、その時はすでに目の前に待ち構えていた。


 「おや、こんな所でどうしたんだい?もしかして新築したから自分の部屋が分からなくなってしまったのかな?」


 「いえっ!あのっ…!」


 すぐに踵を返そうとした時、遭遇した時の対処の仕方を思い出す。


 「いいか、絶対に目を離すな、出会ってしまったら目を話さず極力瞬きもせずに走らず、ゆっくりと後退して角を曲がったらすぐにその場から離れろ」


 海賊騒ぎからメイド達が護衛として来ているが、まるで蛇に睨まれた蛙のように足が動かないのか遠めでも震えていたり、その場でへたり込んで力が入らないかのようで虚ろな眼をしているメイドもちらほらいる。


 後退しようと、一歩後ろに踏み出すと…


 「どうした、挨拶もなしか?」


 一瞬で背後に回っていた。目の前から姿が消えたのと声がかかったのは、ほぼ同時龍次郎おじいちゃんの顔がすぐ横にある。


 恐る恐る顔を向けると、光の無い深淵のような真っ黒な瞳孔が飲み込むようにジッと見ていた。


 「あ…あ…」


 自分でも口から出たのが怯えの声なのか呼吸から漏れ出た嗚咽なのか分からずに頭が真っ白になる。そんなことお構いなしと言わんばかりに龍次郎おじいちゃんは話し出す。


 「丁度いいと思っていた。一回言いたいことがあってな、行動を予測して来てみたら案の定だった」


 何か安心したように口元を歪めたが、歪めたのは口元だけでそれ以外は何も変わらず、見つめてくる。


 そして、聞きたくもない言葉が口から紡がれた。


 「何故あの時、噓をついた?」


 「…っ」


 息を吞む、その声を聞いた時まるで大きな氷を背中に貼り付けられたように固まり、目から涙が出そうなくらい恐ろしいのにそれがせき止められている何とも奇妙な感覚だった。


 「老いて現役を退いたとはいえ、この高松宮 龍次郎、高松宮会の首領。目が節穴だと思ったら大間違いだ、お前さん、公園であった上の子だろう。えぇ?そうだろうセレスちゃん?いや、本名をその口から聞かせてくれや」


 「…………………です」


 自分でも消え入りそうな声で話す。もし、聞き返されることがあったら死ぬ可能性があると分かっていながらその様な行動を身体が勝手に取ってしまったのだと直感する。


 俺の直感が危険だと警鐘を鳴らして、キチンと相手に聞こえるように一言づつ力を振り絞って話す。


 「…美奈……です。私…私、の名前……私は、千麟、美奈……で、す」


 途切れ途切れでありながらもそう言う。その時は何も考えられずに言われた通りをこなす操り人形みたいだったと後から思った。


 「そうか、いい名前じゃねえか、わざわざ即席で作ったもんより親から貰った名前大事にしねぇとな、ッはっはっはっ!!」


 先程までの見つめていた。目を閉じて大声で笑いだす。けれどもそれを見て更にその場から動けなくなった。


 龍次郎おじいちゃんは完全に目を閉じていない近くでないと分からないが薄目で目を向けている。


 「もし、本当にどうしようもねえ時は俺を頼んな、この命続く限りどこからでもすっ飛んでくるからよ」


 屈んで頭をポンと手を置くとそのまま去っていく。それと入れ替わるようにおじいちゃんが大急ぎで走ってくる。


 「美奈!無事かっ!?怪我は無いか!?あのじじいに出くわさなかったか!?」


 その時はその場で泣きたいくらいの思いだったのに一滴も涙を流すことはなく、部屋に戻った。


 その後も涙を流すことはなく次の日には龍次郎おじいちゃんは居なくなってたおじいちゃんにそれとなく聞いてみると昨日の夕方に帰ったと言ってた。


 結局、最後の言葉はどんな意味なのか分からなかった。


 (連絡先もなしでどうやって頼れって言うんだよ。それに頼るならおじいちゃんに…)


 「お嬢様ー、これお嬢様の服ですよね?結構異色というかあまりイメージが違いますが…これもハーン家からの贈り物でしょうか?」


 サリアちゃんが持って来たのはお姫様のようなドレスだった。ただ違うのはまるで童話の登場人物が着るような片方の肩を出すようなタイプの少し露出が高いものだった。


 「えっと…多分…というかそうだよね。でもアイシャからの贈り物は全部出したと思うけれど」


 服を手に取るとつなぎ目に厚紙が挟まっていた形が崩れない為に畳んである服に挟むものだが、それに鉛筆で書いたように文字があった。


 (……マジかよ、やられた)


 書かれていたのは龍次郎おじいちゃんのフルネームと電話番号とメールアドレス、更にメッセージアプリのIDもあった。


 (ここまで期待されたら登録せざるを得ないじゃないか。もし、無視したら殺されるかもしれないからなぁ…)


 心の中でつぅと一滴の涙を流しながら登録する。するとリラから不在着信が一件入っていた。確認してみるとなんと電話があったのは深夜の時間明らかに寝ている時間に電話があったのだ。


 捜査している時に寝落ちして、誤操作で電話をかけてしまったのかと疑問を抱きながら、もし、急用ならこっちからと思って、掛け直すことにした。


 『もしもし、こちらリラ・エンジェルス・シャリアですが、そちらは…』


 「リラ?私よ、美奈だけど昨日…厳密に言えば今日だけど電話してきたでしょう?」


 『あっごめんなさい美奈さん!最近、時間間隔がずれてきていてお昼過ぎかと思ったら深夜で…』


 「あはは、たまにあるよね。特に時期に寄るけど5時なんて空の色が似ているから余計に、それで何かあった?」


 『特別何かというわけではないのですが、最近暑くなって来たでしょう?梅雨で湿度が上がってそれに伴って猛暑日が近づいているので、そこで何ですが私たちの他にアイシャさんやレイラさん含めて所有地のプライベートビーチにご招待したく思い連絡したのですが』


 「プライベートビーチ?うーん、確かにこの前の嵐で梅雨の大一番は過ぎたって知ってるけれど、OKするのは簡単だけれど日程調整の他に親に聞いてみないと分からないかなー」


 『そうですか…もし、許可が取れたら私に連絡をしてください。それとレイラさんへの連絡を任せていいですか?アイシャさんへは私が連絡するので』


 「それはいいけど何でレイラに?自分で言うのもなんだけど、レイラよりもアイシャの方が私と仲いいのに」


 『それは…ですね…なんというか…ええと…』


 リラは必死に何かを言おうとしているが、言葉に詰まって口ごもる。言葉を選んでいるようにしているがどこか言いにくそうで、気を使おうとしているのが電話越しでも分かる。


 (まぁ、その理由は大方理解している。ここはあっちから踏み込ませるよりもこっちから踏み込んで、もう気にしていないとアピールしたほうがいいな)


 「アイシャには海賊から助けてもらったからそのお礼のついでに言っておきますよ」


 『えっ!?』


 驚いて素っ頓狂な声をあげるリラ、少し飛躍し過ぎたか、誘拐の被害にあったという事は向こうも理解しているだろう。ニュースでは被害者の名前は出ていないが王城には被害者の名前は知られているだろう。


 それだけでなく海賊騒ぎの小火を鎮火させるのに右往左往した人も人伝に噂程度ではあるが小耳に挟んだレベルで知られている。


 後者は伝言ゲームで多少の聞き間違いはあるとは思うが、それはともかくあまり気にしていないとリラに印象を伝えることが出来たらそれでいい。


 「まぁ、どうしてもっていうのならレイラにだけ連絡するけど、プライベートビーチとか企画したからには色々準備とか必要でしょう?それなら私も少しだけ手伝うよ。あまり王城関連のやつを他人に任せる訳にはいかないだろうし、あぁ、いやゴメンそれもまずは両親に確認しないとね。連絡するかしないかはそれから決めよう」


 『分かりました。では連絡はそちらの許可がでてからという事でよろしいでしょうか』


 「うん、それじゃあまたね」


 『はい、ご連絡お待ちしています』


 通話を切ると、真っ先に誰に話すか迷う。


 (お父様とお母様には話すとしてサリアちゃんとおじいちゃんにも言わなきゃいけないよな。叔父さん一家は…お父様から言うかな)


 新築した屋敷の中は前のような間取りにはなってない。それに部屋もバラバラになったから自室から一番近い部屋を探すのも一苦労、美奈になって真っ先に屋敷の地図を作ったがそれが今は役に立たない。


 少しだけ首を傾げて、机の上にあるベルをチリリンと2回鳴らすとサリアちゃんとメイド長がやって来た。


 「お、お嬢様お呼びでしょうか?はぁ、はぁ」


 「ご用命でしょうか?何なりと」


 何故か分からないが少しサリアちゃんの息が荒い。


 「何か取り込み中だったかな?もし、疲れているんだったらメイド長だけでもいいけど」


 「いっいえ!大丈夫です!これくらいで根をあげてはメイドの名折れです!」


 「そ、そう」


 (メイドって何だっけ)


 「してご用命は何でしょう?」


 「あぁ、まだ新しい屋敷に慣れていなくてね、地図があれば持ってきてほしいのと、おじいちゃんとお父様、お母様に話したいことがあるんだけど、それの付き添いの二つ」


 「畏まりました!お供します」


 「大旦那様は先程見かけましたが、少々取り込んでいるみたいでお急ぎのようでした。この時間でしたらガレージの方に旦那様が休憩されているのではないでしょうか?それ程遠くもないですし、そちらに行きましょう。こちらです」


 メイド長が先導して歩き出す。サリアちゃんは後ろを歩く。そして、物陰から他のメイド達が見ている。せめて気配くらいは隠してほしかった。


 屋敷の中は明らかに壁の色が違うところがあり、そこが改築及び増築したところだとすぐに分かる。そもそも運よく壊れなかった所が少ないため変わらない所を探すのが難しい。


 しばらく歩くと中庭の他に別の庭が出来ていた。だが、明らかに手抜きというか整備が行き届いてない。中庭は芝が敷き詰められていたのに対してこっちは芝がまばらで恐らく瓦礫で荒くなってしまったのだろう、車で隠してあるが隠しきれてない。


 そんなガレージで手すりに腕をおいて片手に缶ジュースを傾けながらお父様が庭と空を交互に見ている。


 視線に気づいたのか振り返ると笑顔で近づいてくる。


 「おや、どうしたんだい?僕と会いにわざわざ来たのかな、んー、ごめんね。ジュースは僕の分しかなくて、吞みかけでいいならあげるけど」


 「ううん、いらない。お父様お話しがあります」


 お父様にリラからの話の内容を話すと少し考えながら、缶ジュースを飲み干すとダーツのように空き缶をゴミ箱に投げる。カコンッと小気味いい音の後に視線を戻す。


 「少し考えさせてほしいな、リラ姫のお気持ちは分かるけれど安全が確保されていても、あれから外に出すのも気が引けるというか心配で…」


 「あら、いいじゃない」


 お父様の話を遮るようにお母様が間に入る。


 「お、お母さん!?どうしてここに仕事は…」


 「半休取ったの、取り溜めしてあるから余裕あるしメイド長がそれならって感じで来たの、それで海水浴だって?いいじゃない。お姫様の厚意を無駄にするのも失礼だし、慰安旅行気分でリフレッシュなんて素敵じゃない?ずっとメイド達に仕事させるのも酷だし、いい機会だと思うよ。私は」


 お父様は渋い顔をしながら、腕を組んでしばらく悩んでいるようだったがお母様の視線に苦笑いして


 「お、親父から許可がしたらいいよ。お母さんが許可したって言ったら多分即答でOKするだろうけれど」


 そう言った後、小声で「そもそも口が達者だから勝てたこと無いし」と言ってガレージから立ち去る。それに付き添うようにお母様とお父様が屋敷に戻る。


 その後、おじいちゃんの用事が終わったのを見計らって事情を話すとお父様と全く同じ顔をしてお母様の言葉をそのまま言ったら、再放送のように同じ顔をして了承してくれた。


 (あぁ、やっぱり親子なんだなぁ、余り家族間でこう言うの見たことないから少し新鮮だわ)


 さて、後はリラに連絡して2人にも連絡しないと…


 ~ハーン家 屋敷 ダイニング~


 View Change アイシャ


 「なにぃ!?海水浴だとぉ?そんなことやっている暇があったら筋トレをやっている方が…」


 「…いえ、逆にこれはいい機会かもしれませんよ。砂浜での遊びは筋トレだけでなく心身ともに鍛えられる最高のトレーニングになり得ます。ビーチフラッグで反射神経、ビーチバレーでの跳躍力、タイヤでも持っていけば肉体を追い込む言わば限定筋トレと言っても過言ではないかと!」


 過言だよ。ママから昼食前に電話があったから聞いたけどそれにいち早く反応したのがパパとランクだった。とは言え、謝罪の機会がリラを通して用意してくれるのはありがたい。


 日程を調整するのは手間だけどそれを含めて今から楽しみだ。


 View Change レイラ


 「えっ?海水浴?」


 『そう、リラがプライベートビーチを用意してくれるって』


 「プライベートビーチ…そういうのがあったんだ…この国で海の話しと言ったら港の事しか耳に入らないからそういうのがすっかり頭から抜けてたよ。それで日程調整をすればいいの?と言っても特に用事とかは無いんだよね。食材もこの前買ったばかりだから、ここ最近は特に用事は無いよ」


 『分かったリラにはそう言っておくね。日程が決まったらまたリラかこっちから連絡するね』


 「はーい、待ってるよー」


 電話切って少し考える。


 (…もしかしてだけど、付き人が大勢なんてことはないよね?必要最低限の人しかいないよね?ははは、まさかそんな、ハハハハハ、はは…は…)

次回5月末予定

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