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第十八部 壱章 罪祓

 5月3日


 View 美奈

 「はぁ、ふぅ…」


 息を切らしながら走り続ける。しかし、一分もしないうちに呼吸は荒くなってゼェゼェ言い始めて俯きながら顔に疲労の表情を浮かべる。


 「っ……も、もう無理!止めて止めて、「これ」止めてぇ…!」


 カレンとノースがそれについているボタンを押すと同時にそれから降りる。ついさっきにハーン家からお届け物とそれに手紙が送られてきた。前の海賊騒ぎで少なからず負い目を感じているようだ。

 

 幸い出血はなかったし目立つ傷もつかなかったが、向こうから誘拐されたというのとその海賊の悪行と被害状況が最悪だったというのもあり、他家のお子さんを預かっている立場でありながらそのような事態になりかけた事を謝罪して、そのお詫びの品々が送られてきた。


 その中でも俺個人として送られてきた。ものが多くてその一つがさっき使っていたランニングマシンだ。


 最初はお詫びの品を1つ1つ家族総動員でチェックしていたが、このランニングマシンをお父様が一目惚れしたようで、その理由を聞いてみるとその社名が全国各地で様々な分野に精通しており商品などは予約しても再入荷が1年以上かかる程のものがある。


 それだけでなくこのランニングマシンはつい最近に入荷したばかりの物で再入荷は今から予約したとして短くても3年はかかるのではないかと言われているいわば、目玉商品であるという事だ。


 それらの説明を目をキラッキラにして早口で喋っていたが、それが俺個人のお詫びの品であると分かった時にあからさまにシュンとしていたが、俺の部屋においても置き場所がなかった為空き部屋にそれらを置くことになった結果、トレーニングルームになってしまった。


 流石、多くの貴族の中でも武闘派軍閥貴族として有名なハーン家と言うべきか送られてきたのは筋トレ道具が8割ぐらいあった。しかし、そのどれもが科学的なものだったのでデジタルマニア人間のお父様が涙を流しながら目を輝かせていたのと同じデジタルマニアの叔父様家族が喜んでいたのでおじいちゃん含めそのデジタルに一般以上プロ未満の少数家族は何も言えなかった。


 そして折角だからランニングマシンで鍛えていたのだが、ゲームでも持久力が心もとない上にレベリングしてもドーピングアイテムを50個美奈に使っても身体能力最低の身体をきたえるのは果てしない努力が必要だった。


 トレーニングルームは俺の部屋の隣りに設置されて、さらにそこから隣接するようにシャワー室も増築…というより半壊で平地になった所に建てられた。


 まぁ、館の損害で自分の部屋も一階に移されたし、わざわざ階段を降りなくて良くなったし、エレベーターも設置されたというのもあってメイド達も近代化に喜んでいるようだった。


 ただ、護衛が過保護通り越してSPメイド部隊に囲まれながら館を移動しなければいけなくなったのと常にサリアちゃんを護衛として近くにいないと自由になれない、いわば管理社会に一人放り込まれた社畜の緊迫心が出来た以上の違いはない。


 (大事なのにほんの数日で慣れたのがリアル恐怖なのは割と理解できそうな人間が多いと思う。)


 シャワー室で汗を流して自室に戻ってから、スマホでソシャゲを楽しむ。


 (あっ、また☆3以下…何で事前予約特典以外の最高レアが出ないんだろ…もう全キャラのレベリングに限界突破終わったし、早くアプデこないかなぁ…あっ、そう言えば前に事前登録したゲームは……明後日かぁ)


 24時間監視状態が続くから、テレビをみるのも億劫になってスマホで既に育成し終わった画面を見ながらベッドに倒れ込む。その近くで警戒体制をとっているサリアちゃん。


 こうなったのも全部あの海賊団のせいなんだよなぁ。そう言えばあの海賊団の処遇ってどうなったんだろう?


 ~同時刻 シャリア城 エリア00 地下牢獄 処刑場~


 シャリア城には王国でも極少数しか知らないエリアが存在する。その中の1つエリア00はリヒト陛下が王になる前に前国王が理不尽な理由で処刑をする場所があった。リヒトはその扱いに激怒して当初は無くす予定ではあったが、それを逆手にとって利用する形で今も存在している。


 その中ではカツカツと足音が聞こえて牢の扉が開く音がする。その後ジャラジャラと鎖の音とペタペタと裸足で硬い石畳を歩く音が聞こえる。


 しばらくすると弱弱しい発熱電球で囲まれた部屋に通される。そこで2人の姿がようやく見ることが出来る。


 1人はエリックの姿だったしかしその姿はいつも城で見るようなビシッとした姿ではなく黒いローブに手袋その背には赤い刀、青い槍、黄色い斧、緑色の弓矢を背負うようにしていた。


 もう一人はグルーグ海賊団の船員の一人のようだ眉間にしわを寄せながら歯ぎしりしてエリックを睨んでいる。


 エリックはそれを見ても無表情のままで首の後ろを人差し指で掻く。最初は聞こえないほどの音だったが次第にそれはポリポリという音からカリカリと人体から聞こえるにはあまりに思えない音が静かな地下に響く。


 変化はそれだけでななく、海賊の肌には罪の文字が次々と身体に浮かび上がる。


 「っ…!……!?」


 海賊は声を上げようとするが、自分の喉から声と呼べるようなものがでないことに自分でも驚いているようだ。


 彼は牢に入れられてからも声が出ない程、飲食をしていないわけでもない、なのに声を上げようとしてもそれが出ることは無かった。


 それを今まで喋らなかったエリックが口を開く。


 「自分の姿も見えないくらい多くの罪があったようだな」


 普段聞くような穏やかな口調ではなくため口を冷たく言い放つエリック、海賊は声のする方を見るがその方向へ顔を向けようとするとその視界は黒へと沈んでいく。


 エリックはその海賊の体を見て、はぁ、とため息をつく。海賊の身体はまるで黒いペンキを被ったようになっていた。しかし、その黒はペンキなどではなく身体全体に「罪」の文字が無数に貼り付けられたものだ。


 「ふむ、これだけの罪が既にあるとあまり多く擦り付けることも出来ない…か」


 カリカリと首を搔いていたエリックはそう呟くと搔いていた場所から黒い霧のような物が噴き出す。黒い霧は海賊の口に自ら入り込むように押し込める。


 海賊はそれを引き抜こうとするが既に海賊の身体は言う事を聞かない、腕をあげようにも重りをつけているように重く、何とか霧を掴もうとするもすり抜ける。


 そして黒い霧は形を変えてエリックの元へ帰っていく。それでもなお、エリックの首からは黒い霧がドロリと服を伝って地面に落ちる前には重力に逆らうように首元に集まっていく。


 「さて、これであなたは中も外も罪で染まった、罪の数だけ罰がある。それを祓うには刑罰を受けなくてはならない」


 エリックは背負った武器を手に取り、海賊に振り下ろす。


 「これらの武器は罪祓刀と同じようにある呪術師が作ったもの、俺の一族は呪術師として各地を転々として来た。これらの武器も同じように各地を彷徨い、人から人へ巡り巡ってこの地へ辿り着いた。何か因果のような物が引き合わせたのだろう、これらの武器は罪を憎んで人を憎まずという願いを込められて昇華されたつまり複数で1つの役目を果たす道具」


 「その役目とは罪で穢れた泥を死という極楽を拒み続け、痛みと苦しみを半永久的に与え続ける裁き、その罪の文字が裁きによって消えるまで決して死ぬことは許されない。罪の浄化が行われている今のお前には聞こえていないだろうがな」


 海賊は地面をのたうち回り声にならない叫びをあげているのだろうがその声は誰にも届くことは無い。


 エリックはその身に数え切れないほどの罪を抱えている。この国の罪人であり処刑人、その役目は罪人に自分の罪を擦り付けてそれを含めて罪の清算をさせる。普段は皮膚を何重にも重ねている為見えないがほんの一部分でも皮膚がはがれるとどす黒い罪が噴き出す。


 エリックは未だのたうち回る海賊を振り返ることもなく再び歩き出す。次の罪人を迎えに行く。


 その姿は、遊び半分で狩りを行う狩人のようにも、地獄から極悪人を迎えに来た死神のようにも見える。


 彼の心理は罪は祓わなかればならない。生きている限り罪は残り続ける。それが祓わずに極楽か冥府へ行くことは決して許してはならない。誰であっても赦しを得る資格を与えそれが終わって漸く逝く事を許されるのが彼の処刑人としての心意気だった。


 エリア00にはエリックの足音だけが響く。それが罪人が全員裁かれるまで続く。


 「汝、罪を認め悔い改めよ。浄土へ行く頃にはそれらを神が赦しているように」


 6月4日


 ~シャリア城 エリア5 謁見の間~


 エリックの断罪は長く行われた。その報告をするために王のもとへ向かうが謁見の間には近衛兵が扉を塞いでいる。


 「ご苦労様です」


 エリックがそう言うと近衛兵も挨拶を交わす。


 「エリック様、お疲れ様です!」


 「国王陛下に自らご報告したいことがあるのですが、他の者の耳には出来ない事なので悪いと思いますが通してもらえますか?」


 近衛兵は少しだけ答えずらいような表情を浮かべながら答える。


 「またですか…あぁ、いえ!申し訳ございませんが只今、国王陛下は同じ理由で来た他国の者の対応をしております。あと少し早ければすぐに通せたのですが…申し訳ございません」


 「ふむ…おかしいですね。予定ではこの日はそのような予定はなかったはず…急遽そのような用事が入ったということでしょうか?」


 「我々もそこまで詳しい事は、しかし、国王陛下が直々に許可をしたとか…噂ではヴェルスター学園が直々に招いた者だとか」


 「なるほど、ヴェルスター学園はこの国の重役の一角と言っても過言ではない。ましてやその名門校がわざわざ他国から招いたという事はそれ相応の実力者か権力を持った方だと思ったわけですね」


 「あくまで噂ですがね…ヴェルスター学園の教師たちも決して低くない権力を持った人達ばかり、もしかしたら英雄レベルの方だという噂もあるくらいです」


 「しかし、噂というのは広まるのが早いものですね。急遽決まったとはいえそのような噂が出回っているとは…」


 「さあ…我々も人伝に聞いただけですので、何でも同僚は八傑の方々の話の内容が聞こえたとかなんとか」


 「八傑…八傑の方々…それならあり得るの…でしょうか?まぁ、それが本当ならどんな方なのか気になりますね」


 「もし、時間が無いのでしたら私たちから国王陛下に言っておきますよ。国王陛下にしか出来ない案件があると」


 「いえ、幸いにもこれから先は予定もありませんし、ここで待つ事にします」


 そう言ったとたん扉がゆっくりと開く、扉の前に立っていたのはまるで人形のような綺麗な顔をした青年だった。すぐに話を止めて通行の邪魔にならない為に後ろの壁に背を当てる。


 青年は少しだけお辞儀をすると少しだけ歩を速めてその場を後にする。


 「おぉ、エリックではないか私に何か用か?」


 青年が見えなくなったと同時にリヒト陛下が声を掛ける。返事をしようとすると近衛兵が口をはさむ。


 「どうやら陛下が確認しなければならない案件があるようです。我々の耳にも入れたくない案件の様で…いかがいたしましょうか」


 「いいだろう。再び声をかけるまでまで下がっていなさい」


 近衛兵はそのまま扉を閉めると扉越しなので聞こえにくいが部屋を後にする足音が聞こえた。


 「…国王陛下、今の男は何者なのでしょうか?それに彼の案件は一体…」


 「なに、他国から来たというだけで軽い挨拶に来ただけだ。仕事の相手として関係を持ちたいとな、それでそれだけの事を言いに来たわけではないのだろう」


 「はい、海賊団の刑罰がようやく終わりました」


 「そうか、中々の数だから後一か月半程かかるのではと思っていたが、速かったな」


 「いいえ、彼等の罪を赦されるように願いを込めてしまった為、少々時間がかかってしまいました。もう少し時短ができたはずなのですが…」


 「構わないさ、それで、今回はどれくらいの罪が減らすことが出来た?」


 「…もとより犯した罪が多いというのもあり消化はほとんどできませんでした。多く見積もっても少数五位がいいところでしょう」


 「そうか、それは残念だな。あんな海賊団なら罪が軽いものだと思っていたが、お前の罪を全て擦り付ける程ではなかったか」


 「はい…ですがこの命尽きるまで罰を受けてなお祓い切れない罪を他人に押しつける事を許してくれた王には感謝をしてもしきれない程でございます」


 「…そうか、さて、そろそろ疲れてきた、私は休もう。エリックも疲れただろう慣れない武器を使った手も休ませてやったらどうだ?休暇を与える」


 「分かりました、英気を養わせてもらいます」


 「あぁ、後の事は兵たちに任せよう」


 ViewChange リヒト


 エリックを退室させてから今日の業務がすべて終わったことを確認して、それぞれの執務を切り上げるように連絡を回して部屋に戻る。


 普段ならヴィーラのところへ行きお見舞いをする予定だったのだが、お腹の子供の事を考えると無理に接触するのは危険なのではないかと思って電子メールで済ますことにした。


 ヴィーラが妊娠してから約二か月半、単純計算になるが一ヶ月を5週間とすると12週間前後となる。リラが生まれたのは妊娠が発覚してから40週間で臨月を迎えた。昨日は業務も少なく時間が余ったのでヴィーラの様子を視たらお腹は順調に出産の準備が出来ていると専門医にも言われたと話しており、その事に安堵したがそれでも出産を終えるまでドキドキして仕事に打ち込むことは出来ない。


 実際今日の業務だって、小さいながらもいくつのミスをしてしまった。見返した時は冷静になっていたからそれに気づけたもののもしその時にヴィーラの事を考えていたらと思うと自分が情けなく思えてしまう。


 (そういえば…)


 ふと、エリックが来る前の男の事を思い出す。急遽面談をしたいという男が来た事にも驚いたが母校であるヴェルスター学園に配属する事になったというのを聞いて驚いた。


 ヴェルスター学園は厳格な学園として世界的に知られている。名門校として建てられた後、その卒業生が次々と成功者として多大な功績をあげた事から評判が爆上がり、他の地域でも同じ教育をして欲しいという要望が通り、資産家の面々と打ち合わせをして本社と支社という形で同じ名前の後に「~校」と付け足すようにして高レベルな教育を行うことが出来るようになった。


 当然、そこに配属される教師も初代の学園の卒業生や有名な元学者が教師又は講師として勤務している。しかし、あの男は調べても特筆した功績も履歴も妙な空白があった事もなぜヴェルスター学園に配属されるのか分からなかった。


 その事を問い詰めようとしたが、その事を指摘するとあの男は「詳しく話しすることは禁止されていますが、もし気になるのであればあの国…「アグストロキッス」について調べて下さい。それで、理解してくれたら納得できるかと」と言っていた。


 直接聞かされることはなかったが、その瞳に噓や出鱈目を言っている用には思えなかった。そう言えばあの男はそう言った後に何かを呟いていたな。全ては聞き取れなかったが、テンセイシャと言う単語があった。


 胸騒ぎがする。一難で膨れ上がった炎が再び爆発的に蘇ったようなゾワゾワした気持ちが…


 「杞憂であればいいんだが」

次回4月中旬予定

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