表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/134

第十七部 壱章 音無き深淵

 しばらく2人でメダルを見ながらうーん、うーんと自分の記憶の中を辿ってみるとふと思い出す。


 「あぁ!そうだよ!海賊船だっ!あの幽霊海賊!」


 思い出せて興奮気味に声量をあげたことにゲンブも思い出したらしく当時の事を思い出す。今言った幽霊海賊というのはアンデッドやゴースト系の魔物やモンスターではなく、幽霊船を再利用している海賊という意味だ。


 幽霊船は少し特殊でダンジョンや迷宮を管理するギルドでは管理できないということで特別な処理が行われない。迷宮や洞窟では魔物を根絶しないというルールはあるが幽霊船で魔物を根絶しても何も問題はない。


 このメダルは幽霊船に乗っていた海賊をぶちのめして海軍に引き渡した時にその海賊たちの服に付いていたマークだ。彼らは自分たちをグルーグ海賊団と言っていた。その統領の名がグルーグ、しかし、捕まったのがグルーグ以外の海賊でその統領の事を尋問したところ、誰も「知らない」の一点張りだった。


 中には「他の海賊に殺された」とか「足を洗って平民として生きてる」とか言っていたがそれでは自分たちをグルーグ海賊団とは名乗らないだろう。幽霊船は沈んだと言う事を聞いたが…


 「でも、何でこのメダルがこんなところに?海賊から山賊にでもジョブチェンジしたの?」


 海賊から山賊というパワーワードにゲンブは吹き出しそうになりながら何とか冷静になろうとして深呼吸をしてから辺りを見渡す。


 「それにしても妙だな、ここには魔物も人間も見当たらない。それなのにこのメダルの汚れは全く見当たらない。つい数日前まで誰かがここにいたことになる」


 「確かに…でもそれならどうやってここまで来れたっていうの?あの外の魔物たちを搔い潜るなんて不可能でしょう?」


 「ああ、不可能だ。それに今までの道に血の跡もない…どういうことだと思う?」


 少し質問気味に言うゲンブに少しイラついたが、思い当たる事が一つしかない。このメダルはこの洞窟に落ちていた、ただそれだけではないことは確かそしてなぜこれをもってここに来れたかというと1つしかない。


 「この洞窟には奥地が存在しない」


 出入口が複数ある以外に他ならない。この洞窟は今まで一本道だったし、それを踏まえて考えると出入口は私たちが入ってきたあの場所の他にもう一つこの洞窟に入るための場所があるはずだ。


 それを確かめるためにも今はメダルとにらめっこしているよりも足を動かす方が重要だ。そう思い他に同じメダルがないか足元を何度も照らしながら奥へと進む。


 しばらく歩くとまた同じメダルが落ちていた。その先にも等間隔で置かれているというものではなく明らかにうっかり落としたにしては多く、争いに巻き込まれたにしては血の痕跡がない。


 そのまま奥へ進むとザザッと音が聞こえる。


 「この音…まさか!?」


 ゲンブは走り出して私もその後についていく。その音に近付くにつれて音は更に大きくなっていく。それに今まで風一つ吹いていない洞窟の奥から風が強く吹いている、しかしそれは魔法などではなく自然な物だと直感する。


 程なくして開けた場所に出るとそこは驚く光景が広がっていた。その光景は地底湖などではない。漂う磯の香りとさざ波の音がそれは湖ではなく海水だと分かるのに時間はかからなかった。


 自分たちが立っている場所は崖際であり、そこには明らかに人の痕跡がある。近くに何かに括り付けてあったロープ、大の大人が何人も往復出来る程の丈夫さと擦り具合からロープウェイとして使われたのだろう。


 そのロープは海に浸かるように向こう側から外されていて元々船があったのだと思う。


 「…おかしい、船があった痕跡があるのに出口が明らかに小さい」


 ゲンブがロープを引きあげて指で擦り切れ具合を再度確認する。


 「…少なくとも50人は使っていないとこれぐらいにはならない。跡から鍵縄か鎖を使ったはず、とすれば不可逆…辺りに往復用の岩もないとなると小型の船…いや、それでも50人は定員オーバー小型のクルーザーも通れないほどの小さな穴を一体どうやって…」


 ブツブツと独り言を呟いて考察を立てている間に辺りを探索する。さざ波は小さな穴の外から聞こえて洞窟の中には波紋しか広がっていない。


 崖下を覗くと一瞬巨大な魚影が浮かんだ、しかし海面から出ようとはせず、ジッとこちらを視ている。


 (知性がある…という事は魔物…?いや、それにしては何か…もしかしてだけど今の子…苦しんでいる?)


 苦しんでいる、そう思った時に海を見ると頭痛がする。


 (…っダメ……思い出すな!……それだけは………!!!)





 【ねえ、アリア】


 【なあに?おかあさん】


 【神様はね、ずっと天からアタイ達を見守ってくれてるでしょう?だから一生懸命に頑張っている人に手助けをしてくれているえらいお方なんだよ?】


 【ふうん…そうなんだ!じゃあさ、おとうさんがもってかえるおさかなさんも、かみさまがおとうさんががんばったからくれたのかな?】


 【そうね…お父さんは今も頑張っているからね。お母さんも明後日から海に出るから頑張らないとね】


 【だいじょーぶ!あーし、いいこにしてまってるよ!】


 【いい子ね。そうしたらちゃんと神さまもそれを見守っててくれるよ】


 【ほんと?じゃあねじゃあね、きょうもおおきなおさかなさんをたべたいな】


 【うん、そろそろお父さんも帰ってくるから一緒にお料理して待ってましょうか、お父さんアリアが料理したって分かったら大喜びするわよ】


 【うん!よーし、あーしがんばるよーっ】




 【…おかあさん、おとうさん、どうしてかえってこないの?あーしはまだがんばらなくちゃいけないの?あーしはただおさかなさんをたべるだけじゃなくておとうさんとおかあさんとむらのみんなでおうちでごはんをたべて】


 【笑いあっていたかっただけなのにな】


 どこでまちがったのかな……………………




あの時から何もかもが変わってしまった、幼い感情も手に残っていた感覚も口から出た言葉も、何もかも、苦しかったし辛かった。長い長い時をかけても癒えることがなかった、時間が解決するをも期待したこともあったけど、それすらも傷ついた心を癒すことは出来なかった。


 それを思い出すだけで涙が出てくる。だからその事を話す時には噓をつく。両親が亡くなったのは物心がつく前、赤ん坊だったころに事故で亡くなった事にした。本当は両親は海に殺されたんだ、海難事故で海に飲み込まれて死体すら見つからず、家に片手で数えられるしかない形見を置いて…噓をついていくうちに自身も騙すようになっていた、海難事故で亡くなった両親を無理矢理にでも違う死因にして誰も憎まないように自己暗示をかけている状態だ。でも、今の状態はタイミングが最悪だった。


 海、苦しさ、静けさ、寂しさ、哀れさ、それぞれが幼少時代の時と余りにも酷似していたから頭が自動的にトラウマを抉る行動をとってフラッシュバックを起こしてあの時の事を思い出してしまう、最後に見た両親の笑顔が自分の首を絞めている気がして、その後はまだ幼かったというのもあって多分大泣きしたんだと思う、それ以外の出来事は特に後ろめたいことも少ないから嘘を交えることなく全て正直に話した。


 ただ、両親の事は残念だし悲しくもあったし苦しくもあったけどあれがなければどうなっていたのか、もしかして一緒に海で魚を釣っていた自分もいたのではないかと思うとキリがない。それを思うと頭痛が一層強くなる。


 


 「アリア!!」


 「え」


 ゲンブの声に振り向こうとして振り返ろうとした時には自分が自ら海に飛び込んだことに気付かなかった。大きな水飛沫をあげながら水の中の光景に驚く。


 咄嗟に風魔法で体を包み簡易的な空気の管で水中でも呼吸ができるようにした。しかし、判断が一瞬遅れたため目が海水にやられて辺りの光景がぼやけてしまう。


 反射的に服で目を拭うが服も海水を吸って重くなっている。服の重さで身体は下へ下へと沈んでいく。水面からはゲンブの「捕まれ!」という声が聞こえる。恐らくロープを投げ込んだのだろうが残念ながら目は使い物にならない。


 すると、遠くから何かがものすごいスピードでこちらに向かってくる。先ほど見た魚影の主が水をかき分けて一直線に向かってくる。


 (流石に水中だと分が悪いな、悪状況な事もあってすごく面倒)


 普段であれば銛で戦いことも出来るが、眼がしばらく使えない以上急所を一息に突くことが難しい。目が見えるまで待つという手もあるがそれを待ってくれる相手ではないのは分かっている。


 何度か瞬きをしながら水中を見渡すが海中はとても澄んでいて海とは思えないほどの透明感がある、遠くも見渡せて目算で20メートルは見渡せる。しかし、今だ迫っている奴の気配は感じるが姿は見えない。


 (透明な魔物で水棲型…?そんな魔物聞いたことが無い、となると新種の魔物という事か?)


 気配は正面から既に目の前にいる。魔法で貫くために魔力を集中させる。


 (水中だから火や水も威力は当てにならない。土もすぐに泥水になって溶けてしまう、ならば使う魔法は一つ…エアロキャノンッ!!)


 魔法を放つと水面に大きな波が起こる。直撃はしなかったが、その余波で魔物は水圧で地面に叩きつけられた衝撃を受けたようだ。その時にゴボッと泡と共に何かを吐き出した。


 どうやらそれはゴミや木材の塊、港にはそのようなゴミがよく見られる発見次第すぐに撤去するようにしているが、どうやらそのようなゴミはこの中にも流れ着いているらしい。


 まさかと思い戦闘態勢を解いて再び、魔物の方から向かってくるのを待つ。


 程なくして気配が再び近付いてくる。突進の体制を見計らって避けると同時にその魔物を抱くようにしがみつく。


 魔物は激しく身体を揺らして振りほどこうとするが、がっしりとしがみつき離さない、そして無理矢理自分の腕を魔物の口があるだろう場所に腕をねじ込む。


 腕に妙な生あったかさを感じるとさらに腕を奥へ進ませる、すると硬い感触があった。


 (あった、後はこれ全体を魔法でコーティングして一気に!)


 アリアは魔力を流し込んで勢い良く引き抜くと、魔物の口からゴミなどがごっそりと抜けた。そして自分はすぐに水面に上がる。


 「ぷはぁ!」


 呼吸は出来ていたが攻撃する時に風を起こすために必要な空気が少なかったためエアロキャノンを使った時からほぼ素潜り状態だったため息が荒くなっていた、水面に上がった私を見てゲンブが声を上げる。


 「アリア!すぐに上がってこい!」

 

 その時はすでに目の痛みは無くなっていたためロープを掴む、それを見たゲンブは一本釣りするように引き上げた。

 

 服は肌に張り付き、バッグの中も海水でぐしゃぐしゃ、当然だが紙やペンは全滅、唯一何の影響もないのは聖遺物か防水加工していた電子機器くらいだろう。


 これは後処理が大変になりそうだ、と考えていたら水面下がザバァッと跡がすると思ったらそこから先程の魔物が飛びあがった。しかし、それから感じるのは苦しさではなく感謝を込めているような優しい雰囲気が漂っていた。


 ゲンブもそれを感じているのか警戒はしている物の武器には手をかけていなかった。


 [ありがとう]


 「っ!これは…あの魔物が!?」


 今の感謝の声は紛れもなく魔物が発した、その声はとても清らかでまるで真水自体が意志を持って話しかけたような心が安心してしまう声だった。


 「昔、魔物学者の論文で聞いたことがある。魔物にはごく稀に人間の会話から言語を学習して話すことが出来る魔物が予言されていた、最初は信じていなかったけどまさか神獣以外にそんなのが出来る魔物がいるなんて…」


 流石にそれには驚きを隠せない、それを他所にその魔物はふわりと宙を舞う、その姿は魚の形をした水、今まで水の中で姿が見えなかったのはその水中の歪みに完全に紛れていたからだろう。


 [あなた いいひと すごい うれしい]


 魔物は拙い言葉を何とか紡いで意思疎通をしている、もしこの魔物にこの洞窟の事を聞いたら何かわかるかもしれない。そう思ってここで見つけた海賊のメダルや私たち以外に人間が来たかを聞いてみる。


 [にんげん のるど きた ある きたない すてた おせん きらい しかたない たべた]


 ノルドというのは魔人が人間や同族をそう呼んでいた、魔物がその言葉を使ったという事は海賊には魔人が紛れているということだ。魔人と人間の違いの1つに魔力の質というものが存在する。


 人間の魔力の質は波のようにゆらゆらと揺れているが魔人の質は脈拍のように一定の感覚でグンと上がってまた戻る。その魔力に当てられてこの魔物は言語を学習できたのかもしれない。


 そしてその魔人や率いていた人間はゴミや汚物をここに捨てたのだろう、魔物はそれが気に食わなかったが襲うよりも水の汚染を食い止める事を優先してごみを食べたのだろう。


 魔物が食べたものは当たり前だが排出される、しかしそれが出来なかったりそれが原因で狂い誰彼構わず襲いかかる事例が存在する。


 [ここ いた にんげん ふね もぐって した とおりぬけた]


 「「っ!!」」


 その言葉でゲンブと顔を見合わせる、船が潜った。普通の人なら潜水艦だと思うだろうが私達はその潜水可能な船について心当たりがあった。


 ロストレガリア「アンシンアブル」超巨大な船の形をしたもので燃料や電力も何もなしで動く、それだけでなく船の形をしたものならば本来の体積を超えるもの以外ならばどのような形状にも変えられる。


 昔、私とゲンブはそれを見た事がある、初めて見た時、それで大陸を移動する際に使おうとしたが海賊との戦争で取り合いになって、当時未熟だったというのもあり互いに疲弊した時このままでは死ぬという思いからその原因である船を沈めればいいと、今となっては馬鹿らしい発想で自沈させた。


 それから後にロストレガリアの存在を知ってアンシンアブルのことを思い出した。まさかあれがロストレガリアだとは知らなかったが、今それが海賊の手に渡っているとすれば…


 「まずいぞ…最近この国は外国からの輸入や観光、他ギルドからの冒険者の配属などで港停泊の船が増えつつある。その中に海賊が紛れていたとすればあの事件も…」


 「あのお茶会の誘拐未遂も…!」

 

 「マハトマの事でそれを視野に入れておくべきだったか、国のイベントい終われててしかも今はその事件は解決済みとして扱われている。すぐにこの事を知らせないと」


 すぐに踵を返して戻ろうとするがいったん足を止めて振り返る。


 「…ごめんね。今君に聞いたことで急用が出来ちゃったの、この埋め合わせは必ずすぐにやるから待っててね」


 そう言ってゲンブの後を追う。


 「ねぇ、ゲンブ今更だけどあの穴から出た方が時間短縮になるんじゃない?」


 「不確定要素が多すぎるどこに出るのか分からないし、服が水を吸って動きが遅くなる。もし出たのが港の反対側だったら時短じゃなく逆に延長になってしまう。慣れない道を使うよりは少しでも土地勘がある来た道を引き返した方が余程いい!アリアあいつらが洞窟に入るように指示しろ!」


 「距離が遠すぎるし蛇行した道で音が響きにくいから、聞こえるか分からないけど取りあえず何回か試してみる」


 全力疾走で音を鳴らして馬たちが来るまで10分以上もかかってしまった。

次回1月中旬予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ