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第十六部 参章 アリアの非日常


 同日 


 View アリア


 シャリア王国 名無しの滝壺洞窟内


 「ううっ…油断しちゃった」


 (レベルが下がって弱くなったから保管してあるロストレガリア達を持ってきたとはいえ特攻したのは失敗だったかな、失ったのは左腕と両足…吹き飛んだロストレガリアも辺りに散らばっているし、とにかく回収しないと)


 ほぼダルマ状態で残った片腕で胴体を持ち上げる、すると首に掛けてある宝石が光を放ちアリア全体を包み込む。光は1秒もしないうちに消えるがアリアの身体は元通りになっていた。


 「さっすがオフィーリアちゃんね。私が来た事に気が付いたら誰よりもはやく「私をつけてー」って言ったことはある」


 全快した身体が以上ない事を確かめながらロストレガリアを回収する。その中には小さな布切れも落ちていた。


 「あー、うん覚悟はしていたけれど服までは直らないかぁ、これじゃあ縫っても着れたものじゃないわね、替えの服持ってきてないのよね、仕方ないから魔法で即席作ろーっと」


 私は武具の声が聞こえる、自信があったり気分がいい子達を装備するといつもより使い勝手が良い、逆に使われなくて拗ねちゃったりしてたら全体的に悪くなる。今回は防具、鎧やヘルムのロストレガリア達がへそ曲げちゃって、置いておくしかなかった。


 (使われるのが生き甲斐なのはわかるけれど、そんな態度だと連れていけないのは理解してよ~)


 ほろりと涙を一滴笑いながら流して先へ進む。


 (ゲンブの方は上手く言ってるよね)


 ゲンブは私と違って武具の声は一切聞こえない。武具を何だと思っていると聞くとゲンブの主張は「体を守るための道具以外に何が?」と大正解の答えしか言わない。普段は温厚なんだけど冒険者モードだと辛口な事しか言わない。


 その為今回私が使わないロストレガリアは全部ゲンブがつけていった。それでもいくつかのお留守は出るのでそれは王城に送ることにした。


 「あれ使う事態なんてそうそう起こらないし起こってほしくもないから体のいい厄介払いなんだけどねーあの子達の前では言えないけどー。あっこれ内緒だからねぜーったいにチクったりしないでよ」


 一応釘をさすけど多分オフィーリアはチクるだろうなぁ、この子自分だけ使ってほしいって思いが強いからわざわざ心読んでチクることがしょっちゅうある。今つけているロストレガリアはオフィーリアの声を気にしないけれど、それに異常なほど話をよく聞いて鵜吞みにする子達も少なくない。


 「とにかく、ここの攻略は少なくとも平均40レベル冒険者ランクシルバー2名同伴オススメジョブは後衛魔法使いが約2名中衛の長物使いが1~2名前衛の接近戦型が1~2名ってところかな」


 ここまでの道で採取したのが特上級ポーションの材料が主、魔水晶もあったけどトラップだらけだから一息で部屋を飛び越えて一直線に素早く取らないとまとめてトラップ地獄で吹き飛ぶ。だから多少迷宮や洞窟攻略の経験があるシルバーランクの同行が必要だ。


 ダンジョンと違いこの様な洞窟や迷宮、モンスターがはびこっている場所は我々ギルドの管理下におく事が多い。この洞窟は住処を追いやられた魔物や獣たちの巣になっていることが多く。階層が浅い為そこから繫殖し過ぎた魔物たちが洞窟から這い出て人里に向かい農産物や家畜が食い漁らすことが多く被害報告は増加の一途を辿る。


 そのためギルドの管理下に置いて定期的な討伐を行う。国からの援助もあるからそれなりに報酬はいい。ただ一つだけ問題がある。


 魔物を根絶するのは絶対的なタブーだ。理由はいくつかあるが魔物の皮や骨、牙一本で武器の素材になることが多い。危険と隣り合わせの仕事であるが故に魔物の素材を利用して安全に任務をこなす事が我々冒険者の仕事だ。


 さっきの戦いでもロックグリズリーの右フックで片腕が吹き飛んだ、それを耐えられるのはプラチナ装備くらいだ。でもロックグリズリーは動きが鈍いため私がやったような特攻をしない限り怪我を負う事なんてない。


 「…レベルが下がっているからステータスザコになっているのは当たり前なんだよね。ロストレガリアを過信し過ぎなのも治した方がいいかなーうん、初心大事、気を引き締めていこー!」


 洞窟を進んで行くと小さな光が目に入った。今までライトをつけて進んでいたがその光はゆらゆらと歪んでいる。その方向に進んでいくと透き通るような大きな泉が広がっていた。


 上を見上げると天井の一部が欠けていてそこから一筋の光芒が差し込んでいるようだった。さっき見えた光はその光芒が水面を照らして反射したものだった。


 「うん、綺麗な所ね、ここなら休憩所を設置してもいいかも」


 そう言うとバッグから温度計のようなものを取り出す。それを泉に差し込む。これは冒険者全員に支給されるある種の検査機器、冒険者は携帯食料や飲み水が尽きてしまうと現地で調達するサバイバルが強要される。しかし、水や果物に肉眼では見えない寄生生物や人体に有害な物を持っている事も珍しくない。


 そこでこの検査機器が役に立つ、果物や水に有害物がないか確認できる。湖や塔などそんな迷宮自体には測定不能だが、それを差し引いても常備する価値はある。因みに今使っているのは最新鋭の機器、有害物だけでなく生物の存在や深さなども探知できる優れものだ。


 測定を待っている時、眼の端に黒い何かが横切ったような気がした。その方向に目を向けると小さなハムスターが泉の水をぴちゃぴちゃと音を立てながら飲んでいた。飲み終えると偶然目が合ったするとびくっとしたハムスターは近くの岩壁の隙間に逃げ込んでしまった。


 「ケイブアニマルの一種か、あの空洞が巣なのかな?」


 この様な洞窟には亜種生物も多く存在している。それは特に有害でもないが元々洞窟には魔物ではなく動物が多く住み着いていたりする。しかし、そこに魔物が住むようになって食べられてしまう事もある。今のハムスターはあの空洞に逃げ込んだため魔物に襲われずに済んだのだろう。


 しかし、この洞窟で襲われる動物は魔物だけでなく冒険者にも食われる可能性がある。というのも冒険者は迷宮に留まることも多い。依頼完遂のために一週間も迷宮をさまよう事もある。その為食料が底をつくとそこの動物を狩る事がある。


 「ま、あのサイズじゃ腹も膨れないし群れで現れない以上狩られることないでしょうね、さっきの子まだ赤子っぽかったしうっかりちかづいちゃったのかしらっと」


 そう呟いていると計測が終わった音が鳴る。計測結果は水質問題無し、生体反応なし、有害物なしその他も特に目立った問題はなかった。


 「うん、しっかりと飲み水としてもいいのね」


 手で水を救い上げて口に運ぶ、暗い洞窟の中で冷やされた水はとても身体に染み込む。


 はぁ、と息をつくとカバンの中からいくつかの道具を取り出す。まずは紙を二枚取り出してペンで同じ絵を描く。


 (この泉、どちらかと言うと地底湖みたいな感じなのね、だとしたらただの休憩所とするよりもリラックス出来るように…そうね、湖の中心に屋根付きの六角形のガス灯みたいなやつなんていいわね。バックアップマンもこういうのは喜んでやってくれそうだし)


 バックアップマン、ポイントマンと同じギルドの職員で主にシルバーランク以上の元冒険者で構成されている。その仕事は迷宮や洞窟での休憩所の設置、山などでは一合目から頂上までルートの確保一合ごとにキャンプ地を設置する、要するに冒険者のバックアップを担当している。


 「あー、でも少しだけ楽させるためにも桟橋くらいは作ろうかしら、木材残っていたかな?あったあった、でも少ないから結構手抜きになっちゃうけど…まぁ、何もしないよりかはいいよね」


 予め泉周辺に魔物避けのお香を焚いて桟橋に旗を立てて万が一のために結界を張っておく。


 (バックアップマンに結界破りの付与武器渡さないと)


 一通りの作業を終えるとまた手で水をすくい飲み、その場を後にする。


 (ここに新人さんは来ないからあの心配はしなくてよさそうね)


 あの心配とは、分かりやすく言うと間接キスのようなものだ、説明するまでもないが間接キスはペットボトルや缶の飲み物を共有することで発生する間接的なキスの事でそれに似たような感じでこの様な事が起こる。


 例えば馬が飲んだ水飲み場の水を飲もうと思うだろうか?大体の人は馬が使ったのだからそれは馬用だろ?と思うがもしその水が無害だとしたら?まぁ、それでも馬用と決めつけて飲まない人がいる。他人が使ったものだからと言って自分が何も口に付けない、これが新人がよくする思考だ、まぁ、言いたいことは分からなくもない。だって私が元々そういう人だったし


 他人が使った所で水なんて飲んだらどんな菌が入るか分かったもんじゃないって思ってた時があったが、今ではそういうことを思わなくなった。そもそも他人=病原菌を持っているなんて決めつけているのだろう?本だってタイトルを見ただけじゃそれの面白さを理解できないだろう。表紙で価値観を決めつけないでちゃんと中身を見て判断しろって事だ。


 更に奥へ進み泉から100mくらい離れた場所で異臭がした、ただこの臭いは冒険者にとっては日常茶飯事、洞窟任務を専門に依頼を受けているなら尚の事当然の事と言える。数日前から迷宮に潜っていたアリアにもそれは例外ではない。


 「さぁて、二つともまとめてお掃除しないとね」


 再びバッグから何かを取り出す、手のひらサイズのチューブサイズ的にはクリーム状の薬液だろう、それを鼻の周りに塗り、ブツブツを呟くとアリアを中心に波が辺りに漂い水はぐんぐんと洞窟の奥へと流れていくアクアリウムを使った。それに驚いたのか魔物が驚き、敵意を持って群れで襲いかかってくる。


 アリアは近くの石ころを持つとそれはぐにゃりと粘土のように形を変えて槍の形に変形した。槍は歪な形をして切先がバネのようにうねうねと枝分かれしている。それは螺旋槍投擲することで周りの敵も巻き込める対大人数武器、アリアはそれを魔物たちに向けて投擲する。


 魔物たちは狭い通路に固まっていたため避けることが出来ずにふき飛ばされる、しかし、威力がイマイチなのか倒したのはほんの一部だったようだ。魔物の群れは仲間が倒されてなお突撃してくる。


 (アーミーモンキーにグレイトポネラ、少し後ろにいるのはよく見えないけれどリザードブラウンかな…?ま、どちらにせよ)


 アリアは石を拾っては形を変えて何度も何度も魔物たちに投げる。最初こそ近づき攻撃を与えられていた魔物たちもすぐに返り討ちになり、残りが10体程になると我先にと洞窟の奥へと戻っていく。


 先程のアクアリウムは魔物をおびき寄せる為だけに放ったものじゃない。この洞窟は長らく放置されていた場所、ギルドの管理下になっていない所だ。つまり動物や魔物の排泄物、つまり糞尿がそこら中に散らばっている。倒した魔物の血液も混ざっている、片付けても片付けてもそれを掃除するのがいなければ酷い臭いが鼻につく、それを洗い流すためにアクアリウムレベルの強い水圧で臭いが染みついた岩壁を削ったり洗い流したりする。


 「よし、こんなところかな」


 カバンからマジックポーションを飲みながら魔物たちが逃げて行った方に足を運ぶ。チリーンチリーンと懐で音を発している音波計、音波で地形を把握して洞窟の地図を作製する。それ程大きな音波ではない為人体に影響は無いが、聴覚が鋭い魔物などに位置を知らせる事にもなる為、余程の安全が確保されているかその場所の難易度を凌駕する戦闘力があるのどちらかがないと安心できない。今回の場合は両方だ。


 逃げた魔物は、この音がする=アリアが近くにいる。と思う事で隠れるだろうしレベルが下がっているとはいえロストレガリアを所持しているアリアはゴールドランクの冒険者が束になっても勝てないだろう。


 因みに先程使った石を変形させていたのはロストレガリア「ユニコーンの瞳」瞳と言う名が付いているが目玉ではなく宝石が埋め込まれたブレスレット、装着した手で触れた物を思いのままに変形させることが出来る。


 しかし、無生物を生物に出来なかったりそもそも生物に適応されなかったり、構造や仕組みを理解していなかったりするとその真価を発揮できない為、それ相応の知識が必要。それに変形させた物はずっとそのままというわけではなくおよそ30m以上離れると元の形に戻ってしまう。それを差し引いても装備する価値はある。


 何せ構造と仕組みさえ理解していれば聖剣だろうと魔剣だろうと作れるのだから、まぁ、いくら何でも聖剣が出来る工程を見たことはないからもしロストレガリアで聖剣を真似るよりかは世界中探し回って自分で聖剣を作る方が遥かに時間短縮になる。聖剣を作れる人がその工程を見せるなんていうのもあり得ない話だし。


 「さてと、ここボスはいないみたいね。少し拍子抜けだけど、分かれ道もないしわざわざ岩壁壊して出入口を増やす手間もないから楽だけどね。ま、攻略した人たちへの労い…は依頼者から貰えるか」


 最近はレベル上げついでの迷宮探索でギルドに全く顔を出せていない状況、一応ギルドマスターは代理を頼んだけれど、必ず私自身が確認しないといけない案件が出て来る。それが10個以上かもっと多いか、取りあえず後はここから脱出して残りの迷宮を攻略するとしよう。


 「あ…次で最後か」


 リストを見てみると次の所で最後、特にどの順番で攻略するかは決めていなかったが、無意識に攻略して最後に残った場所を見て少し顔を曇らせる。


 その場所はこの国で一番標高が高い山、それだけならまだしも登山家はおろかプラチナランクのの冒険者でさえも立ち入りが禁止されている第一級危険区域、立ち入りが許可されるのは異例中の異例。


 その立ち入り禁止理由は登山の難易度だけでなく断崖絶壁の多さ、一度落ちたら即死は免れないクレバスそして何より、一匹でウスタリア平原と同等レベルの魔物の巣窟、何度かアリアとゲンブが2人で掃除をしに行ったことがあるが、珍しく傷を負った事がある。


 その迷宮の入り口が山頂付近にあると書かれている。普段ならそのまま流して目的地に行くが今の状態で行くのは少し不安がある。


 ステータスを確認してみる、あの山に赴いたのは大体75レべルの時だった。今のレベルは38、丁度半分くらいのレベル差、だけど、あの時とは装備している物も魔法の強さも当時より桁違いに上昇している。装備品込みの戦力を考えると現在のレベルは80相当になる。


 「でも、もう少し欲しいな」


 安全第一、無策で突っ込んで痛い目に会うのは何回もあった。それなら自分にとって有利な物をいっぱい持って行ってもいいんじゃないか?


 懐から笛を取り出して吹く。その音は人間の聴覚には反応しない、しかし、それに反応する動物がこの国にはいる。


 笛を吹いて1分経つと遠くから音が聞こえてくる。それは十数秒で視認できる距離に近付いている。馬だ、10頭以上の馬がものすごい勢いでやって来た馬の群れはアリアの前で減速してすり寄ってくる。


 「やあ、みんなよく来てくれたね、あれ、思ったよりもいっぱい来てくれたな、よしよし」

次回12月中旬予定

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