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第十六部 二章 はた迷惑な愛され少女

 4月21日


 View アイシャ


 「……」


 「あはは……」


 ある日突然に美奈が家に泊めてほしいと言ってきて苦虫を嚙み潰したような顔をしたらそれに苦笑いで返してきた。このままにらめっこをしていても埒が明かないと思って取りあえず上がるだけ上がってもらって理由を聞いて返そうと思ったらその理由が思ったより衝撃的だった。


 「え…美奈ちゃんの家って僕の家系とか入ってないよね…?気孔術をつかえないんだよね?それで家がたった2人の喧嘩で4割スクラップになるってそんなマ…ま ไม่มีทาง(読み マイミーターン 意味 絶対にない)」

 (あっぶな…そうだよね。この世界はそういうことが起こりやすいんだった。当たり前のことを漫画やアニメに例えたら変な目で見られるに決まっている)

 

 「私もあんなことになるとは思わなかったよ。いつも温厚なおじいちゃんが…まぁ、今はそんな事どうでもよくてその壊れたところに私の自室も含まれていてね、残った部屋も散らかってボロボロだから住める状態じゃないの、メイドや家族の伝手を使って修復は進めてはいるのだけれど、流石に一日や二日でできる訳ないでしょ?だから、その間おとまりさせてくれないかなーって」


 「……理由は理解したけれど、それなら他の人に頼るとかは無いの?僕の他にも特にリラが適任だと思うのだけど、王国の姫君なら別邸の一つや二つすぐに用意できるだろ?」


 「私も最初に頼ろうと思っていたんだけど、その事を聞いたら何というか…違和感と言うか、そうだね」


 美奈は少し言葉を考えて耳を貸してというジェスチャーをして声を潜めて話す。


 「多分、今のリラは偽物、つまり影武者だと思う」


 影武者という単語に少し「えっ」と言葉を漏らすも美奈はそのまま話し続ける。


 「長い付き合いだから分かったんだけど、その断り方が違和感を感じたんだよね。今までの断り方はなぜ断るかの理由を言って断るのにそれが逆だったの最初にYES/NOを答えて後から理由を述べる。あの時は家の事で頭がいっぱいだから違和感しか感じなかったんだけど今さっき冷静に考えたらそうなんじゃないかなって思ったんだ」


 「僕はその場に居なかったし、会話も聞こえなかったから今美奈が言ってることが気味が悪いとしか思えないんだよな、俺にとってはもう心理的に離れて行ってるとしか…」


 「ま、まぁまぁ、とりあえず今は生きるための衣食住の一つがないわけなの、だから少しの間でいいからね?お願い、レイラは何か教育?や家事とかなんかで忙しいってそれに電話越しで声色から「いちいち軽々しく来るんじゃねぇ」って言うのが感じられたからもう頼れるのがアイシャしかいないの!お願い」


 「……ランク」


 「はい、ここに」


 「うちに開いている部屋はある?掃除が行き届いて寝るのにも適した場所」


 「それでしたら旧修練所はどうでしょうか、あまり使うところではないですし、休憩スペースも近くにあるので寝具さえ持っていけば下手な個室よりマシだと思います」


 「ならそこにするか。聞いたね美奈そこを貸すけど、掃除とかは自分でやってね。まぁ、魔法を使えるのならそれくらい楽にできるだろう」


 「あ、ありがとうアイシャぁ!!」


 「あー、もう抱きつくなぁ!暑苦しいっ!」


 傍から見るとプライベートが激しい親友かシスコン姉妹がいちゃついてる光景を見ながらランクが何か思いついた様子。


 「美奈さん…でよろしいでしょうか、もしよろしければお嬢の組手の練習相手になっていただけませんか」


 「はい?」


 「ら、ランク何を言って…」


 「今までは自身だけの運動に留めていたのですが対人戦をやっていなくて…あの日のバトルアリーナが唯一の対人戦だったんです。その前に一回対人戦をさせようとしたのですが、一番身長が低い奴でも差が…ね」


 説明の後半に行くにつれて言葉が途切れつつ目の光がなくなって虚空を見るがその目線はアイシャの頭を見下ろすようになっている。


 「ママが前に言っていたらしいんだけど「身長は私に似ない方がいいわね~」って言ってたらしくて食事にも長身効果があるらしい物にしたらしいんだけど、何故かそれが胸ばかりに行ってよりママと似るように…」


 自分で言っておきながら少し悲しくなってくる。この姿になってから身体が柔らかくなったのが嬉しくて柔軟体操とか毎日欠かさずやっていたが激しい動きで胸の付け根が痛くてスポブラもほんの一ヶ月で3回買い替えた。


 「えーと…うん、えっと組手の相手をやるのは構いませんが私って殆ど身体を動かすのが苦手で基礎訓練さえ受ければ触り程度レベル出来るようになると思いますが…それで構いませんか?本当に自身で自覚する程度に下手なので…」


 「構いません構いません。それにどうぞ私についてもどうぞ砕けた会話で結構ですよ、お嬢のお友達に無理をさせる訳にはいきません」


 「あー、では…ゴホンッよろしくね!ランク」


 「…ククッ、いいものですね。ではお時間もまだ時間があるのでお部屋に案内しましょうか、お荷物も持ちますよ」


 「それなら僕は日用品でも持ってこようかな、僕が使ってるものだから共有物になるけど」


 「うんっ贅沢は言わないよ」


 本当に妙な所で遠慮するよな。俺も相手が本当に嫌なことはしないようにしているけれどそれで「押しが弱い」って言われることがあったけれど美奈はちゃんとそれらの区別がついているイメージ通りなのがいい子を更に強調している。


 「外見はどうあれ内面的にこういう子と結婚したかったな」


 「何か言った?」


 「いいや、何もそれじゃパパッと運んじまおうか」


 その後、一通りの荷物を運ぶ美奈が家から持って来たものは以外にも少なく、家の鍵、財布、スマホと替えの洋服に保存が効く食材やお菓子主に乾燥食品が多かった。


 「なるほどな…衣食住の1つしかないと言っていたのはそういう事か」


 「本当は雨風凌げればいいと思ったんだけど、おじいちゃんや両親がね…」


 「簡単に想像できるな。千麟家の方々は美奈を大層可愛がっているのが見て取れる」


 「よいしょっ…とひとまずはこれくらいでいいかな、早速相手をしてもらう…と言いたいが30分くらい休憩するか、荷物運んだせいで万全とは言えないからな」


 「お嬢の言う通り、演習でも実践でも万全の状態でないといけない。最初は少し動きの基礎を私が教えるからそれまでに十分な休息を取ってください」


 そう言うとランクは「先に訓練場に行ってます」と言いその場を去って行く。


 「美奈ちゃんって運動着持っている?無いんだったら僕のを貸すけど」


 「運動着じゃなくても動きやすかったりしたらいいのならいくつかあるよ。例えば…」


 次の瞬間、一瞬だけ美奈の周りに熱気が纏わりそれに驚き一瞬目を瞑って目を開けると炎のドレスを纏った赤い髪の美奈が立っていた。


 「あー、ただイメージするだけだとドレスになっちゃうんだ」


 美奈が「んっんんっ…」と頬を膨らませて気張ると段々とドレスが形を変えて軽装になった。


 「ほーん、便利なものだな、でもそれって炎で出来ているんだろう?僕が触ったら火傷しないか?」


 「それなら大丈夫、原理は分からないけれど火の温度は変えられるからそれを常温に近付けたら、ほら」


 美奈に手を引かれて服に手を当てると火の熱気特有の息苦しさは少し感じるがそれ以外には布地の服と同じ感触がする。


 「…魔法って便利なんだな、僕も何か魔法が使えたらいいのに」


 「気孔術だって十分いいじゃない、唯一の女性気孔術継承者それだけで素晴らしい才能だと思うよ」


 「……そう。ありがと」


 これ絶対ナチュラルで褒めているよな。あぁ、大人になってもこういうのが残っていれば結婚したい。なんで小学生で結婚できないんだろう。子供を作れないんだろう、生理が来てないからだよねそうですよね。


 この世の理不尽さに嘆きながら訓練場に向かう。ポケットに入れているヘアゴムを取り出しながらふと気が付く


 「でも、美奈ちゃんはそれだけじゃなくって髪型も変えないのか?運動するときに髪が長いと激しい動きの時に目に掛かったり口に入ったりして支障があるんじゃないか?」


 「言われてみるとそうかも?でも運動に適した髪型ってどういうのがあるのかな?」


 「そうだな…俺の場合はポニーテールにしてあるけれど、上で止められる奴がいいんじゃないか?他には首筋、つまりうなじが見える少し上で縛ったり、逆にツインテールは無理かな美奈は髪長いし、レギュラー、サイドテール…お団子でもいいんじゃね?せっかくだから僕が縛ってやるよ」


 数分後


 訓練場にはすでにランクがストレッチをしながら待っていた。


 「遅かったね…おや、お揃いか?よく似合っているよ」


 美奈に施したのはポニーテール前にリラに三つ編みをしようとしたらサラサラ髪のせいで失敗した事を思い出して一番やりやすくて馴染みのあるポニーテールにした。


 美奈はあまり髪型をいじったことが無いのか縛ったところを触って何か思いつめたような顔をしている、いや、これはどちらかと言うと新鮮さに酔っている。


 「それじゃあ、まずは柔軟体操をして身体をほぐしていこうか」


 美奈と適度な距離を取って、腕を回したり一通りの柔軟体操をした後…


 「そうだ、せっかく身長が近いんだし二人組で身体を伸ばした方がいい」


 「それもそうだね。こういうのは手伝ってあげた方が効率がいいからな、それじゃあ早速美奈ちゃんの身体から、せーのっ」


 次の瞬間、美奈の体から「バキッバキ ベキィッ ボキボキッ ガッガッ」と鈍い音が一斉に聞こえた。


 「んっ結構伸びた」


 「えっ…い、痛くないの?」


 「痛い3割気持ちいい7割ってところかなあまり身体動かさないから、結構いい音なるんだね」


 そう言う美奈の声と身体は震えている。自分でも身体からあんな音が出たのが驚いたんだろう。だけど…それ以上に俺の体は心臓が早鐘を打ち歯をカチカチ鳴らしてしまう。一度の死が脳裏に浮かぶ、何度も石階段に身体を打ち付け最後は暗く冷たい、まるで雪の中に閉じ込められたような、あの事を思い出して膝をつきそうになるのを堪える。が恐怖で少しの間動くことが出来なかった。


 数分後


 「上手い、少し学んだだけで型をマスターするなんてセンスあるよ」


 「そ、そうかな?物覚えだけよくてもそれに身体がついて行かなきゃ意味ないんじゃない?」


 「確かに、相手の攻撃に反射的な体勢をとることはあります。一般的には片足立ちで腕を顔と身体をガードするのがある」


 そう言うとランクは攻撃態勢に入る。その気に当てられた美奈は今さっきランクから言われた通りの体勢を取る。


 「そうそう、その体勢」


 その言葉に美奈はハッと気付き自分の身体をまじまじと見つめ不思議そうな顔をする。


 「武を学んでないと大抵の人はその様な体制をとる。片足を狙われたらバランス崩すし攻撃を腕に集中させるから使い物にならない腕になる可能性もある。まぁ一概に馬鹿には出来ない体勢ではありますが」


 「終わった?それじゃあ、さっそく僕とやってみよっか」


 対面する時には既に臨戦態勢と言える武道の心得がある人特有の身のこなしを見せている。


 (これは試合だけど今回は魔法もなし、武術と肉弾攻撃のみの戦い。美奈のスタイルには合わないかもしれないけれど、前のリベンジマッチだと思って本気でやってみるか)


 身長差は僅か5㎝されどその少しの差が勝敗を分ける事もある、一歩また一歩と詰め寄り拳を突き出す。


 それからの勝負はほとんど一方的だった。美奈の言う通り型は完ぺきだったが力などを使うことにストッパーがかかっている。普段から魔法を使う事が戦いの主体になっている美奈にとって自分から肉弾戦を持ち込むことが頭から抜けているのだろう。


 バトルアリーナでも最初は魔法で遠距離から攻撃をして距離を詰められたら逃げつつ足元にトラップを仕掛ける、自身を武器にして戦う事を意識していない。


 しかし、技術に関しては一級品と言っていいだろう。10回勝負をして最後の一戦の時、一回だけこちらの攻撃に対して技術でいなした。気孔術を使っていないとはいえ肉弾戦が主体のこの身体の攻撃に後手で防御するなんて出来ないはずだが…だけどなぜだろう。少しだけその発想に覚えがある…?


 でも、今それは関係ない。美奈の戦い方は点数で表すなら30点端的に言えば赤点だ。力の伝達が身体に伝わるのに時間がかかる、長くても約一秒で終わらせなくてはならない。


 (まぁ、ストアドのステータスを見ても肉弾戦には向いてなさそうだし苦手なことを教唆するのは悪いかな、だからランクを止めようとしたけど、多分ランクは自分が相手だと身長が合わないから対人戦をするなら丁度いいって思ったんだろうな)


 ズコーッとすでに飲み干した紙パックの野菜ジュースのストローを吸いながらそう思い椅子に座って息を切らしている美奈を見る。


 (改めてみると年齢による平均的な筋力より少し劣るくらいかな、もしあのお茶会の時、美奈が誘拐されていたと思うとうかつに手を出せなかったな…まぁ、それも魔法が使えない或いは封じられていればの話しだけど)


 「どう?美奈ちゃん疲れが取れないなら今日はこれくらいにして部屋で休んだ方がいいんじゃないか?」


 「あ、りがとう…はぁ、慣れない事…ふぅ、をしたから……少し疲れ…ちゃった」


 「美奈はこの程度でも過度な運動らしいのですね。次はもっと負担が少ない体の動かし方を考えないと…確か旦那様の部屋に…」


 ランクがぶつぶつと言っているのを横目に肩を貸しながら部屋に戻る。するとある事に気が付いた。


 「さっきからやけに静かと思ったら精霊達はどこにいるんだ?姿を消しているのか?」


 「あぁ、それなんだけど…アイシャ何を飼っているの?それに警戒しているみたい」


 その言葉に一瞬固まってしまった。この場には俺と美奈、それと精霊達しかいない、もしかしたら霊的なものかと思ったがそれは一瞬の事ですぐに何のことか理解する。


 「…おいでエリィ、エル」


 そう言うと床下からにゅるんと顔が出るとそのままするりと出て来て身体を登ってエルは両手でお椀を作った中にエリィは右肩に丸くなる。


 「この子達を警戒していたのかなエルならあまり危険は無いけれどエリィは気をつけてねお腹の毛以外には毒があるから特に鬣の毛が硬くてチリチリ痺れるんだ。慣れれば電気マッサージみたいで癖になるけど」


 「そう…だったんだ、大丈夫だよみんな狐みたいな子なら安心みたいだよ」


 美奈がそう言うともぞもぞとポニーテールの中や服の隙間から精霊達が出てくるが、いつも見る笑顔ではなく少し険しい表情を浮かべていた。エルは精霊達を見てはいるが特に何か行動するわけでもなくただ見ているだけ、一方エリィは興味津々らしくて美奈の足元でゴロンと寝転がってお腹を見せる。最初精霊達は少しだけ触ると美奈の後ろに隠れたが、しばらくそれを繰り返すと大人しい事に気付いたのかはしゃいだ様子でエルの背中に乗って部屋を駆けたり、エリィのお腹をクッション代わりにして寝転んだりして以外にも馴染むのが早かった。

次回11月末予定

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