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第十六部 一章 帰国

 「んんっ…う…?」


 目を開けると薄ぼんやりとした明かりが天井を照らしている。もそりと体を起こして灯りの方を向くとシーラが読書をしている。


 「あ、起きた」


 自分が目が覚めた事を確認したシーラは本にしおりを挟んで近くに来る。その表情はいつもと違う感じで心配しているようだったが言葉遣いは普段の平静さを無理矢理張り付けているようだった。


 「まずは謝らせてちょうだい、あの時はごめんなさい。あなたがダンジョンに引き込まれる際に気配を全く感じられなかったとはいえ全速力で走れば兵士たちに止められないで行けたのに…怖かったでしょう?」


 シーラの話しでダンジョンの事を思い返す。ダンジョンで感じた不自然さ、階層の異質な事についてシーラに話すとシーラはその現象を知っているようにすらすらと説明してくれた。


 「それは間違いないわね…ダンジョンの基本情報にその構成詳細に載っているのだけれど酷似しているから間違いないと思う」


 ダンジョンが出来る際まずはそれを作る人即ち「ダンジョンメイカー」が必要となる。これは後から知ったことだが「空間の裂け目」も同じ原理らしい。


 ダンジョンは洞窟や洞穴の奥深くでダンジョンの核となるモンスター或いは魔法的な呪物を「ダンジョンコア」として設定する。ここまでが第一段階、ダンジョンが出来るまでの過程はアゲハ蝶の成長に似ていると言われている。第一段階はまだ卵の状態。


 次にフロアの構成、元々あった洞穴や洞窟を利用したとしてもそれを意のままに操るのはダンジョンコアの役目、元々そういうプログラムを設定してあるらしい最初は小さな一部屋が段々大きくなっていき大部屋になる。それが卵がかえり幼虫としての段階。


 そして、終齢幼虫の状態、これが自分が挑んだ時の状態だったという。大部屋になったダンジョンコアはその部屋を伸ばして小分けにして道を作る。作ったばかりは一本道で宝箱はおろか生み出す魔物も最低限でしか作成できない。出来たとしてもダンジョンコア自体がそれによるエネルギーを使い果たして自滅する可能性があるため、リミッターをかけている。


 そしてサナギ、ダンジョンとして完成する最終段階、階層の作成に入る。いくつもの分かれ道を作り、魔物の住処として適した環境が構成されて、ダンジョンコア自体も成長していく。


 それを繰り返して成虫、ダンジョンの出来上がりというわけだ。


 「なぜアゲハ蝶の成長と例えられているのかという点についてはね、その時間が偶然かほとんど同じなの、休憩時間を惜しんでやったら一ヶ月ちょっとで出来るの、ダンジョンは。それを考えるとリラちゃんが挑んだ時は大体…半月程で出来たものでしょうね」


 「では、あの引きずり込まれた手は何だったのでしょう?」


 それを聞くと少し難しい顔をする。答えようと口を開いては言葉を選んでいるように口ごもる。


 「あー、冷静になって聞いてね?あの手は多分「ブケハンド」と呼ばれる魔法なの。魔力の塊が手の形になって意のままに操れると言えば分かりやすいかな。それは多分ダンジョンメイカーがやったとしか思えないの、さっきも言ったけどダンジョンコアはモンスターか呪物が主流ダンジョンメイカー自身がダンジョンコアになるなんて生涯を研究に費やすとかしょうもない理由が過去例としてあるけど、今じゃ聖遺物を利用して出来るから…つまり」


 「ダンジョンメイカーが私を連れ去るようにした…と」


 「きな臭い話しでしょう?なーんかタイミングがとんとん拍子で進んでいるように思えて仕方ない。まるで疫病神でも憑いてるのかと思うぐらい」


 (でも、そうなる理由には誰かの手が引いていないと起こり得ない…見破って見せるわ。それがミッションクリアに関わるのなら尚の事)


 「でも、それなら犯人の目星はついているんですよね?私も同じだと思います」


 「その通り、いや今思い返すと悔しいな。不自然な点はいくつかあったのにそれにすっかり騙されるなんて…」


 「噓と本当が巧妙に織り込まれているのは例え心理学を極めている人でも見破るのは困難でしょうからね」


 そこで常に先手を取り続けていい気になっている奴に後手にしかできない方法で目星の中からあぶりだす方法をいくつか話す、すると…


 「いや面倒だから全部やっちゃいましょう、お手並みも見てみたいし…もしかしたら噓みたいに上手くいく可能性も低くはないかもしれない」


 (それにしてもリラちゃんがまさか、ねちょぐちょ系が苦手だったなんて…腕が立つとは言えそこはやっぱり子どもなんだなぁ…フフフッ、いい事気づいちゃった)


 2人で目を光らせた数時間後、大会議の場所は昨日と同じ場所で既に何人か揃っている。しかし、その中にリラの姿はまだない。時刻は予定時刻3分前ぞろぞろと使者の人が集まり、予定時刻が30秒前に扉が開かれリラが入室する。


 リラを見た人々は安堵したような顔をしたり思わず胸をなでおろす人もいる…一部を除いて


 「…イザベラ」


 「はい…見つけました手筈通りに事を進めます」


 席に着くと昨日とほぼ同じ挨拶から始まり大会議が始まる、昨日さんざんダメ出しした所をキチンと抑えているようで昨日の滞りが少なく昨日と同じ内容が殆どだったため、新しい提案と言ったものを除き大会議は予定より早く終わった。


 しかし、それだけでは終わらない。


 4月21日


 三日目、最終日前日はに今回の大会議などで纏められた報告書がホスト国から配られてそれを持って自国へ帰還する準備のみ使者としての仕事はもちろんだが、国の中心と言われる所を土産話として持ち帰るため報告書が届く前と後は観光を楽しむことができる。


 その裏である事が起きようとしていた。


 「はぁ、はぁ、」


 その日の夜、ある男が国の外れにある森林地帯を走っていた。


 「クソッ!あのガキをダンジョンで始末する予定が台無しだ…!」


 彼は今回の使者の一人カルミリナから来た者。彼もリラと同じ王族の家系の血縁者で今回の使者として立候補した。しかし、その目的は他国の経済破綻を狙い援助をわざと行うことで国全てを取り込む略奪行為だった。


 今回では周辺国の関係者に援助を行うふりをして疲労を誘い、判断力をさり気なく低下させて限りなく洗脳に近い支配を促す。これは実際に行われた事があり、インターネットのサイトで、「最初は○○をする。」という簡単な事をさせ段々と難しい事をさせる。その中には「腕にナイフでクジラの絵を描く」という普通だったら出来ない事を判断力を低下させて最後には自殺をさせる事件が過去にあった。


 しかしそれも大会議でリラにことごとく指摘されてしかも修正されたことによって打ち砕かれた。これはまずいと思った彼は以前潜り込ませていた部隊に製作途中のダンジョンでリラを始末するようにしたが、それも失敗した。


 「まだだ、あの兵器を使ってシャリア王国諸共焼き尽くせば…」


 一歩、彼が踏み出そうとした時、力が入らずその場で倒れそうになる。それでも倒れなかったのはある人が支えるように正面から受け止めたからだ。だが、その時彼の顔は苦痛に歪んだ。


 「がぁっ!?うぅ…」


 膝から崩れ落ちるようにうずくまった彼に目深にフードを被った者…シーラは無感情なまま見下す。


 「失礼、このまま逃がすのは少々面倒なので、一息にサクッと逝かせようとしたのですが…運悪く芯にすら届きませんでした」


 「き、貴様…誰に向かって無礼を働いたと思っている!!俺は…ぐぅぅ!!」


 「話している暇があったら反撃ぐらいしたらどうです?ほら、神経を狙ったからもう身体の自由が利かないでしょう、それに私…いや私たちはあなたを殺すことが仕事なので、依頼は完遂しないと…」


 その時、シーラはチラリと彼の後ろにある巨木の上を見る。


 「と言いたいところですが、あなたの命を狙っているのは私たちだけではないようなので、任せましょう」


 「あぁ?」


 そこまで言うと彼の背後からトンと音が聞こえる。その瞬間彼は驚愕の表情を浮かべて倒れる。するとシーラは左手をあげるとどこに潜んでいたか同じローブを被った人物が茂みや枝木から出て来た。


 「アンタらはこいつと同じクズの息がかかった奴らをスパッとやって来なさい。もちろん首謀者もね、事故死や失踪に見せかけるのも忘れずに、あぁ、あんたたちは残ってこいつの片付けを…」


 ローブの集団は「はっ」と了承すると即座に行動する。シーラは振り返りトドメを刺した者の方向へ顔を向けるがそこには既に誰もいない。


 「なんだ、挨拶もなしか」


 シーラは内ポケットの中からスマホを取り出すと通話を始める。


 「もしもし、私です。任務完了しましたのでその報告をしますね。ご希望の通り王族の家系の殺害を完了しました。ターゲットはカルミリナの…ドミーですね。現在は後片付けをしています…はい、ではしばらくの間休暇をいただきますね。詳細は後片付けをした方々にお伺いください」


 通話を切るとシーラは身体を伸ばして軽い足取りでカンカルディアで待っているリラの元へ戻ろうとする。するとドミーの片付けをしていた一人が話しかけてくる。


 「シーラ様、こいつの死因はどのようにしましょう」


 「適当でいいわ、不正が露見したことに心身追い詰められて自害したりとにかくカルミリナの悪評が強調されるようなものがいいんじゃない?そういう悪い事をしたやつが何兆倍にして返されるのって私も大好きなんだし」


 フフフッと笑うとそれにつられるようにクククッと小さく笑う。


 「結局、近々起きていた騒ぎはぜーんぶ、こいつらがやってたって事か…そうなんだよね」


 近くの茂みからガサガサと音がするとその方向には多くのモンスターや魔物が舌なめずりをしたり唸り声をあげながら明らかな敵意を持ってジリジリとにじり寄ってくる。


 「はぁ~こいつの護衛として来てたんだろうけど遅かったうえに殺されても任務を全うしようとしているとはね…そこは評価するべきだよ」


 魔物たちは全て危険度を持つ非常に危険な生物たち、シーラは無感情で言葉を続け、近くの片づけをしている人も作業の手を止めない。その間にも魔物たちは数を増やして今にも襲いかかろうとしている。


 「そんなことより、殺されてくれって?…アンタらの言葉とか知らないから何とも言えないんだけどさ、今この場にいるのは足手まといが一人もいないんだよ、それに私達にかすり傷一つでもつけたいのならさ」


 次の瞬間、ブワリと風が吹いてローブの中が月明かりに一瞬照らされる。黒光りするいくつもの「何か」その中からシーラは適当に2つを取り出して目を見開く。


 「あと5万倍は足りないんだよ、虫けら共」


 同時刻 カンカルディア ホテル地下3階


 View リラ


「よっと」


 垂らした釣り糸を引き上げる。そこに引っかかっていたのは大きな鮭、それを見て周りの人達はどよめき中には巻き尺と計量器を持って駆け寄る。


 「直径72㎝重さ34kgどっちもトップレベルの大物だ!」


 それを聞くと周りの人達は俺に詰め寄ってくる。


 「嬢ちゃんすげえな!親父さんとママさんは凄腕の漁師か?」


 「あー、くっそぉ、俺の記録抜かれちまったよ。でも可愛いから強く怒れねぇ!」


 イザベラ…いや、シーラがまた野暮用が出来たって出て行ったあと手持ち無沙汰になった時にホテルの館内放送で地下の釣り場で大会があると聞いて観戦するだけの予定が何故か飛び入り参加する事になった。


 その結果、割といい結果が出た。


 (どうしてこうなった)


 「これで鮭のトップは決まったか?次のターゲットはなんだ?」


 「しかし、地下にこんな場所があるとはな、どうなってんだ釣り仲間が出来たから嬉しいけどよ」


 この釣り場はただの釣り場ではなく水は全て海水をそのまま繋いでいる。養殖としても最適で釣った魚をその場で調理してくれる料理人に余った魚はそれ相応の値段で買い取ってくれる。


 とは言え飛び入りのため途中棄権になる…と思ったがその野暮用が結構長い。部屋に書き置きを残してここにいるとは書いていたけど、ちょっと時間がかかり過ぎだと思う。


 (飛行機の時間は結構余裕があるけれど、待たせるなら連絡入れてよ…って思ったらスマホに連絡先を登録されてなかった)


 その後も釣り大会で総合で2位になった結果、準優勝してその商品としてスキルオーブを貰った。


 スキルオーブは使用すると使用者のスキルが一つ解禁される。ゲームでは何のスキルが解禁されるかオーブの中のオブジェクトで分かる。そして今そのオーブの中のオブジェクトは釣り竿、言うまでもなく釣り関連のスキルだ…一応捨てるのも何だったから使ったけど。


 それからしばらくしてようやく帰ってきたシーラと合流して夜が明けるまでの仮眠を取って明け方と同時に空港へ向かった。


 不自然と思えるほどダンジョンから帰って来た後はスムーズに事が運んで自分にとってはそれが非日常な事と思えてそれを察してかシーラは「こんなことに慣れちゃいけないよ。こういう時はしばらくこういう事は起きないって思いなさい」と言ってた。


 分かってはいる。この世界でしばらく暮らしているが、まだまだ前世の記憶が根深く染みついている。その根拠が夢の中では俺は男で新庄とゲームセンターや本を読み合ったりしている。


 それだけではない。数か月前まで男として20年以上生きてきたんだ。ここでの生活に慣れたとしても20年も生きてきた経験がある以上、俺はそんな簡単に前世の…男だった事を手放そうとは思わないだろう。


 それでも、元の世界に戻れなくてもいいと思うのは戻れたからと言ってもし、自分の体が死んでいたらとかそう言う恐怖もある。だが、それと同じくらいここでの出会いと交流を手放したくないと思う。


 (…もし、俺がリラじゃなくて美奈やアイシャ、レイラになっていたとしたら前世の俺とは完全に決別出来ていたのかな)


 そんなもしもという事を考えたくてキリがないのにすぐに帰りたいという気持ちが思考をぶち壊してしまう。


 「リエラ、寂しがっているかな、また拗ねちゃったりしてたら今度はどんなことをして慰めてあげようかな」


 いや、呟いておきながらよく考えると本当にどうしようか、今回の事でどのくらい寂しかったかで冷たくなっちゃったりしそうなんだよな。ダンジョンであの大蛸に少しだけ締め付けられてダメージ負った事とか…あの時は気持ち悪さでダメージ受けたことが分からなかったけど。


 (そういえば常にHPが上に表示されるアイテムがあったっけON/OFF切り替える系のやつだったはず便利だから常にONにしていた記憶はあるけれど…ダメだ常にONにしていたからこそアイテムの名前が出て来ない)


 「ん~、どうしようかな~♪からあげ、海鮮丼、中華に郷土料理店、ん~~~食べたいものが多すぎて困っちゃう♪」


 隣ではご機嫌に鼻歌まじりに料理の名前を何度も言っているシーラ、それを見てある事を思い出した。


 「そうだ、シーラさん」


 「ん~、なあに?」


 「少し頼みたい依頼があるんです、これを前払いとして」


 そう言ってある写真を見せる。それにはシャリア王国各地の料理店のクーポン券や食べ放題チケット、それを見るとシーラは驚愕の表情を見せる。


 「完全成功報酬では更に上乗せしてタダ券をあげます。この前のバトルアリーナで色々と貰いまして、食べ物を楽しみたいけれどお金を節約したい気持ちもありますよね悪くない提案だと思いますがどうします?」


 傍から見ると怪しい取引をしている現場にしか見えないがそれを即答でOKをくれたシーラを見て少し黒い笑いを浮かべてしまう。

次回11月中旬予定

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