外伝 使用人の一日 ~サリアの場合~
こんにちは!私は千麟家の新人メイドのサリア・ウォルコットです。今日は私の一日を教えます。
~明朝 午前4時30分~
私たちメイドの朝はとても早いです。他のメイド達は5時に起きて身支度を済ませます。私は混雑する時間よりも少し早く起きて洗面台に向かいます。
もちろん同じ部屋のメイド友達に気づかれないように、ちなみに私たちメイドの寝室は10人部屋で2段ベッド5台にそれぞれの机にクローゼット、必要最低限のものは大抵揃っています。
そして、私がいる部屋は新人尚且つ10歳未満の子供達のメイド達が使う部屋です。
洗面台もメイド専用の場所がありますがそれはメイド間では共用なので全員が起床する5時以降は混雑します。私もここに配属された時は数十分も待たされました。
その後の長い習慣としていつもより早い時間に起きる術を手に入れることが出来ました。
「あら、今日も早いのね。サリア」
「おはようございます!メイド長」
「うふふ、今日も一日その元気で頑張ってね」
私達の先輩メイド兼師匠のメイド長、大旦那様から一ノ瀬 由華那という名前を頂いたらしいのですが滅多にその名を名乗る事は無いようです。決まった名前がないのは不便だと思いますが、初めて紹介された時も「メイド長と呼ぶように」の一言で締めくくられた記憶がインパクトが強かったです。
「顔を洗いながらでいいから聞いて、まずこれが今日のスケジュール、そして顔を洗い終わったら厨房に来てね。これはスケジュールに書いてないからちゃんと覚えておいて」
メイド長は言いたいことを言って直ぐに廊下へ出てしまいます。メイド長が何時に起きて何時に身支度を済ませているのか、それは本人以外に知る人はいません。それを知るには常に同じ行動をするぐらいでしょうか、でもそれをしようとした人はいないとか…
おっと、そろそろ他のメイド達が起きてしまいますね。そろそろ退散しないと。
~午前5時~
厨房に向かいながら、メイド長に手渡されたスケジュールにサッと目を通して確認します。
「ただいま参りました!」
厨房にはメイド長が慌ただしく動いており、美味しそうな匂いが漂っていました。
「来てくれたね、じゃあ赤い鍋の煮込み料理とオレンジ色の鍋のスープの様子を視て頂戴レシピは昨日と同じ、間違えないでね」
それを聞いて私は直ぐにお鍋の前に行きます。私の実家ではレシピとかを冷蔵庫のドアに磁石を挟むのですがここでは丸暗記でしか覚える術はありません。慣れるまでは先輩とペアで動くのがここでの基本らしいです。タイマーも掛けてあるデジタル時計か腕時計で測らないといけないらしくて、何でも音に気を取られて1秒でも遅れてしまうと味が落ちてしまうって…お嬢様のお友達のレイラさんが呟いていたからそれに影響されたっていう噂も…
お鍋の様子を視ていると廊下の方からバタバタと他のメイド達が洗面台に向かう足音が聞こえて来ました。後は今日の朝ご飯担当のスケジュールを持つメイドが来るまでお鍋の様子を見るだけです。
~午前5時30分~
さて、交代をした後は少しの間時間が空きます。30分の休憩、メイド同士で肩を揉み合ったり、お菓子を食べたりするのもいいですが私は玄関でポストのチェックをします。
千麟家の使用人はメイドしか居らず、男性の使用人つまり執事がいません。そのためでしょうかか弱い女性を思う親が多いみたいで千麟家への手紙よりメイド達への手紙が毎日のように送られてきます。
手紙を取ったらそれぞれのお部屋の横に備え付けられているメイド個人用のボックスに入れます。これで大体時間を潰せます。
~午前6時~
いよいよ、ここからが私の幸せな一日が始まります。私は千麟家の一人娘の美奈お嬢様の専属メイド、というわけでお嬢様を優しく起こしてお着換えのお手伝いをします。
ちなみに専属メイドは私の他にも何人かいます。大旦那様に一人、旦那様奥様両用に一人、親戚関係の方々に三人の私含めて計六人の専属メイドがいます。
専属メイドは親しみやすくする為にほぼ同年代か昔から仕えている人から選ばれるみたいです。私は最年少…というか同い年のメイドの中でも誕生日が遅いと言う理由で選ばれました。
「失礼します、サリアです」
お嬢様の部屋にノックをして声を掛けましたが返事がありません。しかし、ここからが専属メイドに許された権限が生きる時です。
専属メイドはお仕えする主の為に権限と責務が課せられます。その一つに起床時間にズレが生じない為に特定の主の部屋に無断でも入ることが出来ます。
部屋に入ると天蓋付きのベットで扉が開いた音も意に返さずスヤスヤと小さな寝息を立てているお嬢様が目に入りました。
気持ちよさそうに寝ている表情を見るとこのまま寝させてあげたいと思いますが、そう言っていられないので心苦しいのですが起こすとしましょう。
「お嬢様、起きてください朝ですよ」
お部屋のカーテンを開けて朝日を部屋に取り入れると眩しさに目を開けたのはお嬢様ではなくベッドの端にちょこんと横たわっていた緑色の髪を持つ精霊、ノースさんです。
「ん…もう朝か…?いい夢見たから早く感じるなあ…」
ノースがそう呟くと他の精霊達も連鎖して起きて最後にのそりとお嬢様も起きました。
「お嬢様おはようございます」
にこやかに挨拶をするとお嬢様は目を軽くこすりながら、身体を伸ばします。毎朝こうやるのが癖らしいです。
「おはようサリアちゃん、今日もパンのいい匂いね…んぅ…まだねみゅい…」
「すぐに朝食の準備が済みますのでパパッと支度を済ましていきましょう」
半ば強制的にお嬢様を起こしてパジャマのままお部屋の洗面台に移動して髪を整えます。お嬢様は自分で顔を洗い歯を磨いたりしている間私はお召し物の準備やシーツや掛け布団の替えを行います。これは一週間に一度なので毎日はやらなくていいです。
お着替えが済んだらお嬢様を食堂へとご案内します。特に階段は慎重に…
~午前6時半~
私達メイドは仕えている主人方達が食べ終わってから食事をしますが、例外的に専属メイドは主人様の隣で食事をすることが許されています。だけど食事の時間は約30分で終わるので特に変わりはありません。
~午前7時~
食事が終わったら屋敷全体の掃除に取り掛かります。一つの場所に3~5人程の人数で効率良く限られた時間の中であせらず急がず確実にそれが仕事です。
~午前7時半~
ここからはしばらくの間自由時間です。私は次のスケジュールが一日の中でとてもハードなので仮眠をとります。
~午前8時~
毎日の中で一番ハードなスケジュール、それは…メイド長との3時間半の模擬戦です。
お嬢様をお守りしたいと心に強く決めたあの日からはメイド長に懇願して毎日のように組み手をして貰えるようになりました。他のメイド達も訓練を受けたりしていましたが、3日も持たずに辞めてしまいました。
しかし、私は何度も何度もお嬢様の言葉を支えにして一日も欠かさずに稽古を受けています。
「…さて、今日はここまでにしましょうか。シャワーを浴びて着替えてきてください」
みっちりしごかれ無休憩の3時間半が終わって腰が砕けそうになるのを耐えつつシャワー室に向かいます。でも…何でメイド長は同じ事をやっているのに呼吸1つ乱さないのでしょう。ただの一回も「ふう」という溜息を聞いたことすらなく、全て当たり前のことをこなしている。ただそれだけの事と思っているのでしょうか。
~午前11時半~
シャワーを浴びてサッパリした後はお昼ご飯の準備です。と、言いたいところですが私はお昼ご飯の当番はあまりしません。一週間の内に私が担当するご飯の準備は月 水 土が朝食と夕飯
火 金 日が夕飯のみ、昼食を担当するのは木曜日だけになります。(今日は土曜日)
なので私はお嬢様をお呼びに行くだけになります。
~午後0時半~
午前の業務が終わり、午後のスケジュールを確認します。まずはお使いです。私以外にも荷物持ちの役割の先輩メイドの人たちと行動します。ちなみに私はメモ帳管理兼荷物持ちの両方です。
お使いではご主人様の他にも私達の欲しいものリストに書かれてある物も買わなきゃいけないのでそこそこの大荷物になることはよくある事です。なので荷台を引いて買い物に行きます。
~午後1時半~
荷台を引き玄関に着いたら待機している運搬係のメイド達に任せます。食料は厨房に日用品は決まった置き場所に、メイド達のリクエストした物はそれぞれ名前確認して個人個人に手渡しします。
~午後2時~
そろそろ3時、おやつの時間です。この時間はお嬢様の為にいくつかお菓子を作ります。クッキー、キャンディー先程のお使いで買った市販のグミやガムも食べますが、大体手作りのやつが多いです。
(あっ、そうだ昨日のドライフルーツの残りがあったはず、それも持って行こっと)
~午後3時~
お嬢様(+4精霊さん)はこの時間になると中庭にやってきます。習慣という感じですね。
丸いテーブルにお皿を並べてその中にお菓子をサラサラと袋から取り出す。
お菓子に合う紅茶も用意して優雅なアフタヌーンティータイムが始まります。
お嬢様はクッキーをまず精霊達に渡します。やっぱりお嬢様は優しく綺麗な人です。この人にお仕え出来て本当に良かった。
お嬢様は令嬢としての仕草も完璧で音も立てずに紅茶を飲むことが出来ます。淑女のおしとやかさというのはこういうことを言うのでしょうか。
私にとってこの時間はとっても楽しい時間で一番の休憩時間と言えます。
~午後3時半~
アフタヌーンティーが終わった後お嬢様をお部屋に送ります。その後は座学の時間です。
私達は学び舎である学校に行く時間がない為、奥様が直々に勉強を教えてくれます。分からない所も後で聞きに行けば丁寧に教えてくれます。
しかし、少しだけ疑問があるとすれば一つだけ…なぜ奥様がそこまでしてくれるのかが理解できません。
メイド達が全員、学がないというわけでななく有名な高校や秀才達が通うような大学を卒業しているメイドも千麟家で働いたりしています。なのにどうして奥様がわざわざ教えてくれるのでしょうか。
そういうことを任命できる人物は一人しかいない…大旦那様であるお嬢様の祖父、千麟 篝様以外にいない、個人的に大旦那様の意に一番忠実な人は奥様だと思う。だけどそれと座学を教える事に関連があるかと言われたら返答に困るが…うーん。考えても分からない事は時間の無駄でしょう。さて、メモメモ。
~午後5時45分~
座学が終わると既に空は夕焼けに染まっていました。お日様は見えませんが廊下から見える夕焼けの空は実家と変わらずによく見えます。夕日の反対側には既に星々が見えて月も登り始めています。今日は少し星が欠けている、十六夜でしょう。
さて、そろそろ夕飯の支度をする為に厨房に行きませんと。
~午後6時~
夕飯は食事当番が一番多い時です。一日の疲れを癒す為に栄養満点の物を何品も作り出来上がり次第すぐに食堂へ持っていき並べます。
作っては運び作っては運びの繰り返し味にもこだわっているため運び終わる時には大体6時55分になっていることが多いです。
~午後7時~
今日の夕飯は白エビのお味噌汁に漬物の小鉢、メインにハンバーグにエビフライとポテトフライ洋食三点盛りもちろん白米もあります。
夕飯は本日の出来事を軽く大旦那様が話し、乾杯の音頭を取りますその時皆さまがお酒を掲げます。しかし、未成年の美奈様やご親戚の未成年者は乾杯をした後、隣りに座っている成年者にお酒を渡します。
~午後8時~
夕飯が終わると私達はそそくさと着替えます防水のメイド服に着替えてお嬢様のご入浴のお手伝い、シャンプーハットやあかすりタオルの準備…はしますが最近はシャワーをするのはお嬢様が自分でやってしまいます。
魔法で髪を濡らし、シャンプーやボディウォッシュを洗い流して髪を乾かすのも魔法で、自分の事を自分でできるのはいい事ですが前みたいにお仕えできないというのは少し寂しいと思ったりします。
~午後9時~
午後の最後、お嬢様は9時半にはお眠りになります。私達は最後にみんなでお風呂に入ります。互いに洗いっこするのは実家でお姉ちゃんにしてもらったのを思い出して少し楽しいです。お姉ちゃん元気にしているかなぁ。
~午後10時~
そして就寝時間です。約6時間の就寝、最初は睡眠不足でしたが慣れると快適な睡眠時間になれます。
以上が私の一日のメイド日課です。いつかお嬢様に頼られる素敵なメイドになるのが私の夢です。
次回8月末予定




