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第二部 一章 美奈の実力

 サリアちゃんが覚醒してから数日後、マスコミや記者がようやく諦めたのか窓から外を見てみると門の前にはだれ一人いなかった。


 「ようやく、ぐっすりと寝られるようになったな」


 隣には美奈の祖父である千麟 篝が立っていた。


 「御爺様、ごきげんよう」


 「うん、美奈は丁寧にあいさつが出来て偉いな、どれ撫でてやろう」


 篝は優しくなでているようだが髪型が少し崩れてしまう。


 「さて、私らはそろそろ、出かけてくるが、美奈はちゃんと、お留守番をするんだぞ、おるすばん分かるか?お家に残っているんだ、メイドさん達とお家にいるんだぞ、分かったか?」


 「うん!いってらっしゃいませ、お帰りを待ってます」


 「いい子だな、うまくお留守番出来たら、今度お土産を買って来てやろう」


 家族達を玄関で笑顔で手を振って見送った後、大人しく自分の部屋で読書をしながら待っている。まだ美奈はスマホを持っていない、GPSなどが必要ないのだろう、外に出る必要もないし、用事もない、スマホが持てるのは学園に通うようになってからだと、お家ルールで決めたそうだ。


 だからといって、ずっと本を読んでいてもいつかは飽きる、食事以外やることはない。この家のメイドや親族一同の名前や年齢、職業なども把握済み、それ以外には特にやることもないし思いつかない。


 昼食は大体時間になったらサリアちゃんが呼びにくる、メイドさん達は主人である自分たちが食べ終わった後に自分用の料理を作るのだという、前にサリアちゃんにあーんをして食べさせたのは使用人として大変うれしい事だったらしい。


 「お嬢様、失礼します、お昼ご飯の準備が出来たので、食堂までご一緒します」


 「あ、ありがとう、今日はどんなお料理かしら」


 「たしか、新しいパスタのプット…いや、プッテ…プラ…すいません、メイド長がお料理本を見て試しに作ったらしくって…でも、味見をして美味しかったのでお嬢様も気に入るかと」


 「…そう」


 おそらくはプッタネスカだろう、スパゲッティの名前を上げるとしたら中々多いからな、名前になんかの意味があったりするとは聞いたことはあるが詳しくは知らない。


 食堂について蓋を被せたお皿が前に置かれる。ふたを開けたらパスタのいい香りとトマトをベースにした色とりどりに飾られた具材が食欲を刺激する。


 「こちら、新しく作りました、プッタネスカと言うものです、どうぞ、お召し上がりください」


 そういうとメイド長はパスタの上に粉チーズをまぶし、ペコリと軽くお辞儀をする。


 「いただきます」


 手を合わせて静かに食事をする、朝自分は他の家族より少し遅く起きるのだという、外出時間の後に朝食があり、その後昼食、その後家族が帰宅後に夕飯が行われる、まさに、絵に描いたような生活だ。


 しかし、逆に言えば帰って来るまで血縁関係である人が誰一人いないという事だ。こうやって食事をしている時も、一人だというのに、心配などの不安な感情を抱き、寂しさと共に少し涙目になってしまう。


 「お嬢様…?」


 その様子を近くで見ていたサリアちゃんが優しく話しかけてくる。


 「あ…なに?サリアちゃん」


 「今日は中庭でアフタヌーンティーなどいかがですか?今までは騒がしくてゆっくり楽しめる時はなかったので、今の時期は綺麗なお花が沢山咲いていますよ」


 サリアちゃんは普段通りに振舞っているが声色から自分の不安を案じてくれているのだろう、その心遣いにさっきまで不安になっていた自分が少し馬鹿馬鹿しいと思い、笑みを浮かべて、その提案を受けた。


 中庭はこの千麟家の自慢で、色とりどりの花が美しい層となってアーチを作っている。アーチを抜けた先には美しい花が祝福するように咲き乱れていて、中央には白い椅子とテーブルが置いてあり、大きなパラソルで日陰を作っている。


 この姿になって戸惑いもあったがこのような美しい自然を見ているととても心が安らぐ。


 そういえば、この身体の力をまだ確認していなかったことを思い出す、中庭は広いし芝生がないから、それなりの距離を置くなら少し魔法を使っても家事にはならないのでは?と考えたのだ。


 サリアちゃんと一緒に木漏れ日をガードしてくれたメイド長に確認してみると、万が一のために館や中庭全体に防護魔法を施してくれた。


 呼吸を静かに整え、ゲームの行動モーションを見様見真似で再現する。


 「フレア!」


 魔法の名前を強く言い放つと、狙った地面から火柱が上がる、しかし、それを確認する前に身体が疲労感を感じふらつき、椅子に倒れ込むように座ってしまう。


 「お嬢様、大丈夫ですか!?お医者様を読んだ方が…」


 サリアちゃんが急いで家の中に戻ろうとするがメイド長が静止の声をかけ症状の分析をする。


 「待ちなさい、サリア。お嬢様失礼します……これは魔力を使い過ぎた時の疲労ですね、恐らく魔法を撃った時に、制御が上手くできずに狙った場所だけでなく周りの地面にまで魔力が微量ながら漏れ出てしまったのでしょう、微量なので狙った場所以外では不発と言った感じですね」


 「お嬢様は大丈夫なのですか?お休みになった方が…」


 「おやつとかでも魔力の回復は出来ますよ。スコーンでも、焼いてきますね。その間、また魔法は使わない方がよろしいですよ、制御が上手くできないらしいので、また今度制御する練習をしましょうね」


 メイド長が屋敷の中に戻っていく。


 「ごめんなさい、サリアちゃん心配かけて」


 「いえいえ、お気になさらず、それにしても、すごいですね、あんな火柱を上げるなんて、将来は宮廷の女魔術師としての道も検討してみてはいかがでしょうか、私も付き人として、手伝いますよ!」


 「あはは、気がはやいよサリアちゃん」


 宮廷魔術師か…特に将来の夢とか、決めてなかったけど、それは追々決めるとするか、自分で言った通りまだ、幼いからな、特に何になりたいとかないしそもそも、どういう職業があるのかそれすら、知らないから何とも言えない。


 そういえば、ゲームでは主人公が学校に入る出来事が最初に入るよな、そこから、学園前にいて、校門を潜ったあとに、OPが始まる。たしか、その出来事は…あれ?思い出せない、何回もプレイしたはずなのに…今はいいかな、それ程重要じゃないだろうし。


 「お嬢様、どうかしましたか?小宇宙見たような顔していましたが…」


 「ううん、何も」


 「お嬢様!!」


 メイド長が顔に焦りを浮かべて走って来た。


 「どうしたの、焦るなんて珍しい…」


 息を切らしながら、一枚の紙を差し出してくる。何かの紋章に豪華な飾りが描かれているシールで封をされている。


 「これって…王の紋章にこの独特な達筆文字は…!」


 「ええ、王様が直々に書いたものでしょうね…中身はまだ開けていませんが、ふぅ…」


 「へえ、珍しいね」


 ずっと取っておいたら博物館に飾られるレベルの代物ってことだ、普通だったら焦って開封することを躊躇うくらいのものだが…

 まぁ、そんな警戒する必要もないかペリペリっと


 「おおおおおおお嬢様、少しは警戒しましょうよというか見るならお部屋に戻ってから!!」


 手紙を広げてみるとパソコンで打ったような達筆で書かれていた内容を読み上げる。


 『千麟 美奈様へ この度は突然のお手紙申し訳ありません、近々あなた方貴族のご入学祝いとして、我が娘のリラのご提案で、友好を深めるパーティーを開催させていただきます。ご出席する場合こちらでお召し物をご用意させてもらいますので二通目の出席または欠席に丸をつけ、一週間以内に王城の門番にご提出ください。尚、一週間以内に提出なさらない場合は欠席とさせていただきます。        リヒト・エンジェルス・シャリアより』


 チラリと今日の日付を確認する。その後、この手紙が届けられた日付を確認する。その日付を見て締め切りは丁度今日だという事が分かった。


 その事を察したかのようにメイド長が内ポケットにしまっている万年筆を手渡し、それを受け取り、その間サリアちゃんは二通目を開きテーブルの上に置く、ご出席・ご欠席の欄にすぐさま丸をつけて、自分で名前と同伴者にはサリアちゃんの名前を書いてメイド長に渡すと全速前進で屋敷の屋根に飛び、大幅なショートカットをしたであろう道をかけていった。


 「…マスコミ達で気づかなかったとはいえ、今のタイミングでよかったと言うべきか、危なかったと言うべきか」


 「そうですね、王様は誰もが憧れて、畏怖すべき存在ですから、届いたその日その時に返さないとヤバいという感じですから、いやぁ、まにあってよかったです」


 「パーティーって多分お茶会だよね、スコーンとかそういうのがあるような」


 「そうですね、あっそうでした、今のアフタヌーンティーとかでも軽食が必要ですよね持ってきますね」


 タタタッと駆け出していく。


 お茶会か…多分それだけじゃないな、正統派お姫様は姫だからといって見下したり、高飛車ではなく人それぞれ平等に接してくれる優しい人だ。なので、前に見た記事、美奈含み四人が階段から落ちたという事に対する、心配してくれているのだろう。ゲーマーとしては何が何でも攻略したいキャラだ。


しかし、攻略が一番難しい、その理由がサブに攻略する対象が難しすぎる友好を結んで崩す対象が体験版でも4人いる、それだけでもきついが、今までの作品でも、ストーリー一学期でライバル友好イベントでさらに攻略が難しくなる。五作目だったら二十人とガチガチに固められて、周回してセーブデータが9割姫攻略ルートに費やされた。その分達成感があるので、やりがいがあるが、選択肢一つでも間違えると、攻略が間に合わず、後悔ENDまたは冒険者ENDになる。


 「それでも、心配してくれるのは嬉しいんだよな」


 前世では小学生から大学生まで女子と距離を開けて軽くおはよう、さようならぐらいしか会話していなかったし…自分で言っておきながらなんか、悲しくなってきた。サリアちゃんと話している時は近所の子供と話している感じだから、そんな感じはしなかったけど、これ、成長してから緊張とかしないかな?


 「ただいま、戻りました」


 「お待たせしました、どうぞ、お召し上がりください」


 丁度メイド長にサリアが戻ってきた。


 まあ、お茶会はそんなに警戒しないでいいだろう、まだゲーム本編のような大事件が起きてたまるか、もし起きたなら不登校になりそうだ。大学生の精神は健在だから、そんな大事は起きない…と信じたい。


 「あ、そういえば、確認していなかった ステータス」


 ステータス画面に名前が徐々に浮かび上がる時々フリーズする画面はネット回線が悪いパソコンの様だ。


 モニター画面のようなものを、指でスッスッと指を動かしていると、魔法の欄を見ると、魔法が四つ出ている。出ている魔法は、火炎、風、水、地の魔法が表示される。


 「火炎?火じゃないのかな?」


 「火炎は火の上位ですよ、あのくらいの火柱なら火炎でもおかしくないかと」


 「えっあれ?私のステータスが見えるの?」


 「ステータスは、普通は見えないのですが、先ほど火柱を上げた時の魔力が少し残っているようですねそれで、[普段みえない物が見えるようになった]効果が私たちに付与されているかと」


 「それって、これからもずっと?」


 「微量な魔力なので長くても今日の夜には効果が無くなるでしょうところで…」


 メイド長が人差し指で火炎の文字を指さす。


 「火炎は火の上位他にも水なら洪水、風なら暴風、地なら地面と上位に行くにつれて表示される文字が変わります、まあ、元の、火、水、風、地の文字があればその上位と思えば分かりやすいかと思います」


 「そう…ん?」


 説明を聞きながら、スコーンを食べていたが、何気なく手に取ったスコーンになにかおかしなものが生地に浮かび上がっているような、まるで、眼のように思えた。それを見たメイド長が血相を変えてそのスコーンを奪い取り、口に含む。

 

 「っ!!!!失礼っ!うっ…」


 苦しみの声を上げた後、ダッシュで屋敷の中へ戻っていく。


 「サリアちゃん、あのスコーン何が入っていたの?」


 「えっと、前に見たのですが、パイに魚が丸ごと入っているのをみて、みんながすごい声を上げていたので、叫ぶほど美味しいのかなって…」


 そもそも、叫んでいるのが分かっているのなら、それで気づくものじゃないのか?確かスコーンに魚入れるのって確かイギリスであったような…あの眼は魚の頭だったのか。


 「これからは、ちゃんと味見してから料理を出そうね、多分メイド長が向かった場所お手洗いだと思うし」


 「ですね…」


 それから、数日後、家に大きなクローゼットが届いた。クローゼットの横には王族の紋章中にはピンク色のフリフリが多い。いや、ほぼほぼフリフリしかない、胸の部分には小さな花が10輪くらいついている。


 「ヘリオトロープですね、可愛いお嬢様にピッタリですね、造花らしいですけど」


 造花をツンツンしながらサリアちゃんが呟く。


 「サリアちゃん随分詳しいんだね、お花の図鑑とか読み込んでいるの?」


 「あっいえ、父が大商人で、たまに売れ残ったお花をくれて…お母様は元メイドでお花の種類に詳しいのでそれで自然と詳しくなったようで」


 「へぇ、サリアちゃんのお母さんか、サリアちゃんと似て、綺麗な人なんだろうね、もちろん、サリアちゃんの方が可愛いけど」


 「お、お嬢様ったら、お世辞がお上手ですね」


 お世辞じゃないんだけどな、と思いながらドレスを試着してみる。流れるようなシルクの手触りが心地よく柔らかい動物の毛で包まれている感じがする。


 ドレスを着てクルクル回ってみるとポケットに手紙が一つ入っていた。中には王様独特の文字でこちらのドレスを召して、以下の日時に正門の前にお集まりくださいと書かれている。


 「正直ひらひらして落ち着かないけど、仕方ないか」


 「とってもお似合いですよお嬢様、まるで伝承にある妖精のような美しさです」


 「ありがとう、サリアちゃん」


 その後、家族の前で感想を聞いたりしたり愛でられたり疲れ果てて、パーティーの日にちを確認して、その日を少し楽しみにして、ゆっくりと瞼を閉じた。


 その夜、自分は夢を見た、自分でこれは夢だと思いながらもその夢の中で自分の身体は勝手に歩みを進める。目の前にはまるで導いてくれるような光が手招きしているように常に光を発しながら、フワフワと浮いている。


 歩みを続けていると光が収まってきてあたりの風景が真っ白に染め上がる、白い風景は光の発生源が無い。そして今まで導いていた光は淡い紅色の髪を持っていた妖精のようなものだった。


 距離があるのか、顔は見えなかった、そのあと妖精は急に近づいて来て、額にキスをした。そのあと、キスされた場所が熱くなり、その熱が身体中に回り、立っていられなくなる。


 身体が震えそうなのを両手で肩を抑えるが、震えは身体を覆いうずくまってしまう。声を上げようにも、何も言えない。


 何とか顔を上げると、遠くに黒い靄のようなものが見えた、それは、ジッとこちらを睨んでいるような感じがする。


 そこで、目が覚めた、時計を見ると、何時も、よりも、少し早めの時間だった。ただの夢にしてはリアリティのある夢だと思いながらも夢だと思いパーティーの事で夢の内容を塗りつぶす。


 そして、その思いを胸にその日は訪れた。

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