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第十四部 四章 事後は荒々しい

 美奈と優菜が別れたその様子を見ていた者がいた。その者は「四足」で街を駆け回り、屋敷に入る。


 屋敷の窓や扉をすり抜けて、ある一室に入る。するとその者は一室に座って読書をしている人物の膝から机に飛び移る。どうやら読書をしていた人物は目を閉じているようだが、眠っているわけではなく起きているようだ。


 「お疲れさん、様子は宝石を通してみていたぞ。あの二人とも今日はいい日になったようだな、よかったよかった」


 目を閉じたまま彼女…アイシャは机に乗っているカーバンクルを撫でて語りかける、その後前髪をかき上げると額にカーバンクルと同じ宝石が埋め込まれているが、指でスッと撫でると跡形も残らずに消えた。


 (試運転として動かしてみたけれど、なるほど幾つか分かることがあったな)


 カーバンクルは仲間同士のコミュニケーションとして額の宝石で意思疎通が出来る。同調する事によって自分の額にも宝石が現れて意識を寄せる事によってあらゆる情報を共有できる。


 視覚、聴覚が共有可能で味覚や触覚などは未共有か…まぁ、五感の二つでも共有出来たら使い方によっては便利だな。


 それだけじゃない。カーバンクルと雷獣は幻獣としての存在故にある特製がある。それは実体化と幻体化、実体化はその名の通り実体を持つその状態だと物にも触れることが出来て、普通の人にも見えるし触れる。


 対して幻体化、これは幻獣として顕現している状態で壁や物をすり抜けることが出来る。とは言え、地面や結界など何でも問答無用ですり抜けるわけではなく、使用者が「○○はすり抜ける」「●●はすり抜けない」と決めるか或いは特殊な環境だと強制力と言うべき力が働いているとすり抜けない。今回の場合は前者だな。

 

 最初は、モフりにモフって可愛がっていた為に試運転するのが遅くなってしまったが、寧ろあのモフり具合を3日で抜け出せた事を称賛して欲しい。


 因みに名前は既に決めてあり、カーバンクルは「エル」で雷獣は「エリィ」にした。本当はエリにしたかったが、文字に起こすと襟になってしまいそうなので小さいイをつけることにしたのだ。


 今日は偶然、美奈と優菜が出かけているのを見て面白そうだから後をつけさせてみたが、正直美奈の変装には驚かされた。最初は優菜の親族関係の人かと思っていたが、近くで会話を盗み聞きして美奈だと分かった。


 (まぁ、犯罪なんだけど保護対象と言えばギリセーフだと思う)


 それに、心配だっていうのも噓ではないし、放っておけない感じがするし、優菜は完全に美奈に恋心抱いているのは間違いなさそう。


 それはそれとして見守る以外になんとなくヒントを出して答えを出してくれることを祈ろう。


 後は、何をしようと考えていたが、今までのゴタゴタで失念していたけれど、体験版をして不自然なほど出ていない情報をエルとエリィを使えば簡単に手に入れられる。


 得ようとしても得られなかった情報、それは主人公の行方だ。体験版ではこまめにセーブしていないと「体験版はここまでです。製品版をお待ちください。」と言われて最初からする羽目になるからな。意外と遊べるじゃんって油断していると唐突に終わって、その結果ほとんど進めていないセーブデータしか残ってないなんて、最早、体験版ダウンロード者であれば誰もが経験した道だろう。

 

 それで、話を戻すが、主人公の実家が明かされる前に体験版が終了してしまう。攻略対象という立場である以上、貴族か平民かそれ以外か、ともかくこの国にいることは違いない。


 多少の外出が認められている以上、この子達を使って居場所を突き止めて見せる。※犯罪です


 とは言え、それが簡単に行かないのが現状なんだよな、今日は試運転だから、夜中までぶっ通しで街の中を歩かせるなんてこと、この子達にさせたくないし、だだっ広い王国を隅々まで探させるのも、悪いしな。


 幻獣は疲労も感じなければ睡眠も食事も必要ない。愛玩動物としては世話をしなくていい分これ以上ないペットだが、必要ないというだけで、味覚や欲望はある為、それらを楽しむことができる。


 (本格的に動かすのは明日からになるかな)


 ふぅ、と一息ついて、夕飯の時間になるまで軽く睡眠を取るためにベッドに飛び込む。


 「エル、エリィおいで、少し寝よう」


 ポンポンと両脇を叩くと二匹はふわりと飛びあがって、アイシャのお腹あたりに飛び乗った。そして、その様子を見ていたガルドはフッと笑うと、自分の書斎へと戻る。


 (問題ないようだな、寝相の悪さからペットを飼うのを渋っていたが、幻獣なら問題ない。幻体化しているならしゃぶられそうになっても、すり抜けるからな)


 幻獣は幻の象徴ともいえる生物、その正体は遥か昔に忘れられ、住処を追いやられた末に誰にもたどり着けない誰にも縛られることない都を作り、移り住む事にした悲しき生物。


 古代の歴史について幻獣より、詳しい者は存在しないと言ってもいいだろう、何と言ったって他の人々には存在自体曖昧なものだから、だからこそ幻なのだ。


 View Change 美奈


 「ただいまぁ…」


 今日は一日、災難な日になっちゃった。デートで空回りした気分ってこんな感じなのかな、途中で冷静を保つために「女性術・お姉ちゃんモード」を使ったものの長続きせずにダンスの時には解けて、最終的にてんぱって別れちゃったけど、嫌われちゃったかな。


 「…ん?」


 あれ、おかしいな、いつもなら10人くらいメイドがいるはずなんだけど、一人もいない。試しに今度は少し声を大きく「ただいま」と言ったが10秒待っても返事は帰ってこない。


 (そう言えば、朝にサリアちゃんが隠し事しているっぽい雰囲気だったけど、それと関係あるのかな、使用人含めての一家隠し事?)


 とにかく、ずっとここにいても何も起こらない。まずは誰か探そう。靴を脱いでクロススピリットを解いて自室に向かった。


 いつもは普通に歩いているだけでもメイドを何十人も見かける廊下も人影すら見つからないどころか、灯りもついていない。空は既に真っ暗、三日月と屋根で多くは見えないが星々が覗き込むように浮かんでいる。


 「サリアちゃーん?お父様ー?お母様ー?みんなどこー?」


 今度は名指しで呼んでみるがやはり、返事がない。自室に戻ってみても、綺麗に整えられたいつもの自室。明かりをつけても、誰かが隠れているような事もあるはずなく、しーんと静まり返った屋敷には少しだけ怖さが漂う。


 「ま、ますたぁ…さっきから静かすぎて人の気配が全く無いのが怖いよぉ…」


 カレンの言葉に不安を煽られた他の三人も身体を震わせていたり、マーラに至っては小声で歌ってあからさまに怖さを紛らわそうとしているのがまるわかりだ。


 「でも、確かに不自然だね、どこか明かりがついている場所は…」


 自室から中庭を挟んで反対側の方に明かりがついている部屋がないか見ると、自室から一階上、三階に一室挟んで2部屋に明かりがついている。


 「うーん、私はあの部屋を見てくるけど、一緒にい…」


 「「「「遠慮しますっっ!!」」」」


 「…だよね」


 まるでスクラムを組むように抱き合っている高位精霊4体を置いて、明かりが見えたところへ向かう。途中で月明かりも届かない通路を通るのはファイアで照らしながら進む。


 火が跳ねて床のカーペットに着かないように水と風で作った即席ランタンで明かりが見えた部屋に向かう。


 「…この音は?」


 最初は空耳かと思ったが、徐々にその音がハッキリと聞こえてくる。ベんべべんべん、和風音楽、三味線か琴の音がどこからか聞こえてくる。べんべんべべべんべん。


 音の出処は恐らく明かりがついていた部屋のどちらかだろう。こんなに暗い場所で、何の明かりもつけずに安定した音を出せるはずない。


 三階に上がって辺りを視る。廊下に漏れ出る光は見当たらない。やけに広い屋敷は昼間と比べるとどこも同じ風景に見えてしまう。しかし、明かりがついているのは見えたし、まだ弾楽器の音は聞こえる。それは少し進んだ所にある角を曲がった先にある扉のどれかだろう。


 心許ないランタンの灯りをつけながら、角を曲がって付近にいたら明らかに聞こえるであろう声を上げるために、深呼吸をして心を落ち着ける。そして…


 「だっ…むぐっ!?」


 「誰かいるんですか?」そう言おうとした時に、不意に後ろから、口を塞がれる。突然の事で、身をよじり、もがきながら抵抗をする。


 「んー!んー!!」


 「お嬢様、落ち着いて下さい、私ですサリアです」


 「っ!」


 細々声だったので聞こえずらかったが、その声はサリアちゃんだった。抵抗した時にランタンの火が消えて突然の暗闇に目が慣れずにいると手を引かれ、来た道とは違う道を進んでいく。


 ある程度、離れて行くと、一室に通される。そこにはメイド長と何人かメイドが扉の音に反応して、目を向けるがそこに俺がいるのを確認すると少し驚いた顔をする者もいれば、安堵したように深く息をする者もいる。


 サリアちゃんは音を立てずにゆっくりと扉を閉める。


 「ごめんなさい、お迎えするのが遅くなりました。本当はもう少し速くお迎えするつもりだったのですが、あの人の地獄耳を搔い潜るには手を焼いておりまして…」


 「一体なんなの?それにあの人って…?」


 「お話しすると長くなるのですが…お嬢様がお帰りになる2時間ほど前に…」


 ~2時間前~


 「……」


 「……」


 龍次郎と篝は互いににらみ合い、一言も交わさずに実に20分、孫に合わせろひ孫に合わせろと我儘を言う事にしびれを切らした互いが同時に立ち上がり、一触即発の雰囲気に危機を感じた篝は、避難の合図を送り、屋敷全体の電気を消して、必要最低限の部屋(避難用)に出来るだけの使用人や血縁者をそこに避難させる。


 「……やれやれ、どうしても合わせる気は無いようだ」


 最初に静寂を破ったのは龍次郎の声だった。コンッと杖を曳くと上着をたなびかせると幾つかの刃が篝に目掛けて飛んできた。


 「っ!」


 横に飛び刃を交わす、刃はコンクリートの壁に突き刺さり3㎝程貫通していた。これに直接当たっていたと思うと…篝の頬に冷や汗が伝う。


 高松宮会会長、高松宮 龍次郎、彼が極道の道を歩む前はフリーの暗殺者(ヒットマン)人ごみに紛れて標的の胸に誰にも気づかれずに刃を突き刺したり、その場の人は一瞬、灰色の炎みたいなのを見た気がする。と語っており裏社会ではその犯行の鮮やかさから、未解決事件として処理されると同時に、龍次郎を知る中では「煙炎」と呼ばれていた。


 彼の戦闘スタイルは、暗器使い、鎌や吹き矢は勿論、日本刀や槍、警棒(電流付き)などを身体中に隠している。本人曰く「暗器は隠し武器であるが故に隠せるのであれば、何であろうと暗器になり得る」と語っており、彼が隠している獲物は200を超えると噂されている。


 龍次郎は一陣の風のように動き、その一撃一撃が奇襲に思えるように死角からの攻撃を繰り出す。しかし、篝はそれと同時に動き、武器を取り出そうとする動きに追従して武器を蹴り飛ばすなどして、渡り合っている。


 それは何も聞こえずとも今も続いている。美奈が帰ってきてもなおそれは続いていた。


 あれだけの声を出しながらも色んな所をウロチョロして、見つからずにいたのは途轍もなく運がよかったらしい。


 「神の奇跡としか思えませんね、普段はあまり運が良くないお嬢様がご無事なのは…もしかすると大旦那様が気付いて、遠ざかるなどと誘導したのかもしれませんね…」


 「でも、そんなに合わせたくない理由でもあるの?このままじゃ屋敷がボロボロになっちゃうよ」


 心配しているとメイド長が、抱き寄せながら頭を撫でて安心させるように話す。


 「ご安心下さい、何も私達はただ身を震わせて隠れていたわけではございません。避難場所であるここ以外には微量ながら、睡眠薬を粉末にしたものを空気に溶かしております、一歩間違えれば、お嬢様も被害に遭う可能性もあったのですが、2時間も吸っているあの二人もそろそろ限界がくるでしょう。それまで待っていればよろしいかと…まぁ、例え見つかっても、それ程大変な事にはなりませんが」


 「……もし、見つかれば、どうなる?」


 「身体中に暗器という名の暗器を忍ばせた手で、滅茶苦茶に愛でられるくらいでしょうか」


 「それは一番困るよ!!」


 千麟家はこの後、屋敷全体の39%が壊れ、被害総額が2000万円相当の修理費がかかったというのを理解するのは翌日の午前3時半に眠気が限界に達した龍次郎と篝が発見された後の話し。


 View Change 優菜


 あぁ~尊い、美味しい、尊いと書いて滅茶苦茶かわいい、お父様には少し噓をついちゃったけど、それでも、構わない。


 ~少し前の事~


 「どうだ優菜、千麟家に我が財閥の圧倒的な力の強さを見せつけて、劣等感を与えられたか?」


 「はい…ですが、やつの肝はとても据わっておりまして、たかがこれ程で勝ち誇ったと思っているのかという発言がいくつも取れました」


 「な、なんだと…あの程度では脅しにもならんというのか…!?なんて奴だ…千麟家、一筋縄ではいかぬか」


 

 お父様と美奈の父親、確か、徹でしたっけ?学生時代からの好敵手だとか、何とか…確かに最初にあった時、美奈の事は嫌な奴だとは思いましたし、わたしとはソリが合わないとも思いました、でも…


 ハンカチを届けてくれた時の、あの胸のトキメキと顔が熱くなったのは…この気持ちは、姫様が言ってくれたように…これが恋心


 あの声で、あの手で、あの顔で…


 「~~~~~~~っ」


 ね、眠れない……まぶたを閉じると目の前に…美奈が目を閉じて…く、唇を……


 「あぁっ、いけませんわ、美奈様、こういうのはお互いに大人になってから!…で、でも、ほっぺたになら…ハッ!?」


 あぁ~~~何で、社交辞令言葉でイケない想像をしちゃってるのわたし~っ!!


 でも、大人になっても、この気持ちのままでいられるのかな、もし、気持ちが冷めちゃってたり、わたしに飽きちゃったりしたら…


 ダメよ!落ち着きなさい鬼灯 優菜、由緒ある鬼灯家の令嬢であるわたしが弱気になってはいけません。そう、これは戦略的、現状維持を保ちつつ


 そこで、姫様が言ってたことを思い出す。


 「ええ、それにしても、この前美奈さんが見ていた殿方がいたのですが、美奈さんはあのような人が好みなのでしょうか」(回想)


 しまった~!夢中であの話しを切り出し忘れた~!!バカバカバカわたしのばか~!!


 わたし、今日のデートで失敗し過ぎだぁ~変な奴だって思われていたらどうしよう……もし、あっちから告白したなら、どうなるんだろう。


 きっと「冗談でしょう」っていっちゃうんだろうな…だってあたしはこんなんだし…あたし…あたしができる事ってなんだろう。美奈のために、できる事…でもあたし…あたし…


 その夜、優菜は枕元のクマのぬいぐるみに何度もキスをしたりしていたら、太陽が登り目の下には隈が出来ていた。


 「あぁ…太陽が…黄色い」

次回6月末予定

解放プロフィール 追加編

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