表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/134

第十四部 三章 プライベートの果てに…

 二人で料理を半分以上食べた時、ふと思い出したように優菜に問う。

 

 「ねぇ、もしかしてなんだけどさ、優菜って結構無理してない?」


 「…え?」


 「さっきから無理しているって言うか、なんだろうな…言葉にすると難しいんだけど「下手なのに上手く見せている」って感じがするの、しかもそれを隠そうとしているのも同じように無理しているっていうか」


 今思えば、今日ずっと違和感があった。待ち合わせ場所に着いてからいきなり距離を縮める為に名前で呼び合ったり、あの三人は心からそう思っていて言った言葉が優菜が言った時には無理矢理というか、やけになっている感じがする。


 「もしかして、実はこうして会うのは自分の意思じゃなくて、親の意志だったりする?」


「っっ!!??」


 はい、確定っと…でもこの驚き方は全部って感じじゃないな、多くても2割…いや、3割くらい自分の意志が入っている。


 でも、それでも7割親の仕込みがあるのは事実、目的さえ知ればどういう意図を読み取れるのか知りたいけれど、流石に細かいところまでは教えてもらえていないよね。


 優菜は考えている間も戸惑いの表情を浮かべながら目をあちこち泳がせながら、ついには涙を浮かべてしまった。


 (あー、だから子供のこういうのは苦手なのに…)


 すぐに席を立って優菜の隣りに座ると正面から抱きしめる。男だったらそれなりに事案だったが、今は他人が見てもギリギリ姉妹に見えるはず、前世が男だとバレないために女の子としての振る舞いなどを女主人公のルートでやったはずのおぼろげな記憶を掘り起こして身につけた「処世術」ならぬ「女性術」…自分で言っておきながら寂しくなってきた。


 「ゴメンね、言い過ぎたわ。そうよね自分のせいじゃないもの」


 俺は子供は嫌いではない。むしろ好きな方だろう、しかし、あまり関わらないせいでどう接したらいいのか分からないし、話しかけたら警戒されて通報されるかもしれないという恐れから自分から距離を置いていた。


 (そのせいで子供心が分からないから苦手なんだよな…それを平然とこなすような幼稚園の先生は凄いと思います、はい)


 って、そんな事を考えている場合じゃないな、確か次のセリフは…


 「そうよね、今まで頑張ってたんだもの、だからそれがバレちゃって今も怖いのね。大丈夫私は怒ってないわ、プライドがある事も分かる。でもね、プライドが高い人はそれが原因で失う事が多いの物と人問わずにね。頑張った自分のご褒美を私に言ってみて?出来る限り叶えてあげる、それが今私にできる唯一の…」


 「わ、分かった!分かったから、少しはなれ…」


 優菜が我に返って手をバタバタして、離れようとした時…


 「ひんっ」


 「…あ」


 胸を強く掴まれた時に痛みとこそばゆい感じが同時に襲ってきて、思わず声が漏れてしまった。その声は大きくはなかったものの、周りの何人かが視線をこっちに向ける。


 傍から見ると泣きじゃくりながら胸を鷲掴みする少女と掴まれながらも少女の頭を撫でて少し顔を赤らめているお姉さんの光景、こっちに視線を向けた人が「何がどうしてこうなった?」と顔に書いてある程の目を向けている。


 それでも、優菜は少し上目遣いでこっそりと耳打ちする。その後、残りの料理を平らげてお店を出る。そして、次に向かった場所は、小さな公園。公園と言ってもそこは遊歩道に近いようなお散歩にはぴったりと思える場所だった。


 近くのベンチに座ってポンポンと膝を叩くとその上に優菜が頭を乗せる。


 (まさか、耳かきをしてほしいなんてね…令嬢でもやっぱり子供か、甘えたくても出来ないのは若干のストレスになってるからああいう動作をしていたんだろうし)


 人は自分がストレスを感じているのを自覚できる事が少ない。しかし、ストレスを感じる人間というのは無意識に「とある動作」を起こす、その行動は「自分の首の後ろを触る」ただそれだけでストレスを感じているのか否か分かる。前世の時に精神科医の先生が何かのついでにそういうことを言っていた。


 まぁ、耳かきはどうしても調達する必要があったので土で強度を高めに高めた即席の耳かきを作ったが、木製のやつよりは丈夫だろう。後の心配は欠けたりして破片が耳の中に入ってしまわないかということだ。


 「じゃあ、始めるね」


 太陽が真上にあるから特に問題なく、耳掃除は順調に進んでいる、クリクリして取り出した後ポケットティッシュ越しに取り出す。


 「あっ…んんっ…あふっ…」


 「い、痛かった?」


 「大丈夫、んっ!続けて…」


 大丈夫じゃないのはこっちのほうなんだよな。確かにくすぐったかったり若干の痛みはあるけれど、「あふっ」は無いでしょう「あふっ」は…


 (まぁ、喘ぎ声でもおかしいっちゃおかしいけれどさ…)


 「さ、次は反対側よ。ごろんして」


 ~同時刻 千麟家 応接室~


 応接室には二人の男が机を挟んで対面に座っている。扉の前ではサリアとメイド長が待機している。中の様子を視ずとも空気が張り詰めているのが分かる。


 「…よお、親父」


 最初に口を開いたのは篝、張り詰めた空気がより一層重くなった気がする。それに一切動じずに対面の老人、高松宮 龍次郎は顔を上げる。


 「久しいな、篝。こうして顔を合わせるのは何十年ぶりだったか…お前がこの国に行くと言って喧嘩別れして以来、一切やり取りは行うことが無かったな。あの日、初めてお前はわしを負かせた」


 篝と龍次郎は意見が対立すると必ず殴り合いで決める。何度も何度も龍次郎は篝を負かせ続けてきた。それでも、話術で意見を捻じ曲げてしまう事は多々あったが、篝が結婚した後、裏社会にこれからできる家族を巻き込みたくないと、国外へ行くと結論を出した。


 龍次郎にとって息子である篝の言うことは聞いてやりたいと思ったが、龍次郎は高松宮会の後継者を篝にさせようとしていた。龍次郎の息子は篝ともう一人、高松宮 (かがり)歳は7歳の差があったが、龍次郎は襲名をする一週間前にその言葉を聞き激怒した。


 龍次郎の天秤は息子の意見より高松宮会の存続の方へ傾いてしまったのだ。翳は優秀ではあったが、極道の器では無かった。当時、篝は19歳、20歳の誕生日に襲名するはずが、その意見の一言で崩れ始めた。齢13歳のガキを後継ぎにするなど直系の奴らが黙っていないし、器でもない奴に継がせるなんて舐められる、そこから導き出される未来は…衰退からの解散。


 そこで、何度も行った親子喧嘩、立会人の部下含め、誰もが龍次郎の勝利を確信していた、しかし、最後に地面に倒れたのは龍次郎、その光景を見ていた誰もが文字通り、開いた口が塞がらない。気を失った龍次郎に篝は背を向けて、必要最低限の荷物を持ち、信頼できる部下を何人か連れて、国外へ移った。


 「じじいはどうした?親父一人で来たということは、もう死んじまったか?今年で97だったか」


 「阿呆、生きとるわい、医師に余命半年と言われて、もう5年も経っとる。あの人の強さには一度たりとも驚かないことなど無かったわい…ところで」


 龍次郎は眉間にしわを寄せて篝は一瞬身構える。龍次郎がしわを寄せるのは拳が飛んでくる合図、いつでも受け止めることが出来るように右手をフリーにする。


 「身構えずともよい、わしが今知りたいのは孫とひ孫の顔だけじゃ…どこにおる?」


 「…徹は仕事だ、夜まで帰らん、美奈は教えてやる事は出来ないな」


 その時、に篝の頬には龍次郎の足が掠め、ピピッと切り傷が出来る。一瞬を置いて焼け付く痛みに顔をこわばらせて、睨みつけるとその時と同時にドスが首元に突きつけられていた。


 「わしが止めねばその首飛んで追ったな」


 にぃっと口元を歪める。


 「それはこっちのセリフだ。俺が止めなければ心臓を貫いていたぞ」


 龍次郎の胸部にはいつの間にか篝が懐に忍ばせていた抜き身の脇差を突き付けていた。


 「かっかっか!やはり、お主は筋がいい。本当にこんな三流国で油を売っているには惜しい程にな」


 「それはどうも、であいつらと会うのは諦めてくれるか?」


 「そんなわけなかろう、宿泊施設はここに決めておるし帰るにしても、手持ちの金じゃ帰れんわ、しばらくここに厄介になるぞ」


 篝の顔が怒りによる苦笑いがひくひくと強張る。その表情には「くたばりやがれ、くそじじい」という感情が伝わってくる。


 「そんな貧乏じゃねぇんだろ?組織が持っているのは5000京はくだらねぇ程だ。違わねぇか、あぁん?」


 「わしも歳でな、片道の金しか所持してなかったんじゃ、それに手ぶらで帰るわけにもいかんで、まさか、用を済ませそそくさと帰らせようとせんよな、あぁん?」


 「あぁん?」


 「あぁん?」


 ~公園~


 「あーん♪」


 「どう?おいしい?」


 「うん、すっごくおいしい!」


 耳掃除が終わった後、丁度クレープのキッチンカーが来た。それに目を輝かせて優菜がダッシュで飛びつく勢いで注文をした。


 ちなみに優菜は柑橘系が苦手だそうで、色んな果物が入っているフルーツホイップは無理らしく、ストロベリーカスタードクリームを頼んだ、俺はチョコソースバナナホイップを注文して、お互いに「あーん」し合ってていた。


 「お二人さん」


 そうしているとキッチンカーの店員さんが両手に飲み物を持って歩いてきた。


 「こちらをどうぞ」


 「えっ、でもお金…」


 「今日はレディースデイで女性の方には特製のミルクティーを無料で差し上げているんです。中々手に入らない茶葉なのできっと気に入るはずですよ」


 そう言うと店員さんはぐいぐいと半ば押しつけるようにミルクティーを手渡すと小走りでキッチンカーへと戻る、キッチンカーの周りには既に長蛇の列が並んでおり、その大半はカップルや女友達のグループが多い。


 みんな特製ミルクティーを目当てにしてたらしく片手にクレープを持ちながら、美味しそうにミルクティーを飲んでいる。


 自分達の持っているミルクティーを見てみるが、見た目も中々いい、中に白いタピオカみたいなものが入っているが、食べてみると口の中で「プチュン」と弾けて甘い香りとミルクティーの香りが見事にマッチする。


 その美味しさに優菜も満足しているらしく、ニコニコと微笑みながらクレープを頬張ってミルクティーと一緒に味わっている。


 しかし、長蛇の列はどんどん長くなっていき、ここに居たら人ごみに飲まれてはぐれてしまうと思い、手をつないで公園の奥、出口付近へ行くが既にそこにまで列が続いている。


 道路に出たところで列は途切れていたが、今もミルクティー目当てで女性客が列に並び続けている。


 (どうしよう、変装はバレる気はしないけれど、やっぱり2人っきりで静かな場所に行きたいよね。だからって人が多いと自然と騒がしくな…る…)


 いや、あるじゃないか!人が多くても騒がしくならないところが、デートの定番と言える場所、舞台劇と若干被るが現実離れを楽しめる場所……


 映画館がっ!!


 「映画…テレビで見るのとは違うの?」


 「もしかして、優菜は映画を見るのは初めて?」


 「うん、初めてなの、今までは「にちよーどらま」っていうのを見てたけれど、それと違うの?」


 …まぁ、違わなくもないと言えるが似て非なる物とでもいうのかな、大体映画って割と早くDVDになるし、個人的には映画は映画館で見るから魅力があると思う。


 とにかく、見るのはやっぱり人気のあるやつだよな、だとすると…


 そこで目に止まったのが「マジカル☆ルミルミドリーム」の映画、俺はともかく優菜にとっては興味津々な様子、というのも入る前にAI広告をガン見してたし、これにするか。


 そして、映画を見る事になった…が


 『キャアアアアアアアァァァァァァァァッッ!!』


 「びゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!じぬ”ゔゔゔゔぅぅぅぅぅ!!ま”ぁまぁぁぁぁぁぁ!!」


 以外にホラー要素が強かった、隣で腕にしがみついて絶叫を上げている優菜以外にもそこらで子供のギャン泣きしている声が会場内に響き渡る。一列前の人に至ってはホラー画面に驚いて、ポップコーンがぶちまけられ、キャラメルポップコーンの中にバターが混ざりこんだ。


 (…確かに怖いと言えば怖いけれど、アニメーションだと、そこまで怖くはないんだよな、リアリティがあるホラー一直線のアニメの方がまだ怖い、というか、創作の死って殺っている人が人って知っているから怖くはないけれどド直球の怨霊とか心霊だと怖くなるのは、自分でも不思議に思うんだよな、てか、さっきから優菜の力が強くなっていだだだだだだだ、指が食い込んでないこれ食い込んでいるよねいっづづづづづづ)


 最後にはハッピーエンドになり、優菜の泣きは収まったが、それでも、腕に食い込んだ指先の傷は簡単には治らず、さりげなく傷痕を見てみたが、そっちの傷の方が映画よりも何百倍も怖かった。


 そして、そろそろ日も暮れてきて、後、行ける場所が1つか2つかというところで、向かった先は…


 「ん…」


 「ここは、こう!なの」


 ダンスレッスン教室、体験が出来るという張り紙に興味を示したが…


 (まさか、社交ダンスとは思わなかった。なんとなくノリで男性パートをしてみたけれど、ちゃんとリード出来ているのか?)


 アニメやゲームの真似をしているけれどリード出来ているのかを聞かれると、全く出来ていない…と思う。


 そもそも、前世でそんなことをする筈もなく、やり方すら理解できないから、笑顔で乗り切りたい気持ちが先走る。


 唯一の幸運は一度たりとも、足を踏んだりしていない事だ。ダンスの先生は他のペアについたり、踏まれて転んだペアを立ち上がらせたり、あまりこちらには構わない。


 (まさか、手の施しようがない程に、俺のリードは絶望的だったのか…)


 そう思うと、他のペアにもチラチラと見られていたような…どうしよう、このままだと自分だけでなく優菜にも恥をかかせることに…せめて優菜を隠すようにして、視線を背中でガードしなければならない。


 この時、優菜の心境は…


 「あははー、ワタシ美奈と手ェツナイでるノ、ウフフ、ウーフーフーフー、ぐーるぐるー、アハハーウフフーたのしー」


 IQがめちゃくちゃ溶けていた。今まで、プライベートとして付き合っていた気持ちが一気に社交ダンスで令嬢モードに戻された事に頭と身体がついて行かずに無我の境地から脱するためにIQを犠牲にしたのだった。


 他のペアは確かに2人のダンスをよく見ている。しかし、それはダンスが酷かったり、ミスが目立つという理由ではなく、同性でもあるに関わらず息ピッタリな、正に見本となるべき振る舞い。


 優菜の笑顔は救いを求める聖女のようで、それに応える美奈のリードは求めに与える天使のような光景だった。


 見本の二人は他のペアにも影響を与える程で、終わる事には全員が、何のミスもなく、最初から最後まで完璧に踊ることが出来た。


 ここで、一番てんぱってているのが、美奈・優菜ペアだと知る者はひとりもいなかった。


 時計を確認すると既に18時に差し掛かろうとしていた。既に街灯は辺りを照らし始め、雲を照らす太陽は沈み、自分たちを照らすのはオレンジ色の雲と静けさの象徴と言える月明かりのみ。


 「今日は楽しかったの、ありがとう美奈ちゃん」


 「…うん、また遊ぼうね。次はもっと自分をさらけ出してね。優菜ちゃん」


 お互いに大きく手を振って別れる。

次回6月中旬予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ