第十四部 二章 子供らしさとは
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「まずはわたくしの傘下が経営している劇団へ行きましょうなの、はいどーぞ」
そう言って優菜が渡してきたのは一枚のチケット、それには劇団の名前と座席表の番号が書かれている。優菜の方を見ると彼女もチケットをひらひらと見せつけるようにして、座席番号は自分の隣りだった。
この劇団は朝の9時からおよそ2時間に渡り、和風時代劇を主とした劇をするらしい。シャリア王国は基本的に和風の文明が少ないため、物珍しさという点で見れば、子供からお年寄りまで、楽しめると言える。
時計に目を向けると、まだ時間はあるが移動時間も考えると15分前には会場へ着くことができるだろう。
~舞台劇会場~
『お代官様、この度はお越しいただきありがとうございます』
『うむ、苦しゅうない』
『今宵はお代官様の為に、珍しき菓子を取り寄せてございます』
『ほう?菓子とな?』
『はい、山吹色のモナカでございます』
『ほほう!ぐふふ、ワシはこの菓子に目がなくてな』
既にこの後のセリフは知っている人は多いだろう。
『越後屋、お主も悪よのう』
『いえいえ、お代官様ほどではございませぬ』
『ぐふふ』
『うふふ』
『『あーっはっはっはっはっ!!』』
(お約束な展開だな、悪代官と越後屋のやり取り、お笑い芸人とかがコントのテーマでよく話すけど実際はやけにひどい話だったんだな)
それにしても、ちゃんと歴史上の人物もちゃんと織り交ぜられているのが好印象だな、授業で習うから多少の知識を踏まえて演技を見られるというのは中々面白い。
(この姿になってから着物とか着てなかったな、舞台で見ただけでも少しだけ着てみたいと思っちゃうのは…流されやすいんだろうな、俺は)
舞台劇が終わり、外に出てみると朝と比べると色々な所で人だかりが出来ている。その中心には大道芸人や値引き販売の宣伝活動、舞台劇が行われていたのは平民区、だからといって貴族が浮くわけではないが、それでも今回の二人の服装は少なからず注目される。
「美奈、次はこっちなの、可愛いお土産がいーっぱいあるの!」
人目を気にせず優菜はグイグイと手を引っ張り、無邪気な笑顔を浮かべながら人混みをかき分けるようにスイスイと駆け抜けていく、それは今の背丈のせいで優菜は抜けていくが自分は何度も人と当たってしまい、その度に「すいません」といって振り返りながら頭を下げる。
そして、たどり着いたのは駅ビルの一角にある店、平日であるにも関わらず、客は多いが通りにくいわけではない、それなりに店舗は大きい方で通り抜けるには十分なスペースがある。
とはいえ、お目当てのものは早々見つけられるものではないらしく、優菜は行ったり来たりを繰り返して、人だかりに突っ込んで疲弊しながらもお目当てのものを探している。
(これは結構かかりそうだなぁ…少し自分でも見て回ろうっと)
優菜と互いに視認できる位置をキープしながら商品を見る。お土産と言っていたが、日用品や雑誌なども取り扱っているようで、コンビニとして訪れている人もいるようだ。しかし、比べてみるとやはり、記念品のからくりやキーホルダーなどお土産の品数が圧倒的に多い。
(これは…馬の形をしたキーホルダーか、繊細な作りだなぁ、値段も他と比べると少し高い)
そうしてキーホルダーを眺めていると優菜が手にいくつかの商品を抱えながら持って来る。
「はぁ、はぁ、見つけたの!はいっ」
そう言って差し出されたのは小さな髪飾り、花がついていたり、アルファベットのイニシャルの装飾がついていたりしている。
優菜はキラキラした目で「選んで」と言わずとも分かる表情を浮かべている。
「うーん」
大体こういうのは無頓着ではあったんだよな、だって元男だし…でも、こんな純粋な目をされて要らないなんて、酷な事は言えないし…とりあえず、試しにつけてから決めるか
ポケットから手鏡を取り出して、色々な髪飾りをつけてみる。自分自身でつけるとなるとジャッジを自分自身でするので、相手の気持ちを意識することで適切な対応が出来る。
(この青色のはミスマッチかな、薄緑色の半暖色系だと違和感がある、だとすれば、髪と同じ色のこの花はどうだろう?…あー、でも常にこの姿でいるわけじゃないからな)
試行錯誤して、何回も鏡とにらめっこしながら選んだ髪飾りは…
「…うん、これがいいかな」
決めたのは、Mのイニシャルが入った髪飾り、イニシャルの部分は黒色だが、光に反射してキラリと光る、これに決めると優菜は「じゃあこれも」と言ってYのイニシャルの髪飾りをレジに向かって持っていく。
(…これじゃあ、デートというより姉妹で買い物しているようだな)
「買って来たの!」
「それじゃあ次はどこに行く?」
「えっとねー」
お土産屋を出て優菜が「うーん、うーん?」と唸っている時、ふと通路側の奥にある小さな扉が目に入った。
そこは蛍光灯が少なく、まず目に入らないような薄暗い通路、その奥に古めかしい扉の先にぼんやりと光が灯っている。
(なんだろう、この気持ち)
まるで誘われているような、抗う事さえ拒んでいるような感じがする。しかし、嫌な気配はない。それどころか「誘われているのに興味はない」不思議な感覚。
「…ごめん、少しだけあそこに寄らせて」
「美奈?」
薄暗い通路で蛍光灯は既に切れており照らすことが出来ていない。その扉に手をかけるとキィと軋んだ音を立てて開く。
中には木製の戸棚に並べられた年代物の物品とそれを整理している眼鏡をかけた男性、エプロンをしているので彼が店員さんだろう。彼は扉の音に気付き顔を向けると「いらっしゃいませ」と落ち着いた声で言ってくれた。
「あの、ここは何屋ですか?」
「ここは骨董品や雑貨を取り扱っていますよ。年代物もありますから良かったら手にとって見てくださって結構です」
店員はそう言うと戸棚の整理に戻る。改めて店内を見渡すと小さなオルゴールや扇子、長物、店に並べるよりは博物館に寄付した方がいいと思うものだらけだ。
店に入って尚、誘われている感覚は消えない。一瞬店員が魔法でこのようなものを味合わせているのかと思ったが違うようだ。
優菜がそわそわしながら裾を掴みながら、離れようとしない。そして、無意識に手に取ったのは、古い巻物、今にも朽ちてしまいそうで開いてみると、見たこともない文字がびっしりと書かれている。
日本語、英語、ドイツ語、俺は三か国語なら読み書きも出来るが、この巻物に書いてあるのは見たこともない英文でも日本語でもない文字、しかし…
(読める)
見たこともないはずなのに、書いてある事が理解できる。一文一文、理解に全く時間をかけずにすらすらと読める。その違和感に好奇心が湧き上がる。
「あの、これを買い取りたいんですが…」
「はい、ではこちらに…あっ、それ…」
「もしかして、非売品でしたか?」
「いえ、そういうわけではありませんが…こちら一つでよろしいでしょうか、1500円になります」
…買ってしまった、この巻物なぜ読めたのか自分でも分からないが、興味がわく。その理由がただ読めるだけでなく不思議な魅力があるように思えてならない。
「ごめんね。変なのについあわせちゃって」
「ううん、大丈夫」
そう言った優菜は少し足取りがおぼつかないようで、息も少しだけ荒くなっている。
(流石に最初から飛ばし過ぎたみたいだね。歩幅の事もあるし、少し近くで休める所は…)
そういえば、確かレイラの家の方向に噴水広場があったはずだ。噴水を見ながら座っていればいい休憩になるだろう。
「優菜、次は私が連れて行ってあげる」
「う、うん、でも少し休んでからなの…」
そう言ってその場でしゃがみこもうとすると、優菜はスカートを裾で挟もうともしなかったため下着が見えそうになる。
「ままま、待って待って!!優菜こんな公共の場でそんなことしないで!えっとえっと、ほら!おんぶしてあげるから乗って」
「やったぁ、えへへ、美奈の背中おっきいのぉ」
(ふぅ、良かった。俺的にもあんな無防備な行動は心臓に悪い…もし、俺に弟か妹がいたらこんな事していたのかな…)
優菜は背中にひしっとしがみつき、落とさないように大腿を腕に乗せて歩く、一歩歩くたびに、腕に柔らかい感触とシャンプーの匂いだろうかバニラの甘い香りがする。
噴水広場に着くまで、その甘い誘惑に耐えながらなんとか噴水広場にたどり着いた。
「…ふぅ、ほら優菜、着いたよ座って座って」
「んみゅ…ありがとうなの、美奈」
「まだ疲れているでしょ、飲み物買ってくるけど、欲しいものある?」
「あ…」
そう言って差し出してきたのは空のペットボトルそして、「何でもいいの」と言った。ペットボトルを捨てるのは構わないが、こういうのは一回断ってから言うものだと思うけど…まぁ、子供らしいと言えばらしい、か
近くの自販機でイチゴミルクを二本買って、優菜が座るベンチに戻る。噴水はごぼごぼと音を立てながら水を吹き出している。次の瞬間、勢いを急に増して5メートル程の高さまで水が届く。
その光景は、心身ともに安らぐ休憩には持って来いの場所だった。
「ほっほっ、仲が良いの」
となりのベンチに座っていた老人に話しかけられる。
「おぬしらは、姉妹かの?」
「え、ええと…」
「おやおや、すまない、老いぼれに話しかけられて緊張してしまいましたかな」
「あ…いえ、こちらこそ驚いてすいません。私はせっ…!」
「せ?」
(あっぶな!つい本名を言ってしまいそうになった、人が少ないとはいえ騒ぎは起こさないに限るすると何か別の名前を…)
「セレス、セレスです。こちらはユキ、姉妹ではありません。お友達ですよ」
優菜が戸惑いながら喋ろうとする口を指で抑えながら、小さくお辞儀をする。すると老人は小さく微笑む。
「ほほっ、年齢こそ離れど仲良きことは良きことかな、わしは高松宮 龍次郎、ただのしがない老いぼれじゃよ」
「あの、何か御用があるのでしょうか」
「いや、お主がわしのせがれに似ておってな、ついつい親族のように話してしまったよ」
「へぇー、可愛い娘さんなんですね」
「男じゃがな、せがれは」
「えぇ…」
「ほほっ、すまぬのぉ、だが、似ているのは本当じゃ、さてとわしはそろそろ行くとしよう、時間もとっくに過ぎているしのう」
老人はそう言って弱々しく、それでもよろめくこともないしっかりとした足取りで広場を出ていく。
「…なんだかあの人、美奈に似てないの?」
優菜が不意にそう言った。
「え?そうかな、普段の自分と比べてもあまり似ていないと思うんだけど…」
「うーんと雰囲気っていうの?実際に感じるというか肌のシミやそばかすが消え見た目麗しい天然潤い美…」
「どこかで聞いたことある上にそれ以上いけない化粧品のCMはやめようね!!」
「…ともかく若ければ親子と言われても違和感ないような、そんな雰囲気なの」
「中々、夢のある話だけど苗字も違うし、気のせいに決まってるでしょ」
しばらく、広場で疲れを癒していると時計の針が午後の1時を指していた。その事に気付くと身体が空腹を訴えるように鳴りだす、その事に顔を赤らめながら、手を繋ぎ昼食を取りに歩き出す。
「ここはわたくしの企業者の有力者が経営しており、期間限定の料理も評判のいい店舗なの」
入った所は一見どこにでもあるファミリーレストランだが、メニュー表を見ると品揃えは3倍ほど多く、値段もそれ程悪くない。庶民、貴族問わず万人向けのレストランと言ってもいいだろう。
たまたまテラス席の掃除が終わったようで、優菜は小走りでその席を取る。
(…変わらないものもあるな、注文はタッチパネル、配膳はロボット、最新鋭の機械を使っている。でも、ちゃんと料理しているのは人だし、こういうのはなんだか時代を感じる)
前世の子供の頃に父さんが科学の発展に愚痴をこぼしていたことがある。「科学が発展して便利になることはいい事だが、それを悪用したり、便利になりすぎて人の仕事がなくなったりすることは良くない事だ。使い方次第だと思うが、それじゃ今も苦しんでいる人の気持ちが分かんなくなることもあるだろ?人がやった方がいい事はたくさんある、達成感は何よりも充実した実感がある」って言ってて子供の頃の俺は意味が分からなくて聞き流していた。
「美奈はどうする?何頼む?」
優菜はタッチパネルを手渡して来た。パネルには既に優菜が注文したものが表示されたままになっている。一緒の物を頼もうとしたが、それがお子様ランチだった為、違うものにした。
(流石にこの姿でお子様ランチは出来ないな、10歳までって書いてあるし…成長しているから、少しは多く食べられるかもしれないし、久々に洋食を食べようかな…おっ、洋食三点盛りなんかいいんじゃないかな)
結局、洋食三点盛りのドリンクバーセットを注文してカプチーノを持って来る。優菜はカフェオレだった。
「美奈は最近どうしているの?やっぱり、魔法とかの修行とかしているの?」
「ん?確かに魔法の練習とかもしているけれどそんなに長い時間はしないかな、まだまだ自分自身の魔力制御が上手くいかないから長くても10分くらい」
「…意外なの、あんなにすごい魔法が使えるならダンジョンも攻略出来るかもしれないのに…」
ダンジョンか…幸運の塔があればお忍びで行きたいとは思うけれど、流石にこの歳じゃ同伴者が滅茶苦茶強くても難しいかな
ダンジョンにはいくつかの種類がある。幸運の塔は自身のステータスである幸運値を上げる「ラックグミ」や敵がドロップする「幸運のお守り」それらを多くゲットできる場所へ行く事ができるレアドロップの「幸運の鍵」が手に入る。
しかし、幸運の塔はデイリーダンジョン一日に入れる回数だけでなく曜日まで決まっている。
日曜日は他のデイリーダンジョン全てが解放されていてそれ以外だと水曜日と金曜日が幸運の塔が解放されている日だ。
「流石にダンジョンはまだ私には…ね」
「ふうん…じゃあそれ以外には何かないの?やっていること」
「やっていること…あっ、ソシャゲをやっていることとかかな」
「そしゃげ?」
「ソーシャルゲームの略称だね。友人に勧められたんだけど、あまり強い武器やキャラが手に入らなくて…」
そもそも、攻略対象の幸運値で強いキャラが出るか決まっているとしか思えないからなぁ…レイラが一番レア度平均が高かったっけ…
美奈は攻略対象の中では魔力量が一番伸びが高く、他のステータスもやや高いが二つだけ「体力」と「幸運」の伸びは他の攻略対象以外のキャラよりも劣る。5レベル上がっても2~3しか上がらない程の低さ、その為、攻撃がクリティカルヒットする事がほとんどない。幸運の塔を考えたのもこのステータスを思い出したからだ。
「その友人って、もしかして姫様とギルドマスターさんの娘さんにアイシャさんなの?」
「あぁ、うん、そうだよ。よく知ってるね」
「あのバトルアリーナから仲がいいのは余程伝わってくるの」
いつの間にかテーブルに置かれていた料理に手を付けながら、話し続ける。
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