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第十四部 一章 エモーション

 4月20日


 View 美奈


 「ラララ―♪」


 朝、身支度をしながら上機嫌で歌を歌う。それに続いてカレン達が続いて歌詞カードを見ながら歌を紡ぐと中庭の木に止まっている小鳥が囀り一緒に歌っているような気持ちになる。


 こんなに上機嫌な事には少し理由がある、それは…昨日、俺宛に届いた手紙、差出人は鬼灯優菜。あのラウンドガールをしていた令嬢。


 手紙の内容は今日一日一緒に遊びに行こうと誘いを受けた。前世では女子と交流があったのは高校生以外にほとんどない俺にとってはそれなりに上機嫌にならざるおえない。


 (あの三人は例外中の例外、どうしても大人と会話…いや、どことなく自分自身と会話しているような…自問自答?とでもいうのかな、そんな感じがする)


 「とは言え、マスコミにわざわざ標的になるようなことはしないのが一番だよねー」


 そこで今取る行動は目立ちはするが、ほぼ100%千麟美奈とはバレない方法その手段とは…


 「クロススピリット」


 精霊との融合で年齢は2~3歳程度成長する。それは精霊一体に対しての効果であり高位精霊4体全てと融合する。結果として肉体年齢は最低で13歳、最高で17歳程度の成長をすることとなる。


 まぁ、精霊の特徴も少しは受け継ぐことになるけれど、それに関しては目をつぶる。鏡を見て普段の自分と照らし合わせてみる。


 肌は色がほんの少し日焼けしたように肌色が濃くなっているがそれでもなお、白い方だろう。瞳はカレンの要素を多く取り入れているのか燃えるような真紅、唇はみずみずしい、おそらくはライズの要素だろう。

  

 他にも薄緑色の髪はノース、肌はマーラの要素を取り入れていることが分かる。大会で一回はクロススピリットをしたが、その時とは全く違う姿、しかし顔立ちはあまり変わってはいない、それこそこのまま成長したらこんな感じになるのではないか、と思う体型だ。


 「そ、それじゃあ、ここも…」


 自分の身体を見下ろすように見るが…


 「…うん、肩にかかる重さがそれほどないとは思ったけどさぁ、もう少し大きくてもよかったんじゃない?私の胸ぇ…」


 これでも、アイシャとほぼ互角というのがなんか悔しい、アイシャの母親も前に見た時めっちゃデカかったんだよな…三食全部に豊胸薬でも入っているのか?


 負け惜しみ的な考えを振り払うように頭を振り、ハンカチやポケットティッシュ貴重品を鞄に詰めて腕時計に目を通しながら、出かける準備をする。 


 「っとと、そうだ。この写真を撮って優菜さんに送らないと私だって分からないよね」


 自撮りをして何故かお父様が知っていた優菜さんのスマホに変身姿を送る。しばらくして優菜さんから「OK」のメッセージを貰って待ち合わせ場所に向かおうとすると


 「あっお嬢様」


 サリアちゃんが呼び止めるように話しかけてきた。まだ待ち合わせには時間があるが、サリアちゃんの様子はなんだかそわそわして落ち着かない様子だった。


 「き、今日は遅くなるんですよね?」


 「え?えーっと多分ね。夕方にはなるかな、予定は立てていないけど、誘ったのはあっちだし、多分色々考えているんじゃないかな、なんで?」


 「い、いえ、何でもありません。い、いいいいってらっしゃいませーっ」


 明らかに挙動不審というか動揺している。絶対何かを隠しているという意図がバレバレだ。


 (でも、サリアちゃんが隠し事なんて珍しいな、問い詰めても良かったけど、それよりは今日の二人っきりの…で、デート…でいいのかな、春の涼しさの中で訪れるほんのりとした雰囲気のデート、デー…ト)


 あぁ!ダメだダメだそんな思い込みが激しすぎるのは除外しなきゃいけない。こういうのはお約束っていうのがあるにきまってる。デートじゃないのって思わせて相手にその気は一切なかったっていうやつ、気合を入れておめかしやプレゼントを用意したのに全部空回りするやつの可能性大。


 …でも、本当にデートの可能性もあるから、そうやって相手がデートと思っているのに贈り物が無いのも不満にさせちゃうから、何か持っていきたいけれど…空回りしたら立ち直れそうにないから持っていけない、俺のいくじなし…!


 View Change サリア


 手を大きく振ってお嬢様を見送る。視認できなくなったら急いでメイド長のところへ向かう。そこには大旦那様に他のメイドも全員集まっていた。

 メイド長の隣りに並び声を潜める。


 「ただいま、戻りました。お嬢様はたった今出かけたので話を聞かれる心配はありません」


 「そう、そろそろ話が始まるわ、静かにね」


 大旦那様が腕時計を確認して私達を見渡して一つ咳ばらいをしながら大声で話す。


 「いいか、今日は全員警戒体制を取ってもらう。失敗は=死だと思え、今回のミッションは至極単純であるが、難易度は最大級と言っても過言ではない。それ程過酷なミッションということだ」


 それを聞いて、私含め全員がどよめく、唯一顔色を変えず狼狽えないのはメイド長、どよめくメイド達をキッと睨むと話していたメイド達は黙り、再度大旦那様の方に顔を向ける。


 「此度の詳細について説明する。午前の10時から11時の間に一人、又は二人の来客が訪れる。そいつらは私よりも年上だが油断してはならない。その二人におもてなしをしつつも美奈には決して近付ける事は出来ない。視認だけでもアウトだ。

 その為時間には常に気を配れ、奴の時間帯をずらすことで我らの接触回数を最低限まで減らす、これが厳守事項だ。作戦開始!!」


 大旦那様様がそう言うとメイド達はそれぞれ早歩きで散開する。


 「あのっ、メイド長、そのお客様ってご存じなのですか?」


 「…えぇ、あの緊張感のある声、あの人が既にこの国へ来ているのでしょうね」


 「その人っていうのは…?」


 「そう言えばまだサリアにはこの話はしなかったわね、ちょうどいい機会だし、少し昔の事を言いましょうか」


 「昔…メイド長のですか」


 メイド長の過去は聞いたことが無い、本名も不詳で誕生日も不明、なぜこの家のメイド長を務めているのかすらも聞いたことが無い。


 「私はね、元々は捨て子だったの、戸籍も出生届もされていなくてね。多分元々捨てる気だったみたい」


 「ええっ!?メイド長が…捨て子なんて、でもそんなにハイスペックなのにどうして…」


 「まぁまぁ、とりあえず続きを聞いて、大旦那様はね実家がある組織だったんだけどサリアちゃん「高松宮会」って知っている?」


 高松宮会、それを知らない人間は真面目に働いて社会に十分向き合っている証拠だろう。


 「簡単に言うとヤクザのドでかい組織、仁義やら盃を交わすやら、私も詳しくはないんだけど、大旦那様はそこのトップの息子でね、旦那様の結婚を機に千麟に改名したらしいんだけど、まぁ、いい話には聞こえないよね」


 そう言えば、大旦那様と旦那様もそんなドラマとかを多く見ていたような…時折「そんな生易しいもんじゃねぇよ」とか「美化され過ぎだ」って…もしかして実家が原因…?


 「大旦那様が護衛に囲まれて街を歩いている時に町の隅に不自然な布に包まれているのに気づいてね。護衛の制止を無視して布を剝がしてみたら、女の子の赤ちゃんがいたのよ。

 それが私、最初はびっくりしたらしくてね~泣き声もあげられないくらいに衰弱していてこのままにしておくのは出来ないって連れて行ったの、その時、会長さんは離れていたから私を連れて行ったのは気付かなかったんだって」


 連れて帰った後、親含め大混乱に陥った。「何故拾った」や「死ぬ気か!?」という声が多かったらしい。


 「裏社会ではね、命を狙うとき特殊な方法を取る人が多いんだって、調教した動物に爆弾を巻き付けて突撃させたり、刺客を捨て駒にして用が済んだら事故に見せかけて殺したり、トロイの木馬のようにわざと敗走して戦利品に罠を仕掛けていたりとか、騙し騙され次の騙し合い、私はその刺客が送り込んだものだと思われたらしい。体内に爆弾を仕掛けられているんじゃないかって、それ程、裏社会では巧妙な手口を使われていたのよ」


 結局、そう言うものは仕掛けられていないと分かったけど、次は処遇について議論が交わされた。出生届が出されてなければ殺した所で何の問題もない。しかし、それを提案した大旦那様の祖父に対して大旦那様は…


 「私はその話を聞いた時、泣いちゃったな「じじい、歳で頭までしわくちゃになったのか阿呆、親がどうしようもないクズだろうと赤子に何の罪もねぇだろ、んな提案却下だ」ってね」


 気がついたら私は頬に数滴の涙を零していた。それに気づいてメイド長はハンカチを渡しながらも、話を続ける。


 「それでも、会の中に入れるのは結構難しかったようだよ。結果的に大旦那様が私を引き取る形になったんだけど、私に名前を付けるのが一番難しかったからね。

 当時、高松宮会は地元では名の知れたヤクザだったから、育ての親である大旦那様と同じ苗字だと目立ちすぎるからって、だから場所の名前から取った名前があるんだけど…私はそういうのを受け取っちゃうと自分としての存在が無くなっちゃうんじゃないかって思うんだよね」


 「あの…その名前っていうのは教えてくれませんか?」


 それを聞くと、少し考えるように額に人差し指を当てていたが、「これは他のメイド達にも言ってないけど、最近サリアちゃんは頑張って修行に励んでいるようだし」と言って正面に立ち、胸に手を当ててお辞儀をする。


 「私は、一ノ瀬 由華那 元高松宮会直系、一ノ瀬組組長です」


 「メイド長が…元極道組長!?」


 「とは言っても、そんなに長くはいなかったの、ほんの数か月で違う子を襲名したし、大旦那様の後について行った結果メイド長としての職に就いたわけだし」


 「…でも、メイド長の本当の両親って最低ですね。お腹を痛めて産んだ。血のつながった肉親なのにどうして…」


 「さあ?でも、今更気にしても仕方ないし、死んだ両親に未練何て全くないから今の状態が一番合っているかも」


 「…あれ?死んだってどういうことですか、一ノ瀬メイド長」


 「私をその名前で呼ばないで、恐れ多いんだから、それで本当の両親の話しだったでしょう?大旦那様は私を引き取る前に本当の両親を徹底的に調べたらしいんだよ。そしたらびっくり、高松宮会の敵対組織のヤクザの子供だったの、抗争で敗走した結果、元々捨てる気だったっていうのもあって野垂れ死にしても問題ないと思ったんじゃない?巻き込まれたともなれば、多少でも何人か罪に問われるでしょ?」


 「…本当に最低ですね」


 「飛行機で逃げたらしいくてね。飛んだ先が地獄だったってわけ」


 「…地獄、ですか?」


 「いや、これはまだ知らない方がいいわ、とにかく、あの時の大旦那様は当時のご時世に生きていたから社会から外れたり、行き場を失った者を引き取って人目につきにくい立場の裏社会に匿っていたの、何度反対されても、親子で殴り合いに発展しても、最後まで折れずに自分の仁義を通して面倒を見てくれる。

 私達の親であり、聖人とも言われていたからね。この屋敷には言いたくないからって理由で元ヤンや極道の娘も何人かいるんだよ。反社会組織に関わってほしくないから、メイドとして働いている」


 私は、さらに涙を流して、大粒の涙は自分のメイド服を濡らしていた、渡されたハンカチもすぐにびしょ濡れにして端から涙の水滴がぽたぽたと落ちる。


 「お嬢様はこの事を知らないから、この話を聞いたメイド達が必要以上にお嬢様を恐れていてね、旦那様や奥様を通じてメイドの悪事、あなたをいじめていた事を大旦那様に密告したらメイドだけに冥土に行くことになっちゃうからね」


 そこまで言うとメイド長は「さてと」と言って手を鳴らすと歩くスピードを上げて来客に備えると私にいくつかの指示を与えてそそくさと去ってしまう。


 (…でも、大丈夫かしら、お嬢様…どこかでばったりとその高松宮様と出会ったり…はしませんか、そんな事はさすがに…)


 View Change 優菜


 「ふわぁ…あぁ」


 身体を伸ばしながらはしたないあくびをしてしまう。口は手で押えていても口元は見えてしまう。


 (とはいえ、まだ人は少ないし気にする程の事じゃないのかもしれないの)


 それでも寝不足で目を軽くこすりながら、さっき自販機で買った強炭酸カフェインたっぷりのコーラで目を覚ます。


 「っっっっっっ!!!!」


 一口目からパチパチと弾ける炭酸と喉を通る度に焼けるような痛みが突き抜ける。それを覚ますように二口、三口と炭酸の深淵を垣間見る羽目になった。


 「うっ…ゴホッ、ケフッ」


 あまりの強烈さに右目からツーッと涙が流れる。あくびで既に涙目だったがコーラがそれに追い打ちをかけたようだ。


 「…まだなのー」


 朝から踏んだり蹴ったりで少し弱気になりながら昨日の夜の出来事を思い出してしまう。


 ~4月19日 夜7時30分 鬼灯家~


 「いいかい優菜、今度という今度はあの忌々しい千麟家に一泡吹かせるチャンスだ。それは理解しているね」


 「お任せくださいなの、お父様、私も鬼灯家の人間我ながら言うのもなんですが千麟家との不俱戴天っぷりはご理解しているの今回の計画で心をへし折ってやりますの」


 「くふふ、鼻ではなく心と来たか、流石だな、今回の計画も当然知っているのだろう」


 「もちろん知っているの、鬼灯家が経営する舞台劇や店に誘導して、劣等感を与えて千麟家の事業を取り込む、そうしたら…」


 そうしたら美奈と一緒に暮らすことにして、夜に夜景を視たり、遊園地で遊んだり、そしていつか、いつかゆくゆくは…あぁー!美奈さんダメですー!


 「完璧な作戦だな」


 「うん、くふふ」


 「「AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」」


 ~現在~


 あの後調子に乗って全く関係ない事業をピックアップし過ぎたせいでほとんど寝られなかった。4時間の眠り、どうか持ってて頂戴なの!


 「お、お待たせしましてごめんなさい」


 声のした方向に目を向けると、写真で見てはいたけれど、実際に見ると改めて凄さを実感してしまう。


 声は少し大人びて、透き通った声にすらっとしたモデルさんのような顔、申し分なさそうな、おどおどした顔は少しそそられるような、何と言えばいいのか分からない気持ちが高ぶって、そして…


 (そして何より、興奮するっ!!)


 そこでハッと我に返り、本来の目的を思い出す。


 「いえ、速めについてしまったのはこちらの方なの、さぁ、手を繋ぎましょう、美奈が迷子になりませんように、エスコートしてあげますわ」


 「わぁ、頼もしいですよろしくお願いいたしますね。優菜さん」


 そこでピタリと足を止めて、少し不機嫌な顔をして振り返る。


 「わたくしの事は呼び捨てで構いません。対等な立場で付き合いたいので、そう呼んでくださいなの」


 (い、今の自然な会話よねっ「付き合い」の意味は友達として受け取ってもらえているかな?もしかして違う意味で捕らえられちゃったら、気持ち悪いと思われたりしてないかな!?)


 View Change 美奈


 「はい、それでは…じゃなくて、よろしくね!優菜」


 (さっきの「付き合い」ってどういう意味かな、いやいや別にその気があったらというわけじゃないけれど、あぁ~あの三人とは違う、いい匂いがする)


 かくして、波乱万丈の一日が始める。

次回5月中旬予定

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