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第一部 四章 リラ・エンジェルス

 「なんと…記憶喪失ですか」


 目の前には60前後の男性がううむと顎に手を当て考えている。


 「ええと…お、私?僕?わたくし?何も覚えてなくて…」


 考えをまとめよう、あの時、階段を降りる時、後ろから押され石段に身体のあちこちから血が噴き出て意識を手放した。

 次に目を覚ましたのは、見覚えのない天井で自分の姿はストアドの世界で攻略対象のリラ・エンジェルス・シャリアになっていた。


 その事に頭は混乱し、現状を理解するために思考を全力で回した結果キャパシティがオーバーヒートを起こして知恵熱でベッドに三日間寝込む事になってこの状況が夢ではなく現実だという事が分かった。


 「姫様、記憶がない以上、無理に言葉を選ぶ必要はございません、これからは、姫様の安全身の回りの保護ほぼ全て、このエリックにお任せ下さい」


 シャリア王国の矛であり盾、罪人であり処刑人、その名はエリック・ランドルフ。

 エリックはかつて、離れ小島の紫炎と呼ばれ、残酷な殺人鬼として、王国に恐れられていた、しかし、それは表向きのカモフラージュだ。


 シャリア王国では身分が高いものほど自由に動けない。それなりの有力者だからだ。

 その為、少しでも動きやすくなるために必要だったのが、制度に囚われない[悪]が必要だった、それに、自ら志願したのがエリック・ランドルフ、シャリア王国の港から北北西にある人口40人の小島出身の彼は生まれ持った才能を見出され王国の影の暗躍者となった。


 その為かヒットマンとしてもあり、義賊のような役割をしているが為に国の至る所にWANTEDの下には全く似ていない人相が描かれている。


 まぁ、端的に言うと攻略対象より目立っている最強クラスのキャラだ、具体的に言うとレベル70ある。


 因みにストアドの世界では9つの前作と同じ世界だが、今までの中で姫が攻略対象になるのは二回目だ一回目は5作の作品でその時の執事の名前がみんな大好き、セバスチャンだった。


 まあ、話を戻すとしよう、この小さな体で俺の精神はストアドの世界でリラの身体に宿ってしまった訳だ。


 リラのプロフィールは王族の第1王女、王族に伝わる天の皇帝の加護を持つ魔法の天才、並外れた魔力を持つ、簡単なプロフィールではそうだった、王女として認められるのは23歳なので正確には候補である。


 しかし、王族である為、身の危険には十分注意しておかなくてはならないので、階段から落ちたという出来事は王城で大騒ぎになったらしい。


 王様や王妃様は知恵熱で寝込んでいる時、めっちゃ心配して執務を放棄して手を握り悪霊に取りつかれたようにリラと呟いていたらしい。


 「じいや、御本を読みたいわ、適当に持ってきてもらえるかしら?」


 そういうと目の前から一瞬でエリックの姿が消えると2秒で消えた場所に一ミリも違わずに戻ってきた。


 「こちらを」


 そう言って差し出してきた本のタイトルは第二十三術式総集書、後から、調べてみたら王城最大書庫最奥に保管されている超重要書物だった。


 それから数日後、のある日の出来事だった。


 「ふむ…これは発動するまでに時間を使うのか…あらかじめ、敵が出る事を予測出来たら、出た瞬間に発動できるように工夫すれば…」


 第二十三術式総集書を読んでいると窓からテシテシと外側から叩いている音が聞こえた。


 「きゅいきゅい」


 窓の方に近づくと子犬が木の上でプルプル震えていた。


 「なっ、えっ」


 猫が木の上に上ったが降りられなくなるのは見た事あるが、犬は見たことが今までなかった、しかも犬の鳴き声ではない事に違和感を覚えつつも窓を開けて部屋に入れる。


 「きゅ~」


 「…可愛い!」


 愛おしさが溢れて洋服に毛がつくことを気にも留めづに抱きしめる。


 「きゅぅぅ」


 「かわいい~♪きゅっきゅ(可愛いね可愛いね)」


 頭を撫でているとコンコンコンと素早くドアを三回ノックしてエリックが返事を待たずに部屋に入ってくる。


 「姫様、城に害獣が入り込んだようなのでお部屋を出る時は…むっ」


 エリックは眉間にしわを寄せ腰のレイピアに手をかける。


 「ま、待って待って、この子は…そう、お友達!わたしの初めてのお友達なの!」


 「…」


 流石に、無理があったかな?そうだよね、さっき害獣って言っていたし余所者どころか人間ですらないからこのまま預けると確実に殺されちゃうよねこの子、えっと他に何か言い訳を…


 「姫様、その獣はもしや、フェンリルでは?」


 「…はい?」


 フェンリル、知っている人は知っているだろうが神獣の割とメジャーな部類だ、倒すが主流ではなく崇めるがこの国ではそうするものだった記憶がある。


 「…ステータスオープン」


 ステータスを開くと自分の名前の隣に装備枠にフェンリル(幼体)と書いてあった。


 「…フェンリル…みたいです、はい」


 「…お友達ですか」


 「ハイ…」


 「…」


 「…」


 「国王様!!王妃様!!一大事ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!」


 その日、城内にフェンリルの幼体が迷い込んだという話しは瞬く間に広まった。


 「ふんふんふ~ん♪」


 フェンリルを膝にのせて優しくブラッシングをしている。

 木の上にいた時はぼさぼさで汚い印象があったが、ブラッシングしただけで随分綺麗になった、整った毛並みにどこか神々しさを感じる。


 「普通、フェンリルは親の元を離れる事が出来ない存在ではぐれてもすぐに親は気付くものですが」


 習性をいうエリックの言葉で悲しい予想に行き付く。


 「親とはぐれたんじゃなく、親が死んだ…天涯孤独ってこと?」


 「きゅ?きゅぅ…」


 自分で母親と死に別れてしまったといった事に涙ぐんでしまう。


 「しかし、長生きはしてみるものですな、フェンリルなんて、空想上の伝説ばかりかと思ってました」


 ゲームの中では超激レアのモンスターで今までの作品でも1年間やりこんで2匹出るくらいの超激レアモンスター、倒したら一兆円の白銀の延棒と全武器(最大攻撃力+高確率即死効果)が手に入る。

 魔物を仲間にする事は出来なくはないが、モンスターテイマーのスキルポイントが20ポイント必要でポイントを上げるごとにモンスターを仲間にできる確率が上がるというシステムだった。


 「モンスターテイマーじゃなくてもこう言う事があるんだね、エリック」


 エリックは毛がついたドレスに手を当てると磁石のように毛がエリックの手に引き寄せられる。


 「卵から育てるという話しは聞きましたがこの王国ではそのような事をやる人は少ないらしいですな」


 「そもそも、卵を持っている人が少ないって事?」


 「それもありますが、虎などの成体が大型の獣ですとじゃれているだけでも大怪我することがあるので、フェンリルは成体は大きいサイズですが、伝承によると、体の大きさを変えたり色々な生物に化ける事が出来ると言われておりますので、それが本当ならそれで、しかし、それがデマなら…」


 最悪の事態に備えて処分…がありえるって事かな、でも、親と別れて一人、一匹だけど、それで結果処分なんて、とてもかわいそうだ。


 「姫様、そのフェンリルに名前はつけないのですか?お友達なのでしょう、愛着がつきますよ」


 名前か、うーん、正直ネーミングセンスとかあまりない方なんだよな、種族から取るのも安直すぎるし、だからって変な名前にするのも、うーんと、フェンリル、フェンリル…俺の名前を合わせるような可愛い名前…


 「リエラ…リエラ!決めたこの子の名前はリエラにする!」


 「リエラ、ですか姫様の名前に似て良い名前だと思います」


 「きゅっきゅい!」


 名前を気に入ったのか肩に乗って頬ずりをしてくる。


 「姫様、少々失礼します」


 エリックがリエラの前足に触れるとパチンッと音がする後ろ足も同じように触れるとパチンッと音がするエリックの手には鋭い爪がある。


 「このままですと、姫様の服がビリビリに破けてちゃいますから」


 リエラはエリックが少し嫌いなようだ、暴れはしないが触れた時少し唸っていた。

 機嫌を取る為再びブラッシングを再開すると目を細めてしばらく経つと眠ってしまった。


 「リエラ、眠っちゃったね」


 「寝るスペースでも作りますか?それならピッタリなものがありますよ」


 エリックが手渡してくれたのは小さなキューブ状のものだった。それについてエリックが説明をしてくれる。


 「これは私が20代のころ王国に使え始めたころ、騎士団員に入団記念として元団長にもらったもので、この斜めの出っ張りを引っ張ると空間の裂け目が出来ます。私は使っていないので何もありませんが、エサや遊び道具があれば立派な犬小屋には丁度いい魔道具かと思います」


 空間の裂け目とは太古に作られた魔法だ。

 空間の裂け目を通ると真っ白な文字通り何も無い空間に出る、術者により小さな部屋や大きな部屋実験室などの形に変化出来る魔法で簡単に言うと子供の秘密基地みたいなものである。


 「いいの?結構、値が張るものでしょう?小さなものでも10万前後かかるのに…」


 「タダでもらったものですし、使う暇もありませんから、問題ないですよ、お値段もそんなにしてないようですし」


 「あっ、そうなんだ、なら安心…」


 「1000万だと言ってました」


 「い、いいいいっせんまん!?」


 一千万円の空間の裂け目を使えるキューブってまさか、千聖の魔全!?ストアドシリーズ初代からクリア後のみにしか手に入れることが出来るアイテムじゃないかっ、しかも、手順が一番面倒で買い取ること自体は一千万だがサブイベントで病弱の娘を助けるなどでドンドン所持金を減らすラストで一千万払うことになることからプレイヤー間では最大最悪の貧乏人堕としとまで言われている。


 「エリック!その人どうなってるの!?このキューブ確か100個以上部屋が作れるはずだよっそれも高すぎるよ!!」


 「いや、父上の所有金額は2不仮説不可説でしょう?比べれば安い安い」


 不可説不可説、無量大数よりも大きい単位、現段階で不可説不可説の上に不可説不可説転があるが、それ以上の単位は無い。

 つまり、大きい病院どころか大陸を買ってもお釣りが来るくらいの額だ。


 「比べないでぇ、国のトップの所有金額と比べないでぇ…」


 あぁ、そうだった、そういう世界だったな、前世で一般大学生の俺にとっては次元を超えている、いや、実際超えているんだけど…あぁ、胃が痛くなってきた。


 「そういえば、父さん、あっ、えっと…私って父親の事なんて言ってた?」


 「ご両親のお二方はお父様お母様と言ってました」


 ヒロインのプロフィールを何回も見たけど、基本的な事、一人称は分かっていたけど、他人どころか身内をなんて言うのか分からないからね、でも、姫様だからって偉そうにしないし、高飛車でもないんだよな、何故かは知らない、というか、そういうのって親愛度上げないと話さないし、体験版しかやれてないし…


 「ねぇ、エリックって今の私と昔の私どっちが好き?」


 「使用人である私が好意など…まぁ、LOVEではなくLIKEの方なら、今の方ですかね、記憶を失う前は感情がどこあるのか分からなかったくらいですから」


 「感情?」


 「記憶喪失になる前は、何と言うか、おかしなことを言うようですが生きるのが下手みたいな感じで」


 確かに可笑しい事だ生きるのが下手なんて、表現自体が使われない、目に光が無いの方がまだ分かる方だ。


 「ですが、今は喜怒哀楽を表現できているというか表情豊かになったので気を使う事が出来るというか、個人的に良くなったという意味で今の姫様が好き…ですかね」


 「…そう」


 ゲームでは誰にでも礼儀正しくて授業も真剣に受けていたイメージだけど、そんな事になったのは入学してなのか?

 イメチェン…ではないよな、それにしては変わりすぎだと逆に浮きすぎる、高校デビューでキャラをインパクトに見せつけようとして見せつけたはいいけどそれで逆に孤立したっていうやつ、確か、そういうやつ実際に見たことあるけど、それとは関係ないか。


 「そういえば、エリックのステータスってどういうの?というか私も見れる?」


 エリックのステータスは最強クラスだ。主人公と一定の期間でのみ戦う事が出来る一定のダメージを与えると強制終了になり、ヒロインの好感度アップのヒント、レベリングのおすすめなどを教えてくれる。

 まぁ、その一定のダメージ与えたではなく挑んだ回数によってどんどん強くなるから3回目で心折れた、けど一回の攻撃で2000ダメージとか、あり得ないでしょう。


 「姫様、ご自分のステータスを開いた後にフルオープンと言えば自分以外の人にもステータスを見る事が出来ます、盗み見るのはできますが、それは、情報開示というスキルがなければいけませんが、お望みであるならお見せしましょう、ステータスフルオープン」


 「これが、エリックのス、テータ…ス…?」


 暗殺スキルMax、スキルシリアルキラーレベルMax、凶器扱いの心得、レベル78、HP70000とか、最終ダンジョンのボスかよ…

 いや、待てこういう時こそ冷静に考えるんだ…ゲームでは一定のダメージで強制終了された時の相手に与えたダメージは幾つだった?10000も削れていなかったはず、検証してもいなかったが…およそ2000~4000くらいだった、ということは、あの時は全力の十分の一の力も出していなかったって事か!?


 ストアドの成長ではまず、ジョブとクラスを決めるジョブには型が決まっており、暗殺者はスピード型特化の能力値になるクラスはジョブを決めた後にメインクラスとサブクラスを決める。

 メインとサブを同じクラスにしたらそのジョブの限界値を超えて隠しスキルを取ることもできる。

 つまり、エリックのステータスはまさに暗殺者がん振りでバフなども一切使っていないこの強さにするには約1か月飲まず食わずで画面にかじりついていないと到達できない強さだ。


 「…ごめん、ちょっとリエラの身体を洗うからしばらく空間の裂け目を使うね…」


 「おや、もういいのですか、姫様にはまだ見てもらっても構いませんが」


 「いえ、本当にもういいです、ごめんなさい後は自分でやるのでお休みください、自分の部屋でまた用がある時にお越しください、ええ本当に」


 「?何故、敬語を…?」

 

 エリックのステータスを見て、後悔して眠っているリエラを起こして部屋に常備してあったシャワーで洗う。


 気持ちよさそうに目を細めて足元に溜まった水を飲んでいる。

 しかし、頭からあのステータスが離れない。


 「やめてくださいエリックさんそれ本当に死んじゃうから一瞬で血の海ができちゃうから見るのも嫌だから武器を隠してあるのやめて、それ絶対いたいから…」


 「きゅぅぅ、きゅい、きゅい!」


 「あぁ、リエラ、君の可愛さが今の俺には必要だよ…よしよし」


 その言葉に答えるように手をペロペロ舐めてくれる。


 「はにゃぁ~可愛いでちゅね~、後でおやつにビーフジャーキーをあげまちゅからね~」


 そういえば、従兄弟のお兄さんが犬を飼っていたっけ、あの犬も可愛かったな。


 「そういえば、可愛いから名前とか勝手につけていたけど、メスでよかったよ、リエラでオスだったら名前を改めようかと思っていたからね、はぁ~濡れたリエラちゃんもかわゆいでちゅね~」


 それからしばらくその部屋から猫撫で声が響いた。

次回3月末予定

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