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第十二部 壱章 ネメシス

 カチャカチャとテーブルの上にはミックスナッツや市販のジュース、スナック菓子などの軽食が置かれて誰から自己紹介するか迷っているようだったが直ぐにゲンブが立ち上がる。


 「ここは適当に来た順番でいいだろう丁度来た順番に座っている事だしな。僕…いや、外の顔はやめておくかそっちもそんなに堅苦しいのは嫌だろう。そんな顔をしている」


 ゲンブは咳払いをして小さなグラスに注がれた飲み物を一口飲んだ後に話し出す。


 「俺はゲンブだ。ゲンブ・オーガスタ・キャロル「ネメシス」の称号を始めて取ったがだからといってお前らのリーダーになるつもりはない。剣の腕に自信はあるが、よろしく頼む」


 座ろうとするとギルドマスターから少しの補足がある。


 「彼は剣術のエキスパートと言えるだろう。人生の中で剣術で勝てたものは一人もいない伝説が語り継がれている。冒険者の中でも彼の名は世界中に知られているだろう、彼に憧れて冒険者になったというやつも少なくはない」


 そのように持ち上げられてもゲンブの顔は少しも変わらず、ポテトチップスを数枚つまんでパリパリと食べている。


 「あーしはアリア・オーガスタ・キャロル「ネメシス」としては2人目として通ってるけど、称号なんて飾りみたいなものだしここにいる6人全員が持っているからわざわざ言う必要もないかな、それとえーっと…もういいや以上で」


 「彼女はゲンブさんの妻で2人は様々な地方を旅しているらしい結婚したのは最近という話だが冒険者としての腕はピカイチと言っても過言ではない。多くの武器を駆使して扱う多彩かつ高度な戦闘技術は見たものを戦慄させる程の実力を持っている。オールラウンダーである為、今回の依頼に重宝するのは間違いない」


 「あー、レイラ・ローラシア・ワシーリーです。そっちのお二人に比べたら廻った土地は劣りますので、あまり期待はしないでください」


 「彼女はそう言っているが、とんでもない。何を隠そうあの「東の大戦」の唯一の生き残りなのだ。彼女以外にあの大戦を生き残ったのはいない。その出来事から一時期は「不死身のレイラ」とも呼ばれた女でもある」


 その言葉を聞いたレイラは何かを言おうとして口ごもる。その後も何かを言おうとしていたが次の人物の自己紹介が始まり口を閉ざす。


 「ニコル・イグナートワ・ラッラナ・バックラーだ。少し他の奴らとは名前が長いか、ファーストネームでニコルと呼んでくれよその方が呼び慣れているから」


 「彼はとても珍しいアニマルテイマーの二つ名を持っている野生の猛獣だろうが彼の手にかかればすぐに飼いならすことが出来るらしい、その技術で戦いの有利な状況を掌握できる」


 「ヨハネス・ラインハルト・ハミルトン、長距離からの魔法が得意で近接戦闘は素人以上は出来るから、自分の身は自分で守る自信はある。よろしくな、あとヨハネスじゃなくハンスでいい

昔からの愛称だ」


 「紛争地帯を幾度も体験して生還したその姿は電光石火の如し、彼を表現するならその様な言葉だろう。彼の後輩は現役の作家でその中の一つに彼の事が事細かに書かれている、疾風の如く華麗に舞い大地をかけるその姿は虎のようだ。中々興味深い」


 ヨハネスはやれやれという感じで肩をすくめるがその頬には汗がにじんでる。恐らく、過度な期待がプレッシャーとなっているのだろう。

 

 「あ…最後か鷹宮 弦、俺から言えることはただ一つ俺は人付き合いが苦手だ」


 「まぁ…人に対する想いはそれぞれだからな…しかし、彼はソロで数々の実績を持っているらしいオーガの巣窟を破壊して30体のガルムを相手にしても無傷で切り抜ける。ゲンブさんは世間でも知られる冒険者だが、冒険者間の知名度で言えば彼がこの中で一番だろう」


 「…で、これであーし達の自己紹介が終わったところだけどギルドマスターサン、特に何の説明もなしにあーしらを集めたのには理由があるよね。それもただ事ではない程の」


 「…はい」


 ギルドマスターは先程まで補足を楽しんでいた様子とは打って変わって深刻な表情を浮かべて目を左右に泳がせながらもごもごと言葉を濁すように小声で何かを伝えようとする。


 「男なら腹から声出せ!!口に出さなきゃ分からねぇだろ!!」


 ヨハネスの大声に突き動かさせるように圧をかけられたギルドマスターはビビりながらも説明を始める。


 「実は一か月ほど前にこの国に紫色の雲が一直線に向かってくるのを確認したんです。これは発生が奇妙なことで現象によるとこれは他の「瘴気の風」などの異常気象と同じと判断をしました。しかし…お恥ずかしながらここの冒険者はお気付きかもしれませんがそのような事態は他人事のように振る舞い、役に立たない為に皆さんを呼んだ次第でございます」


 「…待ってくれ、あらかじめに飛ばしていた鷹が戻ってきたようだ。もしかしたらその雲の事も何か掴んでいるかもしれない」


 ニコルが外に出ると鷹がニコルの腕に乗り器用に足についている伝書を渡すとニコルは鷹に向かって何かを話し懐から何も書かれていない伝書を持たせて鷹はまた飛んでいく。


 「待たせたな、どうやらギルマスが言っていることは間違いないみたいだ。だけどあいつらが言うに雲の中に何かが見えたらしいんだよ」


 「見えただぁ?おいおい鳥ってのは雲の中を飛べるのか?翼に油があるのは知ってるけど、長時間入れるわけじゃねぇし、雲の中なのに何が見えたって言うんだ?」


 「何もテイマーとして操るのは一羽だけじゃねぇ、あらゆる地方に飛び回る渡り鳥や大鷲、伝手を使って伝言ゲームをして貰うんだ。正答率が100%の信頼できる奴らだから少なくとも、そこら中のほら吹きよりは余程役に立つ」


 「で、紫色の雲については?何が見えたの?今のあーしらにはそれが必要でしょう」


 「それを今頼んだんだが、望み薄だろうな、さっきハンスが言ったように雲の中に長時間入れる鳥がいないんだ。どうやら中心に行くにつれて雷雨になるらしくて見えた物もその中心に居たって」


 「怪しさ満点だけど、正体は分からないって事か」


 「速度についても聞いたけど、自然現象の風で速度が変わったりしているから遅くても二週間以内には来るんじゃないかって、少なくとも今日や明日に来ることはないだろう」


 「それじゃ何日か私達はこの国で生活すんの?いやよ?こんなくっさい奴らがいる所なんて」


 「それについては同感だ。住めば都とは言うがそれも限度があるぞ、安眠出来てようやく確実に仕事ができるってもんだ」


 そのようにギルドマスターに詰め寄るが軽食をつまんでいたゲンブが何かを思いついたようで口をはさんだ。


 「それなら、俺のバインドに住めばいいんじゃないか?幸い食料にも十分蓄えがあるはずだ。二週間くらい十分だろう」


 「ゲンブ、バインドじゃ伝わらないでしょ、空間の裂け目の事なんだけど、一軒家程の大きさを作ることが出来たから鍵さえあれば誰でも簡単に入ることが出来る」


 「とは言っても鍵は俺しか持ってないし合鍵なんて作れないし作れるわけないんだよなぁ」


 「いいんじゃなかしら?私は安心して休めるところがあればいいんだし」


 「俺も賛成だ。でもあいつらが入れないから今飛ばした奴が帰って来たら羽を休めるように言っておくか」


 「まぁ、決まった拠点があるというだけで御の字か、じゃあ、みんなで一緒に…あっ、あんたはどうする?」


 ヨハネスが弦に尋ねると少し思案した様子だが、少ししてコクリと頷いた。


 「…意外だな、一人の方がいいとか自分で休める所を探すとか言いそうだったんだが」


 「天秤にどっちがマシかかけただけだ…聞きたいがそのバインドとやらは1人部屋は用意できるか?」


 「そうだな…6人だと…男部屋女部屋分けて…2部屋くらい空きがある。だけど、そのうちの1つは物置として使っていたから実質的に一つの部屋になるな…構わないか?俺もノリで作ったものが多いからバインドの中に入る事は滅多になくて、空間の把握はほとんど覚えていない」


 「構わん、確認したいがバインドの出入りはお前が…もとい、お前が持っている鍵が必要なのか?」


 「そうだな、だから俺がバインドに入るのは最後、出る時も最後だ」


 「…それならいい、俺は少しこの国を見て回る。戦いに適した場所がないか探すのも兼ねてな」


 弦が立ち上がるとニコルも外に出てバインドに入るのはヨハネスとレイラだけとなった。


 「あーしたちはどこ行く?」


 「そうだな…弦は戦いに適した場所を探すと言っていたが、ギルドマスターにこの国の地図をもらっていた。まだ開拓されていない所も多々あるが、そこの下見にでも行くか」


 「どうしてそれを弦に渡さなかったの?」


 「貰ったのはこれ一枚だし、弦みたいな奴は土地勘もあるし地図を渡しても「実際に見て判断する」って言いそうだしな実際ソロで動く奴はそんな奴が多い。お前も見てきただろう?」


 「あー、言いそうだね。でもあたし達も下見するって事は遠回しに人のこと言えない事をしてるんじゃないかな、カナ?」


 「言わないでくれ…ん、しまった。集合場所を決めるかかオーブでも渡すんだった。すぐに追うぞ!」


 「はぁ~解散した後にすぐやる事が追いかけっこか」


 その後、ニコルはすぐに捕まえたが弦はどこに行ったのか分からず、探すのは後回しにした。


 「…クッソ、意外と速いなあいつ」


 「最初に渡しておけばこんな事には…」


 「だーかーらー、そういうのは思っても言わない方がいいんだ。これは重要な事って言ったよな!?」


 「ごめーんね、それよりもそろそろ下見の場所に着くんじゃない」


 小さい林を抜けた後は広い高原が広がっていた。所々に大岩があるが、それよりも目を引くのがならず者だらけの街と比べてこんな綺麗な風景が広がっていいいのかと思う。しかし、2人にはそれがハッキリと分かった。


 「…いるな、土中にいる」


 「ええ、プンプン臭ってくる魔物のにおい」


 その時、遠くから怒号と叫びが入り混じった声が高原の中から聞こえてきた。


 「っ!気づかれた!?」


 「…いや、違う!誰かが襲われている、弦の声じゃねぇな…行くぞっ!」


 2人はすぐに声の下方向に向かう。その途中も声は段々と近くになっていくにつれて、土中にいる魔物も2人に気付き、襲うが全力疾走した2人に追いつくことはおろか足さえ掴めなかった。それでも、何とか追いつこうとゾンビやスケルトン、グールはただでさえ遅い足を動かす。


 2人が見た光景は岩の上で剣を振り回す少年、15歳くらいだろうか岩の周りには魔物の残骸と我先にと岩をよじ登る魔物の群れ、少年は一手先に登ってくる魔物を切り伏せて行く。


 しかし、少年の身体には魔物につけられた傷がいくつかあった。そんな事気にする暇もないと言わんばかりに少年は剣を振り回す、めちゃくちゃな剣筋あれでは身体よりも先に剣の方が根を上げ折れてしまうだろう、実際その剣は刃こぼれし始めて、2人が少年を見つけた時は2回切りつけることで倒せた魔物が4,5回あるいはもっと切らないと倒せない程だった。


 2人は岩の周りにいる魔物に向かって持っている武器を投げる、投げられた武器は密集していた魔物を貫き即座に武器を回収する。


 一瞬の出来事に不意を突かれた魔物達は標的を少年から2人に変えて飛びかかる、が魔物の群れは5分で壊滅した。


 今、この高原で生きているのは2人の冒険者と一人の少年だけ、あと残っているのは魔物の残骸


 「はぁ…」


 アリアが岩に登り少年の近くに行く。少年は痛みを思い出したように顔をしかめて傷を手で覆う。アリアはその手を無理矢理のけて、傷口をなぞるとアリアの指先が光り傷口が跡も残さず消えた。


 「っ!」


 「はい、これで治った…次は、ていっ」


 アリアは傷口を治した手で少年を殴った。殴られた少年は岩から落ちて高原の上に倒れる。


 「あんた何してんの?あーしらが助けなきゃ死んでたかもしれないってのに、こんな危ない事をするのがあんたの遊びなわけ?もしそうなら随分ファンキーな…いや、ここまで来ると死に急ぎにしか思えないね」


 「な、なんだよっ!いきなり現れてなにしやがる!」


 少年は殴られた頬をさすりながらも文句を言う、アリアはまた拳を振りかざすとゲンブが止める。


 「落ち着けアリア、ここで騒ぎを起こすのは簡単だ。だがそれで後に困るのは他でもないお前自身だ、違うか?」


 「…チッ!あーしの連れに感謝しな小僧」


 「…あんたもなクソババァ」


 「~っ!このガキィ…」


 「はいはい、ストップストップったく仲裁する身にもなってくれ。それで君は何しに来たんだ?剣を持っているとはいえ、この高原に来るなんて服装を見るに学生だろう」


 「…」


 「…あぁ、知らない人とは話しちゃいけないってか?申し遅れたな、俺はゲンブ・オーガスタ・キャロル、冒険者だ。それで後ろで歯軋りしながら睨んでいるのは妻のアリア・オーガスタ・キャロル綺麗な美人なんだが少し気難しい奴でな」


 綺麗な美人とゲンブが言うと歯軋りがピタリと止みボッとアリアの顔が赤らみさっきの様子とは打って変わってしおらしくなって両手を絡めながらスススッとゲンブの肩に顔を当てる。


 「さて、俺らは名乗ったんだ。これで知らない人じゃなくなったわけだ礼儀には礼儀で返してもらわなくちゃな」


 少年はムスッと不貞腐れた顔をしながら顔を逸らしながらも名乗る。


 「…リヒト、リヒト・エンジェルス」


 「リヒト君か、いくつか質問に答えてくれるか?出来れば具体的な返答をしてくれると助かるんだが」


 「…なんだよ」


 「まず一つ何でこんなところに来た?地元民ならここの危険度は分かって当然だと思うんだが?」


 「…強くならなきゃいけないんだ。その為レベルを上げてこの国をよくしなきゃいけないんだ」


 「強さ…ゲンブ確かこの国って…」


 「あぁ、無法地帯が多いから力こそが秩序を保つことが多い。現国王も力で民を従わせ従わないのは放置する愚王を言ってもいいだろう」


 「そして、俺はこの国の粛清を…「再開発計画」を実行するんだ!」


 それを聞いた2人は驚愕した顔をして少年、リヒトを睨む。


 「馬鹿どもを迫害して追い出してそれが平和だと言いたいのか?」


 「…はぁ?何を言っているんだ?悪い奴がいなくなったらそれで平和になるじゃねぇか、そうしたらみんな笑顔で暮らせるように…」


 「そのみんなにお前が言う悪い奴も入っているのか?」


 「…さっきからなんだよ。入っているわけないだろ!悪い奴は死んだ方がいい、さっき言ったが迫害なんてもんじゃねぇ!殺戮だ、悪い奴らを殺して…」


 「悪い悪いって軽々しく言ってんじゃねぇこの外道がぁ!!!!」


 リヒトが一喝するとその圧力に空気が震えた、リヒトはその圧力に押し倒されたように腰が抜ける。


 「聞いていりゃ悪い奴を殺す?みんなが平和?よくもそんな矛盾したことを言えるもんだな」


 そう言いながら近くに落ちたヒロトが使っていた剣を拾い上げると自分の手の甲を切る。鋭く鍛えられた肌から赤い液体が滴り指先から落ちる。


 「どうだ?これよりも痛々しい事を何十、何百、何千もやるんだぞ、それをやってみんなが笑顔になれると思ったのか?」

次回12月末予定

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