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第十一部 一章 祝勝会トラブル

 View アイシャ


 「っかぁぁぁぁぁぁっっ!たっまんねぇわ、疲れた体にお湯が染み渡るような、気持ち良さは正にこれ以上ない至福の一時。そうだと思わないか」


 大会の後、盛大な祝勝会を開くと言われ特例として城の一部を開放してもらえたので、まずは汗を流す為に大浴場を堪能している。


 「そうだね。ここの大浴場は別邸の所と負けず劣らずの湯浴みの場としてはとってもいい所、だけど何より目を引くのが…」


 そう言って美奈はお風呂の中に漂っている物をすくい上げる。


 「これ、湯ノ花かな、贅沢な感じがするけれど、こういうのはいいと思うよ。風情があるというか何というか…」


 「とは言っても実は以外に管理が大変みたいで、定期的にお湯の汲み上げている所を見ないと湯ノ花が詰まってお湯が出ない事もあるみたいで、たまに「まだ少ししか溜まってない」と思っていたら、次の日、驚くぐらいに溜まっていた。なんて話しも笑い話としてあるくらいですから」


 「難しいの?」


 「そうとも言えますが、疲労回復の効果や様々な効能効果があると思えば毎日管理するなんて苦でもないと言っている人が大半ですね。嫌々やっている人は、私の知る限りでは王城にはいませんね。使う人が限られているわけでもないですし」

 (だけど、それを利用して王城に忍び込もうとする輩がいるから、関係者以外の立ち入りがめっちゃ厳しいんだけど)


 「…レイラはそういうの詳しくないけれど、毎日こんなにいいお風呂に入れるなんて羨ましいなぁ」


 「…ねぇ、レイラ、さっきまで私の背中で寝てたからって、ここで寝たりしないよね…?」


 「流石にレイラもそこまではしないよ。それに眠気もスッキリ、お風呂から上がったらパーティーだもの」


 「そう…ならいいけれど、そう言えばリラはどうなの?汗かいちゃったから先にお風呂に入ったけど体質は大丈夫?」


 「あはは…それをうっかり失念してまして…まぁ、大丈夫です。氷魔法でギンギンに覚ますので…寧ろ水風呂にダイブして身体も頭もギンギンにしてあがるつもりでしたから…」


 「…無理して身体を壊さないでね」


 「あーあ、いいねぇいいねぇ、かまってちゃん2人は、俺もかまってとまではいかねぇけど、労ってほしいものだねぇ」


 「そんなことで駄々こねる人じゃないでしょ、それに過度な接触して機嫌を損ねる事もあるでしょう」


 「っは!それこそあり得ねぇ、身体を触られて怒るのは大人の身体になりかけの生娘ぐらいじゃねぇの?こんな幼児体型触られても何とも思わねぇよ。男に触れられてもな」


 そう、この時はそう思っていた。まさかこの直後にあんなことが起きて、あんな事を思ってしまうなんて、この時の俺には微塵も思っていなかったのだ。


 ~シャリア城エリア24 大浴場前休憩スポット~


 風呂から上がると階段へ続く道に攻略対象の男の子が待っていた。


 「ようやく上がったか、俺の母ちゃんもそうだが、お前たちもそうなのか?」


 そう言いながら、アルバートはこちらに向かって歩いてくる。


 「いいや、ただ髪が長いからな、水を含ませるのもシャンプーとか洗い流すのも乾かすのも時間がかかるものだ。男の君たちには分からねぇ?」


 「そうだな、女の事なんて分からないし分かろうともしないな、それが…おっ?」


 何かに気づいたような声を上げるとどうやら足がもつれたらしく、片足が引っ掛かり体制を崩す。倒れそうとした方向には俺、咄嗟の出来事に対応できなかった俺はアルバート共に仰向けに倒れる。


 その時、胸にヒリヒリした感触と下半身に涼しい風と生暖かい風を感じる。


 倒れてきたアルバートの体制は太ももの間に顔を埋めるような形で受け身を取ろうと反射的に伸ばした腕はアイシャの胸を鷲掴みするようになっていた。


 「…や、柔らか…い?」


 「…あっ…ぁぁぁ……」


 顔を上げたアルバートは思考が停止したように動きが止まるがその手は止まらずアイシャの胸を理解していないのか手を動かしている。


 一方、アイシャの方は喉から絞り出すようなか細い声を上げながら涙目になり、顔を赤らめてアルバートの手が胸を揉む度に小さく喘ぐ事で更に顔を赤らめてその顔色は熟したリンゴのようだ。


 「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!」


 しかし、それは5秒も経たずにアイシャの絶叫と約5メートル吹き飛んだアルバートによって中断された。吹き飛んだアルバートは数回バウンドして、ピクピクと痙攣して、アイシャは追撃するように、顔を未だに赤らめながら、何回も顔面に殴打を与えている。


 アイシャの絶叫は他のエリアにも響いたのだろう。しばらくするとドタドタと複数人の足跡が聞こえ、大人数が廊下にきてその現場を目撃する。


 その中にはアイシャの両親のガルドとジェシカもいる。しかし、何かを察したのかガルドは頭に親指、人差し指、中指をあて、ジェシカは頬に手を当てる。


 「あぁ…」


 「あら~」


 「大体、察しはしたんだが、何があったか教えてくれないか?それで、俺が今のアイシャを止められるかどうかが決まる」


 「いや、最初に止めてくださいまし!これ以上のアイシャさんを見るのは私達が絶えれません!」


 「俺もそうしたいのはやまやまなんだが…」


 リラとガルドがそう話しているとそれを遮るように二人の間に何かが飛んで壁に叩きつけられた。


 突然の事に驚き、それに視線を向けるとクリプトが何故か飛んできていた。叩きつけられた後よろよろと立ち上がりはしたものの小石が当たったら気絶するんじゃないかと思うくらいの重症だった。


 それをみた大人たちの中から何人かがクリプトに向かって何かを呟くと暖かい光がクリプトを包み込み傷が塞がっていく。


 「…こういうことが起きるから、あいつの怒りの度合いが知りたいんだ。それほど過激じゃないんなら、気孔を使わなくても止められるんだが…あれを見るに使わざるを得ないようだ」


 「で、でしたら、多少乱暴をしても構いません。お父様には私から言っておきますから…」


 「待て、まだ終わっていない、これは最悪なんだが…俺でも止められないかもしれない。とにかく何があったか教えてくれ」


 リラは起こったことを出来るだけ具体的に説明をしたが、ガルドは説明が続くにつれて、困り顔が段々と歪んでいき、ついには両手で頭を抱えて地面にしゃがみ込む。


 「もうそこまででいい…そして…あれだ。俺じゃ手に負えない」


 「…そう、ですか…あの、私にも教えてください。今のアイシャさんはどうなっているんですか?私たちにも止められるものですか?」


 「後者の質問から答えるが、恐らく、誰にも止められない。アイシャのあの状態についてなんだが、それはジェシカ譲りの遺伝なんだろう。ブチ切れると俺でも手が付けられない。時間が解決してくれるのを待つしかない。

 股に顔を埋める、もしくは胸を揉むのどちらかだったら、気孔を使ったら止められたかもしれないが、あれじゃ、気孔を使っても、彼…クリプト君と同じ目に合うだろう」


 そう言って、ガルドは今度は誰にでも話すようではないような小声で独り言を呟く。


 「最後にあの状態になったのはどれくらい前だ?記憶を失う前だったから…4歳前後か、気孔を使ってもないのになんであんなパワーが出せるのか、なんにせよ、俺にできることはないな」


 「はいは~い、ここは私に任せて~止めることは出来ないけど~死にそうだったら回復させるから~みんなは食堂に~」


 ジェシカの声で啞然としていた大人たちはクリプトを回復中の人除いて、渋々といった感じで戻っていった。


 View Change 美奈


 後ろで殴打の音が響いているのを聞こえないふりをして階段を降りる。食堂につくまで無言かと思われたが、殴打の音が聞こえなくなった辺りでホーグスが口を開いた。


 「あー、えっと…と、ところでよかったのか?お前らの祝勝会、ひいては個人戦の祝勝会なんだろ?俺たちも参加して」


 「あぁ、特に心配しなくていいよ。人数が多いが楽しいし、本当は予選に残った人たちも誘ったんだけど、明日は普通に仕事があるし、会場の後片付けとかを手伝うとか、親の事情で私たち以外は断られちゃいました」


 「そ、そうか…でも、送り迎えとか考えりゃ、他の奴らだけでも来られたんじゃね?」


 「あの、試合を体験して自分よりも強い恐怖の奴らに囲まれて楽しく食事を出来る人たちが多いと思いますか?ベッタベタな噓の理由で断られましたよ」


 「あぁ…」


 「そういう事で考えると君たち…あぁ、今は二人だったね。二人は結構鋼のメンタルを持っていると言えるんじゃない?」


 「アルバート…クリプト…」


 「…うん、安らかに…」


 「その言い方だと死んでいるみたいだからやめろ」


 「そうですよ、美奈さん。「眠ってほしい」が抜けています」


 「だから死んでねぇって言ってんだろ」


 食堂の扉を開けるとそこは一般的な食堂と呼べるものではなく、最初にその内装を見て、それが食堂だと思う人は誰もいないだろう。


 黒を基調とした部屋に高級なレストランで見るような壁際に並べられたソファー、ファミレスのテーブルと椅子おまけには仕切りなどもあり、奥の方にはバーカウンターまである、一般的な食堂と呼べるものではなく、飲食店のいい所を詰め込んだような空間だった。

 

 「うわっ…これって食堂なの?」


 「本当は偉い人たちが使うところなんですが、今回は記念すべき日なので掃除をしたんですよ。ちょっとですが私も手伝いました。と言っても氷を作って冷凍庫に入れたぐらいですが」


 「掃除じゃねぇし、本当にちょっとなんだな」


 「しかし、本当にいいんですか?俺達がこんな所を使うなんて失礼じゃないですか…」


 「お二人とも、せっかく用意してくれたんだよ。ここで遠慮するのは、それでこそ失礼なんじゃない?」


 「えぇ、お二人も良い勝負をしてくれたんですし、これくらいなんてことありませんよ」


 そのような言い合いをしているのをよそに大人たちはそれぞれ、荷物を置いて席を確保していたり、話し相手を探したりしている。その場には保護者や使用人以外の人間もちらほら見られる。


 「いきなり呼び出されるなんて思っていませんでしたよ、ジェシカ先輩、ボクを呼ぶならあらかじめ呼んでいてください」


 「でもでも~もし、うちの子達が負けちゃったら~祝勝会とかできないじゃない~?だからぁ、あまり忙しくなさそうな~君に頼んだんだよ~」


 「…どうりで、バーの蒸留酒やら果物を持ってきてなんて言ったんですね…父さんが苦い顔していた理由がわかったよ。というか先輩そんなキャラでしたっけ、320度回転したような性格になってません?」


 「え~、私ぃ、わかんないわ~」



 「それで、私、思うんだよね。やっぱり、狩るなら大物がいいって、酒のつまみになるなら作物もいいと思うんだけど、コショウや塩で軽く味付けができるのが、つまみとしての王道なんだって、そう思わない?」


 「それについては同意できますね。お嬢もそういうものを結構食べますよ。成人になったらお酒好きになりそうなので、あまりいい成長とは言えませんけど、しかし、ギルドマスターであるあなたがお酒好きなんて、意外ですね」


 「絶つ時は絶つんだけどさぁ?それでも定期的に飲まないとメンタル的にクルものあるんだよ。忘れるためじゃなく、気分転換にハイテンションにならなきゃ、お堅い人は務まらないの」


 「…まだ飲んでないんですよね?なんか雰囲気で酔ってません?」


 「ん~?そう言えば主賓がいるのにまだ始まらな…あれ?」


 話し合っていた一人、アリアさんが何かに気が付いたように、辺りを見回してゲンブさんと話した後にこっちに向かってくる。


 「ねぇ、レイラはどこ?姿が見えないけど…」


 その言葉に後ろを見たけどレイラの姿がない。


 「あれ、さっきまで…いや、ううんやけに静かだと思っていたけど、どこに行ったんだろう?」


 「あー、あいつなら、厨房通りかかったときに、まじまじと見てたぜ?まだ見ているんじゃないかな」


 「なーんだ、厨房か、厨房…」


 「そうですね。レイラさんらしいです…」


 「…ここの厨房って色んな食材もあったよね…確か珍しい食材も…」


 「料理好きなレイラならそれらを見て、何を考えるか、これほどに分かりやすい問題があるか?」


 『ちょっと待って、今なんて言った?厨房だって?』


 しばらくの間、美奈、リラ、アリア、ゲンブの周りに漂う静けさ、そして次の瞬間開けっ放しの扉から4人が猛ダッシュで厨房へ向かう。


 厨房の前では料理人達が扉の前で立ち尽くしている。料理人の足元をかき分け、厨房の中を見ているとそこにあったのは…


 「…………………………………………………」


 無言で料理を作っているレイラの姿…いや、レイラ達の姿だった。


 (いやいやいや、「達」っておかしくない?何でレイラ分身しているの?魔法じゃないよね、なんかすり抜けているレイラも見かけるし、目算で10人はいるんだけど、軽くホラーなんだけど)


 厨房のカウンターには湯気が立っているおそらくは既に調理済みの料理だろう。レイラはそれに蓋をして、調理を進める。正に料理以外眼中にないようだ。


 しばらくして、料理の手伝いをしに来たのであろう使用人たちが、先程までの自分たちと同じ様に目を丸くして立っていた。そして…


 「ボーっと突っ立ってないで、料理を運んで下さいませんか?美奈とレイラも見てないで食堂へ戻って、主賓がいないとパーティーも始まらないでしょう。メインですが、後二分で出来上がります。デザートはこれから作りますが15分…いや何とか10分にまいて見せます」


 料理中、レイラは一度もこっちの方を見ていない。それなのに初めから分かっていたように、名指しで指示を飛ばす。


 最初は全員、自分が呼ばれたことに驚いていたが、その後レイラが「速く!」と一喝すると、反射的に返事をして行動をした。


 View Change アリア


 「………思い出したんだろう?」


 何かを察したように、耳元でゲンブが尋ねるように聞く。


 「…えぇ」


 何でだろう、私たちの子供なのに、あの子とは血のつながりも何もないはずなのにどうして……


 「…ずるいよ、こんなの…」


 目に涙を浮かべて、つい、呟いてしまう。


 「そのまんまじゃん…レイラ」


 涙を隠すように視線を窓に向ける。空を見上げて、星々の浮かぶ海を眺めて手を伸ばす。


 しかし、その伸ばした手は何もつかめない。涼しい風はその鋭く鍛え抜かれながらも、か細く白い肌を撫でるように吹きぬく。


 「…そろそろ戻ろう、今日もそんな暗い雰囲気じゃいけないだろう」


 「うん、分かっている、分かっているけど…そう、今日「も」かぁ…」


 最近、どうしても思い出してしまう。ギルドマスターになってから、仕事とかに打ち込んでいる間、他に考える事なんてなかったはずなのに…


 いつからか、レイラが生まれて成長するたびに、あの時の事を思い出してしまう。それも毎日のように…


 「…私は成長していないのかな、成長をしようとしないのかな」


 「……」


 誰にも聞かずにそう呟く。返事がない独り言の問いは…透明な虚空に溶けていった。


 それから10分後、熱が冷めたアイシャとまだ熱々な料理を持ったレイラが同時に食堂へ入ってきた。



次回11月中旬予定

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