第十部 四章 優勝争奪戦
View リラ
ビリビリと空気が張り詰めている。お互い試合が始まる以前から睨み合い、瞬きどころか眼を逸らすことなく、相手を見定めているような目を向けている。
(流石と言うべきか、二次元ビジュアルだとカッコイイと思えるシチュエーションだけど、五歳児がしていい顔じゃないんだよ…まぁ、こっちの三人を見る限り、私も年相応の顔をしていないんだろうけど…)
チーム戦ではあっけないと思うくらい決勝まで来られた。二回戦で負けたとはいえ相手チームがアイシャさんを狙って総攻撃をしてきたから3人の対策を全くと言っていい程していなかったのが他チームの敗因だと言えるだろう。
(…とはいえ、相手の半数はアイシャさんが倒していたけれど、個人戦を見ていたなら一筋縄ではいかぬ事くらい察しておいてほしいなぁ。いくらモブキャラだからって弱すぎるよ)
それはひとまず、決勝戦の相手…攻略対象達のチームワークとしては申し分ない程の良いチームだと思う。
防御の主軸でウィルトン、攻撃特価のアルバート、回避敏捷値高水準のクリプト、バランスタイプのホーグス、纏まっていると最強クラスのグループと言っていい。
こちらのパーティーも同じ役割はあるものの魔法主軸としている事がある。そして、今一番の困りごとが、決勝が始まる前の事…
~数十分前 控え室~
「ちょっ、それ本気!?」
「あぁ、美奈の魔法の案は後半で使うべきだろ?大体それなら相手のダメージや破壊力を見てからでいいんだよ。やられないために二人の魔法が攻守としてうってつけだと思うし、ただ、レイラって寒いの苦手?」
「苦手…ではないですけど、手がかじかむんじゃ…」
「…あー レイラ?アイシャの案を飲むんならこれを渡しておくけれど」
そう言うと美奈は緋色に光る玉をレイラさんに投げ渡した。
「これは?」
「知られざる七色の宝玉の副産物でカイロのような物だと思って、私の炎と風が複合されているから効果時間は、大体30秒くらいかな範囲は2メートル使い捨てだから気をつけてね」
「となると…開始30秒でどのくらいダメージを与えられるかが問題だな」
「ちょちょちょっっと待って下さい、え、何でもうその作戦をやるつもりなんですか?」
「なんでって…それ以外の作戦あるか?僕やレイラのように魔法以外の戦いができるのっていないでしょ?それに、「フェンリルアンカー」使うと不利になるのは知っているだろう?姫様」
「うっ…」
リエラから授かったフェンリルの力を一定時間扱うことが出来る特技「フェンリルアンカー」スピード、パワー上昇するが、攻撃対象が敵のみならず味方も含まれるため、パーティー戦では自殺経験がある。
「それに、賛成する私から言うと魔法を練るのにも時間がかかりますし、それも複数となると…3分くらい必要かと」
「ふむ…どうにか2分くらいにまけないか?」
「複合魔法なら時間は稼げると思うけど、生憎、今の私じゃ複合魔法を二つ同時進行できるほどの魔力制御を持ち合わせておらず…申し訳ありません」
「…せめて、2分30秒押しとどめる必要がある。とすると…レイラはクリプトが面倒だと思う。確か素早かったよね」
「…リラ、どう?戦った感想は」
「…速いけれど、多分その速度自体あの子は制御出来ていないんじゃない?速度は確かに目で追うのも一苦労だけど、ブレーキが圧倒的に足りていないの、だから、音符を見ても搔い潜ろうとして五線譜のセンサーに引っかかって失敗してた」
「あの二回戦目でそんなことが…」
「関西弁の子、可哀想…」
「でも、リラは私よりも魔法制御が出来ていないよね。氷と雷を両方同時に使うなんて…」
「そうですね。私のは全部トリック、武器に魔法を纏わせて媒体として持ち方一つで切り替えるけれど、同時に使うことは出来ない。自然現象を使っているから柔軟な戦い方ができるってだけ、同時に使うとなるとどうしても、威力が失われちゃう」
「…だったらレイラにいい考えがあるんだけど……………」
「なるほど、それなら…」
「でも、大丈夫ですか?レイラさんの負担が…」
「ラストを飾るのは皆、美奈は練るのに忙しくなるけど、大丈夫?」
「それくらいなら十分賄える程度だからノープロブレム」
「決まりだな」
4人で手を合わせる。
~現在~
(あの場面でおー、とは言えなかった。音頭がいなかったから無言でやる羽目になっちゃった)
『では、チーム戦決勝戦、今ゴングです!!』
ゴングが鳴るとフィールド中に激しい音がなる。それは、フィールドにいる全員が中央で武器を重ね合って剣同士の鍔迫り合いのようになっていた。
キチキチと武器の先端が擦れる音が小さく奏でながらも互いに力を緩めることなく、押し切ろうとしている。
(んん…隣りに味方がいると、払った時に当たっちゃう。だからといって緩めたら押し負けちゃう…やっぱり、難しいことは万全の状態でやらなきゃいけないもんだろ?なぁアイシャ!)
すると、全員の影を覆うようにマントのような翻る薄い影が地面に描かれる。それにつられて上を見るとそこにはぽたぽたと雫が滴る巨大な水の塊だった。
「上だ!バラけろぉ!!」
アルバートの一言で全員が中央から離れる。水ははじけるような音を立てて中央に落とされる。そして、アルバート達が全員の無事を確認すると私達に向き直って何かに気付く。
「っ…レイラがいねぇ!」
「リラ!お願い!」
「分かりました「コールドウォール」お願いですから、凍えないでくださいよ!」
冷気が水に覆いすぐに水は凍るその水の形はクリスタルの形を取っていた。そして、その中央には…
「氷や!氷の中にレイラがいるで」
クリプトが指差して叫ぶ、氷の中にはレイラが閉じ込められていた。
「アイシャ!ほらパス」
アイシャに渡したのは土で出来たロープを氷魔法で固めた縄、強度としては普通の縄より強いが結ぶようにできていない。
「OK、そんじゃちゃんとキャッチしろよぉ?そうらっ!!」
ロープの先端をクリスタルの中心目掛けて思い切り投げる。ロープの先端は布に針を通すようにいとも簡単に氷を貫通してレイラは紙一重で躱していた。
View Change レイラ
(こ、殺す気かぁぁぁぁぁぁっっ!!あと数cmズレていたら眉間に穴が開くぞ、いや、防具のおかげで大丈夫だろうけど、手か今更だけど頭がノーガードなのにそれも防ぐってこの世界の防具ってどうなってるの?)
って、考えている暇はなかった玉を持っていない片方の手でロープをがっしりと掴み軽く引っ張る。
「よし、準備はいいか?アイスハンマーぶん回してどれくらい残るかなぁ!!」
アイシャはハンマー投げの選手さながら両手で薙ぎ払うように回す。
「わわっ!あっぶない、リラ、手を握って!「クロススピリット」」
美奈は精霊と融合して空に浮かんでリラは美奈に抱えられている、当たる心配はなさそうだ。
(残り10秒…カウンターが反応しないところを見ると中に人が入っていてもこの攻撃はアイテム判定なのか…でも、防御力で多少ダメージは軽減されているようだな。しかも、身代わり持ちかよ)
身代わり 仲間が受けるダメージを肩代わりする。
(シンプルな能力だけどちゃんと防御力から差し引いているんだよな…)
「重たかっっったぁぁ!!」
アイシャは最後地面に叩きつけて氷のクリスタルを破壊した。自分もダメージを受けると思ったがその時既に美奈が土魔法でクッションを作ってくれてた。
「フワフワ土布団ありがとう。どうせなら絹が良かったけれど」
「贅沢言わないのこれでも、疲れるんだからね」
View Change 美奈
(少し、予想外だけど、いい方向に向かっている。魔力を練り上げるのにあと、数秒)
「美奈さん、出来ますか?」
「タイミングを見計らって合図するのはリラ自身だよ。いつでもいける!」
すると、ウィルトンが地面に腕を突き刺すと自分の何十倍もの巨大な岩石を持ち上げると他の三人が空中に押し上げた。
「っ!?」
「これで終わりだ!岩石落とし!!」
岩石は一直線に自由落下の軌道を描きながら向かってくる。その瞬間アイシャがその間に入る。
「アイシャ!?ダメ!いくら君でもそれは…」
「いいや、ここで切り札を失うわけにはいかないし、だったら、俺の切り札を切るしかないだろう」
アイシャは身体を捻り、右腕を振り上げる。
「砕けろ…「ギガトンパンチ」」
岩石と殴撃がぶつかり合い、地面が揺れる。足元にひび割れ、アイシャが押し負けると思ったが、岩石にピシッと亀裂が入ると、音もなく瞬時に塵となって空気に溶け込んだ。
「流石に全部は防げなかったか」
アイシャの残り体力は1000を切っている。
「リラ!」
「分かったわ!」
リラがチャクラムを持ち換えて、地面を叩きつけると、フィールドに眩い光が発せられる。
「な、なんや!?何も見えへんぞ!!」
「落ち着け!ただのフラッシュだ!すぐに収まる」
そして、光が治まるとその場にいる観客含めて自身の眼を疑う。
「これは…なん、だ…?」
そこにいたのは4人ではなかった。
『ど、どういう事でしょう、美奈選手達が2人、いや、女子選手達が3人、計12人に増えています!!』
「そうか、美奈だ!美奈は魔法で犬を作り出していた魔法生物を作れるんだ。人間も作れるのか!」
見ただけでは、その瓜二つとも言える姿では全くと言っていい程分からない。防具も武器の持ち手もほぼ全てが同じ、その姿は相手の動揺を誘うには十分な光景だった。
「…う、おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
今までの緊張がピークに達したのかクリプトが大声を上げて、その中の一人に殴りかかる。
その拳がレイラに当たるとそれが引き金になったと言わんばかりに男性陣を囲んでいた12人全員が一斉にクリプトに目掛けて一斉に攻撃し始めた。
「クリプト下がれ!すぐにこっちに来い!!」
激しい猛襲を受けながらもクリプトはよろけながら、3人の下に駆け寄るとウィルトンが立ちはだかる。
「任せろ「エリアプロテクト」!!」
青白い壁が円状に展開して、攻撃を防ぐ、それでもカウンターは発動して、クリプトを庇うウィルトンは攻撃を受けつつも、反撃をする。
反撃をして数秒後、地面が盛り上がり、その中から4人が空中に飛び出て来た。
「お待たせしました。皆様、ようやく技の準備が整いました」
「レイラ達はこの日のために合体技を磨いていたんだけどね。それが弱点があって…」
「ま、とにかく時間がかかるんだよ」
「だから、私達の分身に時間を稼ぐ事にしたの、まだまだ分身は持ちそうだし、それに…」
「「「「時間切れだよ」」」」
美奈が指を鳴らすと、空中に燃え上がる巨大なボールが突然出現した。
「この大きなものを隠すのは苦労したよ、光学迷彩を使うためにシャボン玉をいーっぱい飛ばしたんだから、でも、もう、魔力が残ってなくってね。出来る事と言ったらこれを空中に放り投げるくらい!!」
そう言ってボールは更に上空へ押し上げられた、すると、外側が氷漬けになり燃えながらもその氷は溶ける気配がない。
「そして、私は次の方へバトンをつなげるように電気をあのボールの中の水に電気を纏わせて、一番外側を氷でコーティングしました」
すると、今度はアイシャが飛びあがり、ボールをフィールドに向かって思いっ切り蹴とばす。
「凍っているから少しも熱くねぇ、そして、シメを飾るからこそ、この必殺技は完成するんだ」
ボールが向かう先のフィールドにレイラが立った。
「着弾地点よし、着弾まで5秒…4、3」
数字を数えながら、レイラは構える。
「2、1…」
空気が震える。
「究極奥義…二の太刀」
ボールが着弾と同時に花火のように弾けるとフィールドに連鎖爆発が起こる。
「あっ、言い忘れていた。まだ君たちが対処している私達の分身ね。ある物を混ぜているんだ、それもこの技の一部なんだけど、そのあるものはぁ…ニトログリセリン、爆薬だよ」
「「「「合体奥義カルテットイノセント・零」」」」
会場が爆発に飲まれ、フィールドには緩やかに着地する3人と、あの爆発を全て剣で弾いたレイラが立っていた。
それと同時にワァッと歓声が上がる。
『素晴らしい…素晴らしい素晴らしい素晴らしい!!正に言葉に出ないとはこの事!!何という幕切れ、何という美しさ、何ということでしょうか!!今、この瞬間に立ち会えたことに感謝!優勝チームが決まりました!!』
更に歓声が上がる。
~観客席~
「キャーッ、アイシャちゃーん!おめでとーっ!!」
「お嬢ー!見てましたよー!!」
「いい勝負だった、さすがは我が娘だ」
「お嬢様ーーーー!!おめでどうごじゃいまずぅぅーーひっぐ、うええ…うあああぁぁぁぁぁ」
「サリア、ほらこれで涙拭いて、そんな顔じゃお嬢様に合わせる顔が出来ないでしょう」
「そんなこと言いつつ、貴方も涙目じゃない」
「今は喜ぼう。俺たちが彼女たちをほめて、自慢してやろうじゃないか、な?」
「その通りだな、ギルドの代表者として今回のイベントは敬意を表するに値すると思う」
「あーぁ、終わっちゃうのは本当に残念、でも、良い宣伝にはなったし、今度は冒険者だけで大会を開くのも面白そう。ちょっと後で、委員会とお話ししよーっと」
「お姉ちゃーん!!こっちだよー!優勝おめでとーっ!!」
「やっぱり、あの子達が勝ったわね。じゃあ、賭けは私の勝ちで言い?生徒会長サマ」
「あの、賭け事なんてしてませんよね。それに、私もあの子達が勝つと思ってましたし」
「そうだっけ?」
「そうです。さぁ、学園にお戻りください。教員の方たちは皆首を長くして待っていますよ」
~王城~
「おぉ~、会場に行かなくても、テレビで見る方が間近で見ているように感じるな」
「あーあ、リラちゃんを最前列で見たかったな。録画してたし、これが終わったらまた最初から視よーっと」
『陛下方、仕事してください』
~会場~
「んぅ~疲れたぁ…」
「ほら、トロフィーもらったから、速く祝勝会に行かないと、頑張ってレイラ」
「じゃあ、おんぶして~」
「えっ」
「んっ」
「む、無理無理!体格的にそっちのほうが大きいし、気孔使えるアイシャじゃないと…」
「あっ、もう、僕もう疲れて寝たリラを抱えているから無理、クロススピリット使ってでもやったら?」
「っ~この無責任騎士どもめ…ほら、乗りなさい」
「やったぁ、えへへ、成長した美奈の背中おっきくてあったかぁい…」
「はぁ、この子達にも、そんな我がまま言われたことないのに…仮にもギルドマスターの娘で長女なんでしょう、もう少し、その自覚を…」
「すう…むにゃむにゃ…」
「もう寝ている…」
次回10月末予定




