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第十部 三章 予感的中


 View 美奈


 会場の全体が今日一番の歓声をあげている。それは、出場者が全員子供だとは思えないほどの大歓声、それほどの熱を持たせるには十分なほどの内容だった。


 一回戦の秒殺ラッシュ、二回戦の美奈VSアイシャの対となる相性試合、レイラとホーグスの剣技のぶつかり合い、準決勝戦に至っては大人顔負けの大試合と言っていいだろう。


 化学現象を使ってフィールド全体を罠として利用した美奈に千変万化の策でレイラをねじ伏せたリラ。


 二人が戦ったらどうなるか分からないのが、この歓声を上げているのだろう。


 『それでは、個人戦決勝戦となりました。千麟美奈選手の入場ですっ!!』


 歓声と口笛の中に自分の名前を叫ぶ声を浴びながら会場に立つ。


 (さて、と)


 『対するは、シャリア王国の誇りを持つ、リラ・エンジェルス・シャリア選手の入場です!!』


 互いに見つめ合い、観客も今か今かとゴングの音を待ち望んでいる。


 快晴無風の太陽が真上に半分顔を出して、会場を照らすと同時にゴングが鳴った。


 ゴングが鳴った直後、リラは思い切りチャクラムを飛ばしてきた。


 (ま、遠距離攻撃が得意な人にわざわざ近距離を詰めるわけないよね。トラップ置いたけど、無駄だったかな)


 「「カルテットショット」っと」


 4属性の火、水、風、土の槍を射出する属性複合魔法。魔力消費は大きいが、高威力と高確率で弱点をつけるメリットがある。


 しかし、チャクラムは威力を落とさずに一直線に向かってくる。


 「おっと予想外」


 落ち着いて、風魔法を使い空中に舞い上がって、回避する。すると、目の前にリラが同じ様に浮いていた。


 「っ!」


 振りあがった拳を受け止めて、こちらも拳を振りぬくが受け止められる。そして、互いに頭突きで頭同士をぶつける。


 「っ…痛いと思ったけれど、本当にこの鎧は優秀だね。身体的ダメージは全くと言ってもいいくらいなしっと…」


 「本当、さすがは安全性を完全考慮している団体とも言うべきでしょうか…ところで「そこ」大丈夫ですか?」


 そう言うとリラが後ろに飛び退く、振り返るとチャクラムが自分の背後から迫っていた。回転して気が付いた時には既に脇腹に直撃していた。


 「だから言いましたのに…チャクラムがないと殆ど戦えないのでいつでも取り出せて、いつでも手元に戻す用にするのは当たり前でしょう?」


 (…まぁ、そうだろうとは思ったよ。チャクラムを投げた時からおかしいとは思った。氷と雷を使うなら炎で燃やせばいいと思ったし、それをしなかったのはあの浮遊術が気になったから)


 「磁力操作」


 「…まぁ、やはり私の親友は見破るのがお得意なようで、その通りです。私の空中に浮かび上がる能力の正体は磁力によるものです。周りの磁場を操作してそれを自分に与えたり、周りの物に付けたり、使い方は様々ですが磁石のSNも操作できますよ」


 今まで浮遊したのがフィールド「全体」をS極として自身にもS極にすることで浮かび上がり、相手にN極をつけた事で移動も可能。


 (チャクラムもブーメランのような物かと思ったけれど、それも磁力操作、手とチャクラムをSとNで引き合わせるようにできる。そう考えたら磁力の強さも操れる。だけど重要なのはその魔法)


 「気が付いていればよかったのに…「鉄」土属性から派生したと言われる亜種魔法ですか」


 「ふ、フフフッ!この大会に参加して本当に良かったです。魔法を思う存分に使えて昂る解放感ぶつけても怪我をする心配もないのですから」


 バッとリラが手を上にかざすとフィールドからサァァァと砂鉄が集まっていく。それは、パリパリと雷魔法を同時に使い形を変える。


 「さぁ、避けてみてください!」


 ブロックの形になった砂鉄は一直線に向かってくる。即座に風魔法を使って飛びあがるが…


 「やっぱり、付けられているよねっ!」


 いつの間にか磁力を付けられている。砂鉄の塊は追尾して何処までもついてきそうな程のホーミング性能、ショートカットを狙って垂直に向かってくる。


 「くっ…「マッドドーム」」


 泥で自分を包み、ブロックは泥に溶け込むように飲まれていく。


 「そう来ると思ってましたよ。砂鉄はまだ、私の支配下にある事をお忘れなくっ!」


 ガクンとエレベーターが止まる瞬間の浮遊感を感じる。それだけじゃない、急激にドームの中の気温が下がったような…


 「しまっ…!これはっ」


 「アイシャさんと同じ目に遭いましょうかぁ!!」


 冷気と砂鉄を含んだマッドドームは前の時とは違い、叩きつけられるのは硬い土、叩きつけられた時に勝負がつくのは明白だった。


 まるで重機で鉄を押しつぶしたような音が会場に響いて、その音は近くでいればいるほど耳をふさがないと聴覚を失うんじゃないかと思うほどの大音量だった。


 地面に落ちた衝撃で、綺麗な球状だったマッドドームは見る影もなくボロボロになってその中心に美奈がへたりと座り込んでいた。


 リラがスタスタと美奈に歩み寄り、屈みこむ。


 「いい勝負でしたよ。それでは…」


 そう言おうとしている時にあるものが目に留まる。それは右腕にあるカウンター、それは自分の腕にもあるものだが、そこにあるカウントの数字は…


 「っ…さ、「3000」?」


 キュインという機械音と共にリラが吹き飛ばされる。リラは何が起きたのか分からず受け身も取り損ねて、数回地面にバウンドしながらも体制を整える。


 「っっはぁ…はぁ…危ない危ない。意識持っていかれると思った。けれどいつどんな時でも奥の手は最後まで取っておくべきっていうのかな?」


 「…手ごたえはあった。チャクラムも当たってた。なのにどうして一ポイントもライフが減っていない?」


 (偽装や幻覚じゃない。美奈が無属性を使うなんて季節限定の魔導書か巻物を使う他にないはずだ。しかもそれは、簡単に手に入るものじゃないはず、だったらなおの事、あの正体は何だ?)


 美奈が髪を撫でるとその中からマントのようなローブが美奈に羽織られるようにまとわりついた。


 「隠すなんてことでもないので紹介しますね。オリジナルの魔法「知られざる七色の宝玉」無数の0.1㎜にも満たない超凝縮魔法、ローブのように見えていますがそれは、何百層にも重なった自身の魔法を閉じ込めて形作っているだけ」


 「何百…っ!いや、それにしては不可解な点が多過ぎる。それを作る時間なんて試合中ない、もし、作れたとしてもそれだけの多くの数、普通の人間を百人…いや千人以上の魔力を絞りカスにしてもまるで足りない。

 最後にあのサイズの魔法を食らって一点も喰らわないのは明らかにおかしい!!」


 「まぁ、そう考えますよね。でも出来るんですよ。この魔法の使い方を完璧に操作出来たら、例えばこんなこともね」


 そう言うと美奈は杖でローブの一部を叩くと、その部分は破裂したような音を上げると、辺りが激しい火の海に飲まれる。


 「ぐっ!?あっつ…」


 熱気によって身体中から汗が流れる。しかし、美奈はそれを何とも思わないように平然とした顔でローブを引きちぎり、破裂させる。


 「ギアアップ、まだまだこれからなんだから頑張ってね」


 知られざる七つの宝玉は自身が編み出したというよりも、ネットワークでストアドのスレッドが乱立していたうちの一つの話題で思いついた魔法だ。


 この世界の魔法は必ずしも万能ではないが、前世では不可能を可能にするようなものだ。魔法の根源とも言っていい。


 魔法で天変地異を起こせるし、天候や地盤沈下も出来る。そこでスレッドのコメントで「太陽や自然を利用して使える魔法があってもいいよな」というのがあった。


 魔法の属性は4属性以外は例外を除いては異端と言ってもいい。リラが使う亜種魔法も異端に含まれる。


 4属性の主な使い方としては、一つの地域に雨を降らす、土を豊かにして作物を育てやすくする、風を起こして雲を運ぶ、火を操り毒を飛ばす。意味深な言葉もあるが、いい言葉が浮かばなかったのかは知らないが、大昔はそれを使いこなしてこその魔法使いだと言われていた。


 (水は霧になって太陽が霧を照らすと七色の虹が出来る。では霧になる前の透明な水が色を変えるにはそれ以外の方法はなんだ?答えは染める。着色料で水はいとも簡単に色を付ける。だが、この場には生憎そんなものはない、だからこそ宝玉は七色の輝きを放つことが出来る)


 「…先程の戦いで私は卑怯者と言われました。ええ、まさしくその通りです、ただ負けたくないだけの卑怯な臆病者…ですが、だからこそ勝負事には優勢に立つことが得意なんです」


 そう言って、上を見上げる。太陽が真上に登っていた。


 「七色の光があって、それに反応するように私の魔法が反応している。そして、時は満ちた」


 風魔法で上へ上へと飛びあがって、ローブを上へ投げ捨てる。


 「勝負事で勝つ鉄則は敵が嫌がることをする、というのがあげられます。他にも地の利、時の利、運の要素この三つが合わされば負けることはほぼ無いと言われます」


 ふんわりと優しい笑顔を浮かべて、リラを見下ろす。リラは何かを察したように氷で防御しようとするが、未だに燃え上がっている炎が鉄を溶かして氷も溶かし形を持たない雷は守る手段を持たない。


 「これは、私が持つ最大最高の火魔法です。やはりフィナーレは十八番で終わらせるのがいいですよね。ではトドメ…「プロミネンスメテオ」」


 太陽の七つの光を放つ、巨大な火球がフィールド全体を包み込んで、落ちた場所には巨大な火柱が立ち昇る。


 もう既に聞き飽きたカウンターの音が鳴り響く。


 『…なんと…何という素晴らしい勝負だったんでしょう!!今、今私達はその光景を目の当たりにして、その場に立ち会った!!「ジュニア部門バトルアリーナトーナメント」個人戦を制したのは千麟美奈選手だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 ワァッと今まで以上の歓声が上がる。


 ~控え室~


 View リラ


 「あーあ、負けちゃいました」


 「その割には随分と楽しそうな顔をしてんな」


 「それは、もう十分と面白いものを見られましたからね」


 「十分で満足なんて言わないよね?レイラ達は午後のチーム戦が控えているからそれで、十二分に楽しめばいいと思うけれど」


 「もっちろん、把握しているよ」


 次はチーム戦、何とか個人戦は午後の始めに終わった。予定では午前中に終わる予定だったが、名勝負と言える戦いがあった為、少々長めになってしまった。


 「ん?そう言えば美奈が帰ってこないな。表彰台でもう、状を受け取ったはずだろう?」


 「あぁ、レイラちらっとだけ見たよ。何か腕に何か巻いていたり、多分インタビュアーやテレビ局の人かな、に追い回されていたよ。確保の瞬間も見たけど」


 「…ご愁傷様」


 「でも、意外だな。準優勝のリラにも来るんじゃないかと思ったけど、僕たちには全然こないな」


 「やっぱり、ナンバー1が一番いいんじゃない?準優勝とは言えどうしても比べられると、優勝と準優勝は大きな違いと感じるんだとレイラは思うな」


 「ところで、リラ少しいいか?」


 「なあに?ここじゃダメな話し?」


 「あっ、もしそうならレイラは席を外すけど…」


 「あぁ、いや、そうじゃないからいてていいよ。さっきの試合のネタ晴らしの仮説。多分あっていると思うけど」


 あのノーダメージの事か、確かに気にはなっていた。凍り付いたマッドドームは中にいた美奈に断続的にダメージを受けていなきゃおかしい。


 「恐らく、光学迷彩で幻を見せられていたと思うんです」


 「…光学迷彩?でもそれって光を屈折させて幻のようなものを作り出すものじゃ…」


 「光ならその時に既にあったじゃないですか。会場を照らすけたたましい程の空の光が、恐らく、美奈は試合が始まった時から「知られざる七色の宝玉」を使っていたんじゃねぇか?」


 「半分正解、半分不正解と言ったところかな」


 仮説を続けようとしたアイシャさんの言葉を遮るように、美奈さんがやって来た。


 「っと、お帰り、インタビューは終わったのか?」


 「途中で逃げ出してきました。今は関係者によってとおせんぼさせてもらってる」


 「そっか、ところでさっきの事は?」


 「そうだね。確かに光学迷彩を使ったのは正解。だけど、試合が始まった時には使っていなかったというよりも、使っている最中だった」


 そう言うと美奈さんは首の後ろに手を回すと何かを取り出した。


 「これは、「知られざる七色の宝玉」の一つ、あの時は極小サイズだけど、これは、簡単に言えば充電池みたいなもの、これがあれば魔力を使った後すぐに減った分の魔力を回復してくれるいいものなんだ♪」


 「も、もしかしなくても、あの無尽蔵に思えるやつは…」


 「正解、「知られざる七色の宝玉」は魔力を多く消費するのでこれが無いと一秒も持続できないんですよ。ちなみに個人戦で、2個無くなりました。残り3個」


 「充電池って…これは反則なんじゃない?道具はあっちが用意したものだけって…」


 「これは、道具じゃなくて魔法だよ。魔法を魔力で包み込んでいる具現化魔法だから、特に問題ないって…相談してみたら普通にOKくれた」


 何なんだろう。例外というか、本当にこいつ5歳児なのか?ヒロイン補正として知識が豊富と言っても、理科の先生レベルの頭の良さが感じる。


 「あっ、そうだ。忘れていました、お昼ご飯お弁当があるらしいので呼びに来たんでした」


 「おっ、マジか、なぁなぁ それっておかわりある?」


 「あるかどうかは分かりませんけど、多めにあるんじゃないですか?こう言っては悪いですけど、あっちが正確に子供の数をキッチリと揃えるとはあまり考えられないので」


 「あっはは!美奈よく言うねぇ、レイラもそうは思ったけど口には出さないからね」


 「お昼と言えば、確かにお腹がすきましたね。個人戦が終わった事で緊張が解けたから、急に…」


 「取りあえず、今は腹ごしらえして午後のチーム戦に備えねぇと」


 ~選手専用楽屋~


 楽屋に行くと4人の男子と目が合った。


 八人が同時に「あっ…」と声を上げて気まずい雰囲気になったが中和剤(アイシャさん)が挨拶して、普通に話す位の空気になった。


 ただ、一つ気になるのは…


 「…あの、ウィルトンさんはどうしたんですか?私の見間違えでなければ、十段位のたんこぶがあるような…」


 「もし、リラの見間違えなら私達もそういうことになるね。眼科行った方がいいかしら」


 「気にしないでくれ。除夜の鐘ごっこをして頭が焼け野原になった奴の末路だ。後でポーションでも振りかければ治る」


 「アルバート…」


 「気にするな アイシャ、正当防衛だ。こいつの運が悪かっただけさ、運が…悪かっただけ…」


 「まぁまぁ、今はそんなこと言ってても仕方あらへん、チーム戦でまた相まみえるかもしれへんし、今は次の試合を楽しむ事を考えながら英気を養うことだけ考えとったらええんやで」


 「…まるで、そのぉ…レイ…ラたちと戦う事、が…決まった…ような言い方で、すね…あっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!気安く言ってしまって!!お。お詫びします!弁償します!一生かけて慰謝料払い続けますっ!!」


 「いや、ちょ…えぇっ!?別にそこまでしろとは…てか…えっ!?」


 土下座するレイラと私達を交互に見るホーグスの顔は私達に助けを求めるようなものだった。


 「あー、あまり気にしないでくれ、レイラは少し繊細な性格でな…話す時もあまり、目を見ないでやってくれ」


 まぁ、そういうわけで少しではあるが、仲は少し進展したんだが…さっきの話からするに…


 ~一時間後~


 『さぁ!チーム戦の決勝となりました!!個人戦では見られなかった瞬殺ラッシュ、秒もいらないと言わんばかりの疾風の如く試合でしたね』


 『そうですね。個人戦で手の内を明かした人たちもいるので、出し惜しみをする必要もないのでしょう』


 『なるほど、ですが、この二チームは今までの戦いとはまた違う戦いを見せてくれるでしょう』


 まぁ、こうなるな


 攻略対象勢揃いの大乱闘、嫌な予感しかしない。

次回10月中旬予定

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