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第十部 二章 オンステージ

 View リラ


 さて、今まで短期決戦をしてきたけれど、レイラが相手じゃあ、こっちがやられるのは目に見えているな。


 他の対戦相手は動きが早くても攻撃が浅かったり、攻撃対策をしていない奴らばかりだから勝てた。対戦相手はランダムで決まるから、運が良かったとも言える。


 それと比べてレイラは居合いも出来る。まだ腰に指していると油断して間合いを詰めると、即座に抜刀術で決まる。


 「レイラさんの顔を立てるのも面白そうですが、私はこれでもこの国の未来を背負うプリンセスお父様の顔にも泥を塗るわけには行きません。というわけで、シャリア王国の姫君、リラ・エンジェルス・シャリア全力でお相手いたします!」


 「あはは、お手柔らかにお願いします。けど、身体が温まってきたので…少しやりすぎても怒らないでくださいね?」


 『準決勝戦 レイラ・オーガスタ・キャロルVSリラ・エンジェルス・シャリア、今、ゴングですっっ!!』


 ゴングが鳴ると同時にフィールドには、ヒンヤリとした冷気が漂う。霧のような冷気は自分を中心に渦巻く。


 「っ!させるか!」


 冷気を止めるために、レイラは抜刀して蛇行しながら、近づいてくる。


 「リラ、オンステージ♪」


 そう言うと冷気は一気に凝縮して、形を成していく。それは、ライブなどでみる小型のステージ。路上ライブなどでみる音楽機材など全てが氷でできた。幻想的なステージ。


 太陽の光がそれを輝かせて、リラを祝福しているように暖かな光を浴びせる。


 「さぁ、観客(ギャラリー)として飛ばします?それとも主役(メイン)を取ろうとステージに上がります?どちらも許しましょう。私は受け入れます」


 ステージに上がる階段は両脇にある二つ、もちろんそのままよじ登ることも可能な高さだ。


 「っ!」


 レイラが取った行動はステージに上がらず、その場で一の太刀を構える。


 しかし、その直後にステージを中心に強力な音波が辺りに響き渡り、レイラは構えを解かれるだけでなく、数メートル吹き飛ばされた。


 「ライブはもう始まってます。ヒットナンバーまでは時間があるので、前座として、お楽しみ下さい」


 冷気は更に形を変えて五線譜がフィールドを漂い始める。すると、五線譜に沿うように音符が流れてくる。


 レイラはその音符を斬る。すると…


 「ぐっ!?」


 ピピッと体力減少を知らせる音が鳴った。それは、音符を斬った「時」と「直後」だった。


 ~控え室~


 「あれは…!」


 「雷の音符だ!氷で作った五線譜はただのレールそれに乗って音符が流れてくる。それだけじゃねぇ…音符の形を保ってていられるのは魔力の層で魔法自体をコーティングしているんだ」


 「避けようと阻止しようと相手も五線譜の一部とになっているから、不可避。恐らく一の太刀を使っても…」


 一の太刀は対個人戦では無敵ともいえる。だが、一番の欠点と言えば正にそれだ。対集団では一の太刀は「一人」しか倒せない。その為ボス戦では使えるが、ボスがお供を連れていたりすると、強制的にそっちの方を優先して倒してしまうことが多い。


 誰に当たるかランダムというのも弱点に拍車をかけていると言っていい。素早さが高いキャラに全体攻撃をして取り巻きを一掃、その後に控えてた一の太刀でボスを両断というのがパターンとして一番よくつかわれる戦法、しかし…


 あのステージその対策もしっかりとされている。あの高さ…恐らくレイラの三倍はある。美奈なら炎で溶かすことが出来るが、炎以外となるとだいぶ方法が絞られてくる。


 力ずくで壊したり、もしかしたら重機みたいなもので立ち向かう事もあるかもしれない。


 しかし、一番の近道は…


 ~フィールド~


 「あらあら、観客は飽きましたの?」


 レイラは階段を駆け上がりステージの上に立った。


 「分かったんだよ。リラ姫の五線譜と音符はステージでは発揮できないよね」


 「…まぁ、どうしてそう思いますか?」


 「いくつかの理由はある。一つ目はその魔法はコーティングされてあるから、自制できるものではない間合いを詰めれば五線譜は姫自身も取り込むんじゃない?」


 「……」


 「二つ目、冷気を操るからといって瞬時に冷えるなんて有り得ない。出所がステージだとしても、漂ったあの寒さはおかしい。ステージではなかったらあの冷気はどこから…?」


 「…」


 「その疑問から出てくるのが三つ目、君がまだ武器を取り出してすらいないという…」


 レイラが言い終わるよりも先にリラは戦輪を取り出して、レイラの目の前まで距離を詰めていた。


 リラの戦輪をレイラは寸でのところで飛びのく。


 「…やっぱり、冷気の出処は「それ」か…予めチャクラムに冷気を纏わせてフィールドに触れることでステージやメガホンレーザー、スポットライト、etc(エトセトラ).…諸々を作るのにあの速度はおかしいと思ったんだよ。美奈のように魔力量がバカでかく無かったらね」


 「ええ、ええ!大正解、やっぱり持つべきものは強敵(とも)ですね。今まで見てきた者は私を戦場でただ震えるだけの無力者だという目しか向けられなかった。だから、イラついてすぐにやっちゃいましたけど、レイラさん…2人でヒットナンバーを奏でましょう…!曲名は…そうですね。「終焉無き狂戦士(ラッシュバーサーカー)」なんてどうです?」


 武器と武器が重なり、その音が響く。演舞のように思える動きは音を奏で、会場全体に響かせる。


 『何なんでしょう。リラ姫が使っているのはチャクラムです。しかし、あのような使い方はどういう事でしょう』


 『あの型は剣術と同じ使い方、しかもそれを戦輪用に我流を取り入れた結果、あのようなことになったのでしょう』


 チャクラムは剣や槍のように接近戦が出来れば投げ槍、ダガーの投擲武器にもなるため、チャクラム専用の技というものが存在しない。

 しかし、だからこそ特別な武器には他の武器の技を代用的に扱うことが出来る。


 リラのチャクラムの使い方は剣術、つまり、剣技を使える。しかし、使い方を変えれば槍の技能を使ったり、ダガー、弓矢の剣技を使えるという事になる。


 千変万化のチャクラムとでも言うべきか、あれだけ使いこなせるのは寝る間も惜しんで24時間狂ったように武器を振り回し、延々と魔物の巣の中で戦ってようやく真理を掴み取る程の努力が必要なのに…


 「くっ…グゥゥ…」


 レイラがステージの外側まで押し込まれた。ステージの外には五線譜が蛇のようにうねりながら獲物を探すように、漂っている。

 五線譜の一部が触れただけで、すぐさま居場所を探知されて音符による攻撃が始まる。


 「…」


 ~昨日~


 「レイラ、突然だけど戦いって何を考えながらするものだか分かる?」


 大会に向けて準備している時に母さんから言われる。


 「何?急に…何を考える…?えーっと、相手に敬意を持って胸を借りるような事…かな?」


 「それは、稽古や試合の話でしょう。戦いでは、そんな上っ面だけの着飾ったセリフ吐く人はいない。私の場合は常に最悪の事態を考えている、一つや二つじゃなくて何十、何百を超えるほどの正に無限と言えるその場の環境、天気、僅かな空気の変化で億分の一の確率でもあれば、その最悪のケースを考える」


 「……」


 「難しい話だけど、そうなった場合、どうやったら切り抜けられるか一寸の隙もない方法を何百倍も考える。思考は自分が思っているよりも早い。例えば「ヤバい」とか「しまった」と考える時間はどれくらいだと思う?その思考へたどり着く速度は恐ろしく早い。

 常に最悪のケースを考える事で思考は常に最適な速度でそれから逃れる策を考えてくれる…私はそれを考えている、でも、誰でもそれを考えているわけじゃないから、これは参考…レイラが戦いに何を考えるかは君次第だから、ね?」


 ~現在~


 「っ!?」


 一瞬だった。瞬きすらしていなかったのに、ステージの外側に追い込まれていたレイラがリラの目の前で消えた。


 すぐに反撃が来ると直感したリラは氷を纏い身を守る。その瞬間バキンッと何かが折れる音と共にガラガラガラと崩れる音がした。

 

 リラが反射的に音のする方向へ目を向けるが、その先は、真上。ステージを支える柱がリラを目掛けて倒れ込んでくる。


 ズズンと重い音と共にステージはドミノ倒しのように崩れて両者の姿は氷の瓦礫によって隠される。


 その中からゆらりと氷の反射で揺らめく影があった。


 「はぁ…はぁ…武具が寒さにも耐性があって良かったよ。レイラは結構寒がりなんだよ」


 その中から現れたのはレイラだった。


 「でも、あの音に混じって体力カウンターの音は聞こえなかったな。とりあえず、リラを探して…」


 レイラが氷の瓦礫に目を向けるとその背後から衝撃が襲い掛かる。


 「は、はぁぁ!?」


 衝撃を受け、咄嗟に飛びのくが、それよりもレイラが驚いたのが飛び蹴りをしたリラの姿だった。


 「せっかく苦労して立ち上げたステージを…よくも…よくも…!!ぎったんぎったんにしてやる!!」


 パチンと指を鳴らすとステージが無くなっていても漂っていた五線譜が色を変えた。


 ステージがあった時は清涼な水色だったが、今はそれに怒りを表すような赤が混じって紫色の五線譜の上にはバチバチと音を上げるいびつな形の音符が滅茶苦茶に流れてくる。


 「…リラ、本当にすごいね。どうやってあの倒壊のダメージを防いだのか、知りたいけれど…」


 次の瞬間互いが間合いを詰めて再び武器を交わし合う。また、互いに払うと思われたが…


 「あれっ」


 『なっ!!レイラ選手が押し負けた!?それに飛ばされた先は!!』


 飛ばされた先は五線譜のど真ん中、地面に叩きつけられた状態のまま無理矢理飛んで、完全に包囲される前に離脱した。


 「どうしました?後ろがガラ空きですよ」


 「っ!!」


 まるで別人のように積極的に攻めに転じているリラは何か策があるようには見えない。戦術や戦略と呼べるものを用いているような様子は一切なく、その姿は、正々堂々と真正面から殴り合うというよりも、全てを攻撃に集中している状態異常の狂化、いわゆるバーサーカー状態


 まさか、自身でバーサーカー状態になれるのか!?


 バーサーカー状態では剣技や魔法を使えなくなるが攻撃力が倍になり、相手の防御力が自分の攻撃力を上回っていた場合、更に攻撃力が1.2倍になる。


 ゲームではバーサーカー状態になるには挑発やコンヒューズなどの特技や魔法が必要だった。一般的には状態異常だし、バーサーカー状態になること自体が珍しい事もあって、長年シリーズをやってきたけど、それで、不利になったことも有利になったこともないのが、一番記憶に残っている。


 (どうしてどうしてどうして、現実に落とし込まれたゲームシステムはこんなにつらく険しい結果になっちまうのかな)


 間合いは常に詰められて「三連撃」にも攻撃は最大の防御と言わんばかりに追従してくる。


 (ランダムに攻撃してくる程の今の俺にとって面倒な敵はいないな。構えも出来ないし、反撃しようにも、間合いが圧倒的に優位を取られる。このままじゃ消耗戦になる。あっちが疲れ果てるのが先か、こっちが防ぎきれなくなるのが先か、料理ショーだったら楽しめたものを…!)


 今までの攻防を繰り返してきたレイラでも、今では攻めに転じようとしても、リラの猛攻を受け流すことが精いっぱいで、防戦一方になってしまう。


 次の瞬間、今まで間合いを詰めていたリラが飛び退き、距離が開いた。


 一瞬その事に驚いたレイラだったが、我に戻った時に目に飛び込んだのは…


 (っ!氷かっ)


 しかし、リラが氷を投擲したようではなく、まるで氷が意識を持って飛んできたようだった。そして、その氷はリラの下に帰っていく。


 そして、ステージの残骸がガタガタと蠢き、五線譜が残骸にまとわりついていく。


 「形態変化…「百層鳴神(ひゃくそうなるかみ)」ready」


 「っ!マズい」

 (…!思考が…飲まれた)


 残骸からはバチバチと青白い電流が流れ、リラはふわりと宙に浮き、氷はリラとレイラを中心に針となって先をレイラに向ける。


 「…っは、ははは、降参したいけれどつまらないから負け台詞だけでも、言おうかな…例えば…そう、諸行無常、なんてね」


 針が一斉に降りかかり、中から音が鳴り響く。


 『そこまで!勝者リラ・エンジェルス・シャリアっ!!』


 ワァッと歓声が上がる。会場には勝利パフォーマンスのように残った氷が花火のように弾ける。


 そして、その様子を見て心を高ぶらせているのが、一人観客席で笑みを浮かべて立っていた。


 彼女はうっとりとした様子で見ながら呟く。


 「はぁ…いいなぁ…気になるなぁ…あの子達、前に見た時よりもずぅっとたくましくなっている。クスクスクス…まだかな、早くうちの学園にきて、ぜぇんぶ知りたいなぁ」


 「ここにいたんですか、理事長。探しましたよ」


 彼女…ニスタの背後から制服を着た、おそらく学生であろう人物が、話しかけてくる。


 「そう、ご苦労様 新生徒会長サマ?で、何か用」


 「教員の中である申請があって、意見が割れたので、それにより、校則第28条「申請などの条件によって大半の教員の意見が割れた場合理事長の意見を優先する」という事で今すぐにでも学園にお戻りください」


 「えー?意地悪だなぁ、今日はちゃんとみんなにお休みとるって言ってここに来ているんだよ?来年うちに来る期待の新人、楽しみじゃない?」


 「楽しみなのはともかく、お休みは毎回事前に言うようにしてください。何回もやめてくれって教頭先生が注意してくれって言ってました。それにこの前、なんの報告もなしに3日間連休入れましたよね。学生の身分で理事長に説教するのは気が引けますが、それくらいの報告は…」


 「へにゅ~、お説教めんど~」


 「…まぁ、今回はちゃんと許可とってきているのでいいんですけど、それに、どんな案件でもすぐに出来るんでしょう。気分屋なあなたですが、有能な人材としての評価は最大級。これについては流石「喋るシュレディンガーの猫」と言わざるを得ません」


 それを聞くとニスタはやれやれと言わんばかりに首を振る。


 「その言い方はやめてよね。みんながみんな言っているから定着しただけだからさぁ、それよりも、生徒会長サマは見なくていいの?中々面白いものだよ」


 「いいですよ。録画してますし、騒がしすぎるのは苦手です」


 「嫌いと言わない辺り、やっぱり気になるんじゃない?いつもいつも、生徒会長の務めは肩がこるものはちゃんと息抜きしないといけないからね。君、詐欺に騙されやすいタイプでしょう。だから教員達からは期待と言う餌にかかって実際、パシリにされている。今の状況が正にそれだ」


 「…」


 「それに、君はとても優秀だ。運動も出来て勉強もできる。総合点では学年10位以内から落ちたこともない。みんなからも困っている人をほっといておけない人だってね。でも、そのせいか、人を疑ったり出来ないから、いいように使われちゃう。陛下に憧れる気持ちは分かるけど、ちゃんと誰を信じるかだけじゃなくて誰を疑うかも、人の上に立つ人は今の君の8倍くらいは物知りじゃないかな。もちろん人を選ぶ意味として」


 「…分かりました」


 「フフッ君も運がいいね理事長の講義を受けられて、講義料は私の隣で観戦する事で手を打とうじゃないか」


 「…相変わらず、口車に乗せるのが上手なようで」


 「無駄に人生を送っているわけじゃないからね。あっ、でも年齢を聞くのはダメだよ。女の子は秘密が多いからね私も…彼女らも」

次回9月末予定

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