第九部 四章 激戦
『さあ、休憩時間終わってもまだまだ観客の熱は下がりません。ジュニア部門バトルアリーナトーナメント、第二試合、初めて行きましょうAブロック、千麟 美奈VSアイシャ・ハーン、今、ゴングです!』
~控室~ View レイラ
(二人の対面、どっちとも頑張ってほしいし勝ってほしい。あっ、やっぱりかっこかわいい)
「レイラさん、どっちが勝つと思います?」
モニターを隣でみていたリラ姫が口を開く。
「うーん、多分なんですけどどっちが勝ってもおかしくないです。なんたって二人の戦闘タイプは真逆なんですから」
「どういう意味ですの?」
廊下の方から鬼灯さんが会話に入ってきた。
「優菜さん、ラウンドガールの仕事は?」
「あはは、ラウンドガールの仕事はこれだけなので…」
そう言って優菜さんが取り出したのはROUND□と書かれた板、□の部分は回転できる仕組みになっており、そこに数字が書かれているらしい。
「ところでタイプに違いとは?何か関係が?」
「予選では記録を競うという意味なので、特に意味は無いのですが、相手と対面して戦うという事に関しては重要なものと言えるでしょう」
「美奈さんは遠距離からの魔法が得意なスナイパー、更に多くの魔法を使えるので手数で圧倒できる。これは大きなアドバンテージとなります」
「対してアイシャさんは気孔を使い。近距離攻撃重視のパワータイプ、距離を詰めて、射程がない代わりに素早い動きと力で相手をねじ伏せる。互いの長所短所がほぼ真逆、手数がある美奈さんにとっては長期戦に強く、身体能力を爆上げできるアイシャさんにとっては短期戦に強い」
「つまり、互いにそれを理解しているから、どうにかして自分の優位に相手を引きずり出そうということですか?」
「レイラの仮説だけどね。でも、互いの動きを見るに、小手調べしているように感じるから、あってるんじゃない?」
View Change 美奈
ヤバイ…
いや、やばいだけで済まないなこれは、距離を取ろうとしても未来を予知しているかのように詰められる。
自身を中心に風を起こして自分でさえどの方向に飛ばされるか分からないのにしっかりと追従してくる。
衝撃波だけで残り体力は1000弱…一戦目の蹴りを見るに1500以上のダメージだからどっちみち直撃=負けになる。どうにかして攻めの主導権を取り戻さなきゃ…
View Change アイシャ
はぁ~、ツライ
何あの反射速度、無茶苦茶だ。フェイントでわざと外す攻撃も読んでいたようにトラップ型の魔法が仕組まれている。
特にそれだけなら気孔で対処できるけど、博打に出れるほど自信は無い。それで、無理に攻め込んだら、確実に負ける。
体力はまだまだ余裕があるが、あれは、奥の手だ。こんな序盤で使っていいものじゃない…!
『どうしたのでしょう?お互い動きが止まってしまいました』
『次の一手を考えてますね。一戦目のどれもが10秒程度で決まってしまったので、相手の出方を見れず試行錯誤を繰り返しているのでしょう』
「…シッ!」
考える時間なんてもういらない。殴る蹴るなんて誰でも出来る。魔法なんて撃たれる前に倒せばいいし、撃たせる余裕も与えない!
「少し早いけれど、ここまで粘れたら上々ね」
美奈の言葉に反応するように地面がピキッと浮き上がるとほぼ同時にフィールドのいたるところから水が噴水のように湧き出た。
水は瞬く間に俺たちの膝まで浸かるほどの水位になって、ちょっとしたプール状態になってしまった。
「少し服が水を吸ったくらいで僕の機動力を落としたつもりか?甘いぞっ!」
気孔を身にまとい水を蹴って美奈の目の前まで跳躍する。同時に拳を握りしめて、振り下ろす。俺の拳は理想的な弧を描き、勝ちを確信した。
しかし、その拳は後、数㎝手前で淀んだ「何か」によって阻まれた、その感触はゴムのようでもあり、粘液のような粘りがありずっしりとした重さが感じられる。
「これは…泥?」
小さく呟くと同時に泥は形を変えて、視界を覆う。暗闇に覆われ先程まで歓声などでうるさい位の騒音が噓のように静まる。
「泥の中か?気孔を纏えばこの程度…「水破」っ!」
水属性を持つ者に大ダメージを与える水破、続けざまに土属性に大ダメージを与える土破を放つ、だが、泥は形を常に変えて即座に修復されてしまう。
View Change 美奈
「…そろそろかな」
水と土を合わせた奥の手の一つ「マッドドーム」これは、相手を閉じ込めるだけの拘束系の魔法だけど、これは、ゲームではない現実的な考えを持つのならこう言う使い方も出来る。
風魔法でドームの真上に乗って風を中心にドームごと地面に叩きつけるように放つ
「手加減できますように「ウインドバースト」ォォッッッ!!」
ドームは水に叩きつけられて、泥は水に溶けると同時に中からピーーーーーーーー!!と言う機械音が鳴り響く。
「っ痛~、いや、痛くはないか流石だなこの防具…それよりもすごいのは…」
ドームが完全に水に溶けた後、中からアイシャさんがやれやれと言った感じで出てくる。
「悔しいけど、今回は負けたよ。いい勝負だった」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
互いに握手を交わして退場する。
『何とも凄まじい戦いだったのでしょう。これは、盛り上がりが更に増してきました!!』
『今の勝負、手数だけでなくフィールドの特性も活かした戦いでしたね。リングが広いとはいえ、地面は土なので後は形を変えるための水さえあれば、泥を作れる。考えましたね』
『つまり、今大会では単なる力比べだけでなく、知力や戦術、戦略などが見られるという事ですね。次の戦いに行く前にフィールドの除水作業をさせていただきます。しばらくお待ちください』
View Change レイラ
~控え室~
控え室では勝った美奈は飲み物と濡れた服を変えにリラ姫と更衣室に行った。アイシャさんは泥に閉じ困られたとはいえ服は膝まで届くようなものではないものだったので足を少し拭くだけで済んだ。
「いや~負けた負けた、だけど悔しさはあまりないな」
「レイラから見ると逆に安心したような、楽しそうな顔ですね」
「そうか?でも、間違ってもいない。楽しかったのは事実だし、安心したのは「もし、僕が勝ってしまったら次の相手が相性悪すぎる」と思ったからさ」
「どういうことですか?次の相手ってアルバートさんか、ウィルトンさんではないのですか?」
「いいや、もうあの時で次に対戦する相手は決まっていたんだよ」
そういった後、実況者の声が控え室に響き渡った。
『決着しましたーっ!ウィルトン・ブーリン!やはり強いっ!!アルバートをほぼ被弾することなく試合を終了させることが出来ました!!』
View Change アイシャ
(やっぱり、あいつが勝ったか、ウィルトン・ブーリン、攻撃と体力に長けた武闘派キャラなのだが、こいつにはパッシブスキルと確率スキルが相性がいい)
パッシブスキル、「巨躯」防御力、魔法防御力増加(スキルレベルによって増加値変化)
確率スキル「カウンター」一定確率で相手から受けるダメージを半減して、自分のATK値を上乗せして相手に返す。これは、防御力、魔法防御力などで軽減不可能。
(スキルの能力だけでも凶悪な物だけどこれの恐ろしい所は、物理も魔法も通用するって事だ、魔法カウンターのモーションがパンチで跳ね返すとか、意味わからなかったし…)
その中でも唯一カウンターが反応しない攻撃方法が投擲アイテム、投げナイフ、トマホークなど、しかし、この大会は武器の持ち込みは申請した武器の殺傷能力無し以外は禁止、尚且つ武器は一つだけ、実際にアルバートは二槍流ではなく、槍一本で出場していた。
「はぁ、自分が出ない分、美奈に押しつけたような罪悪感、嫌な予感はしない方がいいっていうけれど意識して抑えられるようなものじゃないからな」
「そうかな?カウンターされる前に倒せばいいとは思うけれど、違うの?」
「これは、美奈と対戦したからわかるんだけど、僕に使ったやつは対僕用に編み出した奴だと思う。だから、他の人には使えないかも…もし、使えたとしても一回見せた以上対策を取られたら、美奈にとってはきついんじゃないかな」
まぁ、美奈は手数が多いから二回戦目でああいうのを使えるっていうのもまだまだ手の内を出し切ってませんよってアピールしているようなものだ。
カウンターは状態異常などには効果を発揮しない。カウンターはあくまで攻撃による返し技、拘束や麻痺、毒状態にする魔法や特技にはカウンターは素通りしてしまう。
しかし、ダメージ+状態異常の場合はカウンターが発動する。
一番の欠点はカウンターが任意の発動ではなく確率で発動すると言う点だろうか、だけど、あいつは女主人公の攻略対象の中では一番の幸運持ち、体験版だと必ずカウンターを発動していた記憶がある。
(まぁ、女主人公のルートは10回くらいしかしてなかったし、男主人公のかっこかわいさを取り込むために必死だったから、うろ覚えだし普通にゲームを楽しんでいたし)
「でもレイラからして言えば、美奈は私を相手にしても負けることなんてほぼ無いと…」
その言葉を遮るように、大会委員の人がレイラに声を掛ける。
「いたいた、レイラさん、そろそろ出番なので移動をお願いします」
「は、はいっ!じゃあ、行ってきます」
「おー、頑張れー」
それとすれ違うように美奈が帰って来た。
「あら、もう殿方達の戦いは終わったの?」
「少し前にね、残念だった?相手の出方が分からなくて」
「いえ、全然、戦いは何時でも万全な状態でできる訳じゃないのでしょう?これなら次の戦いはスリリングでエキサイティングな気持ちで臨めそうです」
「…へぇ、チャレンジャーだな」
多分それだけじゃないって顔だけど、それは、俺もあの二人にとっても同じか、試合なのに熱が入りすぎて殺試合になりそうだったし、それで、冷静さを欠いて負けたなんて、カッコ悪いな
「そういえば、リラはどうしたんだ?出番はまだのはずだろ?」
「リラならお手洗い、リンゴジュース飲み過ぎたんだって」
「そうか、話はかわるが、レイラの対戦相手は誰だ?」
「えっと、あの顔は確か、ホーグスって人じゃなかったかな?」
「…無属性魔法の使い手か」
一般的にはバフ効果のATKなどの上昇だが、それだけじゃない。妨害や魔法封じも使える。無属性はその為、不確定要素が多く、4属性の魔法より弱いが弱点がないと言うメリットがある。
レイラも無属性は使えるが、それよりは剣技でゴリ押しした方が圧倒できるだろう。
ViewChange レイラ
「ぁっ!!」
互いに剣を打ち合い。鍔迫り合いを繰り返している。互いは同じ武器を使っている。その為に力を出し合い何度も同じ絵図を繰り返す羽目になっているわけだが…
(これじゃあ、埒が明かない。こんな馬鹿に使うのは嫌だけど、それしかない)
剣を振り払い、一瞬距離を置いた後、剣を構える。何度も教わった「三連撃」同じ武器とはいえ、剣技ではこちら側の有利、これで終わらせる。
「一撃目!」
踏み込み、懐に飛び込む。
「っ!さぁ!!」
相手は声を上げて、当たる前に剣を当てて、防いだ。だが想定内、後二連撃残っている。
その思いとはその後、すぐにかわる。
(あれ?この動き…)
二撃目、三撃目剣を振り、打ち付けるが、防がれる。しかし、その防ぎ方は見た事がある。何せ、今の攻撃は防がれたのではなく、相殺されたのだから。
「まさか…「トレース」?」
「おや、正解だよ。ただのビビりな女かと思ったけど違うんだね。一発で見破るなんて、想定外だけど」
トレース、無属性魔法の一つ、相手の攻撃を真似る。
(ゲームだとあまり使わないお遊び用の技だが、なるほど、現実が織り交ぜられている世界だからこそ、相殺できる器用貧乏とでも言うべきか、だったら、これを使う事に後悔無しってね)
「なら、この技も真似して見せてよ」
剣を構えて精神統一、呼吸を整え、衝撃を逃がす為に脱力する。
「究極奥義…「一の太刀」!」
鞘に納め、抜刀と共に一薙ぎ、常人にはその速度は目で追えるものではなく、例えどれほどの熟練者であれど、その人達は幸運を超える幸運、豪運の持ち主でなければ、成す術なく、やられてしまうだろう。
…同じ、技でも使わなければ
一薙ぎを同じ速度で繰り出した。お互いの剣は剣圧で会場全体の空気が震えあがり、観客は一瞬無重力の空間に放り出された感覚を味わう。
「紛い物の太刀でこの技を繰り出すか、盗人がぁっ!!」
「俺の「トレース」は完全だ!どの様な技でも同じ威力で迎え撃つことが出来るんだよっ!」
「だったら、その紛い物がどれ程愚かしいか見せてみなよ」
再び構えて一の太刀を放つ。何度も、何度も、10回以上も一の太刀を放った。
「クククッ、くどいぞ…」
ピーーーーーーーー!!
「…え?」
『な、なにが起こったのでしょう!?ホーグスの耐久値が0に達しています。一体これは…』
『ペナルティ…ですね。あれ程の威力、互いに何回も使っていたら、その衝撃は計り知れません。レイラ選手が言っていた「紛い物」とは、この事だったんですね。どれだけ威力を真似したと言って、反動をいなさずいると反動のダメージで倒れてしまう。
鎧のおかげで身体の負担は軽減されているにせよ、この戦いは鎧に埋め込まれた耐久を削り切った方が勝ちのルール、ホーグス選手はそれを失念していたらしいですね』
『なるほど、しかし、なぜレイラ選手は無事なのでしょう?』
『フィールドに注目してほしいのですが、レイラ選手が立っていたところには波のような形に変化しています。あれは、技によるペナルティの衝撃を身体ではなく地面に逃がした。または押しつけた、と思います』
『流石、あのギルドマスターの娘と言ったところですね。このハイレベルな戦いを制したのは「レイラ・オーガスタ・キャロル」っ!!』
わぁっと歓声があげられると同時に、軽くお辞儀をする。
「お手合わせ、ありがとうございました」
「…クッ、勉強になったよ」
ホーグスは、悔しそうに、走り去っていった。
~控え室~
「いやぁ~、いい試合だった!」
戻るなり、急にアイシャさんと美奈さんが寄ってきた。
「あれは凄すぎるよ。多分対策とか立てられないよね。絶対防御不可能だもん」
「あーあ、僕が美奈に勝っていれば、燃える戦いにでもなったろうにな」
「そんなことありませんよ。居合の構えするまで1~2秒の時間が必要ですし、準備不十分で繰り出すと、反動ダメージが…あっ、あっ、ど、どうしましょう…このままだと、注目が集まって…あ、あばば…」
「また、バイブレーションが始まっちゃったよ!これどうすればいいの!?」
緊張感で、震えあがった身体を止めるようにピトリと紙のような感触がする。その感触した物からは熱湯のような熱さが伝わってくる。
「あばばばばば、ばば…ばば、あっあっ……あっづぁぁ!!熱い熱い、み、水!?いや、氷っ!!誰か氷持って来てーっ!!」
「そんな感じじゃあ私との試合に響きますよ「アイスブロック」っと」
いつの間にかリラが立っていた。
「ああっ、氷!氷だぁ…はぁ~冷たくて気持ちいい…」
「リラ、どうしたの?試合は…」
「もう終わりましたよ」
そう言って、指をさしたスクリーンには戦いのリプレイが移されている。その最後にはリラが相手を秒殺している映像があった。
「な、何あれ?もう魔法撃った?もう倒した?5秒もかかってないのに…」
次の戦いで一番の注意するのはこの人なのかもしれない。
次回8月末予定




