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第九部 二章 準備 

 4月3日 午後


 View 美奈


 「…そうそう、もう少し体の重心を取れる?猫背をイメージして…うん、上手」


 レイラの家で稽古をしているが、今日のアリアさんはリラの乗馬の訓練に専念しているようだ。たまにこっちの方を見て、指摘はするけれど前のように手を添えるようなことはしない。


 ゲームの乗馬では自分に合う馬が基本設定に乗ってある。騎馬状態で戦闘や移動を行うことで乗馬スキルが上がり、乗れる馬種も増えていくというものだった。


 しかし、だからと言ってその馬種に乗れないというわけではない。乗る事事態に問題は無いが、デメリットがある。戦闘中に騎馬状態のキャラが攻撃を受けてしまうと、一定の確率で馬から落とされて、落下ダメージ+スタン状態を受けてしまう。


 その落下ダメージが乗馬スキルレベルが低ければ低い程受けるダメージが大きい。ペガサスは常に飛空状態ではダメージ軽減、攻撃回避が高い代わりに落馬確率と定期的に羽を休ませなければ、馬の疲労で素早さ減少のデメリットがある。


 (まぁ、落ちて怪我なんてさせたら、親がキレるだろうし、そもそも親が王族というだけで怪我をさせる=処刑が目に見える…あれ?でもこの国、力関係主義みたいなところあるから、多少は減刑させるのかな?ヤバい主人公のかっこかわいさに心奪われて、そのムービーすっ飛ばしていたような…)


 「考えたって仕方ないか、素振り素振りっと」


 一時間後、基礎訓練の休憩時間で、レイラ特製のマカロンを食べながら、訓練の採点を言わされていた。


 「みんなの基礎訓練なんだけど、よく出来ている。60点くらいかな」


 「て、手厳しいですね…」


 「及第点として言っているの。減点の理由は無駄な動きがない分、激しい動きに身体が持っていかれちゃう部分が-10点、体制を整える時にやや無理やり身体を動かすせいで、負担をかけている点で-10点、最後に、他の人を気にし過ぎて自分の事に集中できない点が-20点」


 「…それは、だな」


 「アイシャ、ダメ、お母さんの言うことは正しいよ。ここでの反論はただの言い訳になっちゃう」


 「そうね。レイラの言う通り、でも他人を気にするというのはそれだけならば+を上げてもいいくらい。減点の理由は両立を客観的に見ての判断、だから、及第点としての60点なの」


 アリアは言葉を続ける。


 「個人戦では自分だけという点でさっきの基礎訓練では個人という目で見れば85点、前者の二つの減点も、自分の事に集中できない事から引き起こされた減点と見たんだけど…違う?」


 リラ、含めて私たちは言葉を返すことが出来なかった。


 「別に怒っているわけではないの、でも、経験から言わせてもらうとね。こういう時は甘すぎても厳しすぎてもダメ、教え子がどうしようもない子に育っちゃう。そういう時はさり気なく教えるのがいいんだけど、今回はハッキリ言わせてもらう。

 ちゃんと切り替えが大事なの、それを分かってほしかった。私が言いたいのはそれだけ」


 「「「はぁい…」」」


 「っと、次はリラちゃんなんだけど、始めて乗馬をするにしては上出来よ。もしかして、既に乗馬の経験が?」


 「いえ、乗ること自体初めてで…」


 「本当?それだったらセンスあるよ。どう?将来ギルドの騎馬隊に入らない?…あぁ、でも、あの子の事だから私の推薦でもぐずるかな」


 「あの子ってお父様の事ですか?」


 「ええ、結構昔の話なんだけど、冒険者時代に助けたことがあってね」


 「…冒険者時代、ですか」


 「どうかした?」


 「…いえ、改めて考えてみたら、有名ってだけで、冒険譚をあまり聞いてないなって」


 そうアイシャが言うと、アリアさんは少し、言いよどんで考える素振りをすると…


 「…そうね。本とかも出してないし、言っても信じてもらえるか分からない事もあるかもだけど…聞く?とある冒険者の話し」


 「まぁ、少しは」


 「じゃあ、休憩ついでに話そうか」


 ~22年前~


 View Change アリア


 昔、私がまだあなた達の年齢だったころ、家族と呼べるものは村の人達だった。


 私の実の親は、私を生んだ後、事故に巻き込まれて死んだらしくてね。赤子だった私を親交があった親の友人が引き取って結果的に養子として育ててもらったんだよ。


 でも、名前はそのままだった。多分私の姿が死んだ親に似ていたから、心残りというか忘れ形見というか、名前だけは変えなかったんだよね。


 そのせいで、自分の実の親が死んだことに気付くのにそんな時間はかからなかったな。


 それでも、村の人たちは優しかったし、同年代の子供達とバカやってイタズラして怒られたり、貧乏で小さい農村だったけど、毎日が充実した日々だった。


 それでもね。生活が長引くにつれて、色々面倒ごとも起きるものだよ。今では技術が発展しているから、被害は少ないけれど、昔は野菜や果物が烏とかの野生動物に荒らされたりしたから、自分達が食べられる物が少なくなっていくんだよ。


 余った物を街に売りに行ってそのお金で食糧を買ったりもしていたけど、長くは続かなかったな。


 更に、しばらくすると、追い打ちをかけるように、モンスターが村を襲ったりね。幸い、大人でも倒せるような「ビッグスパイダー」とか「ワイルドチキン」しかいないから怪我や傷も追わないけれど、一番の危険は飢餓だった。


 でも、私はさ、そんな状況でも手を取り合って争わず生きていく大人たちの姿に感動してさ、森の中に入って、果物の木を見つけては、実を持てるだけ持って帰ったりしたよ。その後そのことがバレて危ないことだって怒られたけど


 気がつけば人を助けることに自分の価値を見出すように、16歳になったらすぐに冒険者になったかな。


 今でも思う事があってね。私はそういう星の下に生まれたんじゃないかって思うの。生まれながらにして冒険者という未来が決まっていたってね。


 最初は新星だってからかわれた事もあるけれど、冒険者になって実績を積み上げていったら、そんなことを言う奴もいなかったし、ランクも越しちゃった。


 そんなある日にね。今の自分に満足できなくなって、所属していたギルドを出てフリーの冒険者としていろんなところに行ったかしら、となり町への護衛で小銭稼ぎをして、お金が余ったら、故郷にお肉とか食料を仕送りしたり、帰ろうとも思ったけど、そうするとずっと居座って、二度と外に出られないんじゃないかって不安があったなぁ。


 そうして、各地を転々としていたある日、大会のチラシが配られていたの、それが、今回の元祖バトルアリーナ、普段はそんなことしないんだけど、ギルドの仕事にマンネリを抱えていた私は好奇心に負けてそれにエントリーした。


 その頃は私もギルドの中ではそこそこ有名人になっていたこともあって、力も同年代と比べても圧倒的に強い方だった。


 でも、決勝戦の結果は惨敗した。


 負けた時はとても屈辱だった。相手は息を切らさず、その剣筋は見切る事すらできずに負けた。


 悔しさに打ちひしがれて、控室でうなだれているとそいつが話しかけられてね。


 「おい、大丈夫か?」


 声をかけられたとき、正直驚いた。普段はそんなこと言われても、何も言わずにその場を立ち去るんだけど、その時はなぜか出来なかった。


 「…何よ。あんたに負けた私をあざ笑いに来たの?」


 「いいや、その腕前を見込んでスカウトに来た」


 最初は馬鹿じゃないのって思ったほとんど手も足も出なかった相手に腕を見込んだなんて、余程の馬鹿じゃないと言えない事でしょ?


 「ふざけんな!あーしを負かして腕を見込んだ?スカウト?寝言は寝て言いやがれ!!」


 「冒険者の新星の話なら聞いたことがある」


 「っ…」


 「田舎暮らしの最年少で冒険者になり、主に野獣やモンスターなどの退治を受ける。その強さはおよそ女性とは思えない程の実力、噂ではその様なクエストを受けながら、傷一つおったことない、君がその人だと分かった」


 そう言った後、懐から冒険者のエンブレムをつけて言ったのよ。


 「お前の戦いは、決してスマートではないが、その武器に関する技、相手との強さを見抜く洞察力は目を見張るものがある。俺はお前を負かせたから首輪をつけようとしているわけではない。お前の手を必要としている人々がいる、俺はお前と共に苦楽を共にしたい。それだけだ」


 意味が分からなかった。言葉を着飾って聞こえがいいようにしただけの話術、そうと分かりながらも、彼の目を見ていたら、次に私の口から出てきたのは、ため息と了承の言葉だった。


 「…高いよ?」


 「困る…が、構わんさ」


 ~現在~


 View Change レイラ


 「それが父さんとの出会いだったの?」


 「うん、そうだよ。今思えば昔の私は冷たかったな」


 「ふぅん…でその後はどうしたの?」


 「一緒に、モンスターを狩って素材を山分けたり、船を護衛して大陸を渡ったり、喧嘩して刃交えたりしていたら、別れる事も考えずに婚約した」


 「それは、ロマンティック…なのか?」


 苦虫を嚙み潰したような顔でアイシャさんが顔を引きつらせて笑う。


 「他人にはどう映るかは別として私にとっては、それが一番ロマンティックな出会いだったと思うわ」


 「オリハルコンのランクになっていた時には既に結婚していたの?」


 「あー、いえ、昔はねオリハルコンのランクは渡っていた大陸にはなかったの、ギルド本部が決めた事が広まるのは支部やらなんやらを通して初めて発行できるものもあるから、当時は私達のランクはダイヤのSと称号だったからね」


 「称号…ですか?」


 「うん、オリハルコンが追加される前、ダイヤを越えるランクが決まってなかった時に称号が与えられることになってね。称号持ちは冒険者の中でも歴史に名を残す程の英雄扱いになるの」


 「わぁ、素敵ですね。お父様が王様の私が言うのもなんですが、そう言う英雄という称号って私、憧れます」


 「英雄って称号じゃないけれどね。私含めて当時その地域で称号持っていたのは、私達含めて6人、地元の信仰している神の名前「ネメシス」から称号を貰ったの、今じゃオリハルコンがあるからただのお飾りだけどね」


 「…ネメシス?」


 その言葉を聞いて、一瞬、頭にある思考が浮かぶ。


 ストアドシリーズ第4作目主人公が著作した本のタイトルが確か「ネメシス6柱」つまり、アリアが言ったネメシスの六人がの内、二人が10作目のして出たという事、ネットの考察では主人公と親友の二人に攻略対象の4人ではないかと考察があったが、攻略対象全員のハーレムルートがなかったことから、違うんじゃないかという考察も見た。


 (今更だが、この世界は今、何年なんだ?どの作品でも時系列で考えるなら、少なくとも今の時代は歴代のナンバリングでも一番最後、時系列の一番最初の3作目よりかは10年は立っていると思う)


 「さてと、昔話はこれでおしまい。少し早いけれど稽古の続き始めようか、リラちゃんも武器の扱いに入りましょうか、ハナコ、ありがとう。また呼ぶからその時はまたよろしくね」


 ハナコは翼を広げて空へと駆けていった。


 (…ゲームでも完成度高いと思ったけれど、ペガサスって綺麗なんだよな。ユニコーンみたいに角は生えてないけど、空を飛ぶ姿はやっぱり好きになる)


 数時間後


 「…ふぅ」


 全員が額の汗を拭い終わった後、アリアが手をパンパンと鳴らす。


 「うん、みんなかなり体力をつけられたようだね。これなら当日の個人戦も団体戦もいい持続力が付くと思うよ。でも、慢心はしないようにね。油断大敵」


 その後、程なくしてお迎えが来てみんなが帰った後、夕飯の準備をしていると玄関の扉が開く。


 「ただいまー」


 その声は父さんの声だった。父さんはリビングに来て、椅子に座ってテレビをつける。


 「お帰り、今日は早かったね」


 「あぁ、最近は新人が来ないからな、結局手合わせくらいしかやることが無くて、手持ち無沙汰になったって事だ」


 「…そっか」


 「あー、ところでレイラ」


 「なあに?」


 「俺たちの禁酒の解禁日っていつだっけ?」


 「今月の中旬、アリーナ当日だね」


 「あぁ、そうか…後、約二週間もあるのか…」


 「がっかりしないの、母さんがお酒控えるなんて言って置きながら隠し持っているのが悪いの、連帯責任。仕事が忙しいのは知っているけれど、自分の体調の事を第一として考えてよね」


 「…はぁ、もうどっちが母親なんだか」


 View Change リラ


 「~♪」


 鼻歌を歌いながらお風呂上りに、リエラの髪を乾かす。


 「お姉様、何かいいことでもあった?」


 「フフッ、ちょっとね。アリーナ当日が楽しみだなって」


 「…いいな、私も出たい」


 「仕方ないよ。リエラはクレちゃんと一緒に応援していればいいの」


 この前、引き取ったグレーターウルフのリーダー、神獣であるリエラを見てから、義姉の私にまで従順になった。


 リエラがメスであるのを確認してクレと名付けてからは私の代わりとして、良い遊び相手となっているようだ。神獣といるといつか人化も出来るとリエラは言っていたが…


 「はい、終わり。じゃあ明日も早いから寝ようか」


 「うん、クレちゃーん!おねんねするからベットにおいでよー」


 リエラが空間の裂け目に呼び掛けるとクレがタタッと駆けてきて、ベットの枕元で身体を丸めて目を閉じる。


 (最初は怖かったけれど、なれると癖になるんだよね。犬枕、いや、狼枕かな、大きいからモフモフを頭や肩にも感じられるし、気持ちいいんだよね。

 でも、なんで、このベッド壊れないんだろう。軋む音すらないんだけど、ミスリルでも使っているのかな?)


 「当日、楽しみだなぁ…」


 次第にまぶたが重くなっていき、目を閉じて微睡の中に落ちていく。


 View Change 美奈


 カリカリと万年筆で今日の日記を書きながら、アリーナ当日の楽しみに心躍らせる。


 「マスター、そろそろ火消していいですか?」


 「んー、もうちょっとだけ待っててね。もう少しだから」


 「カレンはせっかちなの、ゆっくり書かせてあげればいいの」


 「どうでもいいけどよ、オレとマーラは先に寝させてもらうぜ。マーラはもう限界みたいだし」


 「…エ、あ…ふぁイ…どうシましょ…すぅ…はっ…」


 「ごめん。いま終わったから、寝ようか」


 View Change アイシャ


 「まだ、当日まで日数はあるけど、どうすっかなぁ、しっかし、攻略対象の4人が集まって、参加するなんて…」


 (ん?攻略対象…4人…確か個人戦ではAブロックBブロックの8×2合計16人、俺たちがそのうちの4人だとすれば、その残りの12人のうちの4人はまさか…)


 頭を抱えて、嫌な予感の事で頭がいっぱいになる。


 (まさか、あの4人がいるのか?いやいや、まだ分からない。そもそもルート事態では挨拶を交わすこともないくらいじゃないか、でも、なんだ…嫌な予感がする。経験上、嫌な予感は当たって、良い予感は外すことが多い)


 「主人公が出る可能性は低いとしても、あいつらの住所はいけなくもない距離だな…~っ!こんな心配するなら予選の時辺りを見渡していればよかった!切り捨てたい可能性だが、こっちに攻略対象の4人が出場する事から考えざるを得ないじゃないか…」

次回7月末予定

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