第九部 一章 予選
4月2日
View 美奈
ジュニアアリーナの予選の今日、待ち合わせ場所には既に何人かの子供が並んでいる。元々サーカス団が使う会場だったからか、やや広い印象を受ける。
既に何人かの人は会場内に入っているようで、忙しそうに出入口を行ったり来たりしている人が数人見受けられる。
「…長いなぁ」
誰もが思っている事だが、やけに長い長蛇の列、それぞれ紙に書かれた順番で並んでいる。今も最後尾では互いの紙に書かれているのを見せあって列を作っている。
「えー、少々予定より早い時間ですが、予選を始めていただきたいと思います。呼ばれた方から会場へお越しください。まずは…」
大柄なスーツ姿の男性が列の最後まで聞こえるように力みながら話すとそれと同時に出てきた数名の男女が紙束を抱えて一人一人に手渡していく。
手渡された紙には予選のルールについて詳しく記されている。
・今回の予選では以下のルールに則って行う・
①対人戦ではなく、個人の力による点数を競う。
②魔法・体術・スキルの総合点が高い者が本戦の出場が決定する。
③総合点が同数の場合は審査員の多数決で決める。
④三名以上の総合点同数者で審査員の多数決が分かれた場合、審査員長の意見を優先する。
⑤点数は三名の審査員が1~10の点数をつける。
⑥魔法・体術・スキルには、パフォーマンス・パワー・テクニカル・スピード・サポートの五つの項目で点数がつけられる
以上
※予定されていない事態についてはルールの追加がある事をご了承ください。
(なるほど…対人戦ではなく記録更新のようなもので行われるのか…だけど、このルール⑥の項目が気になるな、五つの項目で点数がつけられる。もし、魔法の審査で五つの項目について2点ずつ加算されて満点になるという事だろう。
0点も審査としてあるのならポイントとしては威力が高い魔法がいいはず、特に遠慮はいらないのかな)
それから待つこと1時間半、同じタイミングで来た参加者も待ちくたびれたように、体を動かしたり、地べたに座ったりして少々ぐったりした様子、参加者はそれ程いないにもかかわらず進むのが遅い。ずっとこのペースが続くと終わるのは昼の二時くらいにはなりそうだ。
(審査が終わる前に参加者と同伴者の堪忍袋の緒が切れるのが先だろうけど、それで更に審査が遅れるのは全員把握しているのだろう。同伴者がそれを抑えるように唇を軽くかんでいる)
「それでは次の方どうぞ、お入りください」
ようやく自分の番になった。自分でも少し待ちくたびれているので少しイライラしている。
「まず、おなまえと今いくつー?」
優しそうなお姉さんが明らかにただの子供として見ているとしか思えない言葉遣いで話してくる。
(精神年齢が上の俺からしてみたら正直気持ち悪いな、この喋り方…まぁ、安心できる声と考えれば5歳児の相手にはこういうのが適任とは思うけれど)
その後、流暢に話したら頭を撫でられて、すぐにステージに上がる。観客席には、審査員と思われる三人が最前列の中央に並び、他にも10人以上のアリーナの関係者が見ている。
(それでも、不思議と緊張はしないな)
10分後
View Change アイシャ
「暇だな~、構ってほしいな~そうじゃない?レイラ」
「アイシャさん、私に急かされても列は同じですよ。ほら、本でも読んで暇を潰しては…」
「その読む本を持ってきてないんだよ~」
「お嬢、あまり迷惑をかけるもんじゃありませんよ。あと少しですから、身体をほぐしては如何ですか?」
「それもう10回以上はやっているのにまだ全然進んでないじゃん…はぁ、ちらほら見える帰宅している人たちが羨ましい」
そう呟いていると会場の方から見覚えのある栗色の髪を持った少女とメイドが近づいてきた。
「あれ?レイラにアイシャも来たんですね。まぁ、当然4人で出場決めたので当たり前ですよね」
きたのは美奈だった、後ろのメイドが日傘をさしていたので、風で髪が揺れ日光で照らされるまで分からなかった。
「久しぶり、前にお泊まりした時以来かな?」
「そうだね。リラもいればよかったんだけど、まだ列の後かな?」
「探そうとも僕も思ったんだけど、流石にこの人数だ。直列だと全く分からんからすぐに諦めた」
「まぁ、アイシャさんは無理なものは無理と判断が早いから…所で向こうから来たという事は…」
「うん、たった今終わったところ、やる時間より待つ時間が辛かったよ。ふわぁ…」
眠そうな眼をこすりながら、小さなあくびする姿は可愛い。表情ひとつひとつが、ちゃんと絵になるというか、絵にできる感じがする。
「でも、アイシャとレイラって順番が繋がっているの?」
「そうそう、順番を見せあって並んだ時に目があってさ、互いに数秒間凍り付いて可笑しくて笑ったよ」
「意外と世間は広いようで狭いんですね」
「世界は広いけれど世間は狭いということだとレイラは思います」
「おぉ、レイラ上手い事を言うな」
「っと、また列が進みましたね、私はもう少し列を見てから、帰るのでそれでは、頑張ってください」
美奈はそう言うと手をひらひらさせて去っていった。
「…はぁ、やっぱり、話し相手が一人しかいないと盛り上がらねぇ」
「せめて、美奈さんの精霊か、リラさんのペットが欲しいですね」
「ん?リラのはペットじゃなくてしんじゅ…むぐっ!?」
神獣と言いかける前にレイラが口を塞ぎ、小声で話す。
「こんな大勢の前で神獣の話は駄目ですよ。一国の姫が神獣の友なんて前代未聞の事なんですよ。それを知っているのは親族除いて私たちだけ、くれぐれも口を滑らせないでください。友達がマスコミの餌になるのは嫌でしょう…」
「っ…」
コクリと頷くと手を離して、そそくさと話題を変える。
「そう言えば、稽古はどうなんだ?あれから一回も呼ばれていないから行かなかったんだが、こっちから行った方がよかったのか?」
「あぁ、その事は心配しないで、あれから少し仕事の事でゴタついて一回しか稽古を出来なかったことを謝っていたって伝えて…ってお泊まりの時、言ってなかったっけ?」
「うーん、身に覚えがないな、僕その時はパパの事で頭いっぱいだったから」
「そう言えば、その時、アイシャさんは眠そうな顔していたから、既に半分寝ていたのかもね、それで聞こえなかったのかも」
「ゴメン、睡眠欲にはまったく抗えなくって」
「大丈夫、もう慣れてるから」
二人が話しているとランクが、肩に手を置く。それに気付き振り返ると、会場の扉は後少しで入れるようだ。
「おっと、こういう時は本当に不思議で仕方ない。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうんだもの」
「そうですか?私は時間の流れ何てそんなものかと思ったのですが」
「時間とは何か?私はそれについて尋ねられない時、時間が何かを知っている。尋ねられる時、知らない」
「…あれ?」
「どうしましたか?」
「その言葉、どこかで…聞いた?いえ、見たような…うーん」
そう言って目を泳がせるがその答えを見いだせず、自分の名前が呼ばれた。会場に入る時、チラッとレイラの顔を見るが、まだその答えが見つからないのか「うーん、うーん?」と唸っている。
(多分、分からないのだろう、なんせ、世界が違う。アウグスティヌスの言葉だ。アニメでその名言のような文が出て来たし、そのアニメはストアドのオマージュになっていたから、それが印象に残っていた)
そこである疑問が頭を過ぎる。
(…待てよ?なんでレイラが見た覚えがあるんだ?でも、同じ様な言葉を残す人もいるとは思うけど、一言一句違わずにそのままパクるなんて、今までのストアドシリーズはパロディっぽいことはやっていても丸パクリなんて、やったことはない…レイラの思い違いだと良いが)
View Change リラ
「…ふぅ」
自分の自室で空間の裂け目からその様子を見て、ため息をつく。
(予定より大幅に時間が長引いている。並んでいる人にも疲れが見えている。あれじゃ、本来の実力を出せないだろう。そのことをあっち側は理解しているのか?)
自分の番は、ほぼ最後尾。一番最後から2~3番目だった。
時間がかかると思って先に昼食を済まそうと列から外れる人もちらほら見かけるようになった。
「…ずっと見ていると、犯罪行為に思えてくるな。盗撮というか、ストーカーみたいな…」
まぁ、何でも予定通りに行かないのは20年以上の人生で学んだから、大体想像ついていたけど…
それにしても、本当に長い。本を読みながら、チラチラ見ているが列が進むのはほんの少し、ようやく最後尾から会場の入り口が見え始めた時、裂け目を通って、列に並ぶ。
「…お姉様、頑張って下さい」
今回の同行者はリエラにしてある。リエラの人化は魔力量によって姿形の変化が出来るようになった。
今回の姿はスーツ姿の中性的な13歳程の身長である。もう少し身長があれば若手のキャビンアテンダントかと思うほどの風貌だ。
(今の魔力量じゃ、大体こんなところかな、普段から人化しているから、魔力量が日々増えていっているけど、最近伸びがイマイチな気がするんだよな。複雑な姿じゃないと魔力量の伸びが、頭打ちになるのか?)
今までの仲間モンスターは鳴き声以外に何にも喋らなかったから、成長過程が分からないんだよな。ほとんど人間パーティーで構成される事が多いから、仲間モンスターは途中でレベル上げを投げるプレイヤーが多い。
「まぁ、俺もそのプレイヤーの一人だったから、レベルMaxで満足しちゃうんだよな」
「お姉様?」
「あっ、ゴメンゴメン、それとリエラ、ここではお姉様は禁止、今のあなたはお付きの一人、役になりきらなくちゃ、立場も身体に合わせること、それが生きていく時、必要な条件だと思う」
(まぁ、これは「俺」が「私」として生きるために身に付けた技術だけど、難しいんだよね…異世界だけでも混乱する事態なのに、女しかも姫になるなんて、予測できない事ばかりだからな。女になるんだったら女主人公、百歩譲っても美奈になりたかったな…)
「分かりました。リラ嬢」
「…慣れない呼ばれ方だから少し、恥ずかしいな」
改めて列を見ると最後尾というのもあって対応もスムーズになったのだろう、待ち時間が短くなり、自分の番になるのに時間はそうかからなかった。
翌日、レイラの家に呼ばれた私たちは、全員、予選突破の封筒を渡され、アリアさんに抱きしめられた。
抱きしめた腕の力は女性の力とは思えないほど強く、骨が軋む音が聞こえた気がしたが…
「そうそう、この前にさ、次いつ来るか決めてなかったことを思い出してね。まあ私こう見えてもギルドの最高責任者の一人だし、急用が入る事も多いわけよ。
だからってギルドの奴らに教育させるわけにもいかないし、悪いんだけど、稽古が出来るか否かの報告をその日にメールや手紙で送りたいと思うのよ」
苦笑いを浮かべながら、申し訳なさそうに頬を一滴の汗を垂らしながら、言うとアイシャが手をあげる。
「でもさ、俺と美奈はともかくリラはどうすんの?馬車も車で送り迎えも、城の方もたった一つのイベントに金もガソリンも多くかける必要があるのか分からないし」
俺、と言うアイシャは何かの感情が高ぶった時だ。今回は心配と怒りの両方、どちらかというと8割怒りのほうだろう。
「まあ、その点においては考えてあるんだけどね。こういう時のためにギルドにはちゃんと「あの子」たちがいるんだもの」
そう言うとアリアさんは窓を開けてポケットから、棒のような物を取り出す、煙草のようにも見えるが斜めに切れ込みが入っていたり、小さな穴があることから笛のようなものだと分かる。
しかし、その形状から音が出るのか、少なくとも、穴の大きさから音は出なさそうだ。
その予想は的中し、アリアが笛を鳴らそうとするが、笛はならない。そう思ったのも束の間、何かが聞こえる。
バサバサッと羽ばたく音、その音は大きく、鳩や燕よりもはるかに上回る大きさの音だ。
その音の主は、庭の方にドカカッと足を鳴らしてその姿を現した。
「おお、よしよし、よく来たねハナコ。いい子にしてたかい?」
アリアさんがハナコと呼ぶそれは白い毛並みに翼を生やした馬、すなわちペガサスだ。
ハナコと呼ばれたペガサスはブルルと鼻を鳴らし、アリアの手をぺろりと舐める。アリアはそんなことを気にも留めずに、こちらに振り返る。
「紹介するね。この子はハナコ、ギルドではクエスト場所によっては時間短縮のため、馬をいくつか所有しているの。直線の加速が売りのサラブレッドとかね。
この子はペガサスだから、速さは他の種と比べて地上での速さは劣るけれど、障害物を無視できる飛行能力から偵察や川や山道を通る時に使うんだけど、ギルドマスターの特権でこの子を家へ通うときの、足として使わせてあげる」
その優しさは嬉しいのだが、そのペガサスは今の自分よりも遥かに大きい、子供の頃、乗馬体験をした時は馬に乗る事は楽しい事だが、柵もなく、今にも町や空へ駆け出してしまいそうな、威圧感が恐怖を煽る。
「大丈夫大丈夫、ハナコは賢いから、食べたりしないよ。むしろ他の馬より人一倍、いや、馬一倍人懐っこい子だから、どう?リラちゃん、撫でてみたら」
恐る恐る、ハナコに近づき、頭を下げたタイミングを見計らって手を伸ばした。その瞬間、ハナコは手をベロリと舐めてきた。
「ひゃあ!!」
いきなりの事で変な声が出た。一瞬だけ見えた歯は葉だけではなく人間の骨すらも嚙みちぎりそうな様子だった。
「ははっ、驚かせてしまったようだね。今のはハナコの挨拶のようなものさ、始めての人には手をなめて汗のしょっぱさを確かめるんだ。後は大人しくなるから、乗せてもらうと良い。
…そうだね。確か、城にも何頭か飼っていたはず、乗馬技能も習得してみたらどうだい?貴族たるもの馬くらい乗れなくちゃね」
「あの…私もアイシャも貴族なんですが…」
おずおずと美奈がアイシャと手をつなぎながら、庭への窓に身を寄る。
「ん?君たちも乗馬に興味ある?それともハナコに手を舐めさせて貰える?」
「はえ?うーんと、じゃ、じゃあ、せっかく何で、アイシャさんは」
「あ、いや…今回は、遠慮させてもらう。それよりも僕は本戦に向けて修行したいしな」
それを聞くとアリアさんはニコニコしながら、アイシャさんの方へ向かう。
「おやおや、アイシャちゃんは熱心な努力家ね。でも…うん、基礎訓練なら庭でもできるし、持ってきてくれるかしら、全員分も出来れば」
それを聞いたアイシャさんは頷き、小走りで、アリアさんの部屋に向かい、しばらくしたあと、それぞれの武器を持って来た。
「さて、武器も持って来たところで、早速稽古を始めたいと思うけれど、まずは少しだけ座学を教えようかしら、これはあなた達が優勝することに直結すると言っても過言ではないからね。裏ワザとでも思えばいいわ」
「裏ワザ…ですか?」
「うん、それはね…」
その情報を聞いたら全員驚いた顔をしている。文字通り開いた口が塞がらないといったものだった。
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