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第八部 二章 精霊に愛され過ぎた少女

 3月23日


 View 美奈


 予選が決まった翌日、毎日の自習として、中庭で魔法の練習をしている時。


 「…よし「ファイヤーボール」!」


 放ったファイヤーボールは6発、魔力の消費は2発分だった。


 (精霊の力で消費MPも節約されているのは、知っていたけれどこれだけ節約されるなら、もう少し威力の調整を自身でやってみるのもいいかもしれないな)


 「んっ、むむむ~」


 魔力を指先に込めて、五本の指先に火を灯す。親指と人差し指、中指は同じ様な勢いの火だったが薬指と小指は小さく今にも消えてしまいそうだった。


 「後はこれを…んっ…んんん~~っ!!」


 それぞれの指に灯った火が消えないように手のひらの上に慎重に移動させる。すると火はメラメラと勢いを増して、野球ボールサイズの火球になった。


 「ふぅ…」


 空いている手で額の汗をぬぐいながら、火球に更に魔力を上乗せさせる。


 (サイズはこのままで、もっと火を強く圧縮させるイメージで…こうかな?)


 握り飯を作る感覚で両手を使って収縮させるように火球をコントロールする。


 しばらくすると火球はギラギラと輝いて熱気も上がってさっきの苦労による冷や汗とは違う汗が頬を伝う。


 (後は魔力を込めながら…よし!)


 「フレアレイン!」


 手の火球が空に飛んでいき、十数秒間静止の後、自分を中心とした半径5メートルに火の雨が降りそそぐ、しかし、自分に当たってもダメージは無く、むしろ魔力が微量ではあるが回復している。


 「やった!成功だっ」


 (魔法は魔力によって威力が変わるのなら、同じ要領で魔法を使って魔力を回復できないかと思っていたけれど、どうやら間違ってはいなかったらしい。この魔法は使える。攻守両用に予選でも使ってみよう。本戦でもこれを使えば相手だけに…)


 「ぎゃんっ!?」


 「そうそう、こんな感じに…」


 (ん?今の声はどこから…)


 声の聞こえた方向に目を向けるがそこには誰もいない。


 「おかしいな…幻聴かな?」


 そう言って一歩踏み出すとむぎゅっとゴムみたいな感触が靴を伝わって感じる。そこにいたのは…


 「きゅう…」


 水色の髪を持った小人…いや、これは見たこともある…というか…


 「精霊…だね、うん」


 (いやいやいや、精霊だね、じゃないよオレェ!!何で?どうして!?ホワイッ!!??いや、多分フレアレインに当たっちゃったんだろうけど、運悪くない!?)


 「と、取りあえず、「アクアベール」」


 状態異常と共に体力回復の魔法をかける。「フレアレイン」は火炎魔法なので火魔法よりも高い確率で状態異常の「火傷」効果がある。対抗属性である水属性の魔物は更に火傷状態になりやすい。


 「う、ううっ…」


 精霊は目を開けたと思うと急に飛びあがり、身体中をベタベタと触るとこちらに顔を向けてパァと笑うといきなり手を握ってくる。


 「君がボクを介抱してくれたのっ?ありがとうなの!」


 「えっ、あっと…」


 (どうしよう、多分フレアレインに当たって撃墜しちゃったんだよね。殺されかけた相手だって思っていないどころか手当てしてくれた人って思っちゃってるし…これは、教えるべきか、黙っておくべきか)


 「それにしても、びっくりしたのー、気持ちよく飛んでいたら、いきなりお空から、いーっぱい熱い雨が降ってきたから羽根が蒸発して落ちちゃったのー」


 (うん、確定したね。それオレのせいだね(罪悪感)本当に申し訳ない)


 「ねぇねぇ、君の魔法とっても優しくて良質だったの」


 「良質は分かるけど優しい?魔法に優しいも厳しいもあるの?」


 「モチロン、ボクは高位の水精霊だからそういうのが分かるのー」


 「へ、へぇ…高位の水精霊ね…」


 うん、大体気づいていた。精霊の髪の色は大体、魔法属性のイメージカラーで分けられている。


 火は赤、又は真紅、水は青又は水色や黒に近い藍色、風は緑又は黄緑、土は黄色又は茶色、この身体は元々髪が栗色だから、土の精霊と相性がいいなんて噂もあったけど、現時点でまだ土精霊と出会ってない。


 そもそも、精霊と会えること自体珍しい事なんだけど…


 「ねぇねぇ、君の事気に入っちゃったの、だからね、ボクを君の契約の精霊にしてほしいの!」


 「…は、はぇぇっ?」


 ちょっと待ってこの流れ前にもやった。カレンの時と同じじゃんこれ、何なの?精霊ってみんなこうなの?突撃ソルジャー達なの。


 「ええっと、実は私もう精霊と契約していて、これ以上の契約は…」


 「んっ」


 水の精霊は話しを全く無視して手の甲に口付けをする。するとキュインという音と同時に力が湧き上がってくる。


 「これでボクは君の契約を交わしたの、主人は君でボクは従者なの」


 展開がズルズルと進み過ぎて、何が何だか分からない。こんな、ドッタンバッタン大騒ぎな異常時にどんな反応をしたらいいのかそんなことを考える思考すら失われた。


 思考が停止している間も水の精霊はぐいぐいと話しを続ける。


 「じゃあ、早速名前が欲しいの、可愛い名前」


 「う、うん、名前ね…」


 (いや、すぐそんなこと言われても…いや普通に迷う。ウォーターやアクアって魔法と同じ名前だし…水を多く使うもの…水…ご飯?…ライス…)


 「ライズ…ライズなんてどう?」


 「ライズ…ライズ!ボクの名前!いい!とってもいい!ライズ、ボクはライズ!ありがとうなの!えーっと…」


 「あぁ、自己紹介がまだだったね。私は美奈、千麟美奈。そしてここは私の家の中庭」


 自己紹介をしていると遠くから何かが急接近していることが分かる。


 「マスター!無事でしたかっ!?今なにかとんでもない気配がしたので飛んで、来た…の…で…」


 カレンの目は明らかにライズに向いており、明らかな敵意を持って襲いかかろうとしているが、近くに自分がいるので、このままだと巻き添えを食らってしまうと思っているのだろう。


 しかし、ライズは警戒心などみじんもなく、スイッとカレンの目の前まで飛んでいく。


 「ご主人の記憶を見させてもらったから分かるの、火の高位精霊カレンですのね。転生前に出会ったかは覚えていませんが、挨拶はさせていただくの、ボクはライズ、この度、千麟美奈をご主人としてお仕えさせていただくの、よろしくなの」


 「……ふ…ふ・ざ・け・る・なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 激怒の声が中庭中に響き渡る。


 「マスター!どういうことか説明してよっ!!なんで私の天敵がこんな所で、しかもその手の甲の水の紋、なんでこんな奴と…っ!!」


 「お、落ち着いて、私も混乱しているんだ。冷静にしているように見えるかもしれないけれど、これでも結構焦っているんだよ。それにほぼ強引に契約されたんだ。仕方ないだろ?」


 「仕方なくないわよ!100歩、いや100万歩譲って、他の精霊との契約は許す…いや、許さないわ!!もうこうなったら、水の紋が入った手首を焼き切るしか…」


 「待って!ダメ!痛いのやだし、そんなことしたら最悪、国が傾く!!」


 「いいじゃない私の能力で新しい手首をくっつけるんだし、そんなにあの子がいいのっ!?」


 「言って置くとご主人と契約結んだから、焼き切ろうとしても加護で自動防衛働くの、水の加護だから焼き切れないの」


 「グヌヌ…お、覚えてろ!!すぐにお前を追い出してやるからなー!!逃げずに待っているんだな!!」


 そう言うとカレンは飛び去ってしまった。


 「あっ、カレン…」


 「行っちゃったの…まぁ、契約が切れるわけじゃないから、しばらくしたら戻ってくるの」


 「あんなに怒るなんて…それ程、水の…ライズが気に入らなかったのかな」


 「対抗属性は割と、重要視している子も多いの、ボクはそんなことないけど、彼女はそういう子だと思うの」


 「ライズはどう思う?私としても君たちには仲良くしてもらいたいんだけど…」


 「うーん、そうだ、ちょっと待っててほしいのー」


 「えっ、ちょっと…」


 カレンに続いてライズも飛び去って、中庭にポツンと取り残されてしまった。


 テーブルに座ってスコーンやマカロンを食べながら、手の甲を見る。


 「水の紋…」


 精霊の力を示すための紋章それが今、私の手には二つある。一つはカレンの火の紋、そして、ライズの水の紋、契約を交わした精霊はその紋が身体に馴染むまで本契約とはならない。カレンが手首を焼き切ろうとした理由がそれだろう。


 しかし、ライズもカレンと同じクラスの高位精霊、恐らく自傷行為をしようとも防衛が働くのだろう。


 人差し指の先に火を灯し、水の紋に近付けるが、すると自分の意志とは関係なく、水が火を消した。


 「精霊との契約…か」


 ストアドシリーズでは実は多くの伏線が張られていることが多い。その伏線を回収するのがシリーズを通して明かされることが多い。


 今の時代は記念すべき10作目、今までの伏線がストーリーを通して全て明かされるのではないかと、ファンの間で噂されていた。


 その噂で一作目からストアドシリーズを全てやってみたが中でも語られていないことが精霊との関わりだ。唯一分かっているのは妖精との違い程度だろう。


 精霊は強大な魔法の発動後、残骸の魔力から具現化したもの、つまり、高位な精霊は強大な魔法だけではなく極みの域に達した魔法が生みの親だという事だ。

 それとは違い、妖精は自然から生まれた存在であり、精霊が行う契約を交わすことはないと言う。


 ゲームではアークピクシーなど妖精が敵キャラとして登場することが多い。


 その姿は精霊と似たような人型で背中に 羽根が生えていた事で精霊との違いは羽根の枚数と種類のみだった。


 精霊の羽根は水の精霊は水の羽根、火の精霊なら火の羽根という風に羽根で何の精霊か判断できるが、妖精が持っている羽根は虹色の鱗粉をまき散らす透明の羽根で二対の羽根だという事。精霊は一対の羽根だ。


 姿形が似る事から、もっと何かしらの接点や生い立ちが関係あるのではないかと噂されているが、ストアドシリーズの運営はファンブックなどを今までだしておらず、全てが推測の域からでない。


 (それにしても、二人共どこに行ったんだろう。待っていてって言われたけど、まだ気温の変化も激しい3月の下旬だ。ずっと待っていれば風邪をひくかもしれない)


 幸い、今日は比較的暖かく過ごしやすい温度だが、夜になると肌寒くなり、油断していると寝冷えなどを起こすことがある。


 「お嬢様、追加のスコーン持ってきましたよ。あと、紅茶と市販のショートケーキなんてどうです?」


 「あっ、ありがとう」


 サリアちゃんが持って来たワゴンには紅茶の香りとケーキの控えめな甘さの匂いが食欲を刺激する。

 紅茶を入れてくれた時、サリアちゃんのポケットから小さな紙切れがはみ出ていた。


 「あれ、それなに?買い出しのメモ?」


 そのことを聞くと「あぁ」と言って紙を取り出す。その紙は手紙であると分かる。


 「旦那様の書類の中に私宛の手紙があったんです。それで、その事も話そうと思ったんです」


 「私に関係ある話し?」


 「はい、読み上げますね。コホンッ」


 咳払いをして、サリアちゃんは手紙を読み上げる。


 「サリアへ、突然の手紙ですまない。君が千麟家に仕えたという話しを聞いてこの手紙を書かせてもらった。

 これが無事に届いて君がこれを読んでくれたという事は千麟家に仕えたという事はほんとのようだな。さて、早速だが本題に入ろう。

 君の姉さんにも同じ内容の手紙を送っているのだが、家に帰ってきておくれ、なに、メイドを辞めろというわけじゃない。

 お兄ちゃんが最近「姉さんとサリアに会えなくて寂しい」と呟いていてな。私としてもずっと君たちと会っていないと心配なんだ。顔だけでも見せてくれるだけでいいから、帰ってきてくれ。

 メイソン・ウォルコット」


 つまり、娘の身を案じているという事か、一度元気な姿を見せるくらいなら、それもいいだろう。


 「いいんじゃない?馬車の費用なら私から払うから、帰ってきたら」


 「あうう、そう言ってもらえるのは大変ありがたいのですが、その間お嬢様の身の回りは誰がすればいいのか…」


 その言葉でハッと気づく、この屋敷のメイドは私を恐れている。無理に任命すると、普通の仕事でもミスをしかねない。


 (どうしよう、メイド長は多忙だし、派遣メイドとかやっても、あれ割と高いんだよね…)


 「じゃあ、私がしようか?美奈ちゃんの事なら私が一番理解しているから」


 悩んでいると、この身体の母親、千麟 蘭が立っていた。メイド服で。


 「お、奥様っ!?」


 「ふふっ、メイド長に採寸してもらったけど、ピッタリの服が丁度余ってて良かった」


 クルリと回った姿は可愛いというよりも優雅でメイド服を着ているのに身体から溢れるオーラのようなものでとてもメイドとは思えない高貴さがにじみ出ている。


 「…綺麗」


 思わず口からそんな言葉が漏れる。その事に蘭は「ありがとっ」とだけ答え、その後、サリアちゃんに、普段美奈にどんなご奉仕をしているのかを聞くため、サリアちゃんが半ば引きずられる形で屋敷に戻っていった。


 「やれやれ、今日は色んな事が起きるな、ゲームでもこんなにイベントが起きるなんて、あんまりなかったけど」


 そう呟いた後、ライズがひらりと舞いながら、テーブルの上に着地する。


 「ただいま戻りました」


 一息つくと同じタイミングでカレンが戻って来る。


 「あんた!そこで待ってなさいって言ったわよね!何勝手に動いているのよっ!」


 「ごめんなさいなの。でも、ちゃんとあなたと仲良くするために良い子をれて来たの」


 「ふん!あんたとなんか、ぜ~ったい仲良くするものか、この子を見て震えあがりなさい」


 「「連れてきたのは…」」


 「じゃ~ん!土の高位精霊さんなの~!」


 「どう?風の高位精霊よっ!」


 その瞬間、その場の空気がが凍りついた。


 「…」


 「…」


 「…」


 「…」


 「…」


 その場にいる五人が顔を見合わせたり、何回か目を擦り、今の状況についていけないと顔に書いてある。


 「…えっと、この子がライズが言ってた美奈っていう子?確かに、良い魔力持っているけど…」


 「カレンが気にいったからどんな子か気になっていたけれど…」


 「「まさか、お前も来ているとはね」」


 「え、ええっと、土の精霊さんと風の精霊さんはお知り合いで…?」


 「知り合いというか、顔見知りというか…」


 「リザレクション場所が偶然にも同じ場所で、奇遇だねーって少し、お話しした程度の仲です」


 「…カレンとライズ、もしかしてだけど、この子らと私が…」


 「契約する流れなの、土と火は仲良くはないけれど、ボク程邪険にはされないと思って…えへへ~」


 「…風は私の力を強めるから、契約すれば、ライズを孤立させられると思ったんだけど…チッ」


 「うん、しかし、本当に優しい魔力だ。ワタクシは約束しちゃったし、契約をしてもいいけれど」


 「オレも構わない…というか、そうしないと、アレが貰えないし、土がいいなら、特に」


 風と土の精霊は顔を合わせて頷くと、両頬にキスをする。


 小さな唇の感触と共に、体内の魔力が高まっていくのを感じる。


 「悪いけど先にオレの名前から決めてくれよ」


 少年の姿で小生意気に聞いてくる風の精霊


 (ちょっと待って、マジでこんな展開、嫌だよ!そもそもライズで名前つけるのだって苦労したんだし、でも、呼び名がないと不便だし…なにか、なにか…風、風、風)


 「ノース、なんて、どう?」


 「ノースかぁ…もうちょっと、カッコイイ名前が良かったが、強そうな名前だな!いいぜ」


 「では、お次はワタクシですね。美しい名前をお願いシます」


 (はい、一難去ってまた一難、次は土かぁ、正直名前もう考えたくないな)


 「マーラ、高貴な感じ…しない?」


 「マあ、素敵な名前ね。やっぱり、貴方を主人にした事に間違いなかっタわ」


 「「では、これからよろしくね、ご主人様」」

次回5月末予定

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