表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/127

第一部 二章 アイシャ・ハーン

 「すぅ…はぁ…」


 ゆっくり深呼吸をした後思い切り息を吸い、息を止める。


 「っ!」


 そこからバク転からアクロバティックな動きを見せる。


 「…ふぅ」


 一通り動いた後、パチパチと手を鳴らす音が聞こえる。


 「お見事です、お嬢、記憶をなくしても気孔の扱いは健在のようですね」


 ある日、俺、五十嵐響也は自分が好きなゲームストロベリー・ラブ&ゴッド・アドベンチャー、通称ストアドの世界で攻略対象の女の子になっていた。


 「…タオル」


 壁の手すりにかけてあるタオルを取り乱雑に汗を拭う。


 「お嬢、いくら、柔らかいタオルだからって雑過ぎます、お嬢はご令嬢でそれも、中流貴族では上位の存在であるハーン家、その自覚をもって慎みを持っていただきたいのです」


 転生、とでもいうのだろうか、ともかく、俺は死んで自分がゲームの世界で新しい生を持ったという事実がある。


 そして、今俺が宿っているこの少女の名前はアイシャ・ハーン本名は全部言うと軽く20文字以上になってしまうくらいの長さだから省略させてもらおう、今の俺、アイシャは貴族ではあるが、ある意味では結構な有名な歴史を持っている。


 50年前、ハーン家は王女の甥っ子から続いている由緒ある一族だ。


 王女の甥であった祖父は他の人、いや、女性には出来ないある、特技が使えた。


 気孔、精神を統一して、普段の力の千倍の力を発揮させる精神エネルギーの闘気法、それが、気孔だ。


 気孔の説明はストアドシリーズの初代からあったが、アイシャは男性にしか使えない気孔が使える。これは女性では初の出来事であり同じ貴族では憧れであると同時に妬みの的でもある。


 「分かっているよ、でも、僕は気孔の継承者いつかこの力を生かせる人生があるはず、その道を進み続けるため肌が傷つこうが構わないよ」


 実はハーン家では、使用人は男性、つまり執事しかいない、その為、アイシャは一人称が僕だったり、興奮すると一人称が俺になったりもする。


 ボクッ娘ではあるけど、男勝り過ぎないロングヘアーな女の子というのが簡単なプロフィール、戦闘スタイルは武闘派、気孔で身体能力を爆上げ魔法を気孔で弾くなどという肉体の基礎も馬鹿でかい脳筋キャラそれが基本的な事かな。


 「確かに親方様方は自由にさせたいと申し上げておりますが私はとても心配でどうか、落ち着きを取った行動をしていただきたく思います」


 さっきから話している、この執事は元王宮兵長、狂刃の二つ名を持つ、ランクというコードネームだ。


 家ではべったりだが、学校などでは遠くから見守っていたり隠密スキルで人知らず見守っているスーパー執事、主人公に隠密を暴かれた事により、コンプレックスを抱くというのが体験版で見た一連の出来事である。


 「あなたも気孔は触り程度ではあるけど使えるのでしょう?それで慎みも持ってもらうなんて、両立できるようにするのは流石に欲張りなんじゃないの?」


 続けるようにバク転をしながら、言う。


 「欲張り…ですか、確かにそうかもしれません、ですが、せめて、次のご令嬢の方々の集まりでは、マナーも身に着けていただかなくては」


 「集まり?」


 「あっ、しまった…まぁ、言ってしまったことには仕方ないですね、そろそろ、お嬢は5歳になりますよね、ご令嬢が5歳になると同年代、つまり、同じ学園に通う令嬢が集まる親睦会が開かれるんです、そこで、色々とやるようですが…詳しくはあまり」


 「まぁ、そうだよね、それでも、そんなに詳しいのはおかしいけど…」


 それにしても、親睦会か、その説明は初めてだな、過去作では確かに御曹司や令嬢はグループで行動していた背景だった。


 それでも主人公が御曹司だったりもしていたからそんなにも珍しいことでもないのかな?昔の話もゲーム本編にはでなかったし、二次創作の同人誌にはあったような気はしないでもなかったけど。


 「ところで、少し汗をかかれたのでしたらシャワーでも浴びたらどうですか」


 「そうだね、僕も疲れたよ、今日もぐっすり夜寝られそうだね」


 「まだ、朝ですから、運動し過ぎでお昼寝をして、夜寝られないなんてことにならないでくださいよ」


 なんか、ものすごくよくわかる。


 しみじみと思いながらもお風呂に行く。


 誰もいないのを確認して呟く。


 「ランク、それ、犯罪と同じなの理解している?」


 「……気づきましたか」


 「視線と言うか勘?いるのが分かるって言うか、裸見られるのは流石に恥ずかしいんだけど」


 「大丈夫です、生娘に欲情することもありませんし今までそんなこと縁もないような兵士生活でしたから」


 「うん、それでも、見られていることに変わりないから出てって」


 ただ、カマかけただけなのに本当にいたんだな、まぁ、隠密に特化していたようだし、主人公以外には気づいていなさそうだったからなぁ、気配察知の気孔があったはずだからいつか習得できればいいんだけど、そもそもどうやったら、気孔の技は習得できるんだろう?


 湯船に浸かり、気の抜けた声が自然と出てしまう。


 「ふぅ~」


 長い髪が湯船に入りそうなのを見て慌てて髪を掴む。


 「おっと、そうだった、髪が長いんだったな…髪…かぁ」


 服を着ていた時は気づかなかったが肌に髪が振れると少しチクチクしていてくすぐったい感じがする、男の頃は特に気にはならなかったが、女の子は肌が敏感なんだろう、お風呂の温度も37℃なのに少し熱いと感じる。


 「アイシャちゃ~ん、お風呂入ってるの~?ママも入っていい~?」


 脱衣所から声が聞こえてきたと同時に返事を待たず、風呂場への扉が開いた。


 「アイシャちゃんったら髪の毛を結べないのに一人で入っちゃうなんて、うっかり屋さん~」


 少し茶目っ気のゆるふわ系な女性、ジェシカ・ハーン、アイシャの母親であり名付け親でもある。


 「か、母さん、少し返事を言わせてよ、それに、そろそろ、俺は一人で…!」


 ジェシカはペタペタと歩み寄ってコツンと額を合わせる。


 「コ~ラ、自分の事を俺、何て言わないの、ママの事はママと呼びなさいって言ってるでしょう?そんなこと言うから、男の子と間違われるのよ、ちゃんと、可愛い言葉使わないともったいないからね」


 「わ、分かったよ、ママ」


 今までママって言ったことなかったから違和感が大きいな、子供の頃から母さんって言っていたし、ママって言っている同年代の子もいなかったからなぁ。


 「ジッとしててね~髪の毛を結ぶよ~それ、クルクル~」


 ジェシカは慣れた手つきで髪を結ぶ。


 「ママ、髪を結ぶの上手いね、自分の髪で練習したの?」


 「んーん違うよ妹がねお洒落したい~って言うからママ頑張ってお洒落の勉強してメイクの事も調べているうちに自然とね、まだまだ、アイシャちゃんには化粧ははやいからやるとしても軽いメイクかな~」


 髪を結び終えたらジェシカはゆっくりと身体を密着させる。自分の身体でも思ったが女の身体は柔らかくて、自然と安心する。


 「昔はね、妹達と一緒にこうやって、入ってたんだよね~みんな子供のころは天真爛漫で苦労していたな~でもね、一緒にお風呂入っている時にはみんなおとなしくてママその時は笑ったな~」


 「おばちゃん達は今どこにいるの?」


 「違う大陸や国に在住しているわよ~やり取りは手紙なんだけど、みんな電子機器の電話番号とか教えてくれないから聞きたいこととかこまめに聞けないのよ~」


 ゲームとかで理解されがちなのだが、この世界では携帯ゲーム機や、パソコン、スマホもある。唯一違うのはその他に魔法が挿入されているような感じだ。


 「アイシャちゃん身体洗おうか、一先ずお風呂から出て~ほらぁ~バシャバシャ~」


 ジェシカの手から温かい水球が出て来てシャワーのように降り注ぐ。


 「わぷっ」


 「は~い次に垢すりで泡立てるよ~もこもこ~」


 「ひゃっ!ママ、以外とテクニシャン…んっ!ああっ!」


 「うわ~アイシャちゃん色っぽくてお肌綺麗~すべすべだぁ~」


 「マ、ママも同じくらい…綺麗だよ、ぼくと変わらないくらい」


 そのようなやり取りをやっているうちに少しくらくらして来た、それを察したのか、ジェシカが上がるように促す。


 「のぼせちゃったかな~、じゃあ、上がろっか~髪も乾かそうね~」


 お風呂から上がった後優しく髪をドライヤーを念力で動かしたりテキパキと着替えを手伝ってくれる。


 「ママはこれから、王宮に行かなきゃならないから、行っちゃうけどご飯は作ってあるからチンして食べてね~」


 「いってらっしゃい、ママ」


 手をひらひらさせながらジェシカを見送る。


 「お風呂あがったんですね」


 後ろには階段を降りながらランクが降りてきた。


 「うん、ママも出かけた所」


 「さっきも言いましたけどお昼寝はしないように、それとまた気孔使って運動なんてしないでくださいよ、親方様は今執務室におられていますからその近くで暴れたりしないように」


 軽くうなづいて私室に戻る。


 「さて、やることなくなっちゃったな」


 当たり前だが外に出る事も出来なければ、街に行くことも出来ない、この国では人だかりが多いので貴族の移動方法は護衛をつけるかもしくは馬車の二通りだ、普通の自動車は人だかりで足止めを長く食らうのであまり好ましい移動手段ではない。


 「…普段なら、元の世界で生き帰ってこのゲームを改めてプレイしたいと思うだろうけど…」


 正直、お風呂で触られた感触が忘れられない、多分無意識的に疲労回復のツボを押されたのだろう、フワフワした感じが体を包んでいる。


 「そういえば、お茶会って他の三人も来るのか?」


 アイシャ以外の三人の攻略対象、メインヒロインの三人だ。

 千麟 美奈、レイラ・オーガスタ・キャロル、リラ・エンジェルス、もし、この三人がお茶会で話の輪に入るのだとしたら、積極的に関わりを持つことが大事だろう。


 将来では、当たり前に様に他の御曹司や王族に嫁ぐのが、令嬢として決められたルートだ、でも、そんなこと許さない、つまり、俺は主人公に攻略される立場、それなら、主人公と結ばれて、客観的あのかっこかわいさを見れる!


 出来れば、結婚しなくても、一緒に冒険者の二人組相棒的な存在となれるのが一番いいんだけど、かっこかわいさを兼ね備えた有名冒険者の二人…んん~最高!!


 攻略対象と関わりを持って三人を観察しつつ、押しのけ主人公と距離を近づける。


 「だけど、こっちから仕掛けていいのかな…?」


 攻略対象と言う立場である以上、どのヒロインと接触するかは主人公次第、最悪、一回も話すらかけてもらえず、結局親とか、上の立場の奴らによって無理矢理結婚させられるオチになってしまう。


 それだけは絶対に避けなくてはならない。そんなの平和もなければ自由もないただの人形と変わらない人生だ。


 「でも、正直焦るほどではないんだよな」


 主人公とヒロインが出会うのは中学校から大学までじっくりとヒロインの好感度を徐々に上げていく、どの時間にどの場所にヒロインがいるか、完全ランダムなので、ほぼ学園探索ではダッシュボタン押しっぱなしで目当てのヒロインを見つけても、あと少し間に合わず休み時間終わりや完全下校時間というのもある。


 「だからって、こっちから探すのも不自然だし、互いに見つけられる可能性も低いよなぁ」


 主人公もずっと同じ場所にいるとは限らない、学園の地図を持っていても結構迷う事が多いのだ、実際過去作では何回も迷った、それに今回はゲームではなくリアル、ノーマルモードではなくベリーハードモード並みに難しいだろう。


 「ヒロインだけでなく主人公にも合わせられる出来事とすれば…やっぱり、顔合わせの時かな」


 顔合わせイベント、偶然同じものを注文したり、曲がり角でぶつかったり、王道な出会いがイベントで確定している、体験版ではたしか、合同授業で同じチームになるというのが顔合わせイベントだった。


 「んーでも、一回あっただけで、グイグイ話しかけるのも違うよな」


 あー、ダメだ駄目だ、あーでもないし、こーでもない、そうでもないったらこうでもない、頭のキャパシティが超えそうだ。

 

 「やっぱり、主人公の動きが読めないのが、厳しいか、そうだよな、動かすのが俺じゃないんだからな…ん?ちょっと待てよ」


 動かすのが俺じゃないって、そうだ!もしかして、主人公は俺と同じ、転生者の可能性がある、もし、その事を共有出来たら、それで、関係性は保てる。


 「問題はどうやって、僕と合わせるか、だな、何か顔合わせイベントで何か、もう一回会えるような事を仕掛けるか、しかし、なにをどのように、尚且つ主人公だけが興味を示すような」


 しかし、主人公がプレイヤーつまり、転生者であっても見分けるのは難しい、主人公にはちゃんと声優が振り分けられているし、選択肢以外でも、主人公が喋る事はあるんだ、そこを考えると、すぐに主人公が転生者なのかは分からない。


 「…あーっ!こんなことなら、神社なんて行かずに100回ぐらい周回してから神社行くんだったよマジで!!」


 無駄に頭使っちゃったな、でも、前進あっただけでもいいか、問題点を洗い出したから、それを、何かに書き写して、いつでも書けるようにボールペンでも、自分用にママからもらおうかな。


 「あとは、お茶会がいつ開かれるか、ヒロインと友達関係を持つためにどうするか、中学になるまでに問題点の解決策を講じて置く、が、目標かな」


 さてと、考えていたらお腹すいちゃったな、お昼ご飯作ったって言ってたけど何だろう?


 食堂へ行ってみたら、テーブルの上に、アイシャちゃんの分と書かれている紙が置かれている。


 ストアドの世界の文字は日本語が主流だ元の世界だと多くの国が英語を使うがこの世界では日本語が多くの国で使われている。


 「わぁ…ビーフシチューだ、美味しそう…」


 「ちゃんとチンしてくださいね」


 いきなり後ろから声をかけられた。


 「うわぁっ!?」


 驚いて、お皿を落としそうになる。


 「ランク!!驚かさないでよ!ひっくり返しそうになったじゃない」


 「食堂へ行く姿が見えたので20秒くらい前にいましたよ」


 全然気づかなかった、この隠密スキル、明らかに面倒なことこの上ない、しかも、隠密している自覚がなさそうだ。


 成長したらオンオフ切り替える事が出来ていればいいが、見た目もう20歳超えていそうなんだよなぁ。


 これ以上に伸びしろがあればいいんだが、元王宮兵長だから、これがすでに頭打ちという可能性も十分にありえるから、どっちかというとスパイとして生きていた方があっているのかもしれない。


 それから、白米にビーフシチューをかけたり、途中で卵を入れて、味に変化を付けながら、食事を口に運んだ。


 「ふぅ、ごちそうさまでした」


 「こちら、片づけておきますね」


 考えてみると使用人がいるのって結構便利だなさっきお風呂に入った時も着替えを準備したのはママではなく執事の誰かだろう。


 まぁ、自分の好きな服を着れないのがちょっと不便だが、まぁ、そんなに贅沢は言ってられないか、しかし、なんで、ホットパンツなんだ?


 確かに、気孔や体術を使うのにスカートはちょっと…と思うがそれならジャージがいいだろうと思う。


 その晩、ママが帰って来るのを待っていたが、子供の身体には夜更かしなどできない事に気づいたのは翌日目が覚めた後だった

 

次回1月末予定

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ