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第七部 肆章 蛇の道は竜

 3月20日


 View レイラ


 「ん…ふわぁ…」


 朝、小鳥の囀りで目が覚める。寝ボケまぶたをこすりながら、洗面台で顔を洗い、歯磨きをしながら、昨日の出来事を思い出す。


 (そう言えば、今日もみんな来るのかな、いつ稽古をするかなんて、母さん言っていなかったし)


 タオルで顔を拭き、一階に降りるとすでにエイラがサンドイッチを食べていた。


 「お姉ちゃんおはよー」


 「おはよう、お母さんは?」


 訪ねるとエイラは机の上に置かれた紙を手渡す。それは置手紙だったようでそれには、数日間帰れません。と一言だけ書かれており、最後に射線が引かれているが、稽古はサボらないでと書かれていた。


 同時刻 冒険者ギルド正面ロビー


 View Change アリア


 ロビーには招集をかけて集まった冒険者達が集まっている。彼らの冒険者ランクはシルバーのBランクからゴールドのCランク、並みの冒険者よりとても強いと言えるだろう。


 拡声機の電気を入れて、マイクテストをして本題に入る。


 『全員注目!!!』


 冒険者達は途端に静まり返り、こちらに顔を向ける。


 『今日、この場に集まってもらったのは全員熟練の冒険者と言える猛者たちだ。既に知っている者もいると思うが、先日にとある冒険者の三人が怪我をした。

 けがを負わせたのはグレーターウルフ、普段は山脈地帯の中腹に生息するモンスターだが、そのグレーターウルフが麓だけでなく森林地帯まで生息域を広げているらしい。

 今回は緊急クエストとして君たちには、二つの同時クエストが課される。一つ目は「グレーターウルフの討伐」二つ目は「生息域拡大の謎の解明」の二つだ』


 クエストを聞いた冒険者の中からざわめきが聞こえる。グレーターウルフは体長が最大5メートルもある巨大な狼だ。しかし、シルバー帯の冒険者なら、3人で討伐できる。


 しかし、これは相手が一体だけの話だ。狼は群れを成しているのが当たり前だ。その為、群れの大きさで危険度が変わるモンスターは油断してかかると痛い目をみる。もちろんそのことに関しては全員承知の上だろう。


 「質問よろしいでしょうか」


 冒険者の1人が手を上げるとそれを見て、俺も、俺も、と手を挙げる。


 「落ち着いて、まだ場所も詳細も言っていないわ、まずは場所よ。タナトス山脈の森林そこは麓の休憩所の近くの場所よ。既にポイントマンに先行して、グレーターウルフを見張っているわ、まずはポイントマンの誰かと合流してから、討伐に取り掛かってほしい。

 次に謎の解明、これについてはいくつかの例が挙げられるその中でグレーターウルフよりも強力なモンスターがいた場合は、無理に戦おうとせずに、応援を呼びなさい。

 応援が来ても無理そうなら、私に言いなさい。今回の緊急クエストは司令塔として私が同行する事になってるわ。

 それと、これは出来ればの話だけど…グレーターウルフのリーダーがいたらそいつは生け捕りにしてほしいの」


 その一言で冒険者のざわめきが更に大きくなる。


 「理由については悪いけれど伏させてもらうわ。私からは以上、質問回答に移させてもらうわ」


 「では、いいですか?」


 「ええ、どうぞ」


 「ポイントマンの人数と、グレーターウルフの数は1グループ何体か分かりますか?」


 「ポイントマンは5人、グレーターウルフに関しては多くて6~7体、生け捕りのリーダーは常に単独行動していると考えられるけど、それは一際大きい個体だからすぐに分かると思うわ」


 その他の質問に対し把握している情報を共有して、クエストの準備を始める。


 (グレーターウルフは群れを幾つかに分けて獲物を分担して効率よく狩りをする狼型の中ではトップクラスの危険度を持っている。それが麓どころか森林地帯まで降りているなんてことがあるという事は、獲物の減少、個体の増殖による活動範囲拡大、そして、それよりもヤバいのから逃げてきた。

 それだけは考えたくもないけれど、ゴールド帯の人にもその可能性にたどり着いている人もいるだろう)


 その可能性は思っても質問しないのはいい判断だ。そのことを言ってしまったらこのクエストを降りる人が出てしまう。余計な心配せず安全にしかし、確実に任務を遂行する。それが重要なことだ。


 準備が整い次第、森林地帯に集合して簡易的なキャンプ地と医療部隊と討伐部隊に分かれて任務に取り掛かる。


 ポイントマンの連絡を待ちながら、キャンプ地の様子を見守る。万が一のためにキャンプ地の安全確保の部隊も残している。


 (…少し、合流が遅れているわね。合流前にグレーターウルフに遭遇した?いや、それなら同時にポイントマンと合流していないとおかしい)


 「少し、様子を見てくるわ。何か異変があったらすぐにコールボタンを押して呼びなさい」


 そう言い残して、森の中に足を踏み入れる。


 森に入ってから数分後、茂みに隠れている部隊を発見すると声を潜めて話しかける。


 「見つけた?」

 

 「はい、しかし、向こう側にポイントマンがいます。下手に動けばにおいで気づかれます」


 1人が指さした方向には、赤い布を頭に巻いた人間、ポイントマンの人間が待ての合図をしている。


 その間にはグレーターウルフの一部隊、恐らく索敵部隊だろう。気づかれたらすぐに遠吠えで仲間が集まってくる。


 「私が援護する。あなた達は奴らが集まった所を叩きなさい」


 近くの木を登り、オオカミが多くいる場所に可能な限り近づく。


 「オオッ、オオーンッ!」


 鳴き声を真似て他の部隊に聞こえない程度の声を上げる。今の声は集合と注意を促す合図だ。


 オオカミ達は、警戒しながらも、私の上げた鳴き声の付近に集まる。


 次の瞬間、オオカミの群れの中に赤い粉末が撒かれる。その事に気づくと私はすぐにその場を離脱して、冒険者が奇襲を仕掛ける。


 (猛獣用の激辛スプレーか…あれじゃ、眼と鼻は効かないわね。特に危なげもない感じだし、次に行きましょうか)


 その場を後にして、次の場所に向かおうとしたその時だった。


 「オオーーーーーーーーーーーン!!」


 森の奥、タナトス山脈の麓付近の方から大きな遠吠えが聞こえた。


 「この遠吠えは…っ!」


 「ギルドマスター!」


 「…他の部隊に伝達、森林地帯からの離脱はいかなる場合でも許可しない、身を潜め、討伐対象と遭遇しても決して手を出さない事」


 「了解しました、ギルドマスターは?」


 「…あの遠吠えが聞こえた方へ向かう」


 すぐに、その遠吠えが聞こえた方角へ向かう。後ろから制止の声が聞こえるが振り切り、木々のすき間を通り抜けて、山脈地帯へ向かう。


 (あの遠吠えは危険を伝える声、本来は、主力部隊の壊滅の危機、つまりオオカミのリーダーのみが、この遠吠えを上げる。それが麓から聞こえたという事は…)


 森林地帯を抜けると、麓の村の一番高所の家の上にグレーターウルフのリーダーであろう大狼が、遠吠えを上げ、空を見上げている。


 それにつられて空を見上げるとそこにいたのは、蒼い体色に一対の翼、蛇の瞳を持つ大きな竜。


 「ワイバーン…!」


 (最悪だっ…脅威度3のモンスター…ゴールド帯でも手こずる厄介なモンスター、しかもはぐれ個体なんて)


 ワイバーンはグレーターウルフと同じ、群れを持つ個体だが、ごく稀に各地の電波により、方角感覚が異常を起こして群れからはぐれる個体がいる。


 普段群れで活動するモンスターは集団の行動に合わせているため、その習性が脳内の大事な線になっている。


 しかし、一体だけ、はぐれてしまうとその線が切れてしまう。その為、普段肉食のワイバーンは木材や金属だろうと食い荒らし、生きるための欲をただ満たすだけの化物になってしまう。


 ワイバーンは翼を広げて羽ばたくと風が刃となって辺りの地形ごと切り裂く。


 「チッ、蛇どころか鬼が出てくるなんて…でも、クエストの一つは達成した」


 しかし、このまま帰るわけには行かない。このまま野放しはギルドの名折れ、ワイバーンはここで倒す。


 背負ったバックの中から大きなケースを取り出して中のものを取り出す。それは大きな弓矢だった。


 (万が一の事を考えるのはいつの世でも役に立つ、この「天弓」を使うほどにね)


 弓の弦を引き、矢を飛ばす。矢はワイバーンに吸い込まれるように一直線に飛んでいき、右目に命中する。


 一瞬にして片方の視力を失ったワイバーンは苦痛の声を上げながらも高度を下げず、こちらに狙いを定めたようだ。


 (流石に降りてはこないか)


 ワイバーンが脅威度3の理由は頭がいいからだ。翼を羽ばたいて風の刃を相手の頭を切り裂く。この頭を切る為には高所を取るのがとても効果的だ。

 人間なら、一発で致命傷になるし、人間以外も当たり所が悪ければ、即死もあり得る。


 はぐれワイバーンは自身の欲を満たすため暴食である。身体が通常の倍以上の大きさがあり、記録では上位種のドラゴンと同じ大きさがあるという例もある。


 このワイバーンはそれほどまではいかずとも、3倍の大きさはある。この麓の民家5.4個分の大きさだろう。


 「ま、反撃させるつもりないけれど、「アローレイン」」


 天に放った矢は分裂して無数の矢は一本たりとも外す事なく全てワイバーンに命中する。


 ワイバーンは噴水のように血を吹き出しながらも目を爛々と赤くして、アリアの方を睨む。


 しかし、その単眼が見たのはアリアの姿ではなく、金属に映った自身の最後の姿だった。


 「…「七星矢」」


 ワイバーンはそのまま落下して木々をなぎ倒しながら地に落ちてピクリとも動かなくなった。


 「さて、素材をはぎ取る前に、この村の人々の安否とクエストの続行かな」


 その後、幸いにもその村の住民達は避難済みでキャンプ地の班に無事保護されたという。


 グレーターウルフも冒険者によって討伐されて、無事リーダーも生け捕りに成功した。クエストのの報酬はギルドに帰ってからという事と今回のクエストの原因なども解明できたという事で、その報告書作成でも骨が折れそうな作業だ。


 報告書を書いている時ロビーの方から、冒険者の笑い声や、飲んだくれの騒ぎが聞こえる。作業の邪魔だが、緊急クエストの報酬に免じて、今回は目をつむってやろう。


 それよりも、この後の処理が面倒だ。


 報告書を書き終わると、ある所へ電話をかける。


 「やぁ、こんにちは…えぇ、無事に終わったわ。ちゃんとグレーターウルフのリーダーも捕まえたし…でも急なお願いだから、びっくりしちゃった…うん、是非報酬の上乗せはお願いね。「姫様」」


 View Change リラ


 「はい、お父様にお伝えしておきますわ」


 『でも、どうして生け捕りに?国からの対応は討伐、それをいきなり電話でリーダーを生け捕りなんて…』


 「そうですね…今回は原因ははぐれワイバーンが住処を襲ったためだったと言ってましたよね。それの詳細をリエラなら、分かると思って…」


 『なるほど…確かに、フェンリルはオオカミの中の神、「神獣」ならどんな獣でも手足のようなもの、ワイバーンの存在を聞き出せた、と…』


 「その通りです。でも、もしかしたら他にも理由があるかもしれません。拘束したその子を、今日の夜、人気も無くなる夜中3時に使いを送るので、お渡しください」


 『…』


 「どうしましたか?」


 『いえ、まさかとは思いますが、あなたはこの事を知っていたのではと思いまして…』


 「まさか、考え過ぎですよ、では私はこれで」


 電話を切って、ふぅ、とため息をついてベッドに横たわる。


 「あーゆーのは慣れていないんだよ「俺」も「私」もー」


 稽古しようかとお父様に庭の使用許可をもらいに行ったらグレーターウルフの事が聞こえて、リエラのお友達になってくれるんじゃないかって思って聞いてみたら、一番強い子がいいーってワガママを言うんだもん。


 結局、今日は少ししか稽古できなかったし、まぁ、いいや、取りあえず後は時間がたつのを待って…


 「リラちゃん、いいかしら?」


 突然、扉が開いた事に肩をびくりと震わせて、振り返るとお母様がいた。前の一件でシーラさんの事を喋らないように気を付けることが多く、口数が思わず少なくなってしまった。


 「お母様?どうしたの?」


 「実はね。陛下がね、一つお仕事を任せたいってね。リラをご指名なんだよ」


 「仕事?執務みたいなものかな」


 「んー、どちらかと言うとある提案書の意見が聞きたいって、取りあえず、王の間に行こう」


 王の間


 「んー、うむむ…」


 「陛下、流石に考え過ぎでは…」


 「仕方あるまい、このような難題、今までなかったのだぞ…!」


 「連れてきましたよ」


 「おおっ!ヴィーラ、リラもよく来てくれた」


 リヒト陛下は、一枚の紙を見ながら眉をひそめながらも、歓迎してくれる。


 「早速本題に入らせてもらえる?陛下」


 「あぁ、このような物、リラに任せるようなものではないのだが」


 そう言って手渡してもらった紙にはこう書いてあった。「獣人族入国管理について」


 「獣人?」


 獣人はその名の通り動物の耳や尻尾、蝙蝠の羽根や下半身が馬のようなもの、様々な動物の体や特徴を持った人型の種族を総じて獣人と呼んでいる。


 「今まで、ずっと保留にしていたのだが、そろそろ決断しないとならなくてな…」


 「何で、今まで保留に?入国許可なんて承認か否か決めるだけでしょう?」


 そう聞くと陛下は露骨に眼を逸らす。


 「それはだな…ゴホンッ…ウォッホン」


 咳払いをしつつ、話そうとしているが、その度に咳払いをして喋りずらいのが見て取れる。


 「陛下はね、猫アレルギーなの」


 「あっ、お、おいっ!」


 「えっ、それだけ?」


 「獣人の入国はね、獣人の国から使者が直接、国の王に許可をもらうんだけど、この国に来たのが豹人族でね。せっかく遠路はるばるから来たのにアレルギーだからって追い返すのはって言って見栄を張ったせいで、今もその使者さんはこの国で待ってもらっているの」


 「…それで、私に判断をって?そこでどうして私が?」


 「あ、あぁ、獣人は他国でしばらく前まではデマがあったのは知っているか?」


 「確か、凶暴で残忍な性格だっけ?」


 「そうだ。そのような噂はデマだと分かった後、色んな国で獣人を受け入れる運動などが行われたのだが、アレルギー問題が上がってきてな、子供はアレルギーの耐性が高いという事で、お前に頼みたいのだ」


 「うん、まだ理由について意味不明な所があるけれど、普通に承認すればいいと思うよ。アレルギー問題についてはさ、開発部の薬学部に症状を抑える薬とか作ってもらえれば?それまでは待ってもらってさ」


 「し、しかしいくら陛下だからと言って私情で待たせるわけには…」


 「猫アレルギーどころかさこの国には普通に犬アレルギーとか持っているひともいるでしょう?自分が猫アレルギーとかは伏せててもいいから、国民のアレルギー対策ができるまで答えを出すのを待ってほしいって言ったら?

 王は国民の事を思って行動するっていうのは相手も承知の上だと思うし、この返答は言い方を変えれば「アレルギー対策できれば承認します」ってならない?」


 「な、なるほど…よし!それで行こう!今すぐ使者殿の部屋にメールを送る!」


 「…お母様、お父様って、もしかして、どこか抜けてる?」


 「お茶目で可愛いからいいんじゃない」


 陛下の意外な一面を見てなんだか複雑な気分になった。

次回4月末予定

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