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第七部 一章 ささやかな音沙汰

 3月19日


 View レイラ

 「はぁ、最近全く気が休める時がなかったな…」


 一週間前、他の攻略対象の女の子と一緒に遊んで帰ってくるなり、エイラに抱きつかれて、寝る時もご飯の時も素振りの時もずっとべったりついてきて、それから一週間付きまとわれてやっと解放された今日この頃、そう言えば昨日は純平と稽古したせいで、美奈達の誘いを断ったんだっけ、申し訳ないとは思うけど、またエイラにべったりされるのは嫌だしなぁ、いや、エイラは可愛いし声も綺麗だし、甘えん坊な所も憎めないけど、無下に扱えないから困るんだよなぁ…


 そう、心の中で愚痴っていると玄関の外からピンポーンとインターホンの音が聞こえる。エイラはまだ寝ていたはず、ここは自分が出るしかない。


 「はーい」


 玄関に向かい声を出して小走りで玄関に向かう。


 「どちらさまで…」


 「やぁ、早速だけど上がらせてもらうね」


 なぜか知らないが、アイシャさんとリラ姫を先頭に後ろに美奈さんが立っていた。


 「早速なんですが上がらないでほしいですねっ!!」


 勢い良く扉を閉めようとするが一瞬早くアイシャさんが足を挟み扉を閉められないようにする。


 「いやいやいや、まあまあまあ、取りあえず話だけでも…ね?」


 「上がらせてと言いながら話だけでもってどっちなんですか」


 それに、直感でどちらにせよ嫌な予感しかしないから、早く帰ってほしい。いきなり来られてもお茶漬けを出す(意味:帰れ)くらいしかできないからさぁ!


 「話し、だけ、話だけですからどうか落ち着いてください」


 「…それじゃあいいですけど、みんなの行動は落ち着いている行動とは思えな…」


 「ここで話すのもなんだし上がらせてもらうね!」


 扉を抑える力を緩めた瞬間、アイシャさんが滑り込むように入って来て後続に続くように姫様も美奈さんも遠慮を知らないようにずかずかと上がり込んでくる。


 「……」


 子供にイラッとしたのは何十年ぶりだろう。


 「それで、どうしてここに?昨日遊んだと聞いていたと思うんですが、もしかして、またお泊り会を?」


 「いやぁ、前も言った、というかメールで書いた通り、従者にすごい心配されていたみたいで、これからは一日でちゃんと帰るか、もしくは次からは従者もつれてお泊まりするようにしたんだその話をした時の話なんだけど…」


 3月18日


 「ねえ、レイラさんの家ってどこら辺にあるのかしら?」


 「レイラってギルド関係者の人たちの子だろ?やっぱり、ギルドに近いんじゃね?」


 「それなら前のお茶会の時住所が書かれた紙がありますよ」


 「それじゃあ、明日サプライズとして行かないかしら」


 「おう!もしかして、勲章がいっぱい飾られている部屋とかあったりして!」


 「わぁ、それ、素敵ですね。勲章…はぁ~、何だか憧れちゃいます~」


 「あはは、リラすっごい顔をしている」


 現在


 「…というわけで」


 「来るなら来るで連絡の一つでもよこしてくださいよ」


 「先程言った通りサプライズなので…」


 「でも、ギルマスには話し通しておいたぜ、サプライズだから、レイラには黙っておいてって」


 「なんで…許可しちゃったのかな…」


 まぁ、貴族からお願いされたら断りずらいよねぇ、そりゃあもう…階級社会め…


 頭を抱えていると、階段の方から足音が聞こえてくると程なくしてリビングの扉が開いた。


 「お姉ちゃん、おはぁよぉ…ん、おきゃくさん…?」


 そこには、たった今起きたばかりと言わんばかりのパジャマ姿のエイラが歯ブラシセット片手に降りてきた。


 「こんにちは~、お邪魔しております、千麟美奈です」


 「アイシャ・ハーン、アイシャと呼んでくれ」


 「リラ・エンジェルスです。初めまして」


 三人の名前を聞いても、寝ぼけた様子で台所で顔を洗った後、向き直る。


 「エイラ・オーガスタ・キャロルです。よろしくお願いします」


 「っ…」


 正直、少し意外だった、おねぇちゃん子のエイラはこういう時お姉ちゃんとの時間をよくも奪ってくれたなーって怒るかと思ったんだけど、ちゃんと礼儀正しく挨拶できている。


 挨拶をするとエイラは台所の蛇口を捻り、歯磨きをし始めた。普段は二階の洗面台を使うんだが、思えばそれは、私と同じ時だったかな、あまり衛生的に良いとは言えないかもしれない。


 「そう言えば、今日私のペットをレイラさんにも見ていただきたくて来たんですよ!」


 ぽんと手を合わせて、リラは柔らかな笑みを浮かべて話すと、懐から何かを取り出すとそこから時空の裂け目が出て来て、そこに声をかける。


 「リエラー出ておいでー」


 そう言うと、裂け目から、小さな犬が出てきた、毛並みが取っても綺麗で、ぬいぐるみのような愛らしさがあった。


 「あっ、わわわ、わん…ワンちゃん…」


 「フフフッ、レイラさん嬉しそう」


 そっと犬と向き合うそして刺激しないようにゆっくりと近づく。


 「チッ、チチチッ、おいで、おいでー、チチチッ」


 ワンちゃんは少し、動揺した様子だったが舌を鳴らしていると、テテテと近づいて身体を触らせてくれた。


 「ふあっ!もふもふがっ!もふもふが今までのワンちゃんとは大違い!」


 「そりゃあ、フェンリルだからねぇ、そんじょそこらの動物とか目じゃないよ」


 「それにしても、やはりレイラさんは好かれやすいですね。私以外にリエラがこんなに懐くなんて」


 そう言うと美奈の肩からカレンがひょっこり顔を出して白い眼をして呟く。


 「危うく食べかけられましたけど、私」


 「あぁ、あの時は私も焦りましたよ、胃の中で生き地獄が繰り返されちゃうって…」


 「はぁ~かわゆい、あっ、お腹だしてる時も可愛い、にゃあに?ここを撫でてほしいのかにゃ?よしよし」


 その時、玄関からカチャリと小気味いい音と共に「ただいまー」と声がした。


 「あれ、あぁ、お友達が来ているのね。いらっしゃい」


 「お邪魔しています」


 声の主はアリアだった。リビングに顔を出してその後すぐに台所に向かって、冷蔵庫から人数分(レイラの分含む)のコップにいくつかの飲み物のペットボトルを取り出してお盆に載せてテーブルに置く。


 「ゆっくりしていってね。レイラにお友達が出来た事なんて初めてだから、歓迎するわ」


 「これはどうもご丁寧に、お父様からよろしくと言っておりました」


 「いいのよ、あなたのお父さん、陛下には良くしてもらっているから、こちらこそって伝えてちょうだい」


 「分かりました」


 「あっあの!」


 「こんにちは、確かあなたはアイシャちゃんだったかしら?」


 「はっはい!お…ぼっ僕はフィリアンス・エリシア・ラヴリーヌ・リフィリット・フルート・メロン・イストーリア・レッドヘリオ・アイシャ・ハーンと申します。わ、わたくしあなたの大ファンで冒険録を見た時から憧れてまして、どうか、さ、サインとか握手をしてもらえないでしょうか!?」


 そう言ってサインを求めるアイシャの顔はスポーツ選手や大先生に会った時のように目をキラキラと輝かせていた。


 「それくらいなら構わないわよ、えっと色紙どこに置いたかしら…もうこの空の薬莢でいっか」


 何故だマザーなぜ色紙がなくて薬莢があるんだマザーよ。


 「わぁ、ありがとうございます!」


 そしてなぜ、薬莢を貰って感謝しているんだ。世界中探しても薬莢貰ってありがとうっていう人何て世界初だよアイシャちゃん。


 「そうね、サインや握手だけじゃ、物足りないかしら、どうだいせっかくだから私の部屋に来てみない?もちろんレイラもエイラと一緒に」


 「えっ、いいの?」


 今までアリアの部屋に入るのは娘である自分たちでも本人からダメと言われ続けていた。それを今まで言うことを聞き続けてきたが…

 

 「本当は来年ぐらいにしておきたかったけど、それが前倒しになっただけだから問題ないわ」


 「という事は、何ですか?アリアさんはレイラ達に遅かれ早かれ部屋に入れるつもりだったと」


 「まあ、正確には私の部屋の奥ね。二人共目ざといから、私の部屋を何時でも立ち入り可能にしてしまうと教育に悪いかもしれないから、部屋に入ること自体禁止にしていたの

 そこまでして隠したいものは、それは後で、まずは思い出の品である勲章でも見ましょうか」


 そう言うとアリアは部屋に入るとベッドの下にある小さな木箱をいくつか取り出して、蓋を開けながら、皆に見えるように箱を囲む形で中身を取り出す。


 「これは、初めてゴブリンキングを倒した時の勲章、私が生まれて初めて貰った勲章よ。でも、これよりも村を上げて感謝の宴で盛り上がった方が嬉しかったわ、思えばこれがソロで取った最初で最後の勲章ね。それでこれが―」


 そう言って、勲章をそれぞれ見せてその時の思い出を語るアリアの顔は爽やかな笑顔で懐かしむ昔のことが何よりも充実した日々だったことが見て取れる。


 その時、ピタリと手が止まった。アリアの手には一つの勲章、それを手にした瞬間アリアの表情が一瞬にして凍りつく。


 「…これは、無限回廊を制覇した時に貰ったやつよ」


 それだけ言うと、すぐにその勲章を木箱に戻して、ベッドの下一番奥の所にしまった。アリアの顔を見るに絶対に掘り返したくない過去があるのだろう。先程まで見せていた表情は欠片もなく、悔しそうな、諦めきれないとも取れる顔で、眼を逸らした。


 「さて、次はようやく、奥の部屋のお披露目ね」


 話題を変えたと同時にアリアは近くの床をペタペタと触ると、一か所で手を止める。どうやらそこは色だけ一緒にした金属の扉なのだろう、光の反射が明らかに違う。

 そこはそれ程深くないだろう階段があって、そこに足を踏み入れる、自分達は後を追うように、薄暗い階段を降りる。


 一見すると下水道などの構造を思わせるが、水の音やジメジメした感じがしなく、コンクリートで囲まれた打ちっぱなしの壁が一面にあった。

 次の瞬間ぼんやりとした灯りを飲み込むように強烈な光が眼を刺激する。


 「あぁ、ゴメンゴメン一言声をかけるべきだったわね」


 いきなりの光に目をチカチカさせている時にアリアの少しわざとらしそうな声が聞こえる。少ししたら目が慣れて一面の光景にビックリした。


 壁に飾られているのは様々な武器、それも一つや二つではなく少なくとも30種類は超えているだろう見渡す限り、錆やくすんでいるなどの様子は一切見られず、新品とも間違えられるような手入れが行き届いている武器ばっかりだ。


 「…なるほどね。確かにこれは一般家庭に置いていいものじゃあないな」


 正直言ってギルドマスターでもあり、元冒険者であるのに武器が殆ど無いのはおかしいと思った。だが、それらの武器は普通じゃない。


 「左上からアンカーボルト、スケルトンファイバー、罪祓刀、等々、古今東西でも希少な武器が揃っているの」


 それぞれが、そこそこの攻撃力やバフ効果がついている物ばかり、ゲーマーとしてはそれ程珍しいものでもないが、序盤の武器としてはかなり、強い部類にもなるだろう。


 「何で入っちゃいけないのかは理解できたけれど、何で今こんな物を見せたの?今から戦争でも始めるつもりでもないでしょう…」


 「もちろん、そんな戦争なんて始めようとすること自体、独裁者が支配する行為だからね」


 ぴらりとそれぞれの目の前に一枚の紙が配られる。その紙に書かれていたのは「ジュニア部門バトルアリーナトーナメント」と書かれた紙だった。


 「ある都市で行なわれた行事らしいんだけどね。それが大盛況して成人だけでなく子供専用や障害者ように、対人ではなく記録を競う競技で、それに乗っかろうって話でこういうのが出来たんだよね」


 「ええっと、参加費用なし、チーム戦、個人戦の二部門に分かれており、優勝賞金1000万…一千万円!?」


 「そう、魅力的でしょう?そろそろ君たちも自分だけが使えるお小遣いも「多く」必要でしょうと思ってね」


 「…でも、一千万がもらえるのは個人戦ですね。チーム戦なら500万それでも参加費用もなしなのは中々…しかしなぜ、それだけの理由でこんなに強力な武器を見せるんですか?大怪我することもある、それにこんなに強そうな武器、扱うのも時間がかかるはず…」


 「あぁ、違う違う使うのはあっち側が用意するビギナークラスの竹などが使われた武器君たちはさ、学園に通う事になったらさ少なからず、戦闘科、もしくは研究科に分かれるでしょう、特待生学科に入るならどっちも受けることになるけど…まあ、今その話しは置いといて、この大会に出場して、戦闘の基礎を学習してみないかって言うのが本音」


 「はぁ…それと実物の件とどんな関係が?」


 「ビギナーのやつでも重量は君たちにとってはなかなかの重量だ、この前レイラから君たちの話を聞いてね、この中から幾つか君たちに会う武器を探して、この大会で使う武器の演習をしたいと思うんだ」

 (本当はこの子達が優勝したら、ギルドの宣伝にもなるし、目を付けた理事長がこの子達を特待生勧誘してくれるかもしれないから多少脚色してでもみんなに出てほしいんだよね。進路にも影響が出るかもだし)


 「まぁ、この中から一番気に入ったらそれをくれてやってもいい、私からのささやかな、フライング入学祝い品といったものだ」


 ニコニコ笑顔でそういうアリア顔は善意100%の顔で明らかに断ろうものなら、無理矢理にでも回り込もうという算段が感じられる。


 「いいんじゃないか?俺はアリアさんの案に乗るぜ」


 「じゃあ、私も乗ろうっと、魔法はもちろんありだし、闘争本能の囁きってやつ?」


 「はぁ、お二人がやるっていうのなら私も参加するしかないじゃない」


 「みんな乗り気だなぁ、ならレイラも手を貸そうじゃない」


 「それでこそ、レイラの大親友、じゃあ、それぞれ武器を選びましょうか、この日のためにそれぞれピックアップしたものがあるの、まずはレイラから来て」


 レイラの前に出された武器は多種多様な武器、そのどれもがシンプルだがその輝きは目がくらみそうな光を放っている。そしてその中から一番に手にしたものは…


 「良いチョイスね。「アラクニド」刀身を広げるとまるで蜘蛛の巣のように見えることからその名がついた刀、他にも槍とかあるけど、いつかその武器の稽古もつけてあげるわね」


 その次に指名されたのはアイシャ、その前に並べられたものは


 「これらは全部格闘武具、右手専用だけど…っとその解説は後にして、どう?試着もしていいから馴染むのを選んでね」


 「そう言われましても…こんなにたくさんの中から一つなんて…おや?」


 「おっ、気づいた?「ブレイブナックル」元々は拳に火薬を仕込んで殴ると反応を起こして内部からの破裂でダメージを与える暗器を改造、改良を重ねた万能暗器、魔法を使えない人も対抗属性を使えるため、気孔を使えるアイシャちゃんにならピッタリかもしれないわね」


 そして、残るは二人。


 「うーん、美奈ちゃんはやっぱり、杖が合うのは明白なんだけど…問題はあなたなのよねぇ、リラちゃん」


 「というと…」


 「レイラからの話だと亜種魔法が使えるというだけで、それだけで武器の特定が難しいの、オーダーメイドの武器もあるけれど、そもそも、武器は人にとって色々ある。それも進化してね。棒切れから竹刀、竹刀から木刀、刀、ポン刀、太刀、大剣、でも、今あなたについては情報があまりないのよ、だとするとこの部屋全ての中から虱潰しで決めてもらうわ、時間はかかるけど、でもね。…美奈ちゃん使うのは決まった?」


 「あっはい、この名前は…?」


 「…「五日印」その名の通り五日に渡り力を蓄えられてその力は雲の形も変えられる逸話があるほどの杖…みんなこんなに早く自分に合う武器を当てた、もしかしたら、何か引き合わせる何かがあるのかも、もしかしたらあなたにもそういうのがあるんじゃない?」


 リラはゆっくりと歩み、そして、手に取ったのは…

 

 「ふっ、やっぱり、それを取ったか…「ケルヌンノス」神の名を冠した武器、チャクラム又は戦輪とも呼ぶわね。どんな魔法にも適応してどんな魔法を纏わせも出来るまさに神の力の一部を宿した一品…決まったわね」

次回三月中旬予定

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