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第六部 二章 街の表層

 View 美奈


 「はぁ、はぁ、ひどい目に合いました…痛かったよぉ、マスター」


 「アハハ…少し服と髪が乱れちゃったね、精霊ちゃん」


 「なぁ、美奈ちゃん、さっきから精霊ちゃん精霊ちゃんって言っているけど、その子に名前とか付けないのか?」


 「えっ?名前?」


 「そうですね。レイラもそう思いますよ、せっかく契約を結んだんですから、名前を付けた方が愛着が湧くんじゃないんですか」


 「名前、名前かぁ…」


 火の精霊っていう事は分かるからそこから連想したほうがいいよな、魔法名と被らないように火、炎…烈火、烈火烈火烈火れっかれっかれんかれんかれんカレンカレン……


 「うん、決めた。カレン、カレンにする」


 その名前を聞くと精霊、カレンは、ぱぁ、と明るい笑みを浮かべてその名前を何回も言いながら、飛び回る。


 「カレン、カレン、私の名前はカレン!とっても気に入りました、マスター!」


 「では、名前も決まったことですし、そろそろ、アイシャさんの行きたいところに行きますか」


 「お?もういいのか」


 アイシャちゃんはちらりとポケットにある懐中時計を取り出して、少し早いけど、と呟いた後きた道を戻るように促す。


 「ふと、思ったんだけど精霊はさ、自分の姿を見れないようにすることは出来ないのか?」


 「出来ますよ、先程やったように、同化の他にも契約者以外には見えないようにも出来ます」


 「もはや、何でもありですね。精霊…レイラも精霊と契約できないかな」


 「大丈夫ですよ、レイラさんにも他にはない魅力がありますよ」


 ViewChange アイシャ


 (みんな、もう無二の親友って感じだな、最初は話すこともままならないレイラちゃんだって、もう普通に話しているし一日かかったけどやっと心を開いてくれたな)


 そこで、またちらりと、懐中時計に目を落とす。


 (意外と時間はかかっているけれど、まだ、腹はすいていないよな、営業開始時間から10分くらいに到着しそうだな、何かもう少し時間を潰せるような場所は…)


 そう考えていると広い公園の中央に人だかりが出来ている。その中央には黒いスーツに赤いネクタイ、シルクハットを被ったおそらく手品師であろう人が今まさにショータイムと言わんばかりに、観客にお辞儀をする。


 「あれって手品ですか?」


 「面白そう、ねぇねぇ、アイシャちゃん、少し見に行かない?」


 「レイラも少し気になる」


 「あ、うん、別にすぐってわけでもないし、いいよ」


 四人ではぐれないように手をしっかりと握りながら人ごみをかき分けながら最前列に陣取ることができた。


 手品師は、白い箱からハンカチを取り出して、手を慣らすとハンカチが二枚に増えて一瞬でハンカチが鳩に変わる。


 観客は驚きながらも拍手をして、口笛を鳴らす人もいる。


 「ふわぁ…」


 レイラはキラキラと目を輝かせて手品を見ている。


 それに気付いた手品師はレイラを手招きしてそれに惹かれてレイラは手品師に近づくと手品師はレイラの手の上にハンカチを置いてバサリとハンカチを引くとレイラの手には鳩が二羽乗っていた。


 「はわ、はわわ~、は、ハトが、レイラの手からハトがっ!」


 驚いたレイラの顔を見て笑顔を浮かべる手品師、鳩出し、マジックの他にも他の子供にも協力してもらって、トランプマジック、やコインすり抜けなどありふれたマジックを一通りして周りは自分達がいたころよりも人でごった返していた。


 懐中時計を見るとそのマジックは一時間も続けてやっていたらしい。手品師は最後にシルクハットを外しお辞儀をして、道具を片付ける。その間も観客は手品師が去るまで拍手を送るのをやめなかった。


 手品師が去った後、観客たちは少しずつ公園から出て行ってそれに乗っかって公園をでる。


 「いやー、意外と楽しめたな」


 「そうだね。すっかり時間を忘れちゃった。もうお昼時だし、お腹すいてきたかも」


 「うん、レイラも」


 「ごめんなさい、アイシャさん、まずはどこかで昼食でも食べません?」


 「まぁ、連れて行こうとした場所が行きつけ、というか、よく出前を頼む店だから、ちょうどよかったよ」


 「そうなんですか?じゃあ、昨日みたいに顔覚えられていたり?」


 「さぁ、そこまでは分からんでも、僕みたいな喋り方が印象に残っていたりするかもな」


 そう言っているうちにお目当ての店についた。看板には家系ラーメン誠三郎と大きく書かれていた。


 開店したばかりだが、丁度奥に四人用のテーブルが空いていて、全員で食券を買い、店員に渡す。


 「量や麵の硬さどうしましょう」


 「ヤサイマシマシニンニクカラメダイブタヤサイニンニクアブラアブラ」


 「へっ?」


 「ヤサイマシマシニンニクカラメダイブタヤサイニンニクアブラアブラ」


 「は、はい…えーっと、他のお客様は」


 「全員並で」


 「か、かしこまりましたー…」


 注文をした後、店内の客人の視線が一気に集まる。それもそうだ、今言った呪文はお好みの量で特盛を超える特盛、これ以上の盛りはあるのかと思うぐらいのドデカ盛り、しかしそれでも値段は普通のラーメンと同じ超赤字覚悟のチャレンジメニューだ。


 「でも、みんなはハーフラーメンでよかったの?」


 「お腹がすいていたとはいえ、流石にあの器を食べきる自信は…」


 「レイラもレイラも…でも、さっきのアイシャの注文は」


 「……(カタカタ)」


 それからしばらくして注文通りのラーメンがテーブルに運ばれる。


 「お待たせしました。こちらがハーフラーメンお好み無しと…野菜増しましニンニク辛め大豚野菜ニンニク油あぶらです」


 「はぁ~コレコレ、この大ボリュームだよ、いっただっきまーす!」


 一気に野菜が球体になっているもはやラーメンに見えない何かに箸を進め、掻っ込む、煮込み加減から野菜のシャキシャキ感が残りつつも味付けがしっかりしており、更に食欲がそそり、無限にたべられるような気さえする。


 その、光景をよそに他の三人は自分のラーメンに手を付けながら極力こっち(のラーメン)を見ないように箸を掴んでいない手で視界をブロックしている。


 ~一時間後~


 「ごちそうさまでした」


 『うっそぉっ!!??』


 店内に驚きと戸惑いの声がいたるところから聞こえてくる。


 「おい、嘘だろ…」


 「ゆ、夢か…?スープすら一滴も残ってねぇぞ…」


 「あの少女ナニモンだ…あんな量、あの子の半分以上の重さじゃねぇのか?」


 「しかも、腹が膨れているような様子もねぇ…」


 そのような、会話をよそに無言で店内から出ようとする三人を店員にお礼を言いながら退店する。


 「ごちそうさまでしたー」


 「あ、ありがとうございましたー…」


 「いやー、やっぱり、お昼でもラーメンは美味しかったな、今日の夕飯は米で決まりだな。牛丼、生姜焼き、いや、お肉たっぷりのカレーライスもいいかもしれないな、ライスはターメリックライスでバターたっぷりとなっているような…」


 「…アイシャ、悪いんだけど今その幻想は心の中にとどめて…ハーフサイズでさえ十分だった私たちにそれ以上の食事の話は…うぷっ」


 「ますたぁー、かれん、頭ががんがんしゅる~」


 「一口でいいって言ったのに、無理して対抗心燃やして一本全部食べなくても…身体小さいんだから」


 「というか、早く姿隠さないとまずいんじゃね?だれかに見られないうちに早く」


 「うぅ~、お腹痛い。お願い、一回別邸に帰らせて、休憩させて、出来れば一時間くらい仰向けにさせて…」


 「ハーフラーメン食べただけでそうなるのかなぁ、まぁ、お腹いっぱいになると眠くなるのは分かるけどね。少し僕も昼寝を挟むかな、じゃあ、いったん戻ろうか…ん?」


 「お嬢ちゃんたち、随分気分悪そうだねぇ?」


 「おじさん達誰?」


 「おじさん達はね?君たちのようなかわいい子たちを助ける正義の味方なんだよ?」


 そう言うおじさんは身なりも随分悪くザ・犯罪者という風貌だった。しかも話しかけてきた場所が裏路地のすぐ近く、恐らくすぐに攫うつもりなのだろう。


 「……ぁ」


 「ん?どうしたの、お嬢ちゃん」


 「めんどくさいなぁって言ったんだよ…」


 そう言うと一息でおじさん集団の真後ろに回り込み一番後ろのやつの頭を蹴り、その衝撃で路地裏の道に数回バウンドした後ピクピクと痙攣して起き上がる様子は無くなった。


 まだ自分達の仲間がやられたことに気付かず自分の姿がまるで一瞬にして消えた事に気付かないおじさん達は辺りを見渡そうとする。


 その隙を逃さずその場で跳躍して、二人目の奴の脳天にかかと落としを食らわせる。そのままそいつを振り回し、2~3人巻き込んで同じ路地裏に投げ捨てる。


 ようやく自分の存在に気付いたおじさん達は恐ろしい速さで仲間を倒されたことによって完全に怯えている。


 「あっ、ちなみに降参は認めませーん」


 残り二人のおじさんは何かを喋ろうとしているがその時すでに、顎に膝が直撃しており、もう一人は逃げの体制に入っていたが、近くの小石を投擲すると、サマーソルトキックをしたかのように半回転して頭をぶつけて気絶した。


 「状況終了、後は目撃者に任せましょう。その方があなたも都合がいいでしょう。そこの黒服さん」


 そう言うと人ごみの中から、軽い拍手と同時に一人の黒服の人物が歩いてくる。


 「いやぁ、いいものを見せてもらっただけでもありがたいのに、後片付けまで任せてもらえるなんて、この大陸にも神童がいるものなんですね」


 「いえいえ、そちらの手を煩わせてもらうものではないので、少し無茶をさせてもらったまで、ところでこの大陸って言ったけどもしかしてあなたは…」


 「ええ、この国出身ではありません。うちの国で人攫いなどをしているならず者がこの国に逃げ込んだという情報を掴んだのでその派遣として使わされたのが私、という感じですがね。重要事項に繋がるのでこれ以上は言いませんし、詮索しない方が吉と言っておきますよ」


 「それは、こっちとしても好都合、僕の連れがもうグロッキーになりつつあるし、そろそろ、お昼寝時だしね。それじゃあね。名も知らぬ黒服さん」


 「ええ、道中お気をつけて、レディ」


 しばらくしてから、別邸に戻り、お腹を膨らませた三人をベットに仰向けで寝かせた後、廊下を歩いて休憩スペースに自動販売機があったのでそこで、ゆったりと過ごすことにした。


 炭酸飲料を飲みながら、気の抜けた声を出しながら、椅子に身体を預けてリラックスする。


 「おかえりなさいませ、アイシャ様」


 背後からエリックさんの声が聞こえたので、そのまま振ら帰らずに答える。


 「その声はエリックさんですか?すいません。少し疲れたので、首を動かすのも少々面倒で」


 そう言うとエリックさんは対面の椅子に座って話始める。


 「まずは感謝を申し上げます。姫様の面倒を見てくださりありがとうございます」


 「それはどういたしまして、と言いたいところだけど、あなたから言われた姫様に対する心配はないと思うんだけどね」


 「そうですね。あなた方のやり取りを一部始終を見させてもらった事を見るに杞憂だったようです」


 「そうでしょう?でも、僕からしてみたらリラよりも美奈とレイラの方が心配なんだけどね」


 「…それに関しては私が話すことはありません。個人的に関わる事ではないですし、必要以上に他家の事情に首を突っ込むと思わぬ所で被害を受けかねないので」


 「それは、家の立場的に?それとも、王族の従者の一人として?」


 「…両方です」


 「そう、ともかく、今日はいい日だったよ。来年はようやく、学校に通うことになる。一応その下見をしたいんだけど、その事にみんなが承諾したらよろしくね」


 「善処致します。さて、休憩中のところ申し訳ございませんでした。わたしはそろそろ、車の整備をしなくてはならないので、失礼します」


 そう言うとスタスタと出口に向かうエリックさんを見届けながら、再度、手に持った飲料を飲み干して、空き缶をゴミ箱に捨てる。


 「…はぁ~、緊張した~俺ってあんな空気ぜんっぜん慣れていないのに、今になって恥ずかしいわー、めっちゃ恥ずかしいわー、後悔先に立たずとは本当に作った人は天才だと思うな、世界で一番使われる言葉じゃないか?」


 「アイシャさん、アイシャさーん?どこですかー?あっ、いたいた」


 「おや、今日はよく話しかけられる日だ、どうしたの、カレン」


 「マスターの寝返りで髪を引っ張られて起きてみたら、アイシャさんがいないんですもん、一緒に寝るって言ってたのに…」


 「なんか、寝付けなくてね。朝、随分寝たからかな、っと、でもいいのかい?精霊は主人と常に一緒かと思うんだけど」


 「確かに魔力の供給はストップしちゃうから、ほぼ毎日一緒にいることがいいんですけど、私は高位精霊、最大まで魔力を供給されたら、一週間は離れていてもへっちゃらです」


 「それはすごい、そういえば高位って言っていたね、後、記憶は引き継げないけど知能は引き継げるとか、それってどういう原理でそうなっているの?」


 「うーん、そう言われると返答に困りますね…アイシャさんもご自分の気孔はどのようにして発現しているのかって言われたら困るでしょう?」


 「なるほど、物心ついたころから出来たからこそ、説明できないって事かな」


 「そうです、ちなみに今の私は残り30分以内にマスターのところに戻って魔力の供給に入らないと、最初にあった時のように衰弱します。更にアイシャさんを探しに来た事で帰り道を忘れました。この悪いニュースと悪いニュースどちらから聞きたいですか?」


 「それは悩みどころだな、じゃあ、悪いニュースを部屋に戻ってから聞くことにしようか」


 「ふふっ、アイシャさんみたいなジョークに乗ってくれる人、好感が持てますよ」


 「それは人によるんじゃない?」


 カレンと話し合いながら、部屋に戻るとレイラがすでに起きており、テーブルの電気スタンドをつけて、何か本を読んでいた。扉が開いた音に気付き、パタンと本を閉じると扉の方向へ向き、目が合うと笑顔を浮かべて挨拶をしてきた。


 「アイシャさん、起きたなら起こしてくれてもいいのに」


 レイラの顔は通常通りになっており、帰って来た時とは全く違っていた。


 「お腹が膨らんだ状態のときは消化するまで安静にしていることが大事です。そこの二人だって、まだ少しお腹が膨らんだままでしょう?」


 「…帰ったら、素振り何回もして体重を戻さないと」


 「見た目そんなに変わらないから、いいと思うんですが…」


 「見た目ではなく内面的で判断するんですよ。アイシャさんはいいですよね、そんなに引き締まったウエストに綺麗な身体、同年代とは思えない胸、一体いくつあるんですか」


 「確かC寄りのBだったかな?」


 「うっそでしょう?想像より大きいじゃないですか」


 「買い物の時も言ったけど、インナーとかで押さえつけた方がいいと思ったから型崩れしない程度の物を買ったからね」


 「そうですか…あっ、そうだアイシャさん」


 「ん?どうしたの」


 「あの、お茶会の時の話なんですけど、あの時はドタバタしてて、言えなかったんですけど、その…本当にありがとうございました」


 「…なんだ、そんなことか、それなら僕より美奈の方がそれを言われるのにふさわしいよ。美奈が飛び出さなくちゃ、僕も勇気より、恐怖が勝っちゃって動けなかったんだから」


 「そんなこと…っ!」


 「いいや、そんな事あるんだよ。私は正義の味方でもない、悪の人間でもない、ただの卑怯な手しか出来ない臆病者だよ」

次回1月末予定

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