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第六部 一章 高位の火精霊

 View レイラ


 「ん…んん…」


 寝ぼけまなこをこすりながら昨日の事を思い出す。


 (あ…そうだ、昨日そのままこっちに泊まったんだった。でも、あまり眠れなかったな、どうして女の子ってどこを触っても柔らかくて甘い香りがするんだろう。自分自身も同じなのかわからないけれどやっぱり他人としての意識があると余計に気になっちゃうのかな)


 ベットからのそりと起き上がろうとしたら右手に違和感を感じた。


 (あれ?なんで今まで左手しか動いてないんだろう。それに何か指先が温かいというか湿っぽい?ような…)


 感覚があるから右手はちゃんと機能しているし、異常はないと知っていたが別の意味で異常があった。


 「ん…チュパチュパ…チュゥゥ…」


 アイシャさんが人差し指をしゃぶっていた。目を閉じているところを見るとまだ眠っているようだ。


 チュピチュパと水音を奏でながら常に満足しているような笑顔を浮かべていた。


 その事実に気づいた時に自分の全身から冷や汗と顔が青ざめていくのが分かる。


 「~~~~~~~っ!!」


 「んぅ…あれ、エイラちゃん…おあよ」


 動揺して布団を多少引っ張ってしまったのだろうか、美奈さんが目をこすりながら話しかけられる。


 「あぅ…あ、あ……」


 「んふー…」


 アイシャさんは両隣の二人が起きたことに全く気付いていないようにお構いなしと言わんばかりに指をしゃぶり続けている。


 美奈さんが状況を飲み込んでいない時にテンパって意味もなく弁明をしてから、数分後


 「んー、これどうやって外せばいいのか…」


 指の付け根まですっぽりと口にINされてジュルジュルとしゃぶる音が何度も無理矢理放してしまっていいのかという気持ちになる。


 「溝に石がはまったように無理矢理引き離すことは難しそう…距離を離してもしっかり追従してきますね。しかも、口をすぼめずに…ある意味一種の才能かも」


 「冷静に分析してないでどうしたらいいか考えてよぉ…!」


 「そう言われましてもゆすっても声をかけても起きない人にどうしろと…」


 そう、あの後何とかアイシャさんを起こそうと何度か声をかけたりゆすったりしたのだが一向に起きる気配がなかった。気持ちよさそうに「んっ…」と指をしゃぶったまま仰向けになったり、こっち(レイラ)のほうに寝返りを打つ以外に行動を起こさない。


 「困ったなぁ、リラもまだ寝ているし、このままって訳にもいかないよね、それにこのままだとお互いに気まずい空気になるでしょう…うーんと」


 はぁとため息をついてアイシャさんの頭を撫でてしまう。困ってはいるのだが幸せそうな顔を見たら可愛さからつい撫でてしまうそうな感じになってしまう。


 「なんでこんなにしゃぶってくるんですかね、そんなにいいというわけではないでしょう」


 「ううん…好き」


 「へっ?」


 意外な言葉に疑問の声を上げる。アイシャさんはまだ目を閉じているがまるで受け答えが出来ているように返事をした。


 「エイラちゃん…マシュマロみたいに…ふわふわ…暖かいから…しゅきぃ…」


 受け答えをしていることに驚いている間に美奈さんが手を引っ張って半ば強引に指を離すとしばらくアイシャさんはクンクンと鼻を鳴らし、少しシュン…と可哀想な顔を浮かべて自分の親指をしゃぶり始めた。


 「んぅぅ…モフモフ…ママぁ…」


 「…これはどうしたらいいんだろうね」


 「と、とりあえず指を離してくれたので顔を洗いに行きましょう。洗面台って備え付けのありましたよね」


 数十分後


 「すぅ…すぅ…」


 「まだ起きませんね。アイシャさん」


 「リラ、どう?」


 「いいえ、全く起きる気配がありません」


 「アイシャさんって早寝早起きするような人だと思ってましたから」


 「でも、流石に寝過ぎよ。少しかわいそうだけど、無理矢理にでも起こしましょうか」


 ViewChange 美奈


 と、言ったものの、無理矢理起こすのってどうすればいいんだろう。布団をはぎ取るのが一般的だけど既にやった後なんだよなぁ、本当は二人が起きた後にアイシャちゃんの寝相でずれただけなんだけど。


 「とりあえず、上半身を起こして見せますか」


 レイラと共に肩を貸して身体を起こそうとする、が


 「お、重たっ…!」


 「んん……やらぁ…もう少しぃ…」


 寝言を言いながらも起きるのを拒否するようにまるでわざと重くしているような感覚さえする。


 「うーん、仕方ありませんね。少々待っていてください」


 「リラ様どちらへ?」


 「すぐに戻りますー」


 質問に答えず、リラは部屋の外に出てしばらくすると紙コップ片手に歩いて戻ってくる。両手で紙コップを持っていることから考えると水でも入っているのだろう。


 「シーツなどが汚れますが、そこは他のものに任せましょう」


 そう言いながらコップの中身をアイシャちゃんの顔目掛けて吹っ掛けた。


 「ぴゃああ!?冷たい!痛い!あぁぁ!!なんかしゅわしゅわする!!」


 「しゅわしゅわ?って何をかけたの?」


 「炭酸水」


 目に入ったらすごい痛そうな奴じゃん。


 「おはようございます。アイシャさん」


 「そ、その声はエイラちゃん?ま、待って目が、目がし、シパシパっては、ハンカチ、いや何か拭くもの…」


 アイシャさんは布団から飛び起きて周りのものを把握しようと目を閉じたまま手を前にしている。


 朝の騒動のひと悶着後に機能と同じ障子扉の食堂で朝食をすることにした。


 「あっ、皆さまの主食はどうします?パンかお米どちらにしますか」


 「僕は米で」


 「私はパンかな」


 「朝はパン」


 「お米で」


 リラとアイシャは米、私とレイラはパンを頼んだ。しばらくすると、色とりどりなパンが並んだ。


 「わぁ…綺麗…!」


 クロワッサンにアンパン、抹茶の風味など色々なものがある。


 おかずには鮭の塩焼き、みそ汁、デザートにみかんゼリー、あまり食欲がない朝食としては丁度いい量だった。


 「ところで、今日はどこに行くつもりですか?」


 「昨日は美奈とレイラのリクエストだったから今日は僕が決めていいよな…と言いたいんだけど、それは昼食に持ち込もう、先に…そうだな。リラの部屋に行ってみたいな。もちろん、城の方の」


 その言葉を聞くとリラは少し考えたような顔をしてある方向に目を配わせた後にアイシャちゃんに向き直る。


 「私の部屋…ですか」


 「なんか、不具合でも」


 「…そうですね、いつかは教えようと思っていたのでそれが少し早まっただけですね」


 そう言うとリラはポケットから一枚の紙を取り出した。


 「これは?」


 「城の見取り図、と表向きには言われています」


 「表向き?」


 「はい、実際には「城」と言われているのはここまでです」


 そう言ってリラが指さした場所は見取り図の中心部全体の約十分の一にも満たない範囲だ。


 「えっ、でもこの見取り図は城の全体じゃあないの?」


 「はい、城が所有している私有地ではあるのですが、詳しくは城の管轄の研究施設です。この見取り図はエリアが1~30まで決まっています。番号順に重要機関だと思ってくれればいいです。先程の城の範囲は1~5までとなり、私の部屋は1と2の中間に設置されており、いかなる場合でも許可なく立ち入りすることは難しいのです」


 「というと何か?こっちから遊びに行くとしてもその度に許可を取らなくてはならないって事か、顔パスとかは出来ないのか?」


 「出来るなら食事に毒を盛ることも容易ですからね。出来ません」


 「じゃあ、これから遊ぶ時にはそっちから誘わないと出来ないって事?」


 「お手紙やメールでなら約束は取り付けられますよ。ただ、私の部屋で遊ぶ、なんてことは出来ないという話であって…」


 「あぁ、いいんだよ。そんなに無理して入りたいとも思わないし、でも、リラがオススメする場所にも、行って見たかったな」


 「すみません。でもオススメの場所というのであればとても良い場所なら心当たりがありますよ」


 「へぇ、どこですか、姫様が言うなら私、気になります」


 「では、朝食が済みましたら行ってみますか、近場なので徒歩でも向かえますよ」


 その後、談笑しながら、朝食を済ませて、外出用の服に着替えるとリラ先導のもとで出掛ける。


 出てすぐの所で川を渡るために橋を渡り、小さな道を進んで行くと開けた場所に行きつく。


 「わぁ…」


 「綺麗だ…」


 「これは…湖?」


 行きついた場所は小さな湖だった。辺りには花が多く咲いておりさわやかな風が花びらを舞い上げて、湖には花びらやスイレンなどの水生植物などが幻想的な風景が広がっていた。


 「ここは、プライベートなどに有名な一般開放のお花畑です。四季によって色々な花が咲く事でとってもいい場所でしょう?でも、穴場みたいなところなので、地元の人でもあまり知られていない場所なんですよ。お花見などでも混雑しないので、教えようとしない人が多いようで…」


 「確かに、この綺麗な風景はのんびりとしたい人にとってはうってつけの場所ですね」


 「うん、それにとっても綺麗、こんなところならリラックス気分でどの季節に来てもよさそ…あれ?」


 「どうかした?美奈」


 「いえ、あそこに何か…」


 湖の向こうに何かが落ちたような気がした。大きさ的には花だ。それにしては不規則な動きをしていて蝶などの虫にしては見かけない。


 少し気になるので、それを追いかけてみることにした。


 それは、湖の周りをゆらゆらと飛んでいて、しばらくするとふらふらとお花畑の中に落ちていった。


 「えっとたしかこの辺りに…」


 落ちた場所を探してみると一角の場所に淡い光が見えた。そこを見てみるとそこには…


 「こ、これは…!」


 「美奈さん、いきなり走り出したからびっくりしましたよ。どうしたんですか?」


 「みんな、これ…」


 「なんだ?変な虫でも捕まえ…」


 「なんですか?私にも見せて下さい」


 手に包んでいた「それ」を見て固まる。


 「はぁ…はぁ…」


 それは手のひらサイズの小さな人型の生物だった。燃え上がるような真紅の髪背中には紋様にも見える羽根、身体には赤いローブのようなものを羽織っている。


 「これって…精霊?」


 精霊、魔法の具現化として知られる。半生物、精霊は妖精と魔法が混ざり合った種としていくつかの種類に分かれている。それは魔法と同じで4属性、火、水、風、土の四つに分かれている。それぞれ適性の合う人と契約を結ぶと言われており、それ以外にはほとんどの情報が無い為、精霊学者などの精霊について調べている研究所が設立している。


 「こんなところで精霊が見れるなんて、すごい奇跡です!初めて見ました…本当に小さい…」


 「でも、それにしてはやけに弱ってないか?息も荒い。病気か?」


 「んんぅ…うぅ…」


 精霊は唸り声を上げながらうなされているように身をよじる。


 「ど、どうしよう、何かしてあげられることってない?」


 精霊に遭えたっていう事でも奇跡なのに苦しんでいるという事で完全にパニックになった。


 「ええっと…ええっと、回復魔法…は効果あるのか分からないし、ええっと…ええっと…フレア!!」


 「「「ちょっと待って!!」」」


 三人の制止の声と共に火柱が立つ、周りの花は枯れ葉がなかった為燃え広がりはしなかったがフレアを当てたところは土しか残っていなかった。お花畑としてはその場所はとても目立つだろう。


 「なにやってるんですか!?精霊に!!しかも、ここお花畑なんですよ!!大火事になったらどうするの!?」


 「つい…」


 すると、精霊がポゥと光り、眼を開ける。


 「こ、ここは…」


 「あっ、目が覚めた」


 「ええっ!?消し炭になっていないの」


 「あ、あなたが助けてくれたんですね」


 「えっ、あぁ、いえ、ただ、火の魔法を当ててしまっただけですが…」


 「ありがとうございます!こんなに美味しい火の魔力は初めて…!」


 「へっ?ど、どういうこと?」


 「決めました。私、あなたと契約を結びます。今日からあなたは私の主人、マスターとなってください!」


 「えっえっ?待って待って詳しく話聞かせて」


 「大丈夫!すぐ終わりますから、ほらほら、プリーズ!キスミー!ほっぺにどうぞ」


 手のひらの上でウサギみたいにぴょんぴょん跳ねて誘うように頬を近づけてくる精霊に話を聞くには契約を結ばなければならないと、直感的に察した。


 (…でも、いいのかなあ?他の三人が見ているのは百歩譲っていいとして、ファーストキスがこういうのって、いや、ペットとしてみるならいいのか?でも、人型だから何か初めてっていう感じがあるし…えぇい、もうどうにでもなれっ!!)


 唇が精霊の方に触れると同時に身体が淡い光に包まれる。それと身体に変化が見られる、髪の先端から緋色に変わり、瞳も深い赤色に染まる。


 「お、収まった…?」


 身体が変化していることに対しては自覚があったが今、自分の身体がどう変化しているのかが分からず。鏡を探して近くの湖を鏡の代わりにして覗き込む。


 映っていたのは緋色の髪に真紅の瞳、顔や肌の色はそのままだが、少し成長しているようで2~3年年を取っているように思える。


 「どーですかっ!やっぱり、美しい!エモい!さいっこーにエモい!ネットにあげたらバズりまくり間違いなし!!」


 「あ、ありがとう、じゃなくて、勢いで契約しちゃったけどどういうことなの?と、とりあえず説明を…」


 「はい、了解です。マスター」


 それから、近くのベンチで精霊の話を聞く。


 「えーっと、つまり、君は火の魔力を持った高位な精霊で、契約を結んだ人が死ぬとすぐに衰弱死してしまうが、高位な精霊はリザレクションをする体質なため、復活したものの、その場所が運悪く水の中であるため、生き地獄をさまよっていた…と」


 「はい!いやー、死ねないというのは不便ですよー、苦しい時はずっと苦しいままですし」


 「でも、結構流暢な話しできるんだね。見た感じ、私たちと同じか少し幼い年齢なのに」


 「精霊は復活する前の記憶を全て無くしてしまうのですが、知識は引き継ぐことができるんです。その為、死んだ後も生前の知識で言葉も通じますし、頑張れば、文字も書けますよ。専用の鉛筆があれば」


 「それは流石に作れないかなぁ」


 (そもそも、精霊についての情報をベラベラしゃっべっている事にどういう反応が正しいのか分からないし)


 「でも、この姿は落ち着かないんだけど、元の姿には戻れないの?」


 「念じれば戻れますよー頭の中で戻りたいと、念じてください」


 言われた通りに頭の中念じると体の中に何かが溶け込む感覚と元の身体に戻る。


 「…へぇ、こんな感じなんだ」


 「へっへ~ん、これが私の力ですよ。すごいですか?すごいですよね~?」


 「うん、こんなことも出来るんだ。使い方によってはとっても便利そう」


 その様子を見て他のみんなは完全に蚊帳の外だと思い出して、向き直る。


 「すいません。こっちで喜んでしまって」


 「いやいや、むしろ僕たちが今日初めて精霊を見れたんだから、問題ないよ」


 「これが精霊、はぁ~、可愛い…」


 「へっ?」


 その直後リラとレイラが精霊に抱きつく。


 「ひゃわぁ!?な、なんなんですか!いきなり抱きつかないでください」


 「あぁん、もう我慢できないよ、柔らかいなぁ、お肌ぷにぷにだなぁ」


 「ツンツン、火の精霊だからですかね、暖かい」


 「二人が喜んでいるみたいでよかった」


 「いや、大丈夫なのか?あれ、そろそろやめさせた方が…」


 「く、くるし…マ、マスター、助けて…」


 「わぁ、大変、精霊ちゃん潰れちゃう」


 「っと僕も手伝おう、ほらレイラ、放してあげな」

次回1月中旬予定

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