第五部 四章 微睡の願い
View 美奈
「ううん…」
「あっ…起きました?美奈さん」
起きるとレイラがうちわで扇ぎながら、紙コップで冷水を差し出してきた。
「えっ!?いつの間にっと言うかのぼせたのっ!?」
「びっくりしましたよ同じ湯船に入ってみたら全員が顔真っ赤にして気を失っていたんですから…」
そういえば、子供って長湯が苦手なんだっけ、大人になってから湯船には短くても20分は入っていたから、それくらいの長さでもこの身体はのぼせちゃうのか…
「ごめんね、エイラちゃん迷惑かけちゃった」
「いえいえ、でも大丈夫なようでよかった、他のお二人も」
レイラがちらりと横に目を向けると、先程までの自分と同じようにのぼせて、椅子に寝転がっているリラとアイシャがいる。
「竹椅子なので、少しはヒンヤリしているんですが硬いので、長い時間寝たばっかりだと痛いはずなんですけどね…」
「私も扇ぐの手伝うよ」
「大丈夫です。お水飲みながらまだゆっくりしていてください」
「そんな、悪いですよ」
「いえ、これはただ私が世話を焼きたいだけなんです」
そう言ったレイラの顔は今まで見せたおどおどした顔ではなく、面倒みたがりのお姉さんみたいな柔らかい笑顔だった。
「じゃあ、もう少しお願いしようかな」
「はい、ゆっくりどうぞ」
「だけど、露天風呂にも入りたかったな…」
「めっ!今回ので少しは懲りてくださいっ!」
「アハハ、冗談、露天風呂に入りたかったのは本当だけどしばらくは入浴時間は少なめにするかな」
しかし、本当に話すのが流暢になったな、レイラちゃん、前世も姉がいないからそういうのってわからないけれど、もし、過保護な姉がいたらこんな感じなのかな。
ViewChange レイラ
「うん、大分顔色も良くなってきましたね。それじゃあ、お水のおかわりを持ってきますね。まだしばらく横になっていてくださいね」
そう言って速足で通路を通り、ドリンクサーバーのある小さい休憩ペースに向かう。
「………っはぁ~、ちょっとやりすぎちゃったかな「俺」ぇ…」
(ゲームの中でのレイラを演じてみたけれど、たまにはこうやって前世の俺を出していないと、今までの全てが塗りつぶされてしまう感じがして少なからず、怖くなる。実際の所、元の世界で自分が死んだのか、分からない。今でも胸の奥にはあの時の恐らく人生で一度しか体験できない痛みと冷たさが残っている。それでも、一命を取り留めたケースもある。親が元医学生だったっていう事と、自分も医学の道を進んでおいた事から助かる可能性が0じゃないことは知っていた)
改めて今の状態は異常だ。ゲームの世界だというのに、NPCはちゃんと心を持って、話す内容も一日ごとに違ってくる。
時折、ここは、本当にゲームの世界なのかと疑う。もしかしたらゲームの世界とただ似ているだけの異世界なのではないか、現実の世界とゲームの世界が混ざり合った世の中なのではないのかと、そう思ってしまう。
この世界はあらゆる言語、日本語、英語、ドイツ語、物理学、天文学、薬学、ありとあらゆる物が酷似している。唯一の違うのが精密機械のように剣と魔法のファンタジーが織り交ぜながら出来ている世界だという事。
その斬新さと違和感のなさが評判となり、口コミや宣伝が連鎖して互いの会社が世界中に支社を多く構える事になった。
そして今、俺はこの世界でただ一人、その集大成と言われた世界に存在しているただ一人の人間、そういうわけだ。
最初はそのことに心躍り、恋愛対象の一人として生まれたのなら憧れた男性と結婚でもしたい、などと思っていたが、自分で無くなる事が怖くなり、一人でいるときは少しでも「俺」を出して、「私」を抑えている。
「でも、他の人にこんなこと言ったら気味悪がられるから、ほどほどにした方がいいんだろうけどね」
そう思いつつも、今できる事が無い為悩んでいても仕方ないという結論で思考をそこで中断した。
「えっと…冷水をってスポーツドリンクもできるんだ、ここ。うーん…よし、こっちにしよっと」
三つの紙コップにスポーツドリンクを入れて、抱えるように持ち、三人が待つ風呂場前のスペースに戻る。
「ただいまです」
戻ると、アイシャさんも姫様も目を覚まして、寝た状態のまま申し訳なさそうにこっちを見ている。
「どうぞ、ドリンクサーバーからスポーツドリンクを持ってきました。調子が戻ったらはやめに寝ましょう。明日もみんなで遊ぶために元気でいないと!」
時計を見ると既に八時を過ぎており生活習慣によっては眠くなる人が出てくる時間帯だ。
ViewChange サリア&ランク&エリック
「お二人が主人を溺愛しているのは把握しましたが、入浴所の天井裏で張っているのは見過ごせません」
「「ご、ゴメンナサイ…」」
「今では、姫様方は親友の関係、もしも今までの行いがバレたりしたら、その関係を壊すことになってしまうのです。お分かりですよね」
「はい、お嬢の普段の行動で、少し過保護に偏りが過ぎたようです」
「同じく…専属のメイドでありながら、他人の接触について敏感になって心配性が大きくなってしまったようです」
前のお茶会の同伴者会でサリアとランクは自分が使えている家こそが素晴らしいと激論を交わしていた。その対抗論に他の家の同伴者も対抗心をくすぐられ、トラブルの対応が即座に出来なかった。もし、対抗論が激化せずにそもそも、それが起きなかったら、美奈さんやアイシャさんが手を下さずとも我々がマハトマの賊を制圧できた。
そのことを、お二人も重々承知だろうが、度が過ぎた忠誠心が此度のストーカーに繋がってしまった。
「今回の事は良しとしますが、これからは見守るとしても親御さんやご本人に承諾をもらって下さい。護衛などなくとも、あの方達は自分の身は自分で守れるでしょう」
「はい…以後気を付けます」
「分かりました。千麟家のメイドとして誓います。なので…」
「「もう…正座させるのをやめてもらっていいですか、少しでも動くと…」」
二人を正座させて2時間説教をしていたが、放っておくとまた何かしそうな気がする。そしてそのことを考慮して、深夜零時を回るまで正座をさせることにした…石抱で。
ViewChange リラ
「だいぶ調子が良くなってきました。ありがとうございます。レイラさん」
「いえいえ、アイシャさんはどうですか?」
「っと、自力で立ち上がれるくらいには回復できた。運動は…やってみないと分からないな」
「のぼせた後の運動は控えてください。血流が良くなった分、少しのケガで出血がひどくなります」
「はいはい、分かったよレイラお姉ちゃん」
「からかわないでください。さて、そろそろ寝ないと、姫様寝室はどこですか?」
「二階の207号室です。個室ではなくて私達全員が寝られる大きさの部屋なので、そこをお使いください」
「はい…って姫様は行かないんですか?」
「後で向かいます。少し私用がありまして先にそちらを片付けます」
「そうですか、ではお先に失礼します」
三人が階段を上がったのを確認した後、辺りを見渡して人気のない場所に移動した後に、今日一日中放置していた「あの子」の元へ向かう。
「り、リエラ~」
「…おねえちゃん、まだなのかな?私に愛想つかしちゃったのかな?ビーフジャーキー一緒に食べたいのに…いじいじ、うじうじ」
(うわぁ、すごい罪悪感、そうだよね、今までずっと王族がやるような公務なんてやらないし、こんな日は常にリエラと遊んだりしていたものね一日中一緒だったのに一日離れていたら寂しくなるよね。でも、大丈夫、こんな時のためにちゃんと秘策を用意してきたんだから)
こっそりとリエラに気付かないように背後に回り込んで、リエラの頬にミルクを入れた紙コップを当てる。
「わっ!」
「リーエラ、お待たせ。これプレゼント」
そう言って、クッションやおもちゃの入ったプレゼント袋を部屋に持ってくる。今日のショッピングでほかの三人が服を選んだり、セール商品の戦争に参加している合間に買っておいたもの。それをみたリエラは目をキラキラさせて、一個一個まじまじと見ながらこっちとプレゼントを交互に見ながら最後には飛び込んで、抱きしめて来た。
「お姉ちゃん!」
「ごめんねリエラ一人ぼっちにさせちゃって」
優しくリエラを撫でながら、謝ったり今日あった出来事を話してあげたりして機嫌を直している間リエラはずっと顔をお腹にうずめてこもった声でお姉ちゃんと言い続けた。
「おねーちゃん…お願いきいてもらっていい?」
「なあに?」
「頭を撫でて」
リエラはそう言って顔を近づけてくる。その様子は頭を撫でるというよりはキスを迫られているような気持になってしまって、一瞬だけ頭の中にキスをするか頭を撫でるかの二択が浮かんだ。
「…っよーしよーし、いい子、いい子」
結局、動物形態ならまだしも自分と似ている姿にキスをするのは流石に抵抗感があるので撫でる事でここは留まることにした。
「えへへっ」
リエラは気持ちよさそうに、目を閉じてとろけきった顔で気持ちよさそうにしている。
(さて、ずっとこうしていたいけれど、そろそろ、寝室に行かないと、あっちにも心配かけちゃうかな)
そうして、手を放そうとすると…
「あっ…」
何かを惜しむような声と共に捨てられた子犬のような目を向けられた。
「ぅ…」
スッと再びリエラの頭を撫でる。
「ふにゃぁ…」
(これは、寝るまでこうしていなきゃだめだな)
そうしてリエラが舟をこぎ始めて熟睡する時には丁度9時を周り、自分の眠気も深まりつつある時間だった。
リエラを今日買ったクッションの上に乗せてその周りにもクッションを敷いて落ちないようにした後、小声でおやすみと行った後みんなが待つ寝室へと向かった。
「お待たせしました」
「遅かったですね」
「リラ、待ってたよ」
「ごめんなさい、長引いてしまって…あら?」
「すぅ…すぅ…」
ベットには美奈さんとレイラさんそして、既に布団の中で寝息を立てているアイシャさんがいた。もちろん、全員パジャマ姿で
「待たせ過ぎましたか、アイシャさん待ちくたびれてしまったようで」
「いや、アイシャちゃんは、部屋に入ってすぐにベットに飛び込んだ後にすぐ寝ちゃって」
「疲れていたんでしょう。起こすのも悪いのでこのまま寝かせることにしたんです」
「そうですか。寝る前に少し話し合いたかったんですが、仕方ありませんね私達も寝ますか」
「そうですね。明日、今日話し合えなかった分、楽しみましょう」
「はい、では私もパジャマに着替えますので少々お待ちください」
その場でシュルリと服を脱ぎ、ハンガーにかかっていたパジャマをとリボタンを締めていく。
「っ!…」
「あっ、は、はだ、はだ…」
「お待たせしました。では私は端の方で」
その後右からリラ、レイラ、アイシャ、美奈の順番で寝ることになった。
全員が寝静まって、春先の肌寒さが顔を撫でる。
ViewChange 美奈
「んんっ…」
どれくらいの時間寝ていたのだろう、まだ眠気がある事と、窓から月明かりがぼんやりと見えることから、まだ夜は明けていないことを知って、再び寝ようとすると、ひんやりした風が足を突き抜けて、意識が無理やり覚醒させられる。
「うっ…!」
反射的に風の吹いた方向に目を向けるとベランダにパジャマ姿のリラが立っていた。すぐに端のリラが寝ていた場所にリラがいない事を確認した後、のそりと起き上がり、他の人を起こさないように小さな声で話しかける。
「眠れないの?」
リラは肩をビクリと震わせて振り返ると驚きと戸惑いの顔を一瞬浮かべて、その後安心した顔で再び外に目を向けて空を仰ぐ。それを見て隣で同じく空を見上げる。
「ごめんなさい、起こしてしまって」
「いえ、たまたま目が覚めてしまって…」
「見えますか?綺麗な月です。白くて大きくて…うさぎさんがお餅をついているようです」
「そうですね。でも、お月様は見る場所が違えば見える動物も違うんですって、蟹や鳥とか」
「まあ、うさぎさんが蟹や鳥になっているんでしょうか?」
「分かりません、でも、お月様はきれいですね。今の時間は奇跡的な日です。お月様が二つ見えます」
そう言って、池に指を指す。そこには音を立てずサラサラと流れる川に丸い月が少しもブレずに、空の風景をそのまま写し込んでいる。
その光景をリラはそっとつかむように手を伸ばすが、当たり前のようにその手は何もつかめなかった。
「…何もつかめませんね」
「…そうですね。つかめてもそれはすぐに歪んでしまいます。だからせめて、いまこの瞬間をじっくりと無意味であると自覚しつつも共有して心に残すのが大事だと思うな」
「美奈さんって大人みたいなことを言いますね。カッコイイです」
「そう?でもカッコイイだけじゃ、満足できないな」
「なんですか、それ」
「なんでしょー、ウフフ!」
「ふぅ、夜風に当たっていい感じに眠くなってきましたね。そろそろ、私は寝ます。美奈さんもそろそろ、寝ましょう。まだ寝る時間は残っていますよ」
「あ、うん。その前に少しお手洗いに」
「個室にはそれぞれ設置されているのでそちらをお使いください」
「ありがとうございます。それではおやすみなさい」
リラは元に居た位置に行って掛け布団を被り、静かに寝息を立て始めた。
「…」
歌が、聞こえる。
日本語ではない。英語でも、ドイツ語でもない、どこから聞こえるのか分からず、ただ、不気味に思いながら謎の震えでお手洗いで酷く怯えた顔をした自分を見る。
(あの時と同じ、夢を見た時と同じ感覚だ…)
小さな光、ついていく自分、遠くに見える得体の知れない闇、気分が悪くなる。よろよろとお手洗いを出て少しでも気分が改善するようにベットに倒れ込む。
衰弱していたのだろう。微睡はすぐに襲ってすぐに眠りの誘いに負けてしまう。
「…ねぇ」
声が聞こえる。あの歌声と似た声が
「…聞こえる?ねぇってば…」
声に対して返事をしようとするが、声が上手く出ず、うめき声のような声しか出ない。
「気持ちよさそうな顔して、変な声上げてんじゃないよ…もう、時間がないっていうのに…明日かな、選択された運命の人が子供っていうのは、気が乗らないなぁ、まぁいいや。それで変わるなら、これくらいの屈辱なんてどうってことないし…しばらくの間ストレスを与えてすまなかった。でも、これからは大丈夫だと思うから、あの災厄を無くして、私の憎悪を復讐を成し遂げて…」
その言葉を聞き終える前に自分の意識は途切れる。
「…最後まで聞こえたのかな。この子は、紛れもない意思を持っていた私は、あの世界でどうか…どうかあの人の願いを…お願い、失敗しないで…時間だ」
意識を失ってどれくらいの時間がたったのだろう。夜中の気分の悪さが消えていくのが分かる。身体は動かせずとも今自分が微睡と覚醒の境界の状態なのを理解できる。
歌も聞こえない。あの歌は何だったのか、微睡の中で聞いた声はどういう意味だったのか、そのような疑問は眠りに意識が傾くにつれ消えていく。
次回12月末予定




