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第五部 三章 アフターバス

 View レイラ 

別邸にたどり着く頃には既に日は沈みかけて辺りには暗闇が訪れている。


 「お嬢様方、今日はお疲れ様でした。お食事にしましょう、どうぞこちらへ」


 車から降りるとすぐそこにエリックさんがエスコートするように別邸内に誘う。


 「…なんか、意外ですね」


 「?何がですか」


 「大体、こういうのってお風呂か、食事かどちらかを選ぶイメージがあったんですが…」


 「前まではそうだったみたいですよ。先に食事にするようになったのは、私の個人的な体質によるものなんです」


 「…体質、ですか?」


 「ええ、私は物心ついたころからお風呂の後に寝るのですが、ずっとそのような生活をしていたからなのか、先にお風呂に入ると、その後、すぐに眠くなって、夕飯をすっぽかすこともしばしばあって、それからは健康のために先に夕飯を食べることにしているのです」


 「なるほど、身体が、お風呂からあがる=寝る前、と覚えているから癖がいつの間にか体質になっているってことか」


 「割と難儀な体質そうだね、それだとプールで泳いだり、大雨で濡れたりしてもそんな感じになりそう」


 「実はそうでもないんですよ、夜にプールなんて入りませんし、そもそも、夜どころか、外に出るなんて今日が初めてなんですから」


 そう笑いかける姫の顔ははしゃぎ過ぎた年相応の子供のように額に少し汗をかいている。


 「では、早速食堂へ行きましょう、ここの食堂は中々面白い所ですよ」


 そう言うと靴を脱いで速足で、左の通路へ歩いて行く。それに、追従するように、急いで靴を脱ぎ後を追う。


 姫様の後を追うと今まで洋風の扉が襖となり、さらに奥には障子扉になっていた。そのある一室に座布団に机、まさに和風の温泉旅館にあるような部屋だった。


 「わぁ、リラの家柄だから、こういうのもあるんじゃないかな、と思っていたけれど、改めて見てみると実際すごいなぁ、洋風と和風が両方ともあるなんて、なんとなく贅沢な感じ」


 「…(うずうず)」


 「アイシャさん、障子を破るのはやめてくださいね」


 「ハッ!?そ、そんなことしないよ、綺麗な障子に穴をあけるなんて、無残な光景になるだけじゃないか、ぜっっっっっっったいにしないよ!!」


 「そう言いつつ、障子を開けるたびに手の動きがおかしかったのは何だったの?」


 「ぐぅっ!?」


 「…ま、まぁ、来る途中でそういう行動を鋼の意思で留まったのはほめるべきではないのですか?」


 そう話していると、アイシャさんの後ろ、この部屋の唯一の襖扉からノックの音が聞こえて、そこから和風メイドが柔らかな笑顔を浮かべて、人数分のお盆を目の前に置き、小さな一人分の鍋に水色の着火剤(固定燃料)に火をつけて、ごゆっくりと言った後、パタパタと足音を響かせて、去っていった。


 「さぁ、いただきましょう」


 「そうだね、明日もお外で遊ぶのでしっかり食べて英気を養うために」


 「いただきます」


 「「「いただきます!」」」


 もぐもぐとそれぞれ思い思いの料理に手を付ける。


 「美味しい!」


 「このだし巻き卵、いい香り」


 「これ、茶碗蒸し?具材が色とりどりで綺麗」


 「でしょう?お昼の食亭と勝るとも劣らないくらい美味しいでしょう」


 「うーん、朝食と昼食で和食がダブってしまった。ってあれ?白米は?」


 「後で来ますよ、お味噌汁も、あとオーダーも多少は受け付けてくれますよ。石焼ビビンバとか」


 「…そこは和食で統一しているんじゃないんですね」


 「王家が代々選り好みの難しいグルメだったようで…」


 「あっ、そうか、この国って確か…」


 「ええ、強者…つまり強きものが天下を取る。平民が国王陛下になることもあり得るので食の好みが激しいみたいで…」


 「でも、それでも平民が王家の後どりになるのはほんの一部って聞きたけど、その理由って知ってるの?」


 「ええ、社交界のマナーや王家の紋章を暗記で書けないといけなかったり、取りあえず、国を引っ張っていくにはそれ相応の覚悟がいるので、辞退する人が多くて…」


 「あぁ、それは厳しいですね」


 「あっあっ、でもそれなりの地位にはつけるんですよ魔術開発本部の主任になったり、経済学部の財務大臣になったりとか、ただ、国を引っ張る自信や覚えることについての量が多過ぎるというだけで、立候補者がいなくて…最大でも王宮の職で満足してしまうみたいで…」


 「確か、前のお茶会で同じようなこと言ってたよな、今の国王陛下は今までにないくらい神采英抜の人格者って呼ばれているんだっけ」


 「お父様にはその自覚はありませんけどね。いつの間にかその二つ名が定着してしまったらしくて」


 「どうりで、あの食亭のお姉さんが固まるわけだよ」


 「思い返すと、お茶会ではリラの振る舞いは他と比べて、とっても優雅でしたね。足音を立てずにエレガントな美しさが…」


 「いつも同じ動作をしているだけなので自分ではわかりませんね」


 「なるほど、それも身体が覚えているから、体質として立ち振る舞いが王家としてのマナーである行動になるってことか…」


 「はぇ~うらやましいような、使い勝手が悪いような…」


 「自分でオンオフ出来ない点については悪いんじゃないか?」


 その後、ミニ鍋がコトコト音を鳴らし、それを平らげて、玄関ホールに戻ってくるとエリックが待ち構えていた。


 「姫様方お風呂の準備が出来上がっております。お入りになりますか?」


 「ええ、お願い。皆さんもね」


 「「「えっ!?」」」


 「どうしましたか?」


 「ま、待て待て待て!!リラ、お前何言ってるか分かってんの!?俺たちだよ!!」


 ああっ、よく言ってくれたアイシャさんっ!


 「さ、さすがにお友達だからとは言ってそれは私としても…(ごにょごにょ)」


 「…あ、あの…後で…ゆっくり…」


 「いえいえ、待たせるのも悪いですし、ご一緒で…」


 「逆に姫様は気にならないのか、一緒に!!お風呂!!だよっ!?」


 「え、ええっ?別におかしい事なんて何も………('_')………(。´・ω・)?………( ゜д゜ )!!」


 あっ!気づいた。傍から見ても顔文字を使っているくらいの表情も分かるぐらい。


 「わたくしからも皆様ご一緒に入られる方がありがたいのですが」


 何言っちゃってるのこの人ーーーっ!?


 「もう夜も更けています。このまま別々にご入浴されると明日に響くかと…何より、この様な素晴らしいご友人方を待たせるのは申し訳ないでしょう?」


 外堀が…外堀が埋められていく、大阪夏の陣の大阪城の如く。


 結局、半ば強引に全員でバスタイムをする事になってしまった。


 「うぅ…」


 「~~~っ!」


 「…っ(チラ)」


 「…仕方ないですから、取りあえず、入りましょうか」


 全員が友人とはいえそれ以外の接点がない赤の他人だからか、目を逸らして浴場の扉を開く。浴場への扉は手動の横開きで開けた途端、浴場の湯気が肌に吸い付くように脱衣所の空気と浴場の空気を入れ替えていく。


 浴場はそのまんま、大浴場と言うべきか、4つの大きな湯船があり、一つの湯船に大の大人でも20人以上余裕で入れると感じる。


 そして、奥には外に出るための扉もあり、露天風呂もあるのだろうと知る。


 (と、取りあえず、身体や髪を洗うか…平民が貴族の人と同じ湯船何ておこがましい)


 ViewChange 美奈

 (まずは身体を洗わないと、見たところかけ湯のところも見当たらないし、サッと汚れを落としてからゆっくりつかろう)


 ViewChange アイシャ

 (おっと、髪を結ぶの忘れるところだった…見様見真似だが髪を結ぶか…実際にやるのは初めてだが、やってもらった時にやり方は覚えた。取りあえずあそこで…)


 ViewChangeレイラ

 (むむ、無理無理無理無理っ!!女の子達のお風呂に一緒に入るなんて無理こんなのやめてよ、無理矢理にでも理由をつけて後で入るとか言えばよかったっ!これが美味しい展開とかいうのは二次元だけでいいんだよ、いやこの世界二次元空間だけどねっ!!もうやだ助けてエイラァァ!!)


 ViewChange リラ

 (まずはお客様のファーストさせよう。子供とはいえ女性3人に囲まれた入浴何て無理に決まっている!落ち着いて、身体を洗って、精神統一させよ…う)


 まるで、統一された動きのように自分の隣に他の三人が座った。


 View 全員

 ((((ヤバい))))


 ViewChange 美奈

 (なんで皆ここに来ちゃうの!?私と同じ様にかけ湯がないのに気づいて、シャワーを浴びてから入るつもり!?落ち着いて、俺、俺は五十嵐響也じゃない、千麟美奈だ。そう、俺は女…私は女…女なんだ…)


 「フーッフーッ…」


 ViewChange アイシャ

 (しまった…完全にミスった…どうする、俺だけでも先に湯船に浸かるか?いや、髪を結べてないし、だからって、鏡を見ながらじゃないと、上手く出来ない…覚悟を決めろ俺、そして、アイシャ…ゲームで見たお前は誰よりも勇敢でどんなものにも屈しない精神を持っていたじゃないか、己を信じろ、他の人の裸何て変な気は起きないはずだ!!)


 「ブツブツ…」


 ViewChange レイラ

 (…どどどどどど、どうしよう……えっなに、洗いっこするの!?エイラとはやったけど女の子同士ってそういうことも出来るのっ!?あぁ、でもなんでだろう、互いに一糸まとっていないのにこんなにいい匂いがするの、やけに甘い香りがするぅ…頭がくらくらするぅぅ…)


 「はぁっ…はぁっ…」


 ViewChange リラ

 (なんてタイミング悪いんだろう、前世から風呂は最初にシャワー浴びる派だったから、いつもの癖でこっちに来たけれど皆同じだったなんて…攻略対象って全くいらないところで、気が合うのが王道だけどこういうところでそれが発動しないでいいのにっ!)


 「……(ドクンドクン)」


 ViewChange アイシャ

 (取りあえず、髪を結ぶ前に軽く洗うか、やけに髪長いから、シャンプーがすぐ無くなるんだよな、だからって、髪切るのはママが全力で拒否するし…なんで髪がなびくのが好きだからって理由で切らせてくれないんだろう。黒髪ロングヘアーなんてそう注目される者でもないだろうに、いや、攻略対象であるがゆえに注目はされるけどね)


 手のひらに収まりきらないほどのシャンプーを髪に染み込ませるように、つけて、髪の毛全体に広げていく。


 手で軽く泡立てたらブラシで生え際から、毛先に向けて優しく、なるべく毛に負担をかけないようにブラシをかけたところに手を添えて慎重に…


 (ママがやっていた事を頭の中で繰り返し特に抜け毛とかもこの年ではほとんどないか、ちょっと羨ましい。男だったころは…いや、やめておこう)


 首を振り、シャワーですすぐ、その後コンディショナー、トリートメントの順番で髪を整える。


 (後は髪を結ぶだけ…と、あれ?)


 周りを見るとほかの三人はシャンプーの後に特に何もせずにボディウォッシュに手を伸ばしている。


 「みんなはトリートメントとかしないのか?」


 「はい?」


 「ふにゃ?」


 「えっ?」


 美奈とレイラの反応は少し予想していたとはいえリラも同じ反応なのは少し驚いた。大体の女性は髪に気を使っているばかりかと思っていたが。


 「いや、後からするなら別にいいんだけど、シャンプーした後にコンディショナーやるんじゃないのか?僕はトリートメントもする方だけど」


 「髪を二回洗うの?」


 「美奈ってたまに男みたいなことを言うよな、箱入り娘だったからっていう理由は通らない方面で」


 「私は、シャンプーとコンディショナー混ぜて使っていますけど」


 「あー、それダメ、女の子なんだから例え時間なくても、シャンプーとコンディショナーは別々にやった方がいいよ。うーん…よし、この際、しっかりと身体の洗い方含めて、一から教えよう、ほら、椅子集めてー」


 「わっ」


 「ひぇ」


 「ひゃん!」


 最後の驚きの声で一瞬フリーズしたが、すぐに持ち直した。

 

 「まだまだ僕達は学園に通わないから、急がなくてもいいけど、そろそろ、化粧水とか乳液とかも塗る時期になるからな…ニキビとか肌荒れとかの防止に」


 「化粧って若作りするためのものじゃないの?」


 「レイラ、それ他の人、主に30代の人に言ったら心の中でブチ切れるよ。ともかく、若々しく肌を保ちたいなら化粧道具とかでお風呂上りにやったりした方がいいよ」


 「アイシャさんってよく知っていますね、ガサツなイメージがあったんですが」


 「そりゃあ、僕も女の子だからね。(本当はママに何回も言い聞かされたからだけど)化粧水はコットンに染み込ませるとか、でも、化粧品とかは今はいらないかな、化粧水と乳液だけで、中学生くらいになったら更にオシャレに気を遣うようになったら美容液とかやるのがオススメ」


 「でも、子供アイドルも、化粧はするって聞いたことあるけど」


 「確かに化粧する人はいるな、でもそれは本当に軽い化粧、たったの数分で出来る化粧だし、ファンデを塗ったりする本格的な化粧じゃないからね」


 「そうなの?アイシャって物知りなんだね」


 「テレビとかパソコンとか使っていたら自然と覚えただけ、あっ、それと、お風呂上がったらヘアオイルするのがいいよ、根元までつける必要ないから」


 「…あの、それ、万国共通語(日本語)ですよね?宇宙語じゃないですよね」


 「いや、ちゃんと言っているんだけど、これ、言葉で細かく言っているけど、女の子、まぁ、年代にもよるけれど、実際は簡単なことだよ…っと、これで髪はいいかな、後は湯船に髪が浸からないように軽く結んでっと、完成」


 我ながら自信作が出来た。だけどお風呂上がったらすぐ解いちゃうんだよなぁ、なーんか残念。


 「では、お先に、入ってますね」


 リラはひらひらと手を振って、角のお風呂の隅に座った。


 「…ねぇ、アイシャ、これって大丈夫かな」


 「髪をセットしないと、明日の朝セット時間を短縮できるよ」


 「違うよぉ、民と触れ合うためにはああいう隅に孤立させちゃうのはいけないんじゃないの?」


 「あぁ、確かにそういわれればそうだね、じゃあ、レイラと一緒にやってくれない?」


 「「ゑっ?」」


 流石に、精神が男性にとってはそんなことできるわけないのは自明の理だし、億が一に後々ばれた時に何とか許してもらえるかもしれないしね…裸みている時点で許してもらえそうにないけれど、そこは成長したときに言いくるめが上手くなることを期待して。


 「いや、レイラちゃんとアイシャちゃんたちでどうぞ?」


 くっ、何このカウンター…っ!打ち解けたいからって名前呼びしたいって言ったのはお前だろうっ!!


 「あのっ!わ、私は平民なのでお二人でお願いします…」


 うわぁ、ギルドマスターの娘がなんか言っているよ、しかも、自覚していない顔だこれ。自覚がないこれが一番強いんだよなぁ。


 「仕方ない、恨みっこなしでじゃんけんで負けた人が一緒のお風呂に入るってことで…」


 「分かった」


 「……」


 「最初はグー」


 「「「じゃーんけーん…」」」


 「ではお二人ともよろしくお願いします…」


 レイラの一人勝ちであっさりと決まってしまった。


 (今考えたらレイラの運の値ってメインキャラの中じゃトップじゃなかったっけ?すっかり忘れていた)


 ViewChange リラ

 (な、なんで、アイシャさんと美奈さんが一緒の湯船に入るの!?精神男性の俺が、ガールズトークに混ざるのは流石にまずいからわざわざ奥の隅に来たっていうのに…いや、でもレイラさんが来ないのは不幸中の幸いか…問題は…2人がこの風呂の入り口にスタンバイしていること…これじゃあエスケープに目立ちすぎる…いったいどうすれば…)


 その後、にらみ合いは十数分続く事になった。

次回12月中旬予定

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