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第四部 四章 親睦の証

 View リラ

「本当に申し訳ございません、こちらからお誘いしたのに遅れてしまうなんて…」


 まさか、リエラと遊んでいるうちに時間がズルズルと流れていたなんて…それは確かに、自分の不注意が原因だけど、リエラもいけないんだよ?撫でるのをやめたら、可哀想な捨てられそうな子犬の眼で眺めてくるんだもの、あれでまだ撫でていないといけないって思うのは、仕方ないじゃない。


 「いえいえ、速めについてしまったのは我々なので、気にしないで下さい」


 美奈さんが、愛想よく振る舞って返事をする。その場の空気を読んだのか、エリックは音もなく部屋から退出する。


 「そうだ、私たち家からささやかですがお菓子を持ってきたんです。姫様が来たらみんなで食べようって話になって」



 そういうと、三人がポシェットやポケットの中からお菓子を出す。


 「わぁ、ありがとうございます。美奈さんのものはドライフルーツを使ったものでしょうか…?」


 「はい、ブラウニーです。ささやかながら私もお手伝いして作りました」


 「それは、とても嬉しいです。お二人は市販のものでしょうか?」


 「ははは、恥ずかしいけれど、僕のはブドウ糖タブレットで、暇があったら食べようと思ってたから、お土産にはならないけれど」


 「すみません、私も自分用としてなのでそこまで、大きなものでは…」


 「いえいえ、とんでもない、自分用でありながら、私に分けてくれるだけで嬉しいです」


 そこで、自分も用意したお菓子や紅茶があることを思い出した。


 「そうでした。私も今日の為に皆様のために取り寄せた紅茶や茶菓子を取り寄せていたのです。エリック!」


 チリンチリンと手元のベルを鳴らすと瞬時にエリックが隣に来る。その光景に三人はびっくりして小さい声を上げた。


 「皆様にお茶とお菓子を、皆様、何かご所望のお飲み物とかはありますか?」


 三人に聞いてみたら、せっかく用意していただいたものなら厚意に甘えてそれをもらいますと柔らかな笑顔で言ってくれた。


 紅茶やお菓子が振る舞い終わるとエリックはすぐさま退出する。


 「これは…!」


 紅茶を一口飲んだ美奈さんが、驚いたように目を輝かせる。


 「うわ、美味しい!」


 「これ、前に母さんが買って来たものなのに、全く違う…なんでこんなにおいしいの?」


 ほかの二人も口々に紅茶やお菓子のおいしさに驚いている。


 「茶葉がいいものかと…」


 そういうとレイラさんが口を開く。


 「そんなに高い茶葉でもなかったはずですよ?安くもありませんが…」


 その発言に続くように、アイシャさんも口を開く。


 「この茶葉、私のような中流貴族がよく飲むものなんだ、これは紅茶の淹れ方でこんなに香りや味も劇的に変わるなんて、びっくりだ」


 エリックは王国に使えてきた年月はかなりのものだこの身体、リラが生まれてくるよりずっと前からこの国で活躍するために色々尽くしてきたスーパー執事とでと言うべき存在だろう。


 「そうですか、後で、エリックに伝えておきましょう」


 「ええ、よろしくお願いします」


 微笑みながらしばしの時間が過ぎると、徐々に用意しておいたお茶菓子も底をつきそうになり、軽食としてお腹を満たした後、これからどうするか悩んでいるようだった。


 View Change 美奈

さて、エリックさんから受けた依頼だけど、どうやって切り出すか、直球に外に出かけましょうと言うか他愛のない話しから、さり気なく誘うかのどちらかだろう。


 実際、友好関係でいえば姫様の友達は私たち以外にはいないだろう。だから、直球に言っても承諾してくれるだろうが、普段、城で暮らしている姫様が素直に民と触れ合うことができるだろうか?何か、変装、とまではいかずとも、自然と触れ合えるような…そうだ!


 「姫様、その服この前のパーティーでもお召し物ですよね。あの時もそうでしたが、とてもよくお似合いです」


 「まぁ、お気づきになられましたか?」


 「えぇ、しかし、他のお召し物も見てみたいです。他にはどのようなお洋服をお持ちになっているんですか?」


 「あぁ…えぇっと…ほとんど…と言いますか全てドレスなので他の洋服は色が違うだけなのが多いんです。それでも、特注品ではありますが」


 やはり、そうか、城にずっといるという事は服や貴重品は特注かもしくは親と同タイプのものだという推測される。だったら…


 「そうですか…実は最近前まで来ていた服が黄ばんできてしまい、新しい服が欲しいと思っていましたの、どうですか?もし、時間があるのでしたら、今からでもご一緒にお買い物に行きません事?」


 眼で後の二人にも合図をし、それに乗るように誘導する。


 「そうだね、僕もそろそろ、ホットパンツだけじゃなくじーぱん?っていうものに興味があってね。ちょうどいいと思うよ」


 「わ、私も、皆さんの違う服を着た姿…見てみたいです。綺麗なんだろうなぁ、いや、綺麗に決まってます!」


 「そ、そう?でも、私、何処で服が買えるか知らなくて…」


 その返答も想定済み、その時のためすぐに調べられる道具が今、ポケットにある。


 「では、スマホで調べましょう。えーっと、近場で服が買える場所は…一番近いのは水瀬モールですね」


 「近場だし、値段も社交界から普段着もあるらしいし、そこがいいかもしれないな」


 「わ、わ、綺麗なふくがいっぱぁい…」


 「あ、あの、お城からそんなに離れていいのでしょうか?私、お城から出たことがなくて、今日だって、この別邸は昨日初めて来た建物で…」


 「私もついこの間、初めて外出しましたよ。このスマホもその時に買ったものですし、まだスタートラインは変わりませんよ」


 「僕も、お茶会と今日以外ではない…かな、うん、ないな」


 「私は、積極的に行くようなものじゃ…エイラ…あっ、妹の名前です、妹の世話で外出の機会はあまりなくて」


 みんながあまり外出をしたことがないという事を聞くと、安心したような顔をしているがまだ、本当にいいのかな?という顔を浮かべている。


 「折角再会したんですし、この機会に是非、趣味とかを探すのもいいんじゃないですか?」


 よし、今のは我ながらナイス誘導だ。


 「…そう、ですね。でも、一応エリックや、お父様とお母様にも連絡を入れておきます。皆さまも、ずっと一緒というわけにはいかないでしょう?」


 「あー、いえ、特にはいつまでとか言われていなくて…」


 「へっ?」


 「僕も僕も、遊びに行くとは言ったけど、まぁ、電話で連絡したら一泊くらいはいいんじゃない?」


 「え、えっ?」


 「私も…明日の「魔境どうでしょう」を妹と一緒に見る約束以外は…」


 「おっ、案外レイラちゃんってミーハー?ツンツン」


 「あうあう」


 からかうようにアイシャさんがレイラさんの頬を柔らかくつついている。


 「あれ?でもその番組って夜番組ではなかったかしら?私も毎週見てますが、確か次の特番だったけど、放送時間はいつもと同じ19時から始まるので、一泊できるのでは?」


 「と、取りあえず、皆さんの親御さんの許可を受けてからにしてください」


 数分後、三人の両親に聞いてみたところ、二つ返事でOKしてくれた。レイラさんの所に電話していたら、妹のエイラさんと思われる声が駄々をこねている声が聞こえたが、レイラさんが電話を替わりなんとかなだめたみたいだ。


 「では、早速水瀬モールに行くとするか、ほらレイラも姫さんも早く早く、美奈ちゃん服売ってるトコは何階?」


 「お洋服売り場は3階にありますね。地下高速を通った方が早いのでタクシーでも呼びます?」


 「車の免許ならエリックが持ってます」


 「なら、それで行こう!」


 再度、ベルを鳴らし、車の準備をするように指示をすると、それから数十秒で庭に小さな音だが車のエンジン音が聞こえた。


 三人を案内して、庭に出るとエリックが車のドアを開けてスタンバイしていた。


 「どうぞ、お先にお入りください」


 車はリムジンのようなものではないにしろ、そこそこ質の高いもので上級貴族でも手を出しにくい車種で、これを持っているのは王族と側室の身分だけだろう。運転席と助手席の他には話が聞こえないような、防音加工、揺れを感じ難い作りになっている。


 「では、参りましょうか」


 全員が車に乗ると、ゆっくりと安全な速度で発進した。


 「皆さんは地下高速道路に行くのは初めてですか?」


 「いや、僕は初めてだね。というか、みんな初めてじゃないかい?」


 アイシャさんが言いながら、二人を見つめるとコクコクと頷いた。


 「そうでしたか、しかし、あまり説明するところはないんですよね。お父様が発案してそこから、コツコツと作り上げたほか大陸への第二手段の移動方法としか…」


 シャリア王国は別名 星島大国と呼ばれている。大陸は地続きとはなっておらず、他国の移動手段が海路しかなかった。その為、作られた地下高速道路も割と深く作っており尚且つ地盤も改良に改良を重ねて貨物列車も通れるようになった。


 星島大陸の由来は島の周りに北、北西、北東、南東、南西方向に同じ大きさの島があり線でつなぐと星のマークになっていることからそう言う名がついている。シャリアという名も偉大なる星という意味がある。


 そのような事を考えているうちに道路を走っている車は、そのままの速度で走ると、前方の道路が斜めに傾き、地下に入った。


 「わぁ、いきなり地下に入った」


 「地下に入れる場所は限られていますが、特別パスがついた車なら設置されている簡易通行開道から入れるんです。わざわざ、カードを購入してつけるのを面倒だといってオーダーメイドする人がいたのでそれでこのようなものも作られたんですよ」


 まぁ、そういう市民の要望に答えてさらに、所有金額が増える一方らしいけど…


 「それよりも皆さん、私以外の人には名前で呼んでいるんですね」


 「ええ、レイラさんもアイシャさんも堅苦しいのが少し気になるので」


 「では、是非私も名前で呼んでください。私少し名前で呼んでくれることに憧れているんです」


 「憧れ…名前を呼ばれることが?俺…僕らでは名前で呼ぶことは当たり前だけど…」


 「私、立場で言われることが多いんです。でも、姫という立場ではなく対等な立場としてのリラ・エンジェルスとして、呼んでほしいんです。今までそう呼ばれることがなくて…でも、お城にいる以上そのようなことは、我儘のような気がして、だから…せめて外では…私の名前を呼んでほしいんです」


 「…うん、分かったよ『リラ』がそういうなら」


 「僕も、いいよ、『リラ』の可愛い我儘くらい聞こうじゃないか」


 「あ、あの、私が姫様の名前を言って、喜ばれるなら…『リラ』…さん」


 「あ、ありがとうございます!」


 この日、四人の少女は車の中で名前で呼び合い、歳相当の笑顔で話し合っていた。


 「…くーっ」


 「んんっ…」


 レイラがまだ眠り足りなかったのか、また眠り、美奈さんの膝枕で寝てしまった。アイシャも眠りがうつったように私の膝枕で仮眠を取っている。


 「ふふっ可愛らしいですね」


 「いつも、はしゃいだり、大人びた態度を取るのは私もですが、子供には辛いですからね」


 (今、私も、とか言っちゃったけど、わざとらしくなかったかな、前世の話とかは絶対に言わない自信があるけれど、どこかで関係する地雷が潜んでいそうなんだよなぁ)


 View Change 美奈

リラがそわそわした表情でアイシャさんを撫でながら、微笑んでいる、こういうのは何て言うんだろう。クールっぽさと可愛さが合わさったような…クールビューティとは違うんだよな、ビューティというかキュートの方が似合う表情だ。


 「…?美奈さん?」


 少々、見つめすぎたようだ、少し首を傾くと銀色の髪がサラリと揺れて流水のような滑らかさがその髪色が現実味がない事を物語っているようだ。


 「いえ、すみません、リラの髪って珍しい色でいい個性だなって」


 「えっと…ありがとうございま…す?」


 「リラの髪って陛下と王妃陛下のどちらから受け継がれたんですか?」


 「あー、実はお父様とお母様は互いに金髪なんです。お母様は黒に染めてますけど…」


 「それで、銀色の髪を持って生まれたんですか?すごい…珍しいですね」


 「あ、あはは、でも、先祖様が銀色の髪を持っていた、なんて話もありましたから、その血を多く引いたのかなーって」


 そういえば、この国では純銀は白銀よりも価値があるんだっけ、昔、それが目的で密輸とかの組織が銀を安く仕入れてこの国で高く売りさばくとかそういうのがあったらしいけど、今はそれを狙う人ことごとく罪を暴かれるから、そういうの今じゃあ余程のバカでもない限り狙わないんだけど。


 「それにしても、ショッピング楽しみですね。リラにはどんな服が似合うかな?白いワンピースに軽装な運動服、ロングスカートにフリフリな衣装もどれも似合いそうです」


 「言い過ぎですよ。そうだ!せっかくですからみんなでそれぞれ三着ずつその人の服のセレクションをしてみませんか?」


 そういうと、仮眠を取っていたアイシャさんが突然起き上がった。


 「それ、イイネ!」


 「わぁ!びっくりした」


 「ははは、ゴメンゴメン、実は銀髪の下りから起きてたんだけど、タイミング逃しちゃってさ」


 「そんな、途中で話しを折っても構いませんのに」


 「そっちは構わなくとも僕が構う、コミュニケーションは大事にしないとね♪っとそれはそうと、服をセレクションするんでしょう?面白そうじゃん、みんながそれぞれの人に何が似合うとか、センスが問われるんでしょう?」


 「まぁ、そうですね」


 言っちゃった、わざわざハードルを上げるようなことが口を滑らせてしまった。


 「でも、さっき言った美奈ちゃんのセレクションはいいかもね、姫様に白いワンピースなんて、そこにビーチサンダルや海の背景にしたら、とっても似合うに決まっている。銀髪に太陽の光が当たって海の光とマッチしそう!」


 「あー、確かにそうですね」


 「いやー、今からすぐにつくけど楽しみだなー、みんなはお…僕にどんな服を選ぶのかなーフフフッ」


 「…あの、アイシャさんって一人称は俺なんですか?」


 「えっ!?」


 「あっ、私もそれ思いました、ボクとも言ってましたが何か理由でも?」


 「あぁ、俺の屋敷にはママ以外に女性がいないんだ、執事しかいなくてね。だから、昔から世話をしているランクや他の執事の一人称が移ってそれが癖になっちゃったの、でも、ママが可愛くないからせめてボクにしなさいって、でも、癖はそう簡単に治らないからたまに言いよどんだり、テンション上がると素の一人称が出ちゃうんだよ」


 「それは…何とも珍しいんですね」


 「でも、ボクッ娘なんて初めて見ました、実在しているんですね」


 「少し嫌味にも聞こえるかと思いもしましたが、アイシャさんは声もきれいですし、似合っているかも」


 「そうかな?男っぽいって少し、いやに感じない?しゃべり方もガサツみたいだし」


 「いえいえ、それも立派な個性だと思いますよ、レイラさんなら…謙虚過ぎるところとか、ですね」


 「…ボクが思うに謙虚じゃあなくて、ネガティブな感情が浮き出ているだけに思うけど」


 「あっ、水瀬モールの看板だ。そろそろつきますよ」


 「じゃあ、起こさないといけませんね、でも、もう少しだけ寝させてあげましょう」

次回10月末予定

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