第二十八部 二章 魔法とスキルについて 基本編
理事長の話が終わり、少し気疲れした後に教室に戻ってきたら、他のみんなが少し心配そうな顔で視線を向けてきた。
「おかえりなさい。美奈さん……なんか凄い疲れた顔をしてませんか?まさか、何か重い処罰でも…?」
リラにそう言われて顔を触るが触覚で自分の顔を見ることは出来ない。
「安心してそういうのは無いんだけど、理事長はこの学園の一番の権力者でしょう?2人きりの会話は少し緊張しちゃって、気疲れしちゃっただけ……少し座って休めばすぐに回復すると思うから気にしないで」
自分の席に座って頭を机に置くように着けるとレイラが開けっ放しの口に何かを入れる。少しの甘みと清涼感が口の中に広がる。
「気休め程度のやつだけどレイラ特製の栄養飴だよ。数分程度ですぐに溶けるから、先生達にもバレることは無いと思う」
「ありがとー、少し回復したよ」
こういう事をしてくれるレイラは本当にいい子だし気配りも出来る。前世で出会っていたら時間はかかるが告白していたかもしれない。もちろん、一番の障害は人見知りの症状だけど、それを除けばほぼ完璧と言ってもいいと言える。
(……ごめんなさい。正直半分以上は美味しいご飯が毎日食べられる理由で告白したいと思っちゃって本当にごめんなさいレイラさん!)
理事長は結構オブラートに包まずにボコボコに口撃していたけれど、レイラは人を見る目は大人と比べても一回り違うし、模擬戦で見せた状況からの瞬時に判断する行動力と素早さ、それを見ると駒として動かすのは難しいが、俺よりもあの提案に適した人物と言える。
もちろん、他の2人にも同じようなものが言えるが、そこは理事長が言う通りなのだろう。アイシャはバリバリの武闘派なのは戦闘面でその実話し合いや駆け引きで言えば頭脳派だった。それを考えたら多分理事長の発言に穴を見つけてそこを広げて攻守を逆転させていただろう。
リラの場合は国一の権力者であるがゆえに駒としては一番不適切で学園に通っている以上、上手く動けないのだろう。バトルアリーナで優勝したグループは時間とともに人気が落ち着いて行くがそれが有名人なら盛り上がりが再び上がる可能性がある。それの対処とともに監視を続けるのは心身ともに疲労が溜まるのだろう。
アイシャの方は行動範囲が広く自由に動き回る事が可能で、リラはその分の人脈や上手く人を動かせる才能を持っているが俺が選ばれたのは怪しまれない一般人だと思われるからだろう。
特待生というだけで一般も何も無いと思うが、だからって他の学年や違うクラスや付き人の使用人が毎日のように教室にいるのは不自然だしクラスメイトが毎日つきまとうように絡んできたら更に怪しまれる。
そのために一番家柄も能力も総合して平均的スペックが標準な俺に回ってきたんだろう。女を選んだのはそれこそ怪しまれないからだと思うが……どこか理事長の趣味だと感じるのは気のせいだろうか…?
そう考えていると予鈴のチャイムが鳴り、それぞれ思い思いの場所で話していた生徒が話を切り上げて自分の席に戻り、教科書を取り出し机に広げる。
俺たちは既に電子版をタブレットに入れている為、わざわざ色んな物を取り出す必要はない。
少しして授業開始のチャイムが鳴る数秒前にアンドレ先生が教室に入り教卓の前に来た時に丁度チャイムが鳴った。
「さあ、みんな勉強の時間だよ」
『はーい』
「良い返事だね。十分模擬戦の疲れも取れたようで何よりだよ。さて、最初の授業はさっきしたばかりということで魔法やスキルの基礎的な事を覚えるとしよう」
先生はそう言うとポケットからリモコンのような物を取り出して操作するすると部屋の電気が薄暗くなってプロジェクターのようなディスプレイの画面が表示される。教卓も邪魔にならない位置に移動して先生以外の顔はぼんやりとしか視認できない。
「知っている人もいるけど、改めて説明させてもらおうか、スキルや魔法はその人が使う武器や元素を操る技能だ。それぞれ素質や細胞、1つ上げればキリがない程の物があるが、それを持つことで奇跡に似たことを意図的に起こす事が出来ると言える。これは人間が様々な努力をして試行錯誤を繰り返して行うことができた。それだけ人間が賢いと言える事だろう」
先生は自分の自慢話のように人間の素晴らしさを入り交えながら話を続ける。
「魔法はそれぞれ、大まかに分けて4つの属性を持っている。火、水、土、風、大体がその4つに分かれている本当は他にもあるけれど、今回は基礎という事でそれは別の機会に説明しよう」
属性の事は多分俺自身が一番理解が深いだろう。その4つの属性を使えるのはこの特待生クラスでも俺が唯一だからだ。
「魔法を使うのに一番必要なのは何かと言えば魔力だと言われてるが実は少し違う。魔法を使い際に魔法の名前をいう事が何よりも重要だと言える。「ファイア」や「ウインド」がそれに該当するな」
その発言に1人が手を上げる。するとその挙手をした生徒にライトが動き照らす。すると先生が指摘する。
「魔法は属性によって素質があるますよね。僕は土属性しか使えないのでそれ以外が使えないのに名前の方が重要なんですか?」
「良い質問だね。だがそれは少し違うかな。君が言った通り4属性の魔法は誰でも使えるのではなく素質がある重要となったのは魔法を「使う」場合と「操る」場合で違う。君が言った素質は操る際に重要なものであり、使う際にはほとんど意味を持たない。というのも使う魔法と言うのは名前に意味がありそれに込められた思いが魔法と言う形で現れたことを指す。頭の中のイメージだけでも魔法は使えるが意味も思いも曖昧なものでは不完全な効果であり、何も起こらなかったり制御が大雑把なものになりがちになる」
「使う際と操る際、場合によって何が重要か変わるということですか?」
「その通り、基礎は魔法を使う事という事で操るのは今回ではやめよう。もし、授業時間が中途半端で終わったら軽くその話題にも触れるとするか」
この知識は俺も初耳だった。魔法には使う属性に素質が無いと使えないのは知っていたが使う魔法と操る魔法は同一のものだと思っていたし、それに複雑なものだと思っていなかったというのもある。
「魔法には素質が必要だと言ったが、1つ例外がある。それは4属性に分類されていない無属性と呼ばれる魔法だ。模擬戦でもこれを使った人が何人かいただろう。例外ということから様々な効果でその種類は多種多様、身体を強化したり、気配を察知するのがよく見るな。これは素質の有無問わずに発動できるがそれの習得には時間がかかる。教えてもらってすぐに出来るようなものではないという事だな。中には物心ついた時には使えたという人も少なくない事から、無属性魔法にはまだ判明していない部分がある」
無属性魔法は4属性を使うキャラも使うことが出来る。さっき言ったように強化系が主だった。強い敵と戦うときやターン経過でギミック解除の時にひたすら強化して起点を作り、超火力を叩き込むのが主流として使う人が大半だった。
中には迷宮やダンジョンで使える物もあって、魔力が低く魔法をほぼ持たないキャラに無属性魔法を習得させてダメージ地形やマッピングをさせることもあった。
「でも、魔法は誰でも生まれた時から使えるというわけじゃないのは知っているだろう。魔法は生まれたばかりでは発現できない。成長していくにつれて素質が開花してそれを伸ばしていく事で魔法は自分の物として使えるんだ。そのピークとしては君たちの年齢から8歳、約2年に魔法が開花するらしい。後魔法が使えないからって、魔力を持っていない人はあり得ないんだ。使いすぎて魔力が空になった事はあるけれど、永久に魔力がなくなる事もない。魔法が使えないという事は素質がなかったという事になるな。これが魔法における基本的な事だ。理解できたかな?」
その後に質問をした生徒がいたがどれも応用編の質問だったらしく、今は長くなるの一言で一蹴されてしまった。
「次はスキルについての説明だ。スキルは魔法と似ているが、一番の違いは魔力を使わない戦闘の中で蓄積する経験とテクニックを使うという事だ。模擬戦では俺が使っていた。あれがスキルの1つだ。武器や体術と合わせて使う物もあれば武器一本や体術のみで使うスキルもある。剣術で言えば振り下ろした後に振り上げて2回の攻撃を繰り出したりするのもスキルに含まれる」
さっきの魔法の時よりも少し早口で心なしか饒舌になったような気がする。それは俺だけが感じたことではなくて、ノートに書きこんでいる生徒のペンを走らせる速度が少し速くなっている。
「最初にスキルは経験を使うと言ったが個人で使う武器は違ったりするだろう。剣を使っていたが試しに槍を使ってみたら、剣よりも自分に合っていて剣よりも手に馴染んだり、他にも近距離の武器より遠距離武器の方が自分に合っているとか、その何が自分に合っているのかとかは色々試して見るといい。職員室に訓練場の使用許可を取れば武器倉庫の訓練用武器もいくつか取り出してくれる」
一応、体験版で全キャラの適正武器は把握している。だが製品版では少し違う場合もあったからそこが少し懸念されるところではあった。だが、俺は魔法特化の後衛タイプ、杖以外の適正は低くなっている。もし上方修正されていてもそれは本当にほんの少しで戦法が変わるわけでもない。
「その武器を使った技能がスキルと言える。自分でスキルを生み出すことも出来る人もいるぞ。もしかしたら、その人の流儀が後世に残る事もあるかもしれないな。既に色んな人に伝わっているのも多いが、それはまず、スキルの基礎を出来るようになってからやる事だ。半端な基礎知識では上手くいくはずもない」
この事は恐らくスキルレベルの事を言っているのだろう。魔法とは違いスキルはスキルレベルというものが存在してスキルレベルを上げるとダメージはもちろん、スキルによって会心率や連撃回数、追加効果、バフ効果が付与される。半端な基礎知識=スキルレベル1という事だろう。ちなみにスキルレベルは最大10だが、10の場合数字で表示されるのではなく☆マークで表示されていた。
「よくある事なんだが、スキルだけで戦おうとする人にはその戦い方はオススメ出来ないと言っておこう。むやみに敵を見た目で判断して高火力な技を使って実はその敵はその高火力技に対抗、例えば物理や属性耐性がある時に無駄打ちしてロクなダメージを与えずに反撃を受けてしまうリスクがある。模擬戦でもそういう場面があっただろう」
そこでなぜ先生がまず模擬戦を行ったのか理解した。最初にこのような座学をしてもそのイメージが想像しにくいという事なのだろう。予め実戦形式を行うことで見学から実物を見せた後にこのような説明をする事で模擬戦を振り返りどのようなものだと理解させる事で理解を深めて分かりやすく誘導している。
「そういう場面はパーティーを組むというのがやはりいいだろうな。魔法とスキル、どっちが相手に効果的かこの魔法、スキルは悪手かもしれない。とかそういう事を補い合うのが一番だ。初見の敵や新種の魔物には小手調べとして魔法やスキルに相手がどんな反応を見せるのか、観察も実践では重要だ」
そこでまた生徒が手を挙げると先生が指名する。
「もし、敵が全ての攻撃に耐性がある場合はどうすればいいんですか?」
「それも中々良い目の付け所だね。でもそれはこの科目では関係ないが…少し時間が余りそうだから簡単に説明しよう。極少数ではあるがどんな攻撃にも耐性がある魔物は存在している。そんな時はあえて戦わずに逃げるという手もある。もちろん、行く手を塞いでいる場合は倒さなくてはいけないが、目的地に行く時それに出くわした時はその戦闘を回避するために逃走して目的を少しでも早くこなす事に集中するのが重要な時もある。もし、倒さなくてはならない時はアイテムに頼ったり高火力技を叩き込むのもいいだろう。生物学の授業の時もいうが時と場合、ケースバイケースが大事だと言っておこう。これ以上は別の授業の時に話す」
その話であのクソカラスの事を思い出す。一応、ドロップする素材で作る装備品は強かったがそれに見合う戦闘の労力と時間が割に合わない。会心や高火力にもよるが反撃に相手に手番が回ること自体が危険である為、逃走を確定で成功させるアイテムは最低でも5個は持ち込んでいた。
あのクソカラスは逃走成功率に関与する敏捷が高く装備で完全に敏捷極振りをしていても逃走成功率は15%均等にステータスを割り振っていたら小数点以下になってしまう。それ程に強く硬い敵だった。
「ふむ…基礎的な事は一通り話したが、やっぱり時間が余ったか…応用も説明してもいいがそれは基礎とは比較にならないくらい長い話になるし、一気に言うと混乱を招く可能性があるな…それじゃさっきの質問の時に少し説明した魔法の属性と使う魔法と操る魔法についてもう少し詳しく説明しよう。一応、同じ話をするからここからはノートに写さなくても問題ないとだけ言っておこう。テスト範囲外というわけだ。覚えておけばちょっとだけ実践に置いて楽になるかな」
「じゃあ、その魔法の話しでは私が説明するわね」
いつの間にか教室の後ろにいたレレイ先生が注目を集めてアンドレ先生の隣に行くと話し始める。
「先程言った4属性の魔法はどれもある魔法から派生した魔法でその魔法は原初の魔法と言われる魔法なの、みんなよく絵本で手が光って傷口をなぞると傷が治るっていうのを読んだことがあるでしょう?その他にも全てを飲み込む光に対抗するために暗闇の力を宿して立ち向かうという物語もあると思うんだけど、それは原初の魔法をもとにした物語なの。私たちはその原初の属性は「光」と「闇」と呼んでいるわ」
原初魔法、シリーズ初期から主人公のみが使える2つの属性、生まれつきの加護と言うべきか真反対であり、酷似している魔法は4属性の魔法の基本となる魔法で古代人は誰もがそれを扱えたと言われているが時代が進むにつれてその力は徐々に衰えていき、その代わりに4属性の魔法は発展していったと言う。レレイ先生が説明しているのはファンブックに記載されているものと違いはあまりなかった。
「そして、使う魔法と操る魔法の詳細ね。時間的にこれが丁度、終了時間とピッタリになりそうね。パパッと解説するわ。使う魔法はさっきアンドレ先生が言った通り言葉に込められた意味と想像から現象として発動する際に魔力と言う代償を払って起こす物でありそれとは別に操る場合は人特有と言うべき素質が関係する事で操る魔法は身体に既に宿っているものであり1人1人違う素質を持っている。過去の事例で言うと双子が生まれるとその2人とも同じ魔法の素質を持っている事が多いのだけどその双子は片方が土、もう片方の素質はというと何と風、そのような前例がある。その親はどちらも水属性の素質があった。その事から魔法学に精通した学者は使う魔法と操る魔法に根本的に別の原因があるのではという結論を出したという事ね。まだその先を今も論文として纏めたものがあるけれど、それを言うと…」
その言葉を遮るように授業終了のチャイムが鳴った。すると薄暗い部屋がすぅっと明るくなりプロジェクターの画面も消える。
「と、今日はここまでね。それじゃあ、今日の授業はここまで、明日の持ち物はこのプリントに書かれているから実家通いの人はここから持って行ってください。学生寮の生徒は寮の方に転送しておくので忘れずに確認しておいてください」
先生達はそれだけ言うと最低限の荷物を持って教室を出たのを確認して半ば置いてけぼりをくらった生徒たちも校舎を後に帰っていく。
次回11月中旬予定




