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第二十八部 一章 入学許可証

 模擬戦の後、説教中にレイラがスイッチの反動から立ち直ったようで昼食前に終わったというのもあり、教室に戻ってすぐに持って来た弁当をみんなで囲って食べる。


 「うん、今日もとっても美味しいよ」


 「ありがとう、こっちも作り甲斐があって嬉しい」


 「ですが…やっぱり少し申し訳ないです。毎日作るのって大変じゃないんですか?」


 「まぁ、最初は自分以外の人がいるので2人や3人くらいは問題ないと思っていたのですが…」


 そこまで言いかけて、視線をさっきから他のクラスメイトも自分の昼食よりも目を引く物に視線が奪われているようで、昼食中にチラチラとその光景に目を疑っている。


 その先にはお重箱が10段以上にも重なっている特大の弁当箱、それをバクバクと一体その量がどこに入っているのか、既に5段が無くなっているのに体型もお腹が膨らんでいるようにも見えず、そして何よりも幸せそうに食べているアイシャの姿があった。


 「…アイシャ、確か、具合が悪くても3段ぐらい食べているんだよね…?」


 アイシャはそれに答えずにコクリと頷きながら食べている。唇の端にご飯粒がついてもすぐに舌で掬うように口内に消えていく。


 そう言いつつも高校生の頃は育ち盛りと言うべきか自分も少し自分でも自覚しているくらい食べていたがレベルが違いすぎる。今日はレベルの違いに驚く事ばかりの日だ。


 現実的に目を向けるとよくハーン家は多くの執事を抱えて食費も他の費用も賄えるほどのお金を持っているのか不思議で仕方ない。


 この国では、キチンと貴族の中でも爵位と言うのがあり、その事を鼻にかけて文句を言う生徒も珍しくない。そのような事は節度を持って言いくるめたり説得力を持つ口八丁手八丁で上手く対応出来ている。


 その中でもこの4人では王族である俺、エンジェルス・シャリアがトップでハーン家、その後に千麟、オーガスタ・キャロルと続いている。さっき家柄から我儘をいう生徒がいると言ったがそれはごく少数でほとんどの生徒がとても行儀良いと言えるだろう。その理由として爵位などで他人を見下したりするような者がいないというのもある。


 詳しくはないがこの国では貴族は貴族としての振る舞いとして誰に対しても平等な対応をするように会社で言う研修のような事を定期的に行いそれを自分の子にもそのように教育の一環として伝えるという事が黙認とされている、爵位はただの装飾のようなものでその国ではあるようで実際は何の意味も持たない。敢えて言うのなら他の貴族よりお金を多く持っているというだけだ。


 だが、実際に家のお金で言えばレイラの家がほぼ同じ額でアイシャの家と同じ額、それ以上になることもある。それなのに豪邸も持たずに生活するのに不便が無いような一軒家で暮して爵位も頑なに断っているようだ。


 「異常と言えば異常だけれども、極東の方ではこのような暴食する異形の者を妖怪と言うらしいよ」


 「もぐ…もぐ…んんっ…酷い言われようだね。別にいいけど、量に着いて言われるのは慣れているしもう聞きなれたよ。妖怪だなんだっていうのは初めてだけど、僕からしてみれば他の人の方が小食に見えるけどね」


 「まぁ、作り甲斐があるので嫌とは言わないよ。時間がかかり過ぎなければいくらでも作るよ。料理は試行錯誤してその味見をしてくれる人も必要だし」


 「アイシャの場合、材料の時点で食べようとするかもしれないからそれを止める人としてスペース取るよ。と言うかさっきは妖怪だのなんだの言って気にしていないように気休めの言葉って…さっきの模擬戦で情緒が不安定になってない?それとも反動のせいで…?」


 「反動って…何の話?そう言えばあの後、席に戻ろうとしたのは覚えているけれどそれからの記憶がおぼろげで…あれ?目の前に保険医の先生がいたのは覚えているけどその後に廊下に…あれ?」


 「……いやぁ?緊張しっぱなしで覚えてないなぁ?2人は何か覚えている?」


 「もぐもぐ…あの時は自分の事で精一杯なんだよ。非情だと思われるが他の事に気を遣う暇なんて無かったしな」


 「それが非情と言うなら私もそういうことになるんでしょうね。とはいえ強烈な出来事はそれが強ければ強いほど逆に忘れやすくなることがあるらしいですよ。今回が偶々私たちがそれに当てはまるんじゃないんですか?」


 「…ふぅん?まぁいいや、覚えてないのを思い出すのも時間をかけてするものじゃないし、人の心は知っているようで誰でも簡単に読めるものでもない以上、結果が出ない議論に花を咲かせる必要もないね」


 「本当にその情緒不安定さに問題がないのか先生に診てもらった方がいいんじゃないですか?」


 「心配して貰っているのはありがたいけど、自分の事は自分がよくわかってる。そしてそれは自分で解決できるという事も知っているから後は時間に解決してもらうことにするよ」


 「…………」


 「うわぁ!ど、どどどどうしたの?」


 いつの間にかこちら側に視線を移していたのか2人の女の子が前の席から覗き込むようにして見ていた。


 「あ、ごめんね。つい美味しそうな匂いがして……それ手作りなの?見た目も美味しそう」


 「おいしそー」


 「ぼ、僕のはやらないぞ!食べたいのならレイラに直接頼め!」


 「アイシャ、直接は無理だよ。私達の場合は例外中の例外で普段なら最低でも数週間繊細な計画をしないと目も合わせられないほどコミュニケーションが取れないのはレイラの友達なら既に分かっているはず」


 今のは不意打ちをくらってつい言葉が出たというだけなのはレイラの口がさっきの驚きから口をパクパクして一言も発せない事から分かる。さっき美奈が言った例外中の例外とは入浴した時、のぼせたことから心配が緊張を押しのけて3人を助けた事。レイラには妹のエイラがいる。もしかしたら、エイラも同じ様な事があってそれと似た状況だったからあの後すぐに言葉を交わせるようになったのかもしれない。


 だけどそれを考えたら、あの時は友達としての会話ではなく妹と交わすような会話であってその様な扱いを受けたという事になる。


 「だから、欲しいなら私から後でレイラに頼んでみる。それだけじゃない。私のレイラ弁当からタコさんウインナーと卵焼きを1つずつ上げる。どうせ夕飯にはもっとおいしいご飯を作ってくれるし、1つずつ上げても残り2つあるから特に問題ない」


 美奈はタコさんウインナーに刺さっているプラスチック棒でそれぞれの口の中に運ぶ、キチンと「あーん」と言って落としてもいいように手を下の方にしながら、一口食べると2人の顔が、ぱぁっと明るくなり、ねだるように口を開ける。


 次は卵焼きを上げようとしていると雛鳥が親鳥から餌をねだるように口を開けて目で早く早くと急かしている。


 両方をぺろりと平らげた2人はそのまま席を立つと身体をこちらに向けると軽くお辞儀をする。


 「ありがとう。とても美味しかったよ。朝の出席確認で名前は知っているかもしれないけど、自己紹介をさせてもらうね。アタシは一文字 杏って言うんだよろしくね」


 「わたしは十文字 冥よ。料理上手なんだね。いいお嫁さんになれるって憧れちゃうなぁ」


 「杏さんに冥さんですね…うん、覚えました。私は―」


 「もう知っている。そもそも姫様の名前も顔も知らない方がおかしいもん」


 「あのバトルアリーナで優勝したパーティーなんだからだからみんな知っているし」


 「「ねー♪」」


 2人は仲がいいのか顔を見合わせてお互いに同じ様な反応を見せている。顔も少し面影が似て特に目元は双子と間違われてもおかしくない程に瓜二つだ。逆にそこ以外は同じ制服を着ている以外はあまり似ていない。


 「お二人はどういう関係何ですか?随分と仲がよろしいようですが」


 「アタシたちは本家と分家の間柄なんだ。名簿を見た父が気付いたようで、一昨日に連絡して知り合ってお友達になったんだ」


 「まだ入学する前から本家の人は素晴らしい人だって言われていたからどんな人なんだろうって言われていたんだけど、同じクラスにいるなんてびっくり、でもお話通りきれいな人でもっとびっくりしちゃった」


 そう言って少し照れくさそうに自分の頭を撫でた杏のぎこちなさそうな笑顔に不思議と笑顔が移ってしまう。


 「分家っていう事はお家が結構有名だったり偉い人の家系だったりするの?名前からして私と同じ極東の島国の出かな?」


 「そうだね。何百年も前からの武士(もののふ)の家系でそれなりに権力というよりは強い力を持っている。いくつかのコミュニティの責任者というのもあるけど、色々とね」


 「アタシは一文字で冥は十文字という事はもちろん他にも分家があって二文字から八文字の性もいるよ。この学園にいるのはアタシ達の血筋を持つのはアタシ達だけみたいだけどね」


 2人はそう言ってハイタッチを交わす、その姿はまるで双子みたいに以心伝心しているようなシンパシーを感じる。


 気がつけば既にお昼ご飯の時間は終わりお昼休憩の時間になっていた。アイシャのお重箱の中身も空になってそれをレイラが片付けたがその箱はどこに消えたのか一瞬で空気に溶けたように消えた。


 そして、2人と段々と話で盛り上がろうとしたときに校内放送が流れる。


 『初等部特待生クラスの千麟 美奈さん、至急理事長室にお越しください。繰り返します…』


 「えっ?私?」


 「どうしたんでしょう?しかも理事長室ですか…」


 「もしかして、あの模擬戦で何か大変な事でもあったんじゃねぇのか?」


 「そ、そそそそれじゃあ、レイラ達も呼ばれなくちゃおかしいけど……」


 「…でもなんにせよ行かなくちゃいけないよね。ちょっと行ってくるよ。えーっと理事長室の場所は…」


 美奈はタブレットで理事長室の場所を確認して教室から出ていく。一応理事長と自分達は面識があるが友好的ではなくまだ知り合いってほどでもない、赤の他人以上知り合い未満の関係と言ったところだろう。その関係による呼び出しに少し疑問を抱くが呼ばれていない自分達も同行するのは不自然だし、少し心配だが、見送るしか出来なかった。


 View Change 美奈


 「えっと…この先か」


 タブレットで理事長室の近くまで来た。初等部から別の棟にきたが、そこは職員や教授が講義などで使うプリントや教材が保管されている倉庫が多く、ほぼ全部の部屋のプレートには保管されているだろう講義のタイトルの名前が書かれている。


 もちろんそれだけでなく職員室や臨時職員待機室という多目的部屋を使った部屋もある。その棟の二階の奥に理事長室がある。職員が行きかう廊下を抜けながら、理事長室の扉をノックしながら、何の呼び出しか少しの不安を抱えながらもその扉の奥からの返事に扉を開く。


 「やあやあ、久しぶりだね。まぁ入学式で何回か目を合わせた事を考えたらそれを入れたら全く久しぶりじゃないんだけどさ、二人きりとなると初めてなんじゃないか?それはそれとして本題に入る前に座って座って、リラックスする紅茶でもどうだい?」


 「…紅茶は貰いますけど、要件があるから呼んだのでは?」


 「もちろん、そうなんだけどそこは大人の事情…ではないな。君たち4人の誰かを呼ぼうとしたんだけどアイシャ君はこっちの本心を探ろうとカマをかけまくって話が進まないし、リラ君は王城で暮らしていた事からこの要件を難しく考えて時間を掛け過ぎてしまう。レイラ君は論外、話し合いも出来ないボウフラなんてお尻を拭く紙よりも役に立たないだろう?もちろん君にも話し合いに置いて減点する所はあるけど、それでも平均的の中ではやや高めの点数だからさ、君が適任なんだよ」


 「あの、一々長話をしなければならない理由でもあるんですか?私にも休み時間は有意義に過ごしたいので簡潔にしてほしいのですが」


 「あはは、そう言われても少し特殊な問題でね。君たち特待生達にとっても関係ある事だから詳しく説明しなければいけないのさ。もし仮にYES or Noで答えてって言われても後で「なんで?」って理由を聞く人が多いから予め詳細を言った方が後々便利だろう?まぁ、相手の興味が持続しないという短所もあるが、一長一短を天秤にかけるのは得意だと思っているよ。ちなみにこれは人に言われて気付いた事だ」


 理事長はそう言うとソファの後ろに手を伸ばしてクリアファイルを取り出すと中身をパラパラとめくる。そして、2枚の紙を取り出す。一瞬だけ見えたその紙には「編入」の2文字が見えた。


 「実は入学式が終わったばかりだが少し気になる子たちがいてね。これはその子らの編入許可証のコピー、原本は今彼らの親か本人が大事に持っているだろう。そして2枚目は彼らの詳細な情報を纏めたものなんだけど、君は色々な文字読めるよね。まぁ、読めなかったら聞いてくれ」


 進められるがままにその許可証を見る。許可証の方は特に何の問題も無く「下記の者を、ヴェルスター学園の入学を許可するものとする」という文言と理事長の直筆のサインとこの学園の印がおされている。


 そして、その二枚目を見るがそこに書かれた名前を見て思わず声が漏れる。


 「ぁっ…!」


 小さな呻くような声だったが、バッチリと聞こえたようで理事長はニヤニヤとまるで悪戯が成功した子供のように見つめてくる。


 「どうやら気になる所があったようだね。目の色が変わった」


 そう言って自分の分の紅茶を二口程飲んで俺の次の言葉を待っているようだった。だが、その名前と顔写真を見て言葉を詰まらせてしまう。何故ならその顔と名前は300回以上いや、それぞれのセリフの総数を合わせると4桁にも及ぶ回数見た名前だからだ。しかも、2人目の名前にも見覚えがある。無いとおかしいと思う程のものだったからだ。


 「彼らは……彼らが使う魔法は…………」


 既に理解はしているが恐る恐るその使用可能魔法の欄に目を向けるがそこに書いてあったのはお互いに一文字だけ、しかし、その文字は誰もが驚愕する文字だろう。ヴェルスター学園はこの世界では知らない人がいない程の超がつくほどの有名校で非常に高度な教育をする難関校としても世間でも有名な学校だ。そこに編入するなんて制度的にも不可能と言われている。しかし、この入学許可証、それも特待生クラスに編入する事が出来る理由がこの使用可能魔法に関係する。確かにこの魔法を使う人間は限られているどころか、今ではどのような宝石よりも価値があり、希少性の高い物であり世界でも現存するものは数えるほどしかないものだ。


 「…なるほど、そういうことなら、わざわざ長話をした理由も私たち4人ではなくそのうちの1人に絞った事も理解しました。しかし、何故私にその事を?年齢も変わらずそれに編入と言うことなら誰にも言えないどころかうちのクラスなら全員がすることになります」


 「もちろん、それだけなら問題ないんだけどね。この子達を知るにはそれなりに色々準備しなくちゃいけないし、それを行う物も運が悪い事に手持ちがなくてね。そういうときの代用品が「動かせる駒」なんだよ。残念ながら、今はそれも多くなくて丁度補充したいと思っていたんだ。そして、これは私だけでなく君のためにもなるからね。互いに利がある話だと思うよ。その顔をしているのが何よりの証拠」


 「理事長は人を駒として扱うのがお上手ですね」


 「という事は」


 「はい、その話承諾します」


 「よし来た!それじゃあ、その時を楽しみにして待っていてくれたまえ。あっ、話したいときはこっちからこれに連絡しておくから持っておいてね」


 そう言って理事長は何かを投げ渡してくる。指の隙間から零れ落ちそうになるのを慌てて掴むとそれは今自分が使っているのと全く同じの機種、同じカバーのスマホだった。見比べえてみるとパッと見て違いが分かるようなものでもない。


 「それじゃあ、頑張ってね」


 そう言って理事長はひらひらと手を振って退室を促す。

次回10月末予定

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