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第二十七部 四章 熱は余熱でも熱いもので

 実は昨日からずっと、今日の模擬戦でどのような戦いをするのかを模索していた。俺が使う魔法は氷と雷の2つが主で氷の方が汎用性が高く、使用回数は雷と比べて明らかに多い。とはいえ、雷が氷よりも使用回数が少ないからという理由で使える魔法が弱いというわけではない。


 むしろ雷は戦いにおいては氷魔法よりも圧倒的に高火力として重宝するだろう。これは公式で明言されている。隠しパラメーターというもので魔法の威力の項目で属性補正というものがあり、使う魔法で敵の耐性や弱点の関係なく与えるダメージが使用魔法の属性により変動するというものだ。


 その情報によると一番高威力の魔法は光で2位は闇、どちらも主人公が使える属性の為当たり前と言えるが雷は3位になっている、比較動画を見てみたら光属性の魔法よりは弱くはあるが、それでも威力は強く、消費魔力が大きい魔法なら単体でも複数の敵でも十分なダメージを与える事で戦況を優位に進める事が出来る事が分かった。


 もう一つの氷魔法は土と同率の5位、固形である姿だからなのか硬いイメージから4位の火魔法より下はどうも見劣りしたり、相手の弱点を突く以外では使った記憶が無い。あえて使った場面は隠しステージで光魔法以外の武器や魔法に耐性があり、耳に耐性音の「ガキィン」「カァン」という音が染みつきそうなほど初見の弱点探しで色んな魔法を使っていた。


 ちなみに、その敵は隠しステージだからか体力も多めに設定してあり、光属性の魔法は弱点ではなく等倍で他のステータスも他の敵よりもやや高めでプレイヤー間では「クソカラス」と言われていた。


 そして、今使える高火力の魔法は「ボルテクスカノン」「スパーク」の2つ、単体としての「ボルテクスカノン」は麻痺の追加効果があるが、問題はそれを当てられるかによる。「ボルテクスカノン」は魔法ではあるが至近距離であるが故の高火力技、遠距離で使えばその分威力も落ちる可能性がある。その距離まで近付けるかが疑問だ。


 そして「スパーク」自身に電気を纏い電気の球を操る魔法、全体攻撃としては申し分ないが、俺の魔力ではどっちの魔法も2発撃っただけで魔力が空になる。そうなると残るのが武器での接近戦、ケルヌンノスは長く使ってきたし、投擲武器であるダガーの技と斬撃武器の剣の技を使える利点があるが、それを黙って喰らってくれるわけない。


 改めて2人を見上げると、半端ない威圧感を感じる。あの3人と戦った時から2人は段々と実力を解放し始めているのは感じた。そして、やっと身体が温まったという感じだ。俺との戦いではほぼ100%の実力で掛かってくるだろう。


 「…あの、大丈夫ですか?」


 「なにが?」


 「お二人ともお顔がテラーフェイスのように強張っていますよ」


 「安心して、熱が入っているだけ、ケルビム先生からビタミン飲料も貰ったしとても調子いいくらいよ」


 レレイ先生はそう言ってペットボトルの中身が半分になっている飲み物をがぶ飲みして飲み干すとペットボトルを壁に投げる。ペットボトルは跳ねまくり、最後にはゴミ箱のペットボトル入れの所に「カコン」という音と共に入れられる。パフォーマンスとしては良いのだろうが、今の状況だとからかっている気がして心の中でイラッとする。


 とはいえ、これ以上待たせるわけにはいかない。時間に余裕はあるが、このような面倒な事は早く終わらせたい。だからといって負けたくもない。


 呼吸をして、精神を統一する。吸って吐いての繰り返し、それを5回程度繰り返す。


 (熱を逃がせ、冷気を取り込め、自分の中にあるのは永久凍土の絶対零度、この場を全て凍てつく大地に変えるように…!)


 「コールドハウル!」


 氷のような冷ややかな声を上げると自身を中心に冷気が吹き荒れて白い霧がフィールドを覆う。傍から見ると一瞬で霧が立ち込めて視覚では何も見えなくなりホワイトアウトしたようになる。


 ホワイトアウトしたのは相手も同じ、視覚では何も見えないが、2人は冷気に包まれる前に手を繋ぎ互いの存在を確認し合いながら背中を合わせる。


 「ハリケーン!」


 「スラッシュブレイク!」


 魔法と剣技を合わせて、冷気の霧を払いながらダメージを与えようとするが、その風は冷気に取り込まれるように消えて、払うどころか雹が降り注ぎ、自らダメージを負うことになってしまった。


 「ア、アースドーム!」


 土魔法で極寒の中から暗闇に満ちる土の中へ潜る。かまくらとして少しでも熱を取り込もうとするが、その行動は既に読んでいる。


 この冷気の中にある仕掛けをしている。わざわざ冷気で霧を満たしたのは霧自体に仕掛けをしたのだ。


 冷気で魔法や技を受け止める事はできるだろうが、それ以外に何か出来ることは無いかと言う考えから生み出したのが「アイスステージ&ヒットナンバー」氷の特設ステージに電気の音符で自身の地の利を得ながら相手に断続的にダメージを与える。


 そこで閃いた事がある。その音符を凍結させることは出来ないのかと、氷魔法は氷を生み出すのではなく冷気を操る魔法。ではただ氷をぶつけたり氷で何かを生成する以外にも出来るはず、そこで今までやっていなかった冷気の用途が凍結、そしてすでに2人のあるものを凍結させた。


 「ーーー!?」


 「っ!ーっ!」


 その凍結したのは聴覚、霧に五感を凍結させる冷気を混ぜ合わせた。ダメージを与えるものではないが少なくとも自分の居場所を隠すには的確な五感の1つと言える。


 既に冷気で視覚は消えてさらに聴覚も奪った。確か、聴覚を失うと発声機能にも障害が出るケースが多い、後はこの冷気に乗せてショータイムの始まりだ。


 突然冷気が晴れる。それだけではないレレイが展開した「アースドーム」も解けた。一瞬あっけにとられたがその次に目の前に現れたのは、氷のオブジェが立ち並ぶ遊園地のような物が2人を取り囲むようにして並んでいた。


 (魔法や技はその名前を言わずとも頭の中でイメージをすれば発動は出来る。だが、それは発動できるというだけで威力は大幅に減少する。それは名前をいう事で頭の中のイメージが技などの威力の源となり魔法や技の現象を起こすという設定だ。言霊というものだな、それなら聴覚を奪った時点で2人にはデバフをかけた。防御も攻撃もデメリットを抱えた状態でどこまで持つかな?)


 人間の五感には他に嗅覚、味覚、触覚があるが、その全部を凍結させると最大火力の雷魔法を使う魔力が一切残らなくなる、既にこのオブジェを作った時点で高威力の魔法を使う魔力はたりなくなったが、自然回復で魔力の回復は狙える。


 氷のオブジェの1つの動物型の遊具は滑るように一直線に先生達に向かって突進する。アンドレ先生が前に出て斬りかかるが、不完全な技のため上手く壊せない。しかし、足の部分を狙って切り落とし後は自由落下の衝撃で壊れる。


 (やっぱり、知能があるないでは普通の戦術じゃ倒せないか、とはいえ俺は美奈のように上手く魔法を操れる訳じゃないし、仕方ないか)


 氷のオブジェを壊しても本体であるリラにダメージが通らないことに接近しようとするが、氷のオブジェを搔い潜ろうとすると背後から衝撃が走る。その方向を見てもそこには何もない。だが、それでも衝撃は身体を襲い続ける。


 (さて、そろそろかな?)


 この戦いを終わらせるために、最後の準備に取り掛かる。その場で仁王立ちをして、武器を前に突き出すようにしながら目を閉じて言葉を紡ぐ。


 「私は一国としての命、一国の意思、一国の記憶としての存在として許される事を願う。我が名はリア・エンジェルス・シャリアこの命を今一時国としての力として赦される事を願わん」


 目を開けて一言呟く。


 「姫は戦うことを赦された」


 次の瞬間、2人の姿が宙を舞う、しかし、その姿は自ら浮いたのではなくいつの間にか懐に近づいていたリラの蹴りで飛ばされた。


 「姫は追撃する事を赦された」


 リラはそのまま地面を蹴り上げて跳躍、その勢いのまま空中で体勢を器用に変えてかかと落としを喰らわせる。


 予期せぬ動きに反応できずに、2人はそのまま地面に叩きつけられる。しかし、そのまま防御態勢を取り、守りを固める。反撃の構えだ。


 「姫は守りを貫く事を赦された、姫は反撃を受けないことを赦された」


 ケルヌンノスを構えて自身を中心として振り回す。2人を護るはずの魔法や武器は弾かれて反撃をする時には地面を滑りその射程距離にはリラはいない。


 冷気が背後から漂う事に気付いてレレイ先生が咄嗟に魔法を放つが、そこにあったのはリラの形をした氷のオブジェ。


 「姫は―」


 言い終わる前にアンドレ先生が斬りかかる。だが、それも同じ氷のオブジェ、2人は辺りを見渡して自分を探す。そして理解する。氷のオブジェはただのカモフラージュ、本命は氷で出来た合わせ鏡の最も集まる場所への移動だった。


 リラの指先にはバチバチと火花が弾けるような音を上げてそれは一点に集中させる。


 「姫は放つことを赦された」


 その言葉を最後に鏡に放たれた魔法は威力を増し逃げ場を無くしフィールドには強力な電撃が放たれた。


 リラはそのまま地面に着地する。と一気に慌てた顔をした。


 (やっば…熱入り過ぎた、思わず「赦された王」の見様見真似でやって見たけど出来るなんて…!ゲームでは敵専用のパッシブだから出来ると思わなかった)


 「赦された王」は第6作目で登場した不死者の王国でそのボスの王が使うパッシブスキル、毎ターン自身の一番低いステータスを強化するシンプルなスキルだが、毎ターンということもあり、例えば攻撃力が一番低く強化された次のターンには強化された攻撃力が2番目に低い防御力を上回っていれば、防御力を上げる。そのステータスが強化の限界を迎えると防御無視やカウンター無効の効果を与えられる。無礼千万な技がある。


 そもそも、強化される時点で長期戦を強制される為、自分たちの防御や攻撃を底上げして起点を作って殴る戦術が通用しないから最初から高火力をぶち込んで、無理ならレベル上げをしなおしての繰り返し、後にボスに状態異常が有効という事が分かり、毒まみれにするのが効果的だと攻略本にも記載されていた。道中の雑魚敵が物理弱点という事からボスも同じだと思い、外見からも状態異常が効かなそうな相手だった事から悪意しかないスキルと言われていた。


 (大丈夫かな…死んでないよね…?割と最後力入り過ぎていたけれど…)


 砂煙が晴れる、するとそこに立っていたのは2人を抱え込むようにして砂煙振り払ったような格好をしたケルビムだった。


 「あっ……」


 その姿を見て思わず手に口を当てる。その時に自分の頭の中でビッグバンが起きて小宇宙(コスモ)が生まれて自分の中の何かが崩壊したように思えた。


 (はぁぁぁぁぁんんぁぁぁぁぁ………かっこかわいいなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………あのキリッとした目にまだまだ発展途上のような中性的な唇に二次元でも滅多見られないようなサラッサラな髪、体型は筋肉質でなくかといって柔らかい肌でもないのにそれがケルビム自身のかっこかわいさを強調させている。あぁ、高品質な中で最も高品質な部位のみを使ったフルコースよりも圧倒的に価値が高いだろうこれぇ…………うん、魔力をほとんど使い果たしたから、少し熱が下がるのがいつもより大分速いな。本当は後400字以上も使いたいけど、今はそんな事よりケルビムを隅々まで見ていたい。砂煙で少し土がついているけど、それでも、かっこかわいさはそんなので衰えないよね。今さら過ぎる気がするけどこの世界に自分が転生、しかも一国の姫様になったなんて信じられないよね。そもそもこの世界には何億人もの人間がいるのにその中で姫様っていう人生を前世の記憶を持ったままもう一度無くした若さを取り戻してやり直せるなんて、しかもそれが二次元の世界なんて不思議な事が起きていることに変わりはないんだよな。唯一の前世との違いである性別も最初は戸惑ったけど割と自分の姿はすぐに慣れたし、と言うか医学部だったから健康状態とか、平均的な身体の状態からの解析が気になって自分の性別関係なく診断している気分で欲情なんて、気分にはならないんだよな。あれ?それって俺がおかしいのか?それとも二次元で欲情するなんて前世は現実逃避と思っていたけどこの世界では前世の感覚でいた方が現実逃避になるって事か?あれれ?)


 自分の中でのあり方に疑問を持ちながら自分の身体はその場からピクリとも動かない。その間も砂煙は透明な空気に溶けて大きく抉れたフィールドがその状況を映す。


 ケルビムは深く溜息をつくと、先生達の手当てをしながら、俺と観戦席の方へ指を指すと透明な円状の膜が身体を包み込み浮かび上がる、ケルビムの前にゆっくりと移動する移動したのはいつもの4人で戸惑っていると、顔は笑っているけど目の奥から深淵が大口を開けて飲み込むような闇を感じながら、一言。


 「少し、お話をしましょうか。直球で言うと説教があるので場所を移しましょうか」


 ガムテープと紐で顔を上から引っ張っているんじゃないかと思うくらいの引きつった笑顔に変わるケルビムの姿はかっこかわいさはあるがどこか恐怖を感じ、ときめきを胸に感じながら、首を縦に振るしかなかった。


 なぜか、そこで記憶は途絶えている。意識を辿ってもそこから先の記憶は煙のようにぼやけていて何も思い出せない。高校生の頃火災訓練の際に本当に火災が発生した時の視覚状況を体験したことがあるけれど、それと同じレベルで記憶が無い自身の状況もどこが上でどこが右か左か分からずもしかしたら、引き返しているのかという不安と心配を高校生でも怖いと感じる体験をこの歳で再び味わう事になるとは思わなかった。


 まぁ、熱が入り過ぎた先生も俺たちも悪いんだけど、あんな強力な威圧感を感じたら全力で自分の身を守るのに必死になるのも仕方ないんじゃないかと思う。そもそも、前世から威圧的な人が大の苦手でちょっとした出来事で学校の机を1つ壊した事がある。元々長年の古い物で足もガタガタだった為そこまで怒られずに済んだが二次災害的な感じでメンタルはズタズタのされた。


 どうやら自分達はお昼休憩の少し前に解放されたようで、背後の扉からあの2人の絞り出すような助けの声が聞こえた気がするが、もしこの声と怖いもの見たさで扉を開けてしまったら、もう普通の生活に戻れないと虫の知らせと言うべき直感でその場を早歩きで自分のクラスに転がりこむようにして早く忘れるように念じたが逆に記憶の奥底に刻まれることになった。

次回10月中旬予定

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