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第二十七部 一章 更なる魔法の境地

 模擬戦の残りは後は自分達の攻略対象の4人になった。ここで全員が負けたら、この模擬戦では勝利者なしという何とも気まずい雰囲気で終わる悲惨な結果と残る。


 これまでの模擬戦で善戦した人もいたけれど終わるたびに体力完全回復して元気な状態での再開だから、このままで終わるのは流石にへこむ。それだけなら百歩譲っていいとして今の状況で戦いに挑まなくてはいけない事と負けた人達からの視線のプレッシャーで押しつぶされそうになっている。


 しかし、なぜか男子の攻略対象の順番がバラバラなのに対して俺たちの順番はOP通りの順番なのだろうか、偶然?必然?まぁ、考えたところで模擬戦を回避出来るわけじゃないので特に気にする事でもないかもしれない。


 美奈は身体を伸ばして、フィールドに向かうその背中を見送る。バトルアリーナからどれだけの成長をしたのか、あの時からの直接な戦いをしていない俺としては少し楽しみにしている。


 View 美奈


 (うわぁ…こんな視線が刺さるのなんて、初めて小学校の学年代表としてスピーチをした進学式以来だよ…)


 懐かしいけど、こんなに憂鬱な出来事はもうないと思いたかったがこうなってしまったら仕方ない。気楽にやればいいと自分にも言い聞かせたが速攻で乖離が発生した。めっちゃ逃げたいし戦う前から降参したい。


 歴代主人公全員と戦う羽目になった怪人の気分もこんな感じだったのだろうと思うとそれだけで吐き気がする。それでもやらなければいけないとため息をグッと飲み込んで2メートルの間合いに入る。すぅと息を吸って、魔法を多重に展開する。


 「知られざる七色の宝玉、踊り狂え(ダンス・マカブル)我が無心の(アン・マインド)軍隊犬(ドッグ)、デザートゾーン…!!!」


 魔法の3重展開は王城の中でも高い魔力と魔力操作が得意な者が可能なものだ。それを少女がそれを出来ると知れば力を独占しようとする奴や、強大な魔力を持つ子を大量に生ませて国力を上げようとする人間を道具にしようとするクズの事を考えて、それと先生達を重ねて「だったらてめぇらの身体で体験させてやるよ、喜べや」という気持ちで放つ。


 2人は最初こそ驚いたような表情を見せたが、レレイ先生はすぐに自分達の周りに水を展開させてデザートゾーンを凌ぐ。


 (それは正解、デザートゾーンは砂ではあるが土魔法、同じ土で壁を作ったり土を吸う水で防御すれば直接届くことはない。ただそれはこの魔法だけならばの話だが)


 水の中から魔法で生み出した犬が鋭い牙を見せながら飛びつく、アンドレは武器を振るい犬は1メートル吹き飛ばされるが、すぐに立ち上がり、敵意を持って襲い掛かる。


 最初は1体作るだけでも干乾びる程の魔力を消費する魔法も今では最大で7匹を作ることが出来る。魔力の大きさでは更に数を増やせるが、今では7匹を動かす魔力操作が限界でそのうち2匹は自分の近くでないと魔力操作の射程が届かない。


 デザートゾーンは既にその効果は失って水の魔法の中にいる2人は背中を合わせていつ襲い掛かってもいいように武器を構える。


 (一斉に掛かってもいいが、全員吹っ飛ばされてこっちに接近されたら2匹での防御が間に合わないか?それともまだ手の内を明かそうと何も手を出さないか、相手の立場から考えると一刻も早くこの魔法を解かせるのを優先したいが…ここは)


 「ストームトルネード」


 竜巻を起こして相手を覆う水の膜を剝がして、復帰した犬を襲わせる。


 (この犬たちはどんな魔法でも取り込むようになっている。デザートゾーンの壁に向かってもその魔法を体内に取り込んで、巨大化する。際限無しではないがそれでも強力な魔法だ。魔力を無駄なく使おうとして考えて考案したがぶっつけ本番で使ったにしては上手くいった方だと思う)


 その時、手応えを感じた。服か素肌か攻撃が掠めた事だと気付いた。他の犬もその方向に向かい飛び込んでいく。続く手応え、数撃喰らわせた事が見えなくとも分かる。しかし、同時に妙だとも思う。その攻撃がどれも直撃したようではなくかすり傷を着ける程度に収まっている。


 あの牙は一度嚙み付かれたら、かみ砕かれたり千切れたりでもしないといけない程の咬合力だ。それ以外に解除する方法は術者が魔法を解除するしかない。だが、これはあくまで模擬戦、咬合力も噛み付きも多少の手心は加えている。


 それでも、直撃をこれだけも避けられるものか?マジックで箱の中に入れられて剣を何本か刺しても無傷で脱出しているのがあったが今回は文字通り種も仕掛けも無い。


 もしかしたら既にこの竜巻の中から脱出している可能性がある。解除したら一気に距離を詰められる可能性も十分に考えられる。頭の中でいくつかの可能性を探って、最適な方法を探すことで導き出した答えは…


 竜巻が消える、その中から見えた光景は腕や脚に切り傷を負った2人の姿、しかし、軽傷で命はもちろん例えるなら草木の中を歩いている間いつの間にか足を切っていた程度の傷しか負わせていない。


 しかし、その中でも目立つのはそれぞれ手にボロボロになった魔犬の身体を片手に持っているという事だ。


 (っはは、手応えのわりには傷が少ないとは思ったけど、そういう事か。俺が水の中が見えなくなるのを想定してそんな防御の仕方をする事で魔法の解除を誘ったわけね…はぁ~面倒だな)


 そう思ったが、今までのやつは軽いウォーミングアップみたいなやつだ。これで終わればラッキー程度に思っていた。相手の出方やどのようにして凌いたり、防ぐかを見たいというのもあったが、やはり実践の経験が軽く100回以上は軽く超えているのが分かった。あれを初見で見て素早く襲い掛かる魔犬を素手で捕まえる事は術者である自分でも出来ない。


 それならば、次は得意分野で攻めて見ようと思い。再び手に魔力を込める。この身体になってから最初から感覚で使い方を知って馴染みのある火魔法を展開する。


 近くにいた魔犬が離れて、それを確認して先生たちは反撃を始める。アンドレ先生は即座に間合いを詰めようと接近するがそこはすでに手を打っていた。ストームトルネードで相手の視界を奪っているときに地面にトラップを設置していた。


 威力は低いが、踏むと沼のように沈み抜け出す為にはそれ相応の筋力がないと抜けない。それだけでなく抜け出したとしても足に絡みついたような泥は素早さを落とす。


 とはいえ、視界を奪ったのは一瞬でそれから何のアクションも起こさないとトラップを設置するのがバレてしまうので少なめにしていた。


 「アクアリウム!」


 「っ!エアロ!」


 レレイ先生の水魔法を風魔法で相殺するが、魔力操作性が威力を上回っていたのか水弾が意志を持っているように魔法を避けて向かってくる。その時、自分の足元から巨大な炎の球が出現して水弾を蒸発させる。


 保険をかけておいて正解だった。魔犬が離れる事を想定して自分を中心にしてファイアを円状にして放っていた。1つ1つは威力は弱いがその威力は上級魔法級、威力が高い魔法は相手に認識されやすいが弱ければそれに意識を向けることはない。さっきからやや高威力の魔法を撃ったのはそれを隠すためのカモフラージュだった。


 View リラ


 「うわっ、熱…くないな。結界が働いているのか。すごいなぁ結界の中でもその効果が持続しているなんて」


 アイシャが模擬戦そっちのけでそのような事を言っている。それを聞いて少し呆れたように型をすくめて、視線を送るが気づかずに観戦に戻る。


 「…この前の試合とは全く違う戦法だね。あの魔法を凝縮した玉を浮かべていないし、まだ出し渋っている感じがしない?」


 「そうですね…エアロを防御に使うのは間違ってはいない戦法ですが、それだけの為に撃つのは少し彼女らしくないというか、それを理解しているはずなのですが…」


 美奈の魔法は魔力量を考えると最大火力の「ヘルズ・ノワール」を数発は撃てる。もし全体攻撃なら「アマテラス」も2発、万全の状態なら3発は放てるだろう。


 先生達は既に反撃に行動を移しているが、それをトラップで妨害している。もし、俺が先生の立場なら、まだまだ手の内を明かしていない事を考えると反撃を止めて更に相手の情報、いっその事直撃してダメージを見ておきたいという気持ちがある。


 「やっぱり、決定打がないのが弱点だよなぁ。手数が多くても強力な魔法を()()()()()()()宝の持ち腐れもいいところだ」


 「っ!?……アイシャさん、あなた今…」


 「ん?何か言ったかな、僕…」


 考えてみるとバトルアリーナでの複合魔法や合体技の「カルテットイノセント・零」は美奈が担っているのは魔力を共有する事のみで実際には魔法の操作・使用の主導権は俺が握っていた。もちろん、合体技なのでアイシャとレイラにもその魔力は注いでいるから、そのような強力な技が使える。


 それを踏まえて考えると美奈は魔力量はあるのに高火力の技を覚えていない。あるいは覚えるレベルまで達していないのではないかという考えに行き着く。


 強力な魔法はそれはもちろん相応の魔力が必要だが、それ以上に使用するためにレベルが必要だ。ゲームでもそうだが強力な魔法や特技を使うにはレベルが必要でレベルを上げるのには時間がかかる。ストアドには某ファンタジーゲームの倒せば経験値が多く手に入る魔物は一切現れない。もちろんフィールドによって強い敵やボスモンスターには相応の経験値が設定されているが、エンカウント率によっては狙ったモンスターが出るまで逃げるよりかは「塵も積もれば山となる」で倒した方がレベリングとして正解だったりする事も珍しくない。


 (「ヘルズ・ノワール」を覚えるレベルはキャラクターにもよるが美奈のような魔法特化のキャラだと最低でも45、高ければ50には「アマテラス」も覚えるだろう。レベル50と言えば魔法タイプでも大抵の敵を物理で殴ってもワンパンで倒せるくらいのステータスに育っているはずだ)


 やはり、ここはゲームの世界に酷似したゲームとは関係がない異世界なのか…?それにしては出来過ぎていている。


 View 美奈


 (このままじゃ埒が明かない…反撃も激しくなってきているし、だからって魔力を練る時間もなくなって「知られざる七色の宝玉」のバリアも限界になってきている。破壊後のステータス上昇があっても、一発でバリアの耐久を8割削られた事を考えると破壊と一緒に体力を根こそぎ持っていかれる。あのトラップは俺が使える中でも高火力の魔法ではあるけど、それも倒せる程の威力にはならない…となると、俺の一番威力が高い魔法を使うしかない。けれどそれも時間がかかる。何とか時間を稼ぎたいところ……ホントは囮に使うような魔法じゃないんだけど…一矢報いたいなら惜しくないな!)


 自分の周りに魔法を凝縮した球が4つ出現する。これは以前から使えるものだが、その形が徐々に形を変える。アンドレ先生の武器が目の前まで来た時に美奈の姿は土に溶けるように姿を消した。攻撃が空を切った時には宝石の形に変えた魔法の球から魔法が射出される。


 アンドレ先生は寸前で上に回避するが、その後方で魔法の攻撃を用意していたレレイ先生は判断が遅れてしまい、当たってしまう。


 宝石は空中を縦横無尽に飛び回り、魔法をばら撒く。炎の魔法と魔法犬の時は術者が操り、攻撃を当てていたが、これは半自動の魔法。魔法を凝縮させた球は射出する極小の穴をあけて一直線に向けて射出する事でレーザーのように射出できるが、これは球を宝石の形に変えてそれぞれの角から魔法をばら撒く。


 それぞれの宝石を壊せば魔法は撃てなくなるが、それを阻止するように宝石は近づかせないように魔法を常に放出し続ける。


 「そんなにも近寄らせないようにされると…無理やりにでも近づきたくなるじゃないかっ!!」


 「りょうかい…ゲホッ」


 レレイ先生がアンドレ先生に向かって手を翳すとアンドレ先生の足先から炎が上がると一瞬で1つの宝石の目の前まで移動して壊す。


 (計算通り)


 宝石が壊されると凝縮された魔法が暴発して爆発を起こす。その事にすぐに気付くが回避が間に合わずに腕で爆風を防御するが、他の宝石からの攻撃で体制を崩されて不安定な防ぎ方となってしまう。


 (これでも、倒し切れていないの…?タフ過ぎて本当に勝てるのか怪しくなってきた)


 着実にダメージを与えてはいるが、それでも戦闘不能の状態にはどれくらいのダメージを与える必要があるか、それが未だに分からない。すでにこっちの手番は終わり、すでに反撃のターンを与えている。


 絶対回避の「潜岩遊泳」を解いた時にその復帰地点を読まれたらそこで終わり、望める可能性としては宝石が残り1つになった状態で魔力を練り上げるのが理想ではあるけれど…


 この魔法は正直言って使い勝手はよくない。理由としては半自立の欠点として制御をほぼ放棄している点、自分が制御していれば魔法攻撃ならそれに対抗できる宝石からの魔法で対処できるが、これはそれぞれ自立しているため、互いに補う事は出来ない。


 そして、1つでも失うと残りの宝石はそこから崩されるのは早いだろう。4つの属性を収縮して形成した事からその弱点魔法だと威力中の魔法で壊せるし、物理攻撃だと更に脆い。1つ壊したらその分弾幕は薄くなる。いつぞやの魔法のように壊されたらその余剰魔力が他のものに振り分けられるようになっていれば、善戦できるだろうが、それは諦めてしまうしかないだろう。


 それにこの魔法はその弱点を差し引いても俺が使う魔法の中では最強クラスの魔法で使う価値があると言える。


 (っ!2個目が壊された…残りの宝石は火と土の宝石…頼む!もう少し…もう少しだけ耐えてくれ…)


 壊されると起こす爆発距離は爆風含めて約5メートル距離がやや短い分威力は高い。フィールドの広さはそれよりも圧倒的に広いが、壊されてからの爆発速度は0.2秒、瞬きの半分の速度で爆発圏内からでなければ多少のダメージを受ける事となる。


 (本当なら、それを一瞬で理解して防御するなんて出来ないはずだけど、それもレベルの概念があるからなのか不可能を可能にしているなんてね…)


 残りの宝石は他の宝石と比べて壊されるのに時間は掛からなかった。レレイ先生の魔法でブーストをかけられた速度で宝石を壊して爆発圏内から最小限の威力に留めて次の宝石もその威力のまま破壊する。


 「さて、宝石は全て壊したぞ。これで打ち止めなら、降参すれば…」


 その言葉が終わる前に直上から眩い光が降り注ぐ、その先には巨大な火球、それから3色の魔法が地面に降り注ぐ。


 「お待たせしました、先生方」


 それを見て観客席からもどよめきが聞える。


 「危ない、伏せて!!」


 魔力を使い果たして敵全体に残りMPによって威力変動なダメージを与える「フルバースト」使用後は魔力が0になる。最後の最後で使う奥の手、ゲームでは使った後もキャラは平然として立っていたが、それでは済まないのが理解した。魔力の大爆発を視認した後に、身体の力が抜け落ちてその場で倒れ込んでしまう。


 「…ん……。み………ん…………ず…………よ。………きて…………い。………美奈さ…………起きてください。傷は全部治しましたよ」


 パシャリと顔に水をかけられて意識が無理矢理起こされる。


 「うっ、ケホッケホッ!乱暴だね!よくこんな方法で起こそうとしたね!水が鼻に入っちゃったよ」


 目を覚ましてそこに飛び込んだ光景は俺の「フルバースト」よりも眩い光を発するようなかっこかわいいの宝庫の顔。ケルビムが俺の顔を覗き込むようにしてた。それだけではない。髪越しでも分かる綺麗でシルクのような感触の肌の温もりは……


 顔が赤く染め上がり、顔からマグマが噴き出しそうな程熱くなる。


 (ケルビムに膝枕されてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!)


 そこで再び俺は意識を手放した。

次回8月末予定

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