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第二十六部 一章 美奈の帰宅

 View 美奈


 「ただいまー」


 学園でみんなと別れた後、丁度よくお迎えの馬車が来てそれに乗り家に着いた。メイド長を始めとして父様と母様、それにおじいちゃんも出迎えてくれた。


 (学園寮もいいところだけど、やっぱり実家が一番安心出来るな。って当たり前か)


 まだまだ学園生活は始まったばかりだけど、これから色々忙しくなる。特待生クラスに入ったのは原作通りだと言えるが、主人公がいなかったのは予想を大きく外れていた。この世界はゲームの世界とは別に主人公がいない世界線、つまりifストーリーのようなものなのだろうかとも思ったが、それにしては他の設定があまりにも基準から逸脱しきれてない。


 イレギュラーと言えば自分を始めとした攻略対象、体験版では誰もがレベル5からスタートの割と苦戦を強いられて初心者ダンジョンを何度も行き来しなくてはならないくらいの貧弱さだ。


 それなのに今の自分のレベルは40手前の39だ。初心者ダンジョンはもちろん、序盤の迷宮に出現する全てのモンスターにもほぼ無傷で更に魔法攻撃、FP消費スキルなしで勝てるだろう。


 ほぼ無傷というのは例えどんなに防御力が攻撃力を上回っていたとしても必ず1ポイントはダメージを受けてしまうので、油断していると集団で袋叩きになっていたというプレイヤーもいると言う。その為のダメージ吸収の防具や全体攻撃特技を序盤で揃えられる救済は存在するが別の某RPGと同じだと思いそれに気付かずに全滅一歩手前牧場主が一定数いたとネットでスレッドを乱立されていた。


 だから、レベル5だと何度もダンジョンに潜っては脱出アイテムを使っての繰り返ししないとすぐに全滅しちゃうんだけどね。


 話を戻して、主人公の存在の未確認とイレギュラーの自分を含めた攻略対象、それについての事で少し気になる事がある。当然現実とゲームだと実体験をするかしないかで体感する感想は違ってくるが、レベルの上昇が速すぎる。まるで常に歩いているだけで経験値が上がっているような感覚、実際にレベルが上がった時の効果音もなければ経験値を何ポイント獲得したなんて字幕も表示も現在の経験値も表示されてないからいつの間にかレベル上がっていた。


 今までの生活の中でレベルが上がりそうな出来事を合わせてみても、この上昇はおかしい。レベルが高い相手を倒せばそれなりに経験値は上がるとはいえ、20レベルの時は中盤辺りの敵にも互角以上に渡り合えるレベルだろう。スキルで確認もしたのだが経験値獲得のポイントが倍になるスキルは獲得していない。


 そこから、更に考えて新たな疑問が残る。攻略対象同士の交流だ。体験版では攻略対象同士はヴェルスター学園で初対面となるはずなのに、その前のお茶会で顔を合わせる事になった。それを考えるとシナリオにない行動を取れるのは、俺のように転生した人がいるのではないかと思ったわけだが、あのお茶会の主催はリラ姫だ。一応それとなく探りを入れて話したが、リラは特に不自然な振る舞いはなかった。


 だとすると、今までの事に影響を与える可能性が一番高いのはもしかしたら自分自身かもしれないと思い至った。


 その時はまだ、この世界に転生して思いが強く、早くいろんなイベントをみたい気持ちだけが加速して次から次へと試したい事やイベントフラグを立ち上げる為に色々した結果として、元々のシナリオが矛盾に耐えられずにifシナリオとして逸脱してしまったのではないかと考える。


 (一度起こった事をやり直すことは出来ない。そして、この後のシナリオはどのように進む?何故かいない主人公。主人公がいないと起こらないイベントは多くあると言うのに、そもそもゲームとして成り立たない)


 電子ノートにペンを走らせて考察をいくつか述べるがどれも推測の域を出ない。体験版だけの知識では断片的なものしか無くどのイベントがこれからのストーリーやキャラクターとの関係や過去に関わるのか見当がつかない。というのも情報が多いか少ないかのどちらかの曖昧なイベントでしかなかった為一行で終わる考察もあれば1ページ丸々使う事もある。


 見返しても色んな情報が飛びかかって纏まりがないそれこそ、纏めるのにさっきから机と睨めっこして時間が過ぎるのをただ待つ事になる。


 少しでも、これからのシナリオにどのようなイレギュラーが起きても大丈夫なようにプランをいくつか立てて想定外に備える。流石にまだ序盤のシナリオで魔王手前の雑魚敵が出て来るなんて難易度Maxのクソゲー展開はないと思う。とはいえ、正直な話しだと今のレベルだと終盤の雑魚敵に完封されて全滅は避けられない。


 というのもあるシステムでスキルポイントを適当に振り分けた結果、採取或いは戦闘に特化した結果どちらかに偏って装備だけ強かったり能力値だけ強かったり、均等に分ける事が出来ずに難易度が跳ね上がった事を防ぐために、レベルを少し下げる代わりにスキルポイントを振り分け直すシステムが学園内にある。


 その失敗例を自分はある意味でしてしまった。スキルポイント機能が実装された2作目の時にポイントスキルポイントをどのように振り分けるのか理解できずにいたからせっかくのアビリティを生かせずに腐らせて振り分け方を知った時には、余りにもステータスに頼った戦法しか取れずに何にポイントをつぎ込むかを考える時間が増えて、何度も振り分けなおすためにレベルを犠牲にして何度も試行錯誤を重ねた。


 そもそも、この身体のスキルはレベルアップによって魔法を覚えるからわざわざスキルポイントを振り分ける必要があるのか、前まではそう思っていたが、今回模擬戦を行う事を知って理解した。あの先生達は正直言って死ぬほど強い。ラスボスを倒した後の裏ボスとして君臨しても不思議じゃないほどの戦闘力を持っている。


 スキルポイントは振り分けるとスキルを覚えるほかに追加効果でステータスが振り分けた技能によって上昇する。杖なら攻撃、魔法なら魔法攻撃、スタミナなら体力、スキルを身につけるならそれを考慮して振り分ける事も可能、しかし、それをしてもあの先生達に勝てるのか、そもそも、勝てる要素があるのかすら怪しい。負けイベントと思うほどだ。


 パタリとノートを閉じて、手持ち無沙汰になった事に落ち着かない事で特に用がないのに廊下に出る。精霊達と一緒に魔法で動物園か水族館でも作るか、1人で魔法の練習をするか考えながら、邸内をウロウロする。


 そうして時間を潰している時に渡り廊下で何かの影が素早く通り過ぎたのを感じた。その方向へ眼を向けたが、それの正体は姿を消していたが、風の吹かない庭の草が揺れている。それで、さっきのは気のせいではない事が分かった。


 少しその事に気になって不安な心を持ちながら通った道を小走りで追う。曲がり角に来た時には草はまだ揺れていたが、すぐに揺れが収まりさっきまでよりも距離が離されている事が分かる。


 それでも走ってその正体を掴もうとして後を追う。普段から身体を動かさない事と邸内を散策していた事から体力はすぐに消費して走る速度もどんどん遅くなっていく。


 遂に体力を使い果たしてしゃがみ込んでしまおうかと思った時に近くにガレージがある事に気がついて、そこで休憩しようと出る。


 そこには休憩中のメイド見習い達が休憩している。サリアちゃんもその中に入っていた。扉に近かったメイドが自分に気付くと声を掛けずにすぐにサリアちゃんを呼ぶ。


 「お嬢様、何か御用ですか?」


 パタパタと元気に声を掛けてきてまずは疲れた身体を休ませるために椅子に座ってさっき廊下で影が一瞬通り過ぎた事を話すとすぐに何か心当たりがあるように下を指差す。


 最初は何故それに指を指したのか理解できなかったが、このガレージは木造で簡易な作りだと言うことを理解してその木の継ぎ目から下を見れるがそれは影の暗さでよく見えない。見るためには一度ガレージを降りて覗き込むしかない。


 そして、覗き込むとそこには一匹の猫が三匹の子猫に乳を飲ませながら可愛がるようにペロペロと舐めていた。


 「ついさっきに聞いたのですが、ここの掃除をしていた私と同じメイドが見つけたらしくて、どこから入り込んだのかは知りませんが、猫を見つけまして、入学の数日前の雨の日ガレージに雨宿りした時に子猫を産んだらしくてそれで…」


 それを見つけたメイドが愛猫家で自分のおやつの煮干しをコッソリと上げているうちに人間慣れをして子猫の為にメイドに近づいては餌をねだるように鳴き声を上げて最近ではメイド見習いが休憩中に代わりばんこで餌を上げているらしい。


 一応、メイド長には許可を取っているが、一日休暇を取って猫をずっと眺めているメイドもいるくらいだ。


 まだ子猫は母親から離れたくなくて餌を探しに行った親猫を追いかけようとする仕草を見せるが迷子になると怖いと思ったのか自分の兄弟姉妹の下で身を寄せ合って寂しさを誤魔化しているようだった。


 それを可哀想に思ってメイド達は子猫に向かって「にゃんにゃん♪」「にゃにゃにゃ?」「にゃおーんにゃんにゃん」と言っている本人でも解読不能な猫語を言ったり歌ってみるが、その意味も伝わっていないが、寂しそうにもどかしそうに母親を呼ぶように鳴き声を上げるだけ。


 「はぁ~これを永遠に見続けられる仕事が業務にあればいいのに…」


 見習いメイドの一人が一言呟く、それを聞いた他のメイドもうんうん頷いているが、癒しというのは仕事のモチベーションの向上につながるからそれを考えると業務に加えてもいい。がそれはそれで過剰な癒しは逆効果になる。


 (好きや趣味を仕事にしたらいいとかよく言うけど、結局一番いいのは仕事の合間に趣味を楽しむのが丁度いいんだよな……この考えが何で前世で持てなかったんだろう)


 親猫は煮干しを数匹加えて子猫達に与えて自分の分は最低限しか食べない。子猫は煮干しではなく母猫の乳がいいみたいで寝ころんだ親のお腹にしがみつくようにして必死にペロペロと舐めている。


 「チチッ、チチッ、おいでー、おいでー、こわくないよー」


 子猫は親のそばから離れたがらないようで気を引こうとゴマをするメイド達の方を見たりはするがそれでも親から離れるのが怖いようで自分から近づこうとしない。


 (…そういえば、レイラはこういう時に)


 レイラがコテツを捕まえるときにしていたことを思い出して、その場にゆっくりと座り込んで、芝生をトントンと叩き目を合わせないようにする。


 子猫達はやっぱりまだ緊張しているのか拒んでいるようだったが、その中でも一番小柄な子猫が一歩だけこっちに向かって歩んできた。それを見てメイド達は眼を輝かせていたが、それに気付いて再び一歩下がろうとしたが、目を輝かせたメイド達から遠回りするようにして近づいてきた。


 (このまま目を合わせずに、相手から寄ってくるのを待って…鼻先まで寄ってきたら指を差し出して…後は相手しだい…)


 子猫は親猫の方をチラチラと見ながら、すぐに逃げられる体制になりながらゆっくり近づいてくる。クンクンと指の匂いを嗅ぐと頬を少し摺り寄せてからすぐに親猫の方に向かって走り母親の影に隠れるが、それでも指が追うような行動を見せない事に少し安堵したように顔を見せる。


 (指が何かの生物にでも見えるのかな?)


 最初は1本だけだったが今度は2本指を増やして見る。最初は2本増えたことに驚いて近づくのを躊躇していたようだが、二本の指を絡めたり、地面をトントン叩く様子に興味を持ったのかさっきまでのような警戒する様子はあまり見せず、近づいてくる。他の2匹もそれを見て心配そうにその光景を見守る。


 今度は思い切ったのか指をぺろりと舐めてくる。ザラザラとした舌とじんわりとした湿っぽさに少し驚いたがそれでも子猫はお構いなしみたいに指を舐める。その後すぐに近くに指がその先に手のひらがある事に気付いたが服で肌が見えない部分までが1匹の動物だと思ったみたいで、手のひらに顎を乗せる。


 丁度、指が顎の下に来るようだったのでくすぐるように喉を撫でて子猫は喉をゴロゴロと鳴らす。


 「…ぅにゃ……にゃあ……にゃー………」


 気持ちいいのか小さな声を上げながら、眠そうに目を細める。すると奥から母親がガレージから出てきて猫の首元を咥えて奥に戻っていく。子猫はそれを嫌がる事もせずに離したらそのまま母猫の身体を布団にして寝てしまった。


 (そういえば、猫って親に咥えられる時、本能的にリラックスして動いたりして親の負担にならないようにしているんだっけ…)


 「これで多分、次からは向こうから寄ってくるんじゃないかな?後、猫も犬も馬もそうだけど動物の全般って塩とかしょっぱいのが好きで手の汗とかをよく舐めたりするんだよ。もしよかったら仕事終わりに舐めさせてあげたら?一歩間違えると思いきり嚙まれるけど、猫は賢いから強引に撫でたり、敏感な部分を突然触らなかったら基本的におとなしいから」


 猫の敏感な所は個体差がある。それは親からの遺伝など全く関係なく、本来なら気持ちいい首をゴロゴロするのが嫌いな猫だって存在する。


 「はいはい!みんなそろそろ次の仕事だよ。煮干しを摘まんだ手を洗った後に業務に戻って…ってお嬢様?見習い達と一緒にいたんですか?お部屋の掃除の時に見当たらないと思ったらこんなところに…サリアお嬢様をお部屋まで連れていって、今月のお買い物当番はあなたも入っていたでしょ、さあ、行動行動ダッシュダッシュ」


 メイドの一人がガレージ全体に声が響くように声を上げてその声の後にパタパタと見習いメイド達がすぐに屋敷の中に戻っていく。一間置いて俺もサリアちゃんに連れられて部屋に戻った。丁度犬で屋敷内を爆走していた精霊達も戻ってきたようで魔力の供給をすぐにねだってきた。


 精霊達は使役者の魔力を定期的に供給する事で本来の機能を強化する事もできる。精霊の位にも寄るがみんな高位の精霊だから供給する魔力も大きいのだが、この身体の魔力量が元から多いのと今までの生活で身体の魔力が足りないと誤解した身体が更に魔力の生成の速さと連動して魔力量の最大値許容量が増えたので特に魔力が枯渇する事は無くなった。


 普段は大気中に漂っている魔力を吸収する事も出来るのだが、使役者の魔力は特別なようで、睡眠を取らなくても大丈夫らしいが、みんな私と同じ生活がいいとか理由でキチンと睡眠を取っている。


 もし、精霊として転生していたら、今の俺のように人間と契約していたのかな、もしかして本来の美奈と契約していたり…考えても仕方ないか、まだまだご飯まで時間あるから声がかかるまでお昼寝でもしようかな…


 それにしても猫がうちに忍び込んでいたんだ…メイド長だったら容赦なく外に放りだしていただろうな。いや、案外見逃していたかも、雨だったから視界も悪かったのかな。


 そう考えていると段々と睡魔が襲ってきてスマホが自分の手から滑り落ちて地面に落ちるが、その音に気付かない程の眠気に襲われて微睡みの中に落ちていく。

次回6月末予定

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