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第二十五部 一章 限定品には弱い

 「今日は身体測定が主だな、それに今日は金曜日だから…あっ、理事長が特別に用意してくれているんだったな。すまないね、特待生の担任は何回かなっていたんだけど新入生の担任になったのは初めてで、教室案内や今年からの好待遇の事を一々確認しなくてはならなくてね。マニュアルが意味を無くしててほとんどアドリブで事を進めなきゃいけないんだ」


 先生が愚痴半分に今日の予定を話してくれている。昨日は出席者の確認と教科書の配布に授業内容の基本と授業時間のプリントを配ったり、説明と言うよりは色々な物を押し付けられただけで、それを整理するだけで時間がズルズルと過ぎていったと思ったら次は寮生活の事で別行動した。


 改めて考えると、色々ありすぎてすぐに時間が経って一日が終わった。いや、いつの間にか終わっていたというのが正しいか、ん?さっき先生は金曜日だからって言ったけどなんて言おうとしたんだろう?それを聞こうとしたら先生は「とりあえず、今日も昼までで一通り終わるはずだけど、すぐに帰らない方がいいよ」と言って体育館、もといコロッセオの中央に向かう事になった。どういう仕組みか分からないが青空の下ではなく蓋をするように天井が出来た事に驚きを隠せなかった。


 身長、体重、聴覚、視覚、一般的な検査のものは揃っている。少し保健室でやれるのではないかと密かに期待していた心は仕舞っておこう。


 (そういえば、座高が無くなったんだっけ?確か座高が高いと戦いがなんやらとか言われていたけど、科学的に証明されているわけでもないし、戦いをする機会がない、ない方がいいとかで廃止になったってニュースで聞いた覚えがある)


 とりあえず、身長が伸びていればそれでよし、ママの身長を譲ってなければそれでいい。


 そう心の中で願い、身体測定の順番を待つ、実家では身長を柱を使って測ったしたのを思い出す。前から家で測れるものは体重しかなかった。一応メジャーを使えば身長も測れるがそもそもメジャーは採寸をするのに使うものだし、このオーダーメイドの専用制服も俺の身体に合うように採寸しつくされて届いたやつだ。


 手や足だけでなく、胴囲や首回りそれに何より……胸囲が他の人とは一回り違うから、既製品とかそういうのを当てる事で採寸をする人もいるが、それは私服での選び方だし、この制服は正装としての衣装だから、キッチリとメジャーで測る事が必要だった。


 因みにこの制服は重さとかを何と変えられるらしい。聞いたときは噓だと思ったが、これはどの制服も同じであり、特殊な術式を使っており、魔法でも素材でもなく製作者の技術を使いその様な不可能な事を可能にしているらしい。


 その後、冷静に考えたらダウンなのに軽く暖かいコートは前世にもあったじゃないかと思い出して、それと同じようなものだと思えば何の問題もなく普通の事じゃないかと自分で納得した。


 それでも、運動時には吸水性が高く動きやすいジャージを着るようにするが、とにかく、貴重品をポケットに入れてもその重さも変わるので身体測定はスムーズに進んだ。前世では全部が平均的で視力、聴力も問題なかったが、今回は慣れ親しんだ体ではないので、結果が返された際にはどうなっているか、今からでも心臓がバクバクなっているのが分かる。


 一応健康診断として、採血もしたが肌が柔らかく敏感で涙が出そうだった。


 (前世と同じと思って局所麻酔を頼めばよかった)


 というか、レイラは大丈夫だろうか?あのバイブレーションだと何回も刺される羽目になって痛さと緊張で意識を失いそうなんだが…


 そう心配だったが、その心配は杞憂に終わった。というのもレイラは緊張が一周してバイブレーション機能をすること自体も緊張で出来ずに全ての工程を言われるがままで診断はスムーズに行ったと後から知った。そのことにレイラに聞いたが当事者がその記憶がないと言われて、その解答には苦い顔をするしかなかった。


 身体測定は1時間で終わったが、教室で他の人が終わるのを待っている時間が一番暇を持て余してしまう。寝たら起きるタイミングで不快になってしまうし、スマホを見るのも依存症になりそうで、控えたい。


 紙媒体の本も持っていないし、小説とかをみたいならそれこそスマホを開く必要がある。こういう時に友達と話すのが一番いいというが身体測定の後は謎の沈黙がクラスの中に漂い、誰もが口を閉ざしている。


 時計を確認しながら、クラスの中を見渡して一人戻ってきたら、あと何人だと何回も思う。この待っている時間が途轍もなく長いと感じる。まるでサウナ耐久戦で一分一秒が長く感じるのを体験したようだ。


 (カップラーメンとサウナの例えじゃ後者のほうが一番納得しやすいな)


 そう思いながら、扉の方をぼーっと見つめる。生徒が全員戻って先生も戻るのは俺が戻って10分程度だったが、体感では1時間以上も待たされているようだった。


 (犬の待ても同じような気持ちなのかな)


 前世では父が猫アレルギーで母が犬アレルギー、そして、俺が鳥アレルギー、フルコンボでペットを飼うことが出来なかった。それが無理だと珍しい動物、豚や狸を飼うことになるがそれを扱っている店がそうそう見つかるわけじゃないし、そもそもどうやって世話をすればいいのかも分からない。


 昔、何かの番組でキリンを飼えるとかそういうのを見たことあるけれど、そこまでではないにせよ、寿命とかそういうのが分からない動物を飼うのがリスキーだと思って眺めるに留めていた。


 美奈とレイラが戻ってきても何だか話す気にはなれなくて、向こうから話すこともなかった。リラだけが戻る時間が遅れていたが、並んだ順は背の順でも出席番号順でもなく適当に2列で並んでいた。レイラと俺は戦闘で後ろは美奈がガードしていた。俺の後ろは覚えていないがリラではなかったと思う。


 まぁ、考えてみれば指を刺されて骨を痛めた以上不用意に近付くと怪我が増えると思うと距離を置きたくなるのは当たり前だ。


 身体測定の結果は明日の土曜日、それぞれの部屋に転送される。俺がこの世界に来てからもう1年以上も経った、身長を測るのは初めてだ。そもそもこの世界には幼稚園などが無くて、ほとんどの人が家で生活する。


 そこで親のマネをして本を読んだり、知識を持とうと色んな文化的価値が高い文学をはじめとしたマンガやアニメ、ゲームなどを通して知識を持つ子供が多くなっている。これは前世でも通用する所があり、娯楽の文化でありながら正確な情報を基に構成された単語やことわざを知り、それを自身で解釈する事で子供でありながら大人顔負けの核心をついた発言を習得したりする事がある。


 (俺も新庄も親にいい意味で口が達者だと言われた事がある。もちろん皮肉で言った言葉もいくつかあるが、正論であるがために言い返せない、というパターンも少なくないから激昂させてしまう事もしばしば、大人であればこれで黙らせることが出来るから、これは相手によって長所であり短所でもあるのが一長一短だな)


 全員がクラスに戻ると程なくして廊下を歩き自分の担当クラスに戻る先生たちもチラホラ見えてきた。そして、先生が戻ると未だに一言も話さない生徒たちの視線が一気に先生に突き刺さる。


 そのことに一瞬たじろいだがすぐにいつもの平常心に戻り、話し出す。


 「ひとまず、身体測定と健康診断はこれで終わりだ。次は昨日言った授業内容の詳しい説明をしよう。昨日の説明は君たちに分かりやすく言っただけで、最初から詳しくいっても理解が追いつかないと思ったからだ。みんな昨日の時点で色々荷物の整理とかしたよね。筆記用具とかも用意しているだろう、これらを使ってキチンと覚えるように」


 先生はそう言うと黒板をグルンと一回転させる黒板は四角形になっており黒板の他に三つの用途で使用が出来るようだ。


 回転させた黒板はモニターのような画面に切り替わり、そこに教鞭を伸ばして説明を始める。


 このヴェルスター学園は大きく分けて2つの学科のようなものがあるらしい。1つ目は戦闘系の学科、主に対魔物や猛獣、危険生物の対処や対抗を学ぶ学科だ。国の兵士の手伝いや現場近くの安全の実践演習も行なうことがあるらしい。


 もう一つは研究科、魔法のみならず、科学、薬学、医学、法律学等々あらゆる学問の理解、知識を深め、国や文明の発展を目的とした学科、どちらも将来の重要な役割を果たせる事が出来る学科としてレベルが高い教育がされている。


 そして、この2つの学科を両立して教え込まれるのがこの特待生クラスだ。この特待生クラスは他のクラスとは例外としての扱いでクラスの中で一番知能が低い人を基準とした授業を行い。他のクラスよりもステップアップが早い。もちろん次から次へと新しい事を行えば身につくものもすぐに手放す事になる為、教師もそこは気を付けている。もちろん、新しい特待生クラスの担任と副担任にアンドレとレレイが抜擢されたのも、2人が今まで特待生クラスの担任として数年間で培ったその手腕を理事長が目をつけて新入生の特待生達を指導させるようにした。


 「というわけで、この教室は他のクラスと比べて広い理由として色々な近代的機能がいくつかあるんだ。それはその時に説明するが、驚くことは間違いないだろうな」


 「他にも君たちの能力を知るために休み時間の月曜日に訓練場で私達2人相手にあなた達の実力を見たいという理由で対戦をする事になっているから、今日のうちに英気を養っておいてね。大怪我しても保健室に行けばいいだけなんだけど、手加減なんて出来ない場合が多いんだから」


 「戦いでは常に万全な状態でいられない。いついかなる状況でも即座に対処する事が何よりも重要な事だ。とある英雄が残した言葉だ。油断や見誤ったなどの言葉は戦いにおいて通用しないから、そこを肝に銘じておけって事だな。結構長く話したが、まだ少し時間があるな…どうしようか?」


 「とりあえず、詳しい説明は今言った事で全部だけど、流石に口頭だと一部理解するのが限界だろうし、モニターに今言った所で重要な部分を表示して置くから、これらを忘れないようにノートに書いておいてね。書き終わるころには昼休みのチャイムがなるかな…?」


 少し心配そうに最後呟いたがその不安は杞憂に終わってだれもがそろそろ書き終える直前にチャイムがなった。しかし、その後の轟音がペンを走らせていた指を止める。


 音が聞えたのは2階から、ドタドタドタと何人もの走る音が聞こえそれは巨大な金属がひしゃげた音と棚が崩れるも混じっているようでその音の正体はすぐにこの教室の前まで聞こえて、教師は扉が弾みで開かないように、力を込めて押さえつけている。扉の向こうからは誰かが体当たりをしているのかと思うほどに何度もドンドンとまるで扉を開けろと騒いでいるようだった。


 次第にその音は徐々に静まってしまって、音が遠ざかった後に先生が廊下を見渡すとふぅ…とため息をついて、音の事で怖がっている生徒たちに向けて話しかける。


 「この学校の金曜日には生徒限定のプレミアムデーがあるんだ。これはほぼ全生徒がそのプレミアム商品をゲットしようと購買で乱闘が始まる。数量限定の絶品パン、誰がそれをレジに置いて食べられるか、それがこの学園の名物と言えるだろう。その絶品パンは我々教師でも買えなくてね、どうも再現しようと思った卒業生も多いんだが、誰もが失敗してその評判が息子や娘に伝染して好奇心として後押しされているんだよ」


 やれやれと首を振っているが、その目には食べたいと思う気持ちが籠っているが、クラスの何人かはそれを聞いてある人に視線を向ける。


 「ぴえっ!?」


 その視線を一気に浴びたことに気付き肩をビクンと跳ねらせるレイラ、その声に反射的に目を向けた他の生徒からの視線が上乗せされて、頭を抱えて机の下に隠れて目をギュッとつぶって地震が起きた時のような体制になっている。


 「実は理事長が新入生のため特別にと数量限定の絶品パンを新入生の人数分用意してくれて、今からそれを配ろうと思う」


 ((((それを配るって遠回しにプレミアムデーの戦争に参加しろって言ってるのと同じなんじゃないのか?))))


 もちろん善意でそうしてくれている可能性もあるが、一度理事長と会っているから少し理事長の考えを推察することが出来る。あの人は暇を持て余すためそれを見て楽しみたいタイプだ。ただ特に自分から直接な糸を引く訳ではなく、遠くから種を蒔きそして実を結ぶとそれを観察してそれを見て暇を潰している。


 そして、人は怖いもの見たさで何がそんなにも人を惹きつけるのかと言う心理を利用する、それが理事長流の暇つぶし術。


 先生から配られた、焼きそばパンとロールケーキ、その見た目はどこにでもある普通の見た目だ。しかし、丁度今日の説明は終わり、時間もお昼時腹が減る時間でもある為、特に何の警戒もなく、それにかぶりつく。


 それを一口食べると途端に全員の表情が驚きと歓喜の入り混じった顔に早変わりした。バクバクと驚く速さで、食べ進めて小さな口が次から次へと満杯の口内に次の一口を押し込んで、嚙み砕いていないにも関わらずそれを食べ進めていく。


 確かにそれは美味かった。焼きそばパンの中ではトップレベルの美味しさだろう。毎週あんなに生徒が目当てに購買へ向かう理由が分かる気がする。


 だけど、俺はその美味しさよりも別の思考があった。そしてそれはある人の料理を食べた人なら全員同じ事を思っただろう。今度は目を合わせないようにわざと反対方向を見ながら、その思考を巡らす。


 (レイラが作る焼きそばパンとどっちが美味しいんだろう)


 レイラは色んな料理を作って、そのどれもがとっても美味しい。美奈の嫌いな緑黄色野菜だろうとレイラがそれを使って出来た料理食べると目を輝かせていた。


 始めて食べた時は嫌いな食べ物のはずなのに、涙を流して食べていたが、それは料理のおいしさで人はそんな顔が出来るのかと好奇心で俺たちも食べたが絶品を超えた絶品、神の一品と言えるような美味しさだった。手の届かない神が食べる至高の逸品を世界のボウフラである自分が食べてもいいのか?ましてやおかわりを頂けるのだろうか?そうそう口の中の美味が思考が脳みそと共に洗い流されていく程に美味しかった。


 そして、目の前には誰もが狙うと言われた絶品パン、比べるのは無意味だと理解しているが、どうしても比べざるをえない。


 「なぁ、レイラ今日の晩御飯なんだけど……」


 その後に指を刺されそうになるが気孔で防御力を上げてその晩は男攻略対象も部屋に押しかけて、パンパーティーが開かれた。どうやら、レイラは少し4人の男性攻略対象に対して少し緊張が解れるようになったと次の日に聞いた。

次回4月末予定

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