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第二十四部 三章 学生寮

 その後の行事はとんとん拍子で終わった。明日の予定のプリントや、教科書の配布に学校の行事の簡単な説明等々、一通り終わらせると早々に今日のやる事は終わったということで、後は何をするかと言うと学校生活を送る際に、必要な事を終わらせるように他の人にバトンタッチした。


 どうやらその人は教師ではなく、学園が雇っている用務員と同じスタッフらしい。


その人の誘導に従いつい先ほどプリントと教科書と一緒に渡された自分の番号が書かれた整理券のようなものの番号順に並ぶ、他の生徒も同じように並ぶが何も言われてない生徒もいるようでその事に気づいたリラがそのことについてスタッフに聞くと。


 「それはこれからやることに関係があって、君たちは学生寮から学園に通うことになってるけど、あの子たちは実家から学園に通うから、一旦ここで別行動することになるんだ。必要ない事をわざわざ覚える必要もないからね。まぁ途中で寮生活に切り替えるならその都度説明することになるけど」


 そう言って教室を出て、その後をついていく。そのまま初等部を出てほんの数分で学園の寮に着くが、その学園寮は寮というよりは富豪が使うようなタワーマンションにしか見えなかった。以前に、学園の説明を理事長から直々にされたが、この学園寮は一切説明されていなかった。


 他の人もそのそびえ立つタワマンに開いた口が塞がらないようで、スタッフが何回か声をかけてようやく我を取り戻して、その中に入る。そのエントランスには案内板のようなものがあり、それに取り付けてあるパンフレットのようなものを配ると通行の邪魔にならないように一室に案内するとパンフレットをめくりながら説明をする。


 「えっと…パンフレットには色々書いてあるが、重要な部分だけを話すとするか、書いてないものもあるからちゃんと聞くようにしてくれ、忘れたらロビーのスタッフが話してくれるけど寮に住むなら覚えておいて損はないからな。まずはこの学園量は屋上を除く最上階から半分以上が寮としての施設となる」


 スタッフの話によると、一階のロビー含めて学食もそこにあるようで1階と2階が学食となっているらしい。それはこの規模の学園だと学生の人数からそれ相応の規模の学食スペースがないと混雑するという理由もあるらしく、中には自分で炊事をする人もいるから寮の部屋で食事を済ます生徒を加味してやや席が余る程度の大きさだという、他にもそれぞれの階に自販機が設置されている休憩スペース、談話室、多目的部屋など寮で暮らすと考えると十分な設備が多くある。


 「そして、君たちの荷物を運ぶときに便利なものがあるんだ。いったんロビーに戻ろうか」


 そういって再びロビーに戻ると入る時には気付かなかったが実家から持って来た着替えや日用品がロビーの隅に置いてあるのに気づいた。


 「これらは君たちの荷物だ、自分の名前があるだろう?それを運ぶのにエレベーターもエスカレーターも何回も往復するのが辛い事から以前は親とスタッフ総動員していたんだけど、近年ではあるものが流通する事でそれをする必要が無くなったんだ」


 スタッフは少し興奮するようにして、何かの機材のようなものの前に行く、その機材は木製の収容棚で上に五段、横に十段の大型のものだ。そしてスタッフはそれを自分の物を自慢するように説明する。


 これはいわゆるテレポート装置のようなもので中に荷物を入れて寮内の場所を指定する事でその部屋に一瞬で送る事で今までして来た人員を総動員するという必要を無くしたと自慢するように熱弁する。


 「今年の寮生活をする新入生はそこそこいるが、この装置も数台用意されてるから時間はあまりかからないだろう。それと寮では基本的に2人のシェアとなっている。一応男性と女性がペアにならないようにこちらで部屋割りは組ませて貰ったから、今のうちに自分の同居する人を確認しておいた方がいいかもな」


 そこまで説明を終えると、荷物を運ぶように促す、最初こそ誰が一番に運ぶかという感じと初めて使う装置の安全性の疑いから、しばらく動かなかったがアイシャが率先して自分の荷物を手際よく装置に置いてスイッチを押すとガラス窓がゆっくりと閉まり、モーターのようなヴォォォンという音を響かせると、中の荷物が一瞬にして消えた。するとピンと機械音がしてガラス窓が開く。


 そのことで他の人が啞然としているのを全く気にせずにアイシャは再び自分の荷物を装置に運んでいく。最初こそみんな心配そうではあったが、アイシャの行動に続くようにそれぞれ自分の荷物を装置に持っていき、説明された手順に則り作業をしていく。


 最先端技術と言われた通り、山のように多い荷物は30分足らずで無くなっていた。それを確認したスタッフは手を鳴らして、再び説明をする。


 「これらの荷物は今、君たちの部屋に届いたはずだ。もし、違う人の荷物が届いていたら、各階層のエレベーターの横にこれの少し小さいバージョンがあるから、部屋番号を入力して届けてあげてね。それぞれの荷物は転送用の棚に積んであるはずだから、すぐにわかるだろう。これから君たちは自分の部屋で荷解きをしてもらう。ついさっきエレベーターとかエスカレーターとか言ってたけどみんなの部屋は上階だからエレベーターを使うのがいいかな、この規模の施設だとエレベーターも5台…いや、エリアに2台ずつあるから10台か…それで自分の部屋に行って荷物の整理をしてほしい。終わったら後は自由行動だ。学園を見て回るもよし、寮内を探索するもよし、基本的には何をしてもいいが、学園から出るときにはエントランスで簡単な手続きをしなくちゃいけないのが注意事項だ。それじゃ、困ったことがあれば、エントランスのスタッフに気軽に聞いてね」


 そこまで言うと、スタッフはスタッフオンリーの札が書かれた扉の向こうへ行ってしまう。先ほどのような一方的な説明であったが、2回目で少し慣れていたのかさっきまでではないが、エレベーターに乗り込み、自分たちの部屋に向かう。当然、乗員制限で一度に全員を乗せられずに何回かエレベーターは上り下りを繰り返す。


 「それにしても、よく美奈は寮生活なんてするようになったな。過保護な家庭だからてっきり、実家から学園に通うものだと思ってたよ」


 アイシャがそう言うとレイラとリラも同じように意外と言わんばかりに言ってくる。その通りだと自分でも思っているが、学生寮から通う事を意見したのは両親だ。学園内は治安もいいし、防犯面はもちろん外部の人間が侵入することも難しい。そのようなセキュリティ万全な学園の中が一番安全だと思ったらしい。


 「それにサリアちゃんも付き人としているし、一週間に一度は家に帰るように言われてるんだ。土曜日に帰って一泊して再び寮に戻る感じかな」


 「まぁ、奇遇ですね。私もそのように言われています。長い間家族に会えないのは心にさみしさを積もらせてしまうので、家で家族と過ごすのが一番心を癒せますからね」


 「へぇ…それじゃあ僕もそうしようかな、特に僕はママとパパには何も言われなかったけど、美奈がいなければ、特に何もすることは無いもの」


 「うん、レイラも一度帰るよ、ずっとここにいると心が持たないし、誰かが訪ねてくると心臓止まっちゃうかもしれないし」


 「ちょっと待ってください。それだと私が毎日保健室に連れていく事になりますよね。一度や二度ならまだしも毎日は流石に…」


 「……?リラ、なんか嬉しそうじゃない?」


 「い、いえいえそんなことありませんよ!そ、そうだ偶然にも部屋が隣同士ですし、学園では4人で行動しませんか?」


 偶然とは思えないが、俺とアイシャが同部屋で、レイラとリラが同部屋、そしてお互いの部屋は隣とあまりにも狙ったようにしか思えない事だった。


 部屋の荷解きは個人でやるよりも、みんなで助け合った方が速いという事で1部屋に4人で着替えや武器などを整理していく。


 (でも、何をどこに置くとかそういうのもあるから、速い遅い関係なく一長一短じゃないかな?まぁ、そういうことをわざわざ指摘しないけど)


 「そう言えば、教科書をわざわざ持っていかなくても、電子版にダウンロードすればいいとも言ってましたね。私たちはあの大きいタブレットを持っていませんけど、確か学園で購入できるって言ってましたよね。この整理が終わったら行ってみますか?」


 「あぁ、そう言えば、聞き流していたけど、そんなこと言ってたな…でも、そんな便利な事が出来るのなら何で紙媒体の奴を配るのかな?支給品として配ってもいいんじゃないか?」


 「まぁ、学園側にも色々あるから、仕方ないと思って自分の事は出来る限りやろうよ。学園の事を全部お任せしますって言うのもなんだか申し訳ないと思うし」


 「そ、外行きたくない…でも、置いて行かれるのはもっと嫌だ…だから一緒に逝く」


 いま、「いく」のイントネーションが違ったような気がするけど、とりあえず、三方を肉壁で固めてノーガードの背後はリュックサックで防御してもらうとしよう。


 「改めて見てみるとこの学園ってすごい大きいよね…棟が5個あるのは見たことあるけど、これだけの規模で建物を含めると低く見積もっても1千億…病院どころか小さい国でも買えるほどの額が必要なんじゃない?」


 「この国だけじゃなく世界中に同じ教育機関としてある以上、金に余裕がないとかいう場合じゃないのかもね。実際にここの卒業生は政治家や年収億単位の大企業の取締役社長、普通に人生を歩んでいたらまずは手に入らない地位についている。その人からも会社役員からも援助としてお金を払っているって噂だよ」


 「それだけ、未来の国を引っ張る事が決定付けられた子供達を教育している事に徹底しているということですね」


 それだけの責任を持つことは前世では世界人口でもほんの数人しかいないだろう。誰も彼も上っ面の仮面で挨拶・言葉・信頼を浮かべて結局は自身の利益だけを考えている人が多い。不利になりそうならスケープゴートで被害を分散させる下衆もいる。


 だが、それは地域や環境、治安による事で左右されることもあるだろう。よく親が子の責任を取って「育て方を間違えた」と言って涙を流す人もいるが、その子が一番長く居る場所は学校だ。そこでいじめられて、いじめて、助けて、助けられ、学校は平和だという噓八百で固めて最終的に子供の将来を歪めてしまう。


 「本当にここはいい世界だ」


 小声でついそんな言葉を呟いてしまう。この世界にも悪人はいる、しかし死者を出すような犯罪は少ない。命があるからこそ利益を増やせるような人身売買もあるが、それでも死者がいないのはいいと思うのは医学生という前世で学んだ命の価値観を養ったおかげだろうか。


 とはいえ、死より悪いものはたくさんあるのも理解しているつもりだ。そう、あくまで「つもり」だ。それを経験したことがないから理解しているようでその苦しみは知らないし知りたくもない。


 でも、ここは本当の責任を持って平和を保ってる。もし、ここでの生活が送れるとしたら一生ここに暮らしたいと思うだろう。


 「それで、そのタブレットはどれを選べばいいんだ?」


 「えっ?」


 「おいおい、さっきから話していただろう?普通に受け答えしてたじゃねぇか」


 「まぁ、さっきから少し上の空みたいな反応してましたし、新しい生活が始まるので緊張しているのでしょう。電子機器のタブレットについて話していたんですよ。どの機材がいいのか、全くわからなくて…」


 「あ、ありがとう。でも、まずはお店で聞いた方がいいんじゃない?学園の中にお店があるんだから推奨された物も取り揃えているはずだよ」


 「それもそうだな、でも、僕たちのように電子で教科書を読もうとする奴もいるから、出来るだけ早めに行きたいんだよ」


 「それで、迷ったら本末転倒だから地図と現在地を把握しながら歩いているんでしょう」


 「誰かガイドを頼める人がいたら話は別だったのかもね」


 レイラがそう呟いた時に通りがかった人が声をかけて来た。青い髪をサイドテールにしてそよ風が吹く度に毛先がぴょんぴょん跳ねるように揺れる。


 「君たち、どうしたの?迷子?にしてはどこか行こうとしているようだし、見ない顔だから新入生だよね」


 「あっ、えっと実は…」


 事情を話すとその人はうんうんと頷きながら話を聞いてくれると途中で、話を遮ってきた。


 「じゃあ、私が連れて行ってあげるよ。ここって複雑な構造しているし、毎年のように新入生が迷子になっちゃうのよ。私も昔迷子になっちゃって…いやぁ、今思い返すと恥ずかしいなぁ……でも、君たちは随分しっかりしている感じね。そのショップはこのまま行けば着くし、私が出来るのはタブレットの紹介程度だけど…」


 「それでも、ありがたいです。よろしくお願いしますね、お姉さん」


 「うん、よろしくね♪それと勘違いしているようだけど、私は男だよ。よく間違えられるから慣れちゃったけどお兄さんって言われたら第三者の頭を破壊しかねないから、すぐに場所を移さないとね」


 そう言って辺りを見渡すと多くの人が彼女…いや、彼を見て?の顔をしている。なぜそのような事になったのか色々聞きたいが、それは地雷になりかねないので黙っていることにした。それよりも驚いたのが何でもズバズバ聞くようなアイシャがそれにツッコまなかった事だ。


 (虫の知らせ…ってやつかな)


 それに、その理由に思い当たる節がある。新庄が精神科医の友人の兄が話した内容をゲーム機片手に話していた。クラインフェルター症候群と言って男性の性染色体に異常が出る事があるらしい。染色と名前がついているが色とは別にアルファベットで分けられている。


 男性の性染色体はXYで女性の染色体はXXこれは中学生で習った記憶がある。同級生が「ポ〇モンやん」「XYにはそういう意味がポ〇モンにあったのか」とか言ってたから印象が強く記憶に残ってた。


 クラインフェルター症候群というのはその性染色体が以上で彼の場合女性の性染色体が色濃くなってしまい普段のXYではなくXXYまたはXXXYつまり女性の体格や精神面の女体化で生まれてしまったということだ。


 これもテレビで見たものだが、男性ホルモンが女性ホルモンに置き換わり、男性でありながら乳房が女性のように膨らんだ兄弟がいた。しかし、これはクラインフェルター症候群とは全く別物らしいが。


 彼の場合は話し方からクラインフェルター症候群であることから男性でありながら、精神面は女性と変わらないだろう。


 まぁ、そこに俺から切り込むのも気が引けるというか、もし、それを気にしているなら、触れない方が吉だろう。


 その後、彼がお勧めした機材を購入した。値段を見て伸ばした手を一瞬引っ込めてしまったが、学生だとネットや月々の通信料金のみで本体価格はほぼ無料だという。それに保険も込みで予定より随分安い出費で済んだ。


 (もし、全部が実費でも払えるけど、前世の金銭感覚が残っている以上、何でもポンポン買えないからな…高校生になったらバイトでも始めようかな)


 彼は、教材の電子データのインストールの仕方も教えてくれた。無事に全員の端末に教材のデータが読み込まれたのを確認すると彼は、一緒に寮まで送ろうとしてくれたが、ここまで来た道から寮までのルートは覚えたのでせっかくの厚意だが断っておいた。


 寮に帰った時には徐々に生徒が早めの夕食を食べようと学食に列を作り始めていた。それに参加するようにレイラはリュックサックを盾のように構えながら列にややはみ出てしまう。


 夕食の後は、説明による頭の疲れとショップの往復による身体の疲れから、風呂には入らず部屋のシャワーと就寝前の歯磨きを終えるとそのまま倒れこむように掛け布団をかけずにそのまま眠ってしまった。

次回3月末予定

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